−−− backstage −−−
重量感の有る机を挟んで二人の男が向かい合っていた。 机の上にはコンピュータの端末と電話機 そして大きな灰皿が有るだけで、 シンプルそのものであった。 ただ、クリスタルガラス製の灰皿だけが、 部屋の雰囲気からやけに浮いた存在に思われた。 灰皿からは一筋の煙が立ち上っている。 部屋にも一切の調度品が無く、明かりも灯されていなかったが、 男の背中一面がガラス張りになっており十分に明るかった。 超高層ビルの上層階に有るらしきその部屋は、 それに見合った景色が男の後ろに広がっていた。 窓から見える世界そのものが大きな一枚の絵画のようで、 この部屋には調度品は必要無く思われた。 部屋の主は そんな景色に背中を向けて、 座り心地の良さそうな椅子に体を預けている。 もう一方は直立不動とまで行かないが、 気持ちをピーンと張りつめ机の向うの人物に対峙している。 黒に見える深い紺色のスーツが良く似合っていた。 「で、その後の状況は」 机の上に手を組みながら、相手の顔を見ようともせずに男は言った。 「はい、接触した様子ですが 旨く行かなかったようです・・・」 落ち着いた明瞭な声で男は答えた。 「問題か。」 男は手を組むのを止め、 吸いかけのタバコを手に取り 立っている男に背中を向ける。 背中越しに銀色の塊が立ち上っていった。 立ちっぱなしの男がさらに緊張した面持ちで話し出した。 「どうも手を貸している者がいた様子です。  今 その者達について調査しておりますので 近く御報告出来るかと。」 「手助けしている連中・・・・」 感情の無い声が部屋に響く。 話している相手の表情が見えない事も有ってか、 立っている男の首筋に汗が流れる。 「場所柄 人目が多く行動が制限された様でしたが、この次には。」 「いや、それでいい。 逢ってみたい。」  男の意外な返答に疑問を持ったが、 それは表情や態度に微塵にも出さなかった。 「では、動きが有り次第 ご報告致します。」 男はそう言って深々頭を下げると、部屋を後にした。 部屋から男が出て行ってしばらくした後も、 そのまま煙を吸いこんでいた。 そしてゆっくりと体の向きを変えると、男が出て行ったドアを見つめた。 「あの男、どこまで知っていることやら。」 心の中の疑問をそのまま声に出して言ったようだ。 依頼してから かなりの時が過ぎている。 いつもの男の働きを考えると、今回の仕事振りはどうもぎこちない。 男が部屋に入ってくる前につけたタバコを、 卓上にあるクリスタルガラス製の大きな灰皿で丁寧に消した。 空調設備の整っているこの部屋ではいくら吸おうとも、 決して霞掛かることは無いが 部屋中に先ほどまでの煙の匂いが漂っていた。 7年ぶりに吸いだした。 今となっては 吸わなくなった切欠すら想い出せなくなっていたが、 吸いだした理由はハッキリしている。 その事が理由で取り巻き連中の態度が変わる事など無かったが、 何か良からぬことが有ったことは察知しているようだった。 どっしりとした椅子から立ち上がり、壁一面のガラス窓の外を眺めた。 外の景色は相変わらずこの部屋とは無縁な世界に思えた。 どんな大きな騒音はもちろん、 ここから見えている地上の出来事はこの部屋にまでは届かない。 大きなトラックでさえ ミニカーよりも小さく、 人などは点にも見えやしない。 今でもハッキリと思い出す事が出来る。 初めてこの部屋に入ったときに感じた、いや思い知らされた事を。 世の中には普通の人間 ・・・そして、そうでない人間 ハッキリと分けられていることを認識させられた。 そして・・・・ 上には上が居る事も。 この景色の中に俺の大切なものが埋もれている。 早く手に入れなければ駄目だ。 いつまでもこの状況で居られる訳は無い。 「何とかしなくては。」 焦りの気持ちが沸きあがってくる。 男の中にもう一人居るかに思われる位、 何も考えていない無意識な状態で、次に火を付けていた。 会長室を後にし、長い廊下を歩いていた。 廊下は"会長室"まで通じているだけで、他の部屋に通じる扉などは存在しない。 代わりに監視用と思われるカメラが見えているだけでも数台有った。 防災用の"防火扉"にしても見るからに分厚く 頑丈に作られており、 どう考えても別な目的に使う物に思えた。 見えている部分だけでもこんな感じなので、 隠された物が有るとすれば かなり物騒な廊下であった。 「それにしても長い廊下だな。」 自分の足音が廊下中に甲高く鳴り響いている。 