
今年もあっという間に紅葉シーズンが到来、紅葉狩りはどこに行くか迷うところです。 まずは先月越えた塩之沢峠
を目的地の一つに決定。 圧倒的な森の濃さに強い印象を受け、紅葉シーズンにぜひ再訪したいと思っていました。
その次に選んだのが十石峠です。 以前から興味はあったのですが、小海線・海瀬駅を出発地にすると、国道299
号(武州街道)を通る国道サイクリングとなってしまうため、車の交通量の多さが気になり足が向きませんでした。 そ
こで、お気に入りのコースになっている、小海線臼田駅から田口峠、大上峠を経て十石峠を繋げると、なかなかよさそ
うです。 仕上げに上野村に一泊した翌日に塩之沢峠を越えるというコースを考えてみました。
折りよく文化の日を挟んだ3連休は。日本列島全体が高気圧に覆われるという予報を確認、勇んで上越新幹線 東
京発下り始発6時24分のあさま501号に乗り込みました。

臼田駅から上野村の宿までは、3つの峠を越えて70kmほどです。 日の入りは16寺45分。暗い山道は避けたい
ので、遅くとも17時には到着したいところ。 過去の記録を確認しながら、きちんと時間設定をしておきました。
臼田駅に8時8分到着、できるだけ手早く輪行袋から取り出した自転車を組み立て、まずはいつもの新海三社神社
の大ケヤキに立ち寄りました。 何度見ても圧倒される力強さを感じさせてくれます。 寄り道している時間は多くは取
れないので、今日は参道の入り口から道中の安全を祈念し、 田口峠に向かいました。

県道93号線(下仁田臼田線)を進み民家が途絶えると、落葉が加速しモノトーンの世界に入る直前の最後の紅葉
が、朝の光を受けて輝いていました。

雨川湖を通り過ぎると、カラマツ林が増えてきます。 青空と、カラマツの黄金色の組み合わせが実に見事です。

沢を覗いてみると、落葉したカエデで真っ赤に染まっていました。 臼田駅から田口峠までの10kmほどの間には、
宝石を散りばめたように見所がたくさんあります。
ほぼ予定通りに10時15分に田口峠に到着。 トンネルの出口からは独特の形をした立岩(たちいわ)が目に飛び込
んできました。 一息入れていると、ランドナーの二人組が到着しました。 二人の愛車は、TOEI製のダブルレバー、
泥除けガード、ダイナモが装備された正統派ランドナーでした。 田口峠〜大上峠までは同じで、そのあとは佐久方
面に下り日帰り予定とのこと。 この後、熊倉で休憩中に再度お会いしました。

空気が澄んでいたので、兜岩山方面から立岩、兜岩山など妙義荒船山系が、くっきりと浮かんでいました。

下仁田臼田線の名物、連続ヘアピンカーブを一気呵成で走り抜けました。
ニューサイクリング誌1985年5月号の『下りに苦労した峠』という山本秀男さんのエッセイの中で、昭和30年代の
田口峠の様子が書かれています。 関東ローム層の赤い粘土質の未舗装路で、雨中の下りを四苦八苦して大幅に予
定が遅れ、下りきったところの最初の民家に一夜の宿を乞うた、とあります。
狭岩峡に到着。 道の両側から妙義荒船山系特有の荒々しい岩壁に挟まれて、紅葉がぎゅっと凝縮されていました。

勘能に到着。 右折して大上峠に向かって登り返して行きます。

勘能から2km弱で熊倉に。 熊倉の集落を左折して全長7783mの林道大上線に入ると、両側を岩壁に挟まれた
道に差し掛かります。 狭岩峡の岩壁も見応えがありますが、ここの岩壁はそれ以上に息を呑むような迫力がありま
す。
 
熊倉から大上峠まで10kmほどですが、10%超の激坂も多く、今日のコースでもっとも登り応えのある区間です。
朝方は肌寒かったものの、南側の斜面では心地よい日差しもあり、汗ばんできました。

なんもく村自然公園の売店に到着したところでソフトクリームを注文、濃厚な味は期待を遥に超えるおいしさでびっく
りしました。 とんがった姿が印象的な、大岩・碧岩(オオイワ・ミドリイワ)を眺めながら、濃厚な味を楽しみました。
売店の中には、30cm天体望遠鏡で撮影された天体写真が数枚展示されています。 星空観測にもよさそうなところ
です。

ムラサキシキブの実を見つけました。

計画より30分遅れの13時20分に大上峠 (おおがみとうげ 1110m)に到着。 紅葉を背景に落ち葉が舞っていま
した。 峠はハイカーのために駐車スペースを確保しているのか、道幅が広くなっているものの、人影はまったく見当
たりません。 広々とした中で木々に囲まれた景観と静けさのギャップが、不思議な雰囲気を持つ峠です。

大上峠から長野県側に入り100mほど下ると、あっけなく国道299号に突き当たりました。 左折して本日3つめの
峠となる十石峠に向かいます。 十石峠(1353m)までは、約7kmで高度差は350mほどです。

今日走ってきた下仁田臼田線、林道大上線から、すっかり整備された国道になりましたが、案外と交通量は疎らで
した。 右の写真は、先ほど越えてきた大上峠方向です。

時刻は13時30分。日没までには、余裕で宿に到着できそうなので、寄り道モードに入りました。まず、国道脇の公園
にあった臼石(うすいし)を見学しました。
岩のくぼみに入り込んだ石が、水の流れで回転して削り取って出来たものだそうです。県の天然記念物の指定を受
けています。 その後やはり国道のすぐ脇にあった、乙女の滝も見物しました。 乙女の滝の付近は道幅がかなり狭く
なり、乗用車2台がすれ違うのも難しそうなところもありました。

国道とはいえ、この道幅なので車もあまり通りません。

峠に近づくと短い激坂がありましたが、全般的には楽な登りでした。15時ちょうどに峠に到着しました。

国道にある峠ということで、世俗化した雰囲気をイメージしていたのですが、実際には売店もなくあるのは展望台とト
イレだけ。そして展望台からの眺めは晴天に恵まれたこともあって、赤城・榛名山系から秩父、甲武信山系までの大
パノラマが広がっていました。 田口峠からの眺めもすばらしかったし、大上峠の静寂も言うことなし、そしてこの十石
峠からの眺望も堪能して、峠三昧の一日になりました。

60歳代後半ぐらいの熟年夫婦が、手すりにカメラをおいてセルフタイマーで記念写真を撮ろうとされていました。 声
をかけてシャッターを押してあげたところ、 奥さまにものすごく喜んでもらえて、恐縮してしまいました。 お二人の記念
に写真が残れば何よりです。 この後も山道が続くから慎重に走らなきゃね、と夫を労る奥さんと、口数少なく答えるご
主人。二人の会話に、心が温まりました。私も、いつか自転車に乗る体力がなくなったら、こういう観光をする時が来
るのかもしれません。

十石峠から再び群馬県側に。今日は、長野県と群馬県を行ったり来たりになりました。 峠から3kmほどで、林道
矢弓沢線の分岐に来ました。

南斜面に広がるカラマツの林

林道の脇の一番眺めのよいところに夫婦地蔵が並んでいました。 きれいな夕日を毎日仲良く見られそうです。
林道は道幅も狭い上、ヘアピンカーブでは濡れ落ち葉にタイヤが取られてスリップするので、ブレーキを握り締めて
下りました。

250年ほど前に建てられたという国指定重要文化財の旧黒澤家住宅。 ちなみに、上野村は黒澤さんだらけだそう
で、この日の宿のご主人も黒澤さんでした。

薄暗くなった17時に野栗沢の一軒宿のすりばり山荘に到着し、さっそくお目当ての温泉に。 ここの温泉はかけ流し
ではありませんが、塩素臭はまったく感じられず、とてもよい湯でした。 ヒノキの湯船の中で、きりたっぷ里の武士さ
ん直伝の足指マッサージをしながらゆっくりと身体を暖めました。
夕食は、イノブタ入りの鍋と、締めは源泉で作ったオリジナルうどん。仕事がひと段落した宿のご主人にいろいろと
話を伺うと、ここの源泉は塩分とミネラル分が豊富で、それを目当てに夏の間はアオバトがたくさん集まるのだそうで
す。その数は年々増加し、今年は300羽ほどにもなったそうです。
源泉を飲ませてもらうと単純な塩辛さではなく、わずかに甘さも感じられる不思議な味でした。翌朝には化粧水代わ
りに使うと肌にもよいから奥さんに持っていけ、とペットボトルに詰めてくれました。(峠を登ることを考えると重量が増
えてちょっぴり複雑な気持ちでしたが、ありがたく頂戴しました。)
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