より手になじむネックを求めて(後編)
さあ,一番楽しくもあり技が要求される部分でもあるナットの加工です。今回は専用工具を駆使してかなり精密に仕上げてみました。
Last Update:
25.Nov.2000
HOME
TOOL
MAINTE
REPAIR
TUNE UP
LAB
TODAY
CALL ME
BBS
LINK
PROFILE

さあ,いよいよ一番のウデの見せ所とも言えるナット加工です。自分のベースなら気に入らなければいくらでもやり直しがきくのでテキトーにヤスリでゴリゴリ削って「いっちょあがり〜」ってなトコですが,今回は人さまの大切な預かり物。専用工具を使い,恥ずかしくない作品にしたつもりです。
まずはナットの外形を加工します。市販の加工済ナット材はたとえテレキャスター用と謳ってあっても微妙に寸法や形状が異なるため,そのまま取り付けられないことが多いものです。まずは全体の形状をヤスリで整え,ネックのナット溝にピッタリはまるように加工していきます。
形状がほぼ整ったら今回のメイン作業である弦溝切りです。もともと弦溝まで切られたナットも市販されていますが,なかなかうまく弦幅や弦高がフィットしないことが多いので私はたいていの場合溝切りまで手作業でやっています。まずはナットを実際にネックに取り付け,弦溝の位置を正確にマーキングします。写真は各種ギター&ベースの弦溝幅が記された専用のスケールです。
続いて弦溝の深さを決めます。一般的に弦溝の深さはフレットの高さを基準に決めます。フレットの高さは1フレットと2フレットの間にスケールを渡し,指板との間にフィーラーゲージを差し込んで測定します。フィーラーゲージは,様々な厚さの金属板がセットになったもので,複数枚を重ねることで様々な厚さを精密に測定できます。車いじりが好きな方は同様の工具を点火プラグの間隙測定に使用してますよね。

弦溝は,指板面より底部までの高さが先ほど測定したフレット高さより0.005〜0.010インチ高い位置になるように切ります。実際の作業としては,所定の厚さのフィーラーゲージをナットの手前に敷き,各弦の太さに合った専用のヤスリでゲージに当たるまで慎重に溝を切ってゆきます。ベースの場合は弦溝が太いので一般に売られている精密ヤスリでも可能ですが,ギターの場合はかなり細い溝なのでナット専用のヤスリが欠かせません。
できあがったらナット全体を再度丁寧に整形し,少量のボンドでネックに固定します。特にナットの幅はネック幅とぴったり合うように仕上げないと段差ができてうまくありません。

最後の仕上げです。ネックをボディに取り付け,弦を張った上でストリングリティナーの位置決めを行い,取り付け。電気回路のクリーニングと弦高,オクターブピッチ,ピックアップ高さの調整をして完成。しかし,まだ気は抜けません。このネックにとっては生まれて初めて経験する弦の張力です。数日はこのまま様子を見て,必要ならトラスロッドで反りの微調整をします。はやる気持ちを抑えて,依頼主のIさんにも1週間以上待ってもらいました。幸い大きな狂いも発生せず,今では持主の元で静かに年を越そうとしていることでしょう。
このサイトのすべての文,画像を無断で使用することを禁じます。(C)Y.Oshima 2000