この階に辿り着ける唯一の"専用エレベータ"まで幾らかあった。 歩きながら頭の中で先ほどまでの会話を想い返す。 何時も連れ回していた 少女の捜索を秘密裏に行うように言われてから、 すでに一ヶ月が経とうとしていた。 初めは調査依頼を会長直々依頼されて正直チャンスを感じた。 内容はそれほどでも無いが"秘密裏"な調査であり、 会長と俺しか知らない優越感に浸っていた。 そして 調査を進めているうちに謎が出てきた。 「少女は何処の誰なのか。」 専用エレベータに乗り込む。 探し物は"人"である。 その人物の調査を行うことは初期の段階で終わっていた。 だが不思議な事に、戸籍はもちろん 少女の出生に関するDATAは一切無かった。 ここ10年内の"失踪届け"や、"誘拐"などに関連する情報は 荒い洗い調べつくしたが 何も出てこなかった。 不信に思い会長についても調べてみたが  結果は・・・・ この世には存在しない人 としか言いようが無かった。 これだけの企業のTOPで有るからには それなりの経歴が有るはずだが、それすら疑惑で一杯だった。 調べられる限りの情報を当たってみたが、 どこから どう言う風にあたろうとも 会長就任前の事は分からなかった。 そして それ以前の事となると、なおさら調べることができなかった。 なにも出てこない人物など この世に居るはずが無かった。 ただ、調査を進めている間の会長の行動には不信な点が見られた。 少女については秘密裏に調べる事になっている。 そして この事を外部の人間に知られることを、会長は恐れてる。 何に対して恐れているかまでは判りはしないが、 この件に関して会長とやり取りしている時は明らかに雰囲気が異なった。 表面的には平常心を装っているが、 この事件が有ってから喫煙を始めた事がいい例だ。 関係しているのは間違いない。 時間が経つに従い、会長に余裕が無くなってきているのが感じられる。 このままの状況が続けば、 そう遠くない間に動きが有るのは間違い無さそうだ。 ここ一ヶ月間を掛けて探し回っていた少女を、 簡単に取り逃がしたと報告を受け頭に血が昇った。 不信な点の多い会長であったが、 成功したときの俺自身の評価に変わりは無い。 会長の過去がどうであれ 俺の待遇は大きく上向くはずだ。 結果としてはこの方がよかったのかもしれない。 先ほどの 会長への報告時  二人組みについても 少女と同様 引き合わせて欲しがっているようだった。 理由は分からないが、どうもこの件に関しては  会長自身、目立つ動きを本当に避けようとしている。 少女が自分の手元から"家出"した事のスキャンダル性を 気にしての事かと思ったが、 彼の影響力を考えると そんな事を抑え込むなど簡単だった。 会長室を後にし、自分のオフィスに戻ると新たに報告書が届いていた。 早速 報告書に目を通してみると・・・・ 以外な結果であった。 一緒に居た男については、 ハッキリしていることは住処くらいの物であった。 会長の時と同じく、出生・経歴のことに関しての情報が少なすぎるのであった。 女性についても同様であった。 ただ、この男女は恋の関係な事が書かれているくらいだ。 「これじゃ 何も分かっていないのと同じだな。」 そう思った瞬間、ハッとした。 この事件に関係している人物は謎の多い人物ばかりで、 身元はおろか、何処で何をしている人物なのかがまったく 分からない者ばかりなことが。 しかも、何処の誰かも分からないこんな連中に会長は逢いたがっている。 「一体何なんだってんだ。 連中は・・・」 とにかく、一旦は捕まえた情報だ。 その内居場所もすぐに分かることだろう。 連中を手に入れてから 会長に引き合わせるまでの間には 多少の時間を作ることも出来ることだろう。 その時に少しは分かることも有るはずだ。 そこまで考えると気が少しは落ち着いてきた。 引出しから タバコを取りだすと、ゆっくりと火をつけた。 「俺の方が有利だな。」 煙が部屋に漂うのを眺めながら、ゆっくり報告を待つことにした。 −−−To be continued.−−−
−−鼻、もとい 華 募集−− RAI.へmail GO〜 あなたからの感想を心待ちにしています。RAI.へmail GO〜
”挿し絵”なんてあればいいかなぁ〜って・・・・ 何方か”作っちゃる!!”って御方いませんか? ぜひMAILにて ”作っちゃる!!”と。(^0^

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