Present for You !  信 姫人(Nobu Himeto)
Present for You!


「それで、その後の場面が素敵なんですよ!」
眼鏡をかけた少女が熱心にテーブルを囲んでいる友達に話していた。
すみれ色の髪を水色のリボンで特徴的にまとめている彼女はそう、シェリルだ。
そして彼女のことを知る者ならたやすく予想できることであるが、
その話題は自分が最近読んだ本の内容だった。
「ふぅん。で、その先はどうなるの?」
向かって右側に座っていたトリーシャが話を続けるよう促した。
興味があるのだろう、空いている左手が何気に彼女のトレードマーク、
大きな黄色いリボンの端をいじっていた。
知らない人のために言っておくが、これは彼女が上機嫌な時の癖だ。
「ヒロインが捕まっている屋敷に、いつも喧嘩ばかりしていた幼なじみの
男の子が助けに来るんです。そして最後は、実は自分が王子であることを
明かして彼女にプロポーズするんです。」
そこまで言うと、シェリルは満足したように大きく息をついて天を仰いだ。
「ふぅん、良くある話ね。ま、気持ちは分からなくはないけどね。」
トリーシャの向かい、即ちシェリルの左側に座っていたマリアが言った。
片肘を突いているところが、じっとするのが苦手なマリアらしいところだ。
「でもよぉ、」
「へぇ、マリアが魔法に無関係な話を聞くことなんてあるんだ。」
今までただ一人黙っていたアレフが何か言おうとしたが、後ろからきた少女の
声と料理の乗った皿を置く音に遮られた。
ちなみに彼等四人が話をしているここはさくら亭、
というわけで後ろから来たのは当然、この店の看板娘パティだ。
「ぶ〜★パティ、ひっど〜い!」
「ははは、ごめんごめん。」
「こら〜、俺を無視するな〜!」
「あ、アレフいたの。」
我慢し切れず叫んだアレフをパティがそっけなくあしらった。
今は昼時のピークも過ぎたので、客はこの四人以外にいない。と、突然シェリルが
「あの今の話、パティさんもいいと思いませんか!?」
「え、あたし!?あたしは・・・」
「はは、パティには無縁の話だぜ。スカートをはかないお姫様なんているもんか。」
ベキッ
「さぁて、残っていた後片づけでもしてこようっと。」
「痛て、乱暴な奴だなぁ。ぜ〜ったいパティには王子様なんて来ない!」
なおも荒れるアレフをなだめるシェリルとトリーシャ。と、マリアが
「あ、でもパティにはノブがいるじゃない!」
と自他ともにパティに惚れていると認める、ジョートショップで働く青年の名を
挙げたが、
「冗談じゃないわよあんな奴!」
すぐに奥からの強烈な反論にあったのだった。

それから数時間後、日はゆっくりと西の空に傾きかけていた。だがその光は、
雲一つないにもかかわらず強すぎることなく、むしろ穏やかだった。
「あたしだって・・・そりゃぁ・・・」
そんな空の下、うつむいて遅い歩みを進める少女が一人。
手におかもちを持った彼女は出前の帰りのパティその人だった。
「あたしだって・・・別に・・・」
重いつぶやきがもう一つ口から出た後、彼女は顔を上げた。と、
「ま、眩しい!な、何なの!?」
突然の横からの強い光に、パティは思わず顔を背けた。
しばらくして光が弱まったのを見定めると、彼女はその方向に目を向けた。
そこにあったのは洋品店ローレライ。何のことはない、今の光は
ショーウインドウに反射する日の光が、一瞬強く感じられただけのことだった。
「なんだ、あぁビックリした。」
光の正体も分かってはずされようとした彼女の視線は、逆に釘付けになった。
そこに飾られていた、一着の白いワンピースに。
見るだけでわかる着心地の良さ、肩口と裾にあしらわれたレース、細やかな模様。
ウェディングドレスを思わせるその服は、パティに動くことを許さなかった。
ガラスに映った自分は、まるでその服を着ているかのよう。少し微笑んでみる。
決してナルシストなわけではないが、彼女はその自分の姿にしばし見とれていた。
「どうしたの、パティさん?」
「うぇ!?シ、シーラ!!」
不意にかけられた声に驚きそちらを見ると、そこには友達のシーラが立っていた。
「シ、シーラ、め、珍しいわねこんなところで会うなんて。」
明らかに慌てた口調でパティが言葉をかけた。が、シーラはそんな彼女の様子には
あえて触れず、
「うん、夜鳴鳥雑貨店の帰りなんだけど、日の光が気持ち良かったからちょっと
お散歩しようと思って。」
「そ、そう。で、用事は済んだの?」
『帰り』なのだから当然用事は済んでいるのだが、今のパティにそこまで頭を
回せと言うのは酷な話だった。
「ええ、ピアノの弦を注文しに行っただけだから。」
「そう。」
風一つ吹かない、文字通り静かな時間が流れた。ふとシーラの視線が横に流れたのに
気付いたパティだったが、努めて平静を装い、何も言わなかった。
「・・・パティさんなら、きっと似合うと思うな、この服。」
「へ!?な、何を言い出すのよシーラ!・・・本当にそう思う?」
「うん、もちろん。」
強く言い切るシーラの笑顔をしばし見ていたパティであったが、
このことを誰にも言わないように頼むと、うって変わった様子で帰路を急いだ。

コイン同士がぶつかる澄んだ音が静かな部屋に響いた。
もうこれで三回目になるが、その音が止まる度に出てくる言葉は一つだった。
「足りない・・・」
その音はパティが自分の所持金を数える音だった。
テーブルの中央に積まれた金貨が放つ光は、夕日を受けているためほのかに赤い。
「何度数えても487Gか。三日前にスニーカー買っちゃったからなぁ。」
耐久性と好みから、彼女の買うスニーカーは普通のものより少し高かった。
それが500G、あの服の値段であるが、目標額達成の歯止めとなった。
「べ、別にいいわよ。そこまで欲しいってわけじゃないし。」
誰もいないのに強がって見せる自分。嫌いなのに直らない意地っ張りな自分。
ふと、さっきのシーラの笑顔と言葉が頭をよぎった。
『パティさんなら、きっと似合うと思うな、この服。』
「きっと気を使ったんだ。あたしより、シーラの方がよっぽど似合う・・・」
カランカラン
店に客が来たことを知らせるカウベルの音が、パティを現実に引き戻した。
両親がそれぞれ用事で出かけているのを思い出し、彼女はすぐさま応対に出た。
「いらっしゃ・・・なんだ、あんたか。忙しい時に来ないでよね。」
「あいかわらずつれないお言葉っスね、パティさん。」
入ってきた青年はテディの声真似で彼女の攻撃に応じた。始めの頃こそこういう
冗談に真面目に謝っていた彼だが、もう慣れっこになった今ではこんな返し方を
する余裕まであった。
「喉が乾いちゃってさぁ、アイスコーヒーちょうだい。」
「はぁい。ノブ様からアイスコーヒーの御注文がありました〜。」
誰もいない調理場にそう声をかけると、パティは奥へ消えた。
それを苦笑しながら見送るこの青年が、マリアの言っていたノブであった。
(・・・何か嫌なことでもあったのかな。)
ずっと彼女を見ていたせいか、何となくそんなことが彼には感じ取られた。
と、パティがアイスコーヒーの乗ったトレイを手に戻ってきた。
「はい、アイスコーヒーお一つ、おまちどうさま。」
「あのさぁパティ。この間、」
「ストップ!いつも言うようにあたしは忙しいの。デートのお誘いはお断り!」
「いや、そうじゃなくて、」
「しつこいわねぇあんたも!」
気圧されて黙り込むノブ。ついきつい言い方をしてしまったことにうしろめたさを
感じるパティ。気まずい空気が二人の間に流れた。
「あ、あの、」
「悪かった、忘れてくれ!」
何か言いかけたパティの言葉を、こんどはノブが遮った。
そして顔の前で手を広げたまま、空いている左手でアイスコーヒーを口に運んだ。
カラカラと氷の揺れる音がやけに涼しく感じられた。

「もしかして、怒ったの?」
いつもにはない不安そうな様子に少し戸惑ったが、ノブは笑顔で答えた。
「まさか!俺にとってパティの言葉は絶対、黙れと言われたから黙っただけさ。」
「・・・あんたよく恥ずかしげもなく言えるわね、そんなアレフみたいなセリフ。」
「恥ずかしいよ。だけど本人にも、俺がパティを好きだってことはばれてる。
だったら言いたいことを言わなきゃ!下手に嘘をついて誤解されたくないし。」
好きと言われた少女は、それを言った青年を黙って見ていた。
いや、今の彼女の様子は見つめていると言った方がむしろ適切であろうか。
相手がずっと黙っているので彼も一瞬考えたが、また話し始めた。
「夢で見たんだ。多分昔の俺の知り合いなんだろう。突然怒り出してさ、
わけを聞いても絶対話さない。そのくせ俺だけは味方だと思っているらしく
まとわりついてきて、そのせいで俺はいつも板挟み。」
そこでノブは残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干すと、こう続けた。
「俺がこんななのは、きっとその時思ったんだ。わかりやすく生きよう、自分を
気遣ってくれる人に甘え過ぎないようにしようって。」
「ふぅん・・・ありがと。」
「え?」
『あんたでも一応考えてるんだ。』といった、いつも通りのつれない反応を
予想していたノブは面食らった。
「いい話聞かせてくれたから、そのコーヒー奢ってあげる。」
「え?じゃあ、気が変わらないうちに御馳走になろうかな。ごちそうさま!」
静かに、だが確実に自分の中で何かが変わるのを彼女は感じていた。
そして、ノブもそれを感じとってくれたような気がした。
元気に店を飛び出る背中を、パティは黙って見送った。
彼の背中は近くにあるはずなのに、それを見送る目は遠い目をしていた。

その時、パティは走っていた。
その日は食材の仕入れのために、午後から店が休みだった。
いや、それよりもっと大きなことがあった。給料日だった。
貯金箱代わりの革袋を小脇に抱え、彼女は走っていた。
行き先はもちろん、一つしかない。−洋品店ローレライ−
嬉しさと気恥ずかしさこそあったが、今の彼女に迷いはなかった。
目的地に着き息を整え顔をあげた彼女の目に・・・あの服は映らなかった。
つい先日そこにあったはずの服は、派手なトレーナーに追い出されていた。
目に見えてわかるほど、がっくりと落ちる肩。
息をすることすら忘れているかのように、動きのない姿。
「あれ、パティさん。どうしたんです、体の具合でも悪いんですか?」
落ち込む彼女を心配してクリスが声をかけてきてくれたが
今の彼女の耳には届くはずもなく、何も言わず来た道を帰っていった。
帰り道、一月ほど前にトリーシャがした世間話がふと思い出された。
「でね、やっとお小遣いがたまったから前から目を付けていたその服を
買いに行ったのに、誰かが買った後だったんだ。あ〜ぁ、ローレライの
ショーウインドウに並んでいるのはあの店自慢の品だから一品限りだってこと、
忘れてたよ〜。こんなことなら予約しとくんだったぁ。」
行きは走っても遠く感じられた道なのに、帰りは近かった。
ふと気が付くと、さくら亭にいた。
何だかクリスに声をかけられたような気がする。
そうパティは思ったが、だから別段どうしたというわけでもなかった。
「あぁ、帰ってきた。パティ、これあんたに預かってるよ。」
「え、あぁありがとう。」
さくら亭の泊まり客、リサから一通の封筒を受け取ると、それ以上は何も
言わず彼女は自分の部屋へと引き上げていった。その様子は初対面の者でも
気付くであろう程重症だった。
「・・・何とかしてやるんだよ、ボウヤ。」
あの子はひどく落ち込んでいる様子だが、自分にはどうもしてやれない。
そう思ったリサは、空を見て強く念じた。
彼女が信じる、たった一人の希望を想い描きながら。

部屋に戻ったパティは、さっきリサに渡された封筒をテーブルの上に放り投げ
そのままベッドに横になった。
涙は出てこなかった。悲しいというのとは少し違う。悔しい?いや、違う。
何と言うか物足りなさのような、疲労感のような、そんなものが胸にあった。
もしあの時すぐに帰って親に前借りを頼んでいたら?
ローレライの主人にとっておいてもらうよう頼んでいたら?
いまさらどうにもならないことをあれこれ思い巡らせ、余計に深みにはまる。
どうしようもないほど、自分で自分を追いつめて行く。
どうしてだろう。人間というのは窮地に追いつめられるとかえって冷静に
なることがある。今のパティがそうだった。
(リサから手紙を渡されたんだった。読まなきゃ。)
うつろな目のまま、それでも意識だけはしっかりとして彼女は起き上がった。
一時は忘れ去られかけた水色の封筒には、一枚の白い便箋が入っていた。
『カッセル爺さんの家の反対側のローズレイクのほとりにて待つ。
必ず来てね。いつまでも待ってま〜す。^^;; ノブ』
「・・・・・」
自分はこんなに落ち込んでいるのに、その手紙の主は相変わらずの調子。
それを考えると、何だか今まで落ち込んでいたのが馬鹿らしく思えてきた。
よし決めた、あいつに八つ当たりをしてやろう!
今までが嘘のように俄然元気が出てきたパティ。
階段を降りる足取りも帰ってきたときよりはるかに軽、いや力強い。
右手にはさっきの手紙がしっかり握られ、空いている左の拳も固められている。
『戦闘』準備万端の看板娘は、『決戦』の場へと向かった。

「あ、きたきた。おぉ〜い、ここだよ〜。」
声をあげ右手を大きく振るノブ。お目当ての人物が不機嫌そうなのは
遠目でもわかったがそれはいつものこと、このくらいではもうめげない。
何度も言うようだが、もう慣れっこだ。
最初親指ほどの大きさだった人影は徐々に大きくなり、やがて目鼻が付き、
ついには表情が読み取れるまでになった。
「あのねぇ。あたしは、」
「すまない。休みに無理矢理呼び出されて機嫌が悪いのは重々承知している。
ただどうしてもこれを渡したかったから。」
到着して開口一番のパティの文句を押し切り、ノブは持っていた紙袋を彼女の
目の前に差し出した。
「な、何よこれ!?」
「俺が君に似合うと思ったから買った。気に入らなければ捨てても人にあげても、
どうしてくれても構わない。」
まるで言いたいことを忘れまいとするかのように、早口で繰り出された言葉。
額にうかぶ汗と、かすかに震える袋を差し出す左手。彼の緊張がうかがい知れる。
「よ、用ってそれだけ?」
「え!?あ、あぁ、そうだけど。」
「・・・い、一応もらってあげるわ。じゃ、じゃあ忙しいからもう行くわよ。」
「あ、あぁ・・・来てくれてありがとう。」
「べ、別にいいわよ・・・・・・ありがと。」
そう言ってノブの手から紙袋をひったくるようにして