絵を描くひと。美術を愛するひと。受け継いでいくひと。

『めぐりあわせ』の結晶のような展覧会。
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実際に訪れました。
展示室に入ると、創立者夫妻のレリーフとともに、沿革が紹介されています。
続いて、新収蔵作品である木村忠太作品が並びます。
創業者の遺族からの寄贈によるもの。
油彩の他に、パステル作品もあり、鮮やかな色彩に圧倒されます。
そして、大森朔衞との交流というタイトルパネルに続き、大森朔衞『望郷』。
入口からだと正面奥の壁になります。
『画集・大森朔衞美術館』の大森朔衞宛の木村忠太の絵葉書とともに展示されています。
親しくても2人の絵はまったく異なる画風です。
それぞれ強さがあり、どちらも引き立つ展示でした。

振り向けば、広重の東海道53次が隣の部屋まで全点展示されています。
全点は8年ぶりだそう。開館35周年ならではの内容です。
2階には、ピカソ、ブラック、シャガール、松本俊介、熊谷守一・・・。
こんなタイプも描いていたのか、と思える作品も多数。
個人が、ここまで収集していることに驚くとともに圧倒されました。
近代美術史を駆け巡ったような充実のひとときとなりました。

小さな美術館で、どの駅からも離れています。
それでも時間をかけてでも訪れたい珠玉の美術館です。

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「開館35周年 玉美コレクション」展  ※写真提供:今治市玉川近代美術館
『望郷』大森朔衞1960 が、愛媛県今治市玉川近代美術館の、
『開館35周年記念 玉美コレクション展』にて、展示中です。
今治市(旧玉川町)出身の故・徳生忠常氏が全資金を出資したことによってできた美術館です。
今回の見どころは、新しく徳生氏のご遺族より寄贈された木村忠太氏の作品でしょう。
木村忠太氏は朔衞の親友です。
『望郷』は、忠太氏から朔衞に宛てた絵葉書など、画集の内容とともに紹介されています。
『画集・大森朔衞美術館』第4室 パリ サン・ルイ島 (P68-69)参照。
大森朔衞本人が武蔵野美術大学教授時代に書いた年譜には、木村忠太さんがよく登場します。
1941年12月初旬。高松での大森朔衞初個展の会場に「25年間は絵をやめた」と先に帰っていた
木村忠太が現れ、その2日後「また絵をやるぞ」と颯爽と東京に戻っていき、その2日後、
太平洋戦争が始まった。
1942-43年 高松東北部の造船所にて大森朔衞が『木船建造』(香川県知事賞受賞・戦禍で
焼失・画集P13)制作中、毎日のように木村忠太が見に来て「お前、描くの 早いなあ・・」と
話していた。
戦後、上野の東京都美術館で二科展初出の 松本俊介氏『立てる像』(神奈川県立美術館所蔵)
を一緒に見ています。
二人で「これは いい!と見入った」と、絵の前に立つたび、朔衞はなつかしんでいました。
神奈川県立美術館には、現代美術展K氏賞受賞の大森朔衞『陸』が収蔵され『望郷』と同年の制作
になります。(K氏賞:現代美術展にて鎌倉近代美術館学芸員が選んだ賞)
松本俊介氏の作品は、今治市玉川近代美術館の収蔵作品にもあります。
そして、この美術館の設計は、俊介氏のご子息 松本莞氏です。

「いつだったかオルリーの飛行場で君を知る人に会って一寸話したことがある。それだけでも
なつかしかった・・・」とはじまり「君の渡沸の成功を祈る」と、木村忠太が、朔衞に宛てた
手紙は親しみが込められています。
1968年に朔衞の渡欧によって、パリでの再会を果たします。
2年近く滞在し、木村忠太夫人も朔衞のことをよくご記憶でした。
画集出版の経緯について触れておきます。
大森朔衞没後、作品が収蔵されている富山県立近代美術館を訪問しました。
副館長は、開館時の『置県 100年記念 富山を描く 100人100景 展』の担当学芸員でした。
100人の画家は、日本画と洋画の50人ずつ選出されています。
彼にとって思い入れのある県内の場所へ、朔衞は招かれ、その風景を描いたのです。
「他の先生からは、描けないと言われた場所だったが、大森先生は描いてくださいました」と。
また、画家の資料を「物質(本)として残したほうがよい」との言葉が心に残りました。

その後、知人を介して、田中 岑回顧展のご連絡がご子息より届き、川崎市民ミュージアムへ。
田中 岑氏は、木村忠太氏・大森朔衞と同じ香川県出身で深い交流のあった画家です。
川崎市民ミュージアムで、田中氏の画集を手にして、決めました。
物質となる画集を残すべく、ご子息より出版社をご紹介いただくことになります。
また、川崎市民ミュージアムの田中 岑回顧展担当学芸員は愛媛県出身で、現在は愛媛へ戻られたと、聞いております。
ここにも、美術を愛する『めぐりあわせ』を強く感じます。
 ※「開館35周年 玉美コレクション」展は、2022年1月16日で終了しました。
今治市玉川近代美術館はこちら

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