an adventure story of STEAMBOY
2004年/日本/2時間6分
原案・脚本・監督
大友克洋
脚本
村井さだゆき
総作画監督
外丸達也
美術監督
木村真二
CGI監督
安藤裕章
音楽
スティーブ・ジャブロンスキー
声の出演
鈴木杏/小西真奈美/中村嘉葎雄/
津嘉山正種/沢村一樹/児玉 清
『AKIRA』の大友克洋監督最新作。
製作期間9年、総製作費24億円、作画枚数18万枚で描く空想科学冒険活劇。
19世紀イギリスを舞台に、驚異の発明「スチームボール」をめぐる攻防戦を
デジタルとアナログを融合した緻密な映像で描く。
★★☆☆☆
監督曰く「空想冒険科学漫画」なんだそうだ。
大友本人は、手塚治虫と宮崎駿へのオマージュないしリスペクトを込めて、
その縛りの中で、自分なりの表現方法を9年間追求してきたということなんだろうが、
これが大失敗。彼の作品の魅力が「画」だけではないことを、本人は解ってなかったんだろうか。
映画『AKIRA』で世界的に高い評価を受けたとされる大友克洋だが、
その後、大風呂敷を広げた原作を、彼流にクールに終わらせることができなかった。
『MEMORIES』『メトロポリス』とキャリアを重ねるも、オリジナル脚本に自信が持てなくなってきたのか、
今回は、広告代理店出身でフジテレビからアニメ界に滑り込んだ、村井さだゆきを共同脚本に起用。
今敏監督作品にも参加している彼だが、「世界の大友」と互角に渡り合えるとは到底思えない。
結果、大友の希望を軸に据えつつ、いろいろ詰め込み過ぎていびつな形だったという20稿目の脚本を
万人向けにスリム化する作業を見事にこなし、半端な記号が配置されただけのストーリーが出来上がってしまった。
とにかくキャラがまるで描けていない。人間が主役じゃない。
かといって、蒸気やメカに人格を感じるかというと、そうでもない。
例えば、かの『バックドラフト』で火災現場の炎が主役になったような、禍々しい迫力は感じられない。
ただ、リアルで美しいだけだ。そして、空々しい予定調和があるだけだ。
従来のアニメの大げさな動きに逆らい、実現可能な速さに抑えているので
人物がのたのたしていて、活劇がちっとも面白くない。
ジブリアニメよろしく俳優を集めて話題を作るも、発明一家3代の演技があまりにも不自然。
鈴木杏の声は悪くないが、やはり声優としての技量が足りない。
誰にでも分かる『鉄腕アトム』や『風と共に去りぬ』もろもろの引用も、何のひねりもなく
まるっきり言い訳じみている。「これはパロディなんだから」とでも言いたげだ。
実際、パンフレットに載ってるインタビューには「しょうがない」という言葉が5回も出てくる。
こんなに空虚な内容では、作画の労力は軽く吹き消されてしまう。
あれだけの仕事をして駄作呼ばわりされてしまうのだから、スタッフもツライところだ。
技術を獲得できたのは確かだが、それだけでは高畑勲監督の『となりの山田くん』と何ら変わりがないではないか。
大友だからこそ集めることができた予算と人材、それらを彼の弱気が全て台無しにしてしまった。
eiga.comによれば、興収は10億円から15億円の間でゴールの模様だという。
ジャパン・プレミアの舞台挨拶にはアロハシャツに短パンで登場した大友監督。
「こんなつまんないの作っちゃってごめんなさい」というテレが丸見えだ。
あの場にタキシードでふんぞり返って来られるほど、彼は傲慢ではないということだ。