8月27日(土) 晴れ
「美しい世界」朝起きると、外がキラキラとまぶしい。気が付くと、今日が北海道に居られる最後の日だった。
最終日に綺麗に晴れてくれたことに感謝して、出発の準備を整える。
一緒に泊まっていたおじさんは、飛行機で北海道に来て、レンタサイクルで日高の丘を巡り、馬を見に来ていた。今日みたいな日は、絶好のサイクリング日和ですね!
良い旅になるよう、昨日ホクレンでもらった緑の旗を差し上げた。
ユースの皆さんに挨拶をし、国道235号線を苫小牧に向かう。ユースを出た直後に、「サラブレッド銀座」というところがあるので、駐車場にバイクを停めて午前中の清々しい緑の牧場をしばらく眺めることにした。
緑の大地に幾重にも柵が張り巡らされ、馬が点々と見える。丁度その時、馬の母子が畜舎から出てきた。元気一杯の子馬の後を、母馬が見守りながら着いていく。あんなに遠くにいる母子を見ているのに、その走りには母馬の愛情が溢れているのがはっきりと見てとれた。
さて、先は長い。旅を続けることにしよう。缶コーヒーの空き缶をゴミ箱に捨て、再び国道235号線を走り出す。
何の気無しに今、速度は時速何キロ位かな〜とメータを見ると「0km/h」
針は微動だにせずに真下を指していた。「あれ?今、停まってるのか?」一瞬混乱したが、景色は動いている。
どうやらメーターが壊れてしまったらしい。コンコンと少しメータを叩いてみたが変化無し。
距離計も動作していないところを見ると、前輪からのワイヤが切れてしまったようだ。
ということは、・今、時速何キロで走ってるのか分からない。
・走行距離が分からない。
・だから、ガソリンを入れるタイミングも分からない。という、大変困った状態に陥った。急いで地図を確認。動作しなくなったのがこの辺だから、今のガソリン残量からココくらいまでは行けそうだ・・・なんだかメンドクサイ計算をいちいちしなくちゃいけなくなった。
まあいい。適当に走って何となく給油しよう。でも、ツーレポ書く時にややこしいことになったかも。日高の富川という所の手前に、日高ケンタッキーファームがある。
初めて北海道に来た時に、ここに来た事があった。
一寸先を急ぐあまりに通り過ぎたが、沙流川を越えたところで気になって引き返す。やはり気になる場所には行ってみる方がいいので。
ケンタッキーファームの門の前まで来て・・・あら、ここはお金取るんだっけ?
う〜む・・・中をじっくり見ている時間は無いな。それに、ここに来るまでに綺麗な牧場が沢山あるじゃないか。
特に競馬をやっているわけでも無いので、往年の名馬にこだわる事も無く、名も無き馬たちを見ながら国道に引き返すことにする。今日は去年お会いしたYさんに、苫小牧で会うことになっていた。一年以上振りである。
走ってきた土地がPHSの圏外ばかりだったので、ほとんどまともに連絡を取らずに今日になってしまったのだが、大丈夫だろうか。ファンホース新冠YHで電話したが、それっきりに近い状況だった。
日高では圏外ばかりであったが、苫小牧に近づくと通話エリアとなって、メールがバンバン入ってきた。かなり心配してくれていたようで、怒りのメール(?)も入っていた。あぁ・・・申し訳ない。
メールで現在位置を送って、合う時間を合わせる。Yさんのバイト先でもある、最近出来たAEON(イーオン)に集合することにした。
しかし、北海道は土地の使い方がハンパじゃない。このAEONも、ゆったりとした2階建てに、ものすごく広い駐車場。やはり土地の使い方の感覚が、明らかに違うような気がする。電話でお互いの位置を確認しながら右往左往して、ようやく相手を発見する事が出来た。
わぁ〜ひさしぶりですー!中にあったスターバックスで一時間〜一時間半くらい話していたかな。最近のこと、今までのこと、苫小牧の観光のこと、仕事のこと。楽しいひと時だ。
色々とお土産も頂いた。しかし、北海道で沖縄土産をもらえるとは思わなかったです。
これからバイトらしくて、もう行かないといけない。僕も、小樽までまだまだ長い。名残惜しいが別れを告げ、再びバイクで走り出す。苫小牧市街を通り抜け、国道276号線を支笏湖方面に走る。
このまま札幌に行くには時間があるので、先ほどYさんに教えてもらった「苔の洞門」に行ってみた。
「苔の洞門」の駐車場から750mの道を歩くと、展望台に到着した。
そこは、左右が切り立った断崖で、天井が高い洞窟のようになっていた。
壁面にはびっしりと苔が生え茂り、まさにその名の通り「苔の洞門」である。以前は中に入る事が出来たのだが、現在は崩落の危険から立ち入り禁止となっていた。
次に国道453号線まで行き、支笏湖でひと休み。
もう何度も来た事がある支笏湖だが、見る度に印象が違う。今日の支笏湖は、空に多数の雲を携えた恵庭岳の所為か、今の秋口の季節の所為か、少し寂しくも力強い印象を受ける。
湖岸をゆっくり走りながら、支笏湖を眺める。流れていつかは消えていく景色が、なぜか名残惜しい気もする。
次に行くところは、「滝野霊園」だ。なぜ霊園なんかに!?と思うでしょうが、この滝野霊園はちょっと変わった所なのだ。
確かに墓地なのだが、なぜか「モアイ像」がある。「ストーンヘンジ」がある。
実際に行ってみると、数々の仏像と同じ視界にモアイ像が目に入ってくる景色は、予想してた以上に不思議で、こっけいでさえある。ストーンヘンジが見える原っぱで家族が遊ぶ景色は、そこだけ見てるととても日本とは思えない。まして、墓地とは思えるはずも無い。
しかし、園内は綺麗に整備されており、生きてる人がこんなに(笑って)くつろげるのだから、死んだ人なら尚更なのかも・・・と勝手に想像しながら、モアイ像を眺めていた。次は以前通り過ぎたこともある「札幌芸術の森」だ。Yさんの話では、丁度イサムノグチ展が開かれているようで、今日は土曜日という事もあって大勢の人がいた。
時間も3時をまわったという事もあり、もっとじっくり見たかったのだけど、気持ちの上ではかなり焦っていた。
常設展示を小走りに駆け抜け、イサムノグチ展の屋内展示をあっという間に通り過ぎた。うう・・・もう一日あったら、もっとじっくり見たかったんだけどな・・・屋外展示を眺めながら思った。
(もう今となっては、何を見たのかほとんど思い出せないくらい一瞬の観賞だった。Yさん、ここを推薦してくれたのに、スイマセン)国道453号線を北上し、札幌市街地に近づくと、次第に交通量が増えていった。
あまり札幌市内は通りたくなかったのだけど、「モエレ沼公園」に行くには、どうしても通過しなければならない。
札幌市内の道は今までにあまり走ったことも無く、あまり土地勘が無かったので、予想外に迷うことになった。
何故か苗場駅の近辺で行ったり来たりしながら、どうにかして札幌新道に出た。ここまで来れば、モエレ沼公園まであと少しだ。
道道112号線から簡単に入れると思っていたが、入り口まではぐるっと回らないと入れないらしい。
モエレ沼公園に見えるモエレ山を見ながら、駐車場にたどり着いた。時間はもう5時。太陽が傾いていた。傾きかけた太陽に映し出されたモエレ山は大きなシルエットとなり、山肌には点々と山に登る人が小さく見える。
すごく時間がかかりそうだけど、この山には登らなければならない気がした。
急なスロープをザシザシと歩き出す。登る前はとても一気に登れまいと予想していたが、思ったほど疲れない。
思った以上に早く、山を登りきってしまった。先ほどふもとから見ていた点々の1つに、僕も仲間入りというわけだ。
山の頂上は石畳の広場になっており、みんな思い思いの方向を眺めているのが夕日に照らし出された。
とても美しい光景だ。
この時、この場所にいた事に感謝するほどの美しい景色を今見た。
モエレ沼公園は、不思議な場所だ。確かにこの公園自体も景観が美しいのだが、それだけで無かった。
公園に集う人々さえも景色の中に溶け込んで、同じくらい美しい。これをイサムノグチ氏は狙って実現したとすれば、まさに天才のなせる業であろう。
僕もしばらく、モエレ山の頂上から札幌の景色を眺めていた。次第に夕日がその色を強め、札幌の町を赤く染めていく。公園にいる人々の影も長さを増していく。しかし歩く人、遊ぶ人、ただ景色を眺める人、それぞれがこのモエレ沼公園の美しさの一端を担っている。
旅の最後を飾るのに、十分の場所であった。
夕日の沈むモエレ沼公園を後にして、国道5号線を小樽に向けて走る。丁度交通量も多い時間帯だ。
夕暮れの国道5号線。流れる車のテールランプは、旅の終わりを告げるにはうってつけの景色に見えた。
一度フェリーターミナルに行ってみたが、フェリーの出発時間である23時30分までは随分時間がある。ブラブラと買い物でもしようかな。
先ずは「俺の小樽運河」に行き、お土産を買う。海鮮もの以外で、手持ちでちょっと気になるものを、ささやかながら買った。
次に、小樽運河の橋に行ってみる。あ、去年と同じように、織田ゴム長さんが楽器を演奏している!
了解を得て写真を撮らしてもらった。
「去年も居てましたよね?」と僕。
「去年も来てくれたの?ありがとう」
一瞬だけの会話だったが、何だか良かったよ。そろそろお腹もすいてきた。今年2回目!今年最後の蔵寿司だぁ〜!
というわけで、夜の小樽運河から、蔵寿司にバイクを走らせる。「おかえりなさ〜い!」いつもの声が、温かく迎えてくれた。
バイクで来ているので、酒が飲めない事がとても口惜しいが、おまかせを握ってもらう。
口の中に広がるとろっとした魚介の甘さ、美味しさを堪能する。。。おぉっと、写真撮っておくのを忘れてた!
(毎回、写真撮るのを忘れて先に食べちゃうんですよね・・・)
カニ汁をすすり、寿司を味わい、今回の旅をすっかり顔馴染みになった板さんに話した。
丁度となりに、三角市場で老舗を開いているという一家が来ていたので、みんなでワイワイと話が盛り上がった。ここの若大将はバイクにも乗るらしく、話も楽しい。
もうすぐ北海道を去らなければならない僕にとって、その寂しさが紛れるには十分すぎるひと時だった。
今度来る時には、三角市場で何か買いますね!店にも行くよ!!
蔵寿司に別れを告げ、再びフェリーターミナルに戻る。
先ほどよりもバイクが増えている。僕はバイクを停めた回りにいる人と、他愛も無い話で時間を潰す。
中には今日北海道に着いたライダーも居る。今夜どこに寝るかまだ決めていないらしい。小樽温泉オスパに居座る等々、色々な助言が飛び交う。でも、大丈夫だよ!何とかなる。いい思い出になるなら、何だってやってみればいい。彼の旅に、幸多からんことを・・・いよいよ乗船。帰りの乗船は、なぜか行きよりも静かに感じられる。
風呂に入り、プロムナードで生ビールと枝豆を前に置き、今日までの旅に思い出をめぐらせる。
旅が、「今」から「思い出」になっていく時の寂しさが感じられた。後部デッキでは、小樽の夜景を眺める人々が集まる。
またね、北海道!本日の走行距離:271kmくらい(メータ故障のため、地図読みによる概算値)
本日の音楽:「Five O’Clock Plane」(Nelson)