研究ノート
物質破壊(崩壊)の進展解析
2026.6.1
五十川晋一

目的

 既研究ノート、物質破壊(崩壊)の予兆解析では物理機能モデル手法を用い、物質が部分的な破壊に至る予兆を捉える方法、ならびにシステム全体の破壊を未然に防ぐ指標として全長の減少を観測する方法を示した。
本報ではその続報として、最初の塑性域突入を起点に、その後どのように破壊が進展し、連鎖してゆくかを解析する。
なお、物理機能モデル手法の詳細は補足資料に示した。

もくじ

●柔らかい物質について
●モデルの考え方
●机上実験
 ・浮遊、静止しながら伸縮する物理機能モデル
 ・パラメータ
 ・試験条件
 ・結果
●考察
 ・いずれのバネも寿命到達しないケース
 ・3個のバネが寿命到達するケース
 ・塑性域突入するか、寿命到達するかは初期条件によってほぼ規定される
 ・寿命到達しないバネが1個残る
 ・寿命到達しないバネの挙動
 ・補論:一般社会との対比
●まとめ
●参考文献

柔らかい物質について

 Fig.1参照
物質は点ではなく、長さ(空間)を持つ。
密度は均一ではなく、質点(重心)は物質内を移動する。
力fは質点に作用する=ニュートンの運動の法則
復元力fiは相対速度vrによって生じる=フックの変形の法則
物質は変形=伸縮しながら運動する。
これは物体全体が運動するか否かに関わらず、物体内部で質点が運動していると言う事である。
柔らかさ=柔性とは剛性の逆数であり、相対的なものである。
物質の質量に対して相対的な柔らかさという意味である。
こうした見方をする時、物質は粒子と波動の性質を併せ持つ。
[1]


Fig.1

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モデルの考え方

 基本的に前報のモデル=無重力下で浮遊、静止しながら伸縮する環状4連バネを継承するが、以下の点が異なる。

・塑性域に入り、それが進展して寿命に達したバネは解放、離脱させる。
・残ったバネは再び環状に繋ぎ直す。
・3個が寿命に達した場合は、4個目を含め全て分離した単体のバネとなる。

寿命に達したバネの離脱は以下の考え方によるものである。

・原子単体をバネで表し、物質をバネの連鎖と見なす。
・原子は引力/斥力のバランスを保ちながら繋がっていると考える。
・塑性変形を原子間距離と比例関係にある復元力が閾を超えた際に発現する粘性とそのエネルギ消費として表す。
 既報 物質破壊(崩壊)のモデル化参照
・物質の局部的な破断を、塑性変形の繰り返しにより寿命に達した原子の離脱と見なす。

 なお、本報では以下の用語を用いる。

・塑性域突入:バネの復元力が限界力Fvを初めて超えた状態
・寿命到達:塑性変形の累積により連結が維持できなくなった状態
・離脱:寿命到達後に系から切り離される状態

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机上実験

●浮遊、静止しながら伸縮する物理機能モデル
 Fig.2にモデル図を示す。


Fig.2

●パラメータ
バネ単体
・質量m:1.0e−3(kg)
・柔性H:1.0e−4(mN−1
・自由長L:0.1 (m) (伸縮無し=熱エネルギゼロ時)
・外径Φ:0.04(m)
・比熱Cp:449.5(JKg-1k-1) (鉄の比熱)
・環境温度=バネ初期温度:1°(k)
・重力:0(N)=無重力

●試験条件
・塑性域突入閾値=限界力Fvは120(N)に設定する。
・サンプリング時間:0.01msec
・観測時間:0.05秒間
・塑性域突入は計算開始から0.01秒以降から許可し、ここまでを助走区間と呼ぶ事にする。
・これは4つのバネの振動モードを観察する為の区間である。
・試行数:300回(毎回、各バネ端部に印加する速度は疑似乱数を用いて試行毎に異なる値が設定される)

●結果
Fig.3_1~3_5は各バネの時系列波形であり、5つのケースを示す。
また、凡例はバネ1:赤、2:黄、3:緑、4:水色

case1 いずれのバネも塑性域に入らなかったケースである。

Fig.3_1_1 case1 助走区間0.01秒までの表示

case バネNo.
1   2   3   4
備考
1
パワ
位相
周期
振幅
全長
位相
周期
振幅
寿命到達数
寿命到達順
<< <<
0
             
1,3と2,4は逆位相
揃っている
差が極端である
1,2と3,4は逆位相  Fig_3_1A参照
揃っている
揃っている

Fig_3_1A case1 各バネの全長の位相


Fig.3_1_2 case1 助走区間以降の表示

case2 バネ2、4が塑性域に入ったが進行しなかったケースである。

Fig.3_2_1 case2 助走区間0.01秒までの表示

case バネNo.
1   2   3   4
備考
2
パワ
位相
周期
振幅
全長
位相
周期
振幅
寿命到達数
寿命到達順
0
             
揃っている
ズレている
ズレているがピークは揃っている
1,4と2,3は逆位相  Fig_3_2A参照
ズレている
1,3より2,4が大
2,4共に塑性域に入るが進行せず

Fig_3_2A case2 各バネの全長の位相


Fig.3_2_2 case2 助走区間以降の表示

case3 バネ1、3が塑性域に入ったが1のみ寿命に達したケースである。

Fig.3_3_1 case3 助走区間0.01秒までの表示

case バネNo.
1   2   3   4
備考
3
パワ
位相
周期
振幅
全長
位相
周期
振幅
寿命到達数
寿命到達順
1
1            
1,3と2,4は逆位相
ズレているが5周期毎に揃う
1,3より2,4が小
1,3と2,4は逆位相  Fig_3_3A参照
ズレているが10周期毎に揃う
1,3より2,4が小
1,3共に進行するが、1のみ到達

Fig_3_3A case3 各バネの全長の位相


Fig.3_3_2 case3 助走区間以降の表示

case4 バネ2、4が寿命に達したケースである。

Fig.3_4_1 case4 助走区間0.01秒までの表示

case バネNo.
1   2   3   4
備考
4
パワ
位相
周期
振幅
全長
位相
周期
振幅
寿命到達数
寿命到達順
2
    2       1
1,3と2,4は逆位相
ズレているが5周期毎に揃う
1,3より2,4が大
1,4と2,3は逆位相  Fig_3_4A参照
ズレているが10周期毎に揃う
1,3より2,4が大

Fig_3_4A case4 各バネの全長の位相


Fig.3_4_2 case4 助走区間以降の表示

case5 バネ2、3、4が寿命に達したケースである。

Fig.3_5_1 case5 助走区間0.01秒までの表示

case バネNo.
1   2   3   4
備考
5
パワ
位相
周期
振幅
全長
位相
周期
振幅
寿命到達数
寿命到達順
3
  1   3   2
揃っている
ズレているが5周期毎に揃う
1,3より2,4が大
1,3と2,4は逆位相  Fig_3_5A参照
ズレているが10周期毎に揃う
2、3、4のピークは概ね揃う

Fig_3_5A case5 各バネの全長の位相


Fig.3_5_2 case5 助走区間以降の表示

観察結果をまとめると、

・塑性域突入しないケースがある。
・塑性域突入しても寿命到達しないケースがある。
・複数のバネが寿命到達するケースがある。
・寿命到達しないバネが1個残る。
・全てのケースは、初期条件によってほぼ規定される。

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考察

●いずれのバネも寿命到達しないケース
 これはcase1だが、以下の特徴がある。

・パワの位相が隣同士のバネで反転している。
・パワの振幅が1<<2かつ3<<4である=隣同士で大きく差がある。
・パワ、全長の周期、振幅が揃っている。

このケースは相撲で言えば、突き押した力士Aに対し力士Bは引いてしまった状態であり、暖簾に腕押し状態と言える。
両者共に復元力が大きくならないケースである。

●3個のバネが寿命到達するケース
 これはcase5だが、起こる確率は0.3%と稀ではあるが、1個目から3個目まで立て続け、と言う速さに注目したい。
パワ、全長に関する位相、周期、振幅が揃っていない点はその他のケースでも見られるが、他には無い特徴はバネ2、3、4の振幅のピークが概ね揃っている点である。
これはフックの法則から3つのバネの復元力のピークが揃っている事になり、ピークを迎える毎に満遍なく限界力Fvを超えている事が判る。
人為的に制御できるものでは無いが、稀に起こる巨大~広域地震も同様かもしれない。

●塑性域突入するか、寿命到達するかは初期条件によってほぼ規定される
 Fig.3_1~3_5で示したように、結果はケース・バイ・ケースである。
Fig.4に確率分布を示す。
グラフ左の寿命到達するバネの個数別に、

・0個:56.7% 過半数を占る。
・1個:30.7%
・2個:12.3%
・3個:0.3% かなり稀である。

次に、グラフ中は最初に塑性域に突入するまでの所用時間、右は最初に寿命到達するまでの所用時間の分布を示す。
いずれも初期に起こる頻度が高く、包絡線は双曲線様の分布を示している。
いずれかのバネが寿命到達する=破損のトリガーは初期に起きてしまうように見える。
また、それが連鎖して次々と寿命到達するケースは稀で、むしろ全体としては安定化に向かうように見える。
この仕組みを以下の様に考えた。

・環状のn連バネでは初期条件=各バネにランダムに印加した速度に応じて蓄えられるエネルギはバラバラである。
・各バネはお互いに両隣りのバネの伸縮の影響を受ける、すなわちパワの出入りを伴うのでエネルギは定まらない。
・この為、復元力はバラツキ、ある伸縮タイミングで限界力Fvを超えるものが出てくる。
・塑性抵抗エネルギが消費され、それに見合う分だけ柔性が増加=剛性が低下する。
・塑性域突入したバネはモードが変化し(柔らかくなり)、隣接するバネのパワを受容し易くなる。
・その影響を受けて残りのバネが塑性域突入してしまうケースと、安定化に向かうケースに分岐する。
・塑性変形が進行して寿命到達するとそのバネは連結が切れ、全体から離脱する。
・モードが変化したバネが抜けたので残ったバネ列は共振のようなエネルギ急増には至らない。
・こうしたシナリオは初期条件=各バネに印加する速度が設定された時点で決まってしまうと言える。


Fig.4

●寿命到達しないバネが1個残る
 これは3個が寿命到達すれば自ずと4個目のバネは孤立して浮遊する状態になり、隣同士でパワの出入りが無いのでエネルギ変動は止まり、塑性域突入する事はもはや無いからである。
なお、寿命到達して連結が切れて離脱したバネは線形モードとなり、純粋な正弦波の伸縮となる。
但し、この線形モードは力学的には一端固定条件で成立するものである。
本報のモデルの前提条件は無重力下の浮遊状態であるから、本来は連結が切れて単体となった瞬間から2連のバネモデルに置換すべきところである。
現実的に原子単体を考えても一端固定はあり得ず、左右に別々の変位を持つから2連のバネ対でなければならない。
これは磁石をどこまで分割してもN極とS極が対で現れるのと同じである。

●寿命到達しないバネの挙動
 本机上実験に於いて環状4連バネは無重力下で浮遊、静止しながら伸縮しているが、case3~5では寿命に達してバネが離脱するタイミングで残されたバネは運動を始める=移動する事が確認できる。Fig.5参照
4連バネが伸縮しながら静止している状態では運動(速度)エネルギ+弾性(力)エネルギ=const.が保たれている=エネルギ保存則。
これを保とうとして離脱したバネのエネルギが変化した分だけ残されたバネのエネルギが再配分され、運動エネルギ>弾性エネルギとなるからである。
すなわち、外力(速度印加)による物質の移動ではなく、エネルギ保存則に則した結果である。
これは材料力学の引張破断試験でも試料の破片が飛散する現象として見られる事がある。


Fig.5

●補論:一般社会との対比
 case1~5までの様相は一般社会~身の回りでも見られるように思われる。バネを人間に喩えると、

・集団の中に威勢の良い人が居るとそれを矯正しようとする人が現れる。
・矯正されると威勢の良かった人は角が少し丸くなる。
・同時にストレスを感じるが、それが度重なると最後は心が折れてしまう。
・居辛くなって集団から離脱する。

あるいは、

・集団の中に威勢の良い人が居ると周囲に感化される人が出てくる。
・威勢の良くなった集団は周囲から反発を受け、最後は心が折れてしまう。
・集団に調和が戻って来る。

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まとめ

4個のバネのいずれも塑性域突入せず、寿命到達に至らないケースが56.7%と過半数を占める。
1個、又は2個の寿命到達で終わり、連鎖が起きないケースは43%と半数以下である。
寿命到達が3個連鎖するケースは0.3%と稀である。
寿命到達しないバネが1個残る
塑性域突入、寿命到達が起きるのは初期であり、殆どのケースはその後安定化する。
物質の破壊とは構成要素が蓄える運動エネルギと弾性エネルギの再配分と言える。
1個の要素が破壊しても残った全体でエネルギの再配分が行われる結果、安定化するケースが多い。

以上より、環状4連バネ系における破壊進展は、初期条件に依存した局所的な塑性域突入を起点としつつ、その後のエネルギ再配分によって連鎖的破壊または再安定化へ分岐する現象として理解できる。

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脚注・参考文献

脚注:
[1]:機械学会交通物流部門 連続講習会No.24-53 資料
  "物体の柔性が粒子と波動性に及ぼす影響"  五十川晋一 著 2024年 P15

参考文献:
・角田鎮男 ほか:製品開発のためのモデル化手法(展開と統合) 日本機械学会 [No.98 8]
 機械力学・計測制御講演論文集 98.8.17 20 ・札幌 )
・機械の力学 長松昭男 著 朝倉書店刊 2007年
・複合領域模擬のための電気・機械系の力学 長松昌男、長松昭男 共著 コロナ社刊 2013年
・次世代のものづくりのための電気・機械一体化モデル 長松昌男 著 共立出版刊 2015年
・機械学会交通物流部門 連続講習会No.12-5 資料
 "機械ー電気の統合モデルによるモデルベース開発" 角田鎮男 著 2021年
 "機械工学から見た相対性理論" 五十川晋一 著 2021年
・機械学会交通物流部門 連続講習会No.22-80 資料
 "機械工学から見たブラックホール" 五十川晋一 著 2022年
・機械学会交通物流部門 連続講習会No.24-53 資料
 "物質の柔性が粒子と波動性に及ぼす影響"  五十川晋一 著 2024年
・ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで  林一訳 ハヤカワ文庫NF  1995年
・タンパク質の音楽 深川洋一 著 ちくまプリマーブックス  1999年
・地殻破壊の前兆現象としての電磁放射の特性に関する研究 藤縄幸雄 著 1995年
研究ノート 物質破壊(崩壊)のモデル化 五十川晋一 著 2025年
研究ノート 物質破壊(崩壊)の予兆解析 五十川晋一 著 2026年

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