「神道集」巻第七
上野国第三宮伊香保大明神事
その後別当の夢の中、北の方はかの水沢寺へ御参詣有ければ、別当子細問はれかれば、我等は神明の形と成りにけり、この寺の鎮守と成らんと仰せられけると、思へば夢覚めぬ。
夜明けて後、枕の上を見たまへば、一の日記有り。
引き披て見たまへば、北の方は伊香保大明神と顕れ、御乳母の伊香保太夫は早尾大明神、太夫の女房は宿禰大明神。
御妹の有御前は御父の屋敷に顕れて、岩滝沢より北に、有御前とて今の代までも御在す。
御姉の石童御前は沢より南に立ち給ひ、石常明神と申す。
中将殿の姫君は都へ上らせ給れば、帝も崩御の後に国へ下せ給ひて後、母御前と倶に神と顕れて、若伊香保大明神と申す。
夢の枕の日記に任せ、水沢寺の鎮守と崇めたてまつる。
[中略]
そもそも伊香保大明神とは、男体・女体御在す。
男体は伊香保の御湯を守護して、湯前にて御在す時は本地は薬師如来なり。
女体は里へ下らせ給ふとて、三宮渋河保に立たせ御在す。
本地は十一面なり。
宿禰・若伊香保の二所は倶に千手なり。
早尾大明神は本地は聖観音なり。
有御前は本地は如意輪観音なり。
石垣明神は本地は馬頭観音なり。
「水沢寺之縁起」
別当の僧正夢みらく、北の方御堂に詣じ語つて曰く、我等は神と成る、此の寺の鎮守たるべし、
夜明け枕上を見下へと覚て、枕上を見れは一の巻物有り、
これを被覧するに、高光中将并びに北の方は伊香保大明神男躰女躰の両神なり、
有御前は護擁神(立有馬郷)、
石童御前は石津祢明神(立有馬郷)、
姫御前は推古帝崩御の後当国に下着し、弱伊香保明神と顕現はる(立水沢県)、
伊香保太夫は早尾大明神、
妻女は宿祢大明神、
皆これ水沢寺の鎮守なり、
御本地は、伊香保大明神男躰は薬師、
女体は十一面、
弱伊香保は千手、
有御前は聖観音、
石童御前は如意輪、
早尾は馬頭、
宿祢は千手なり云々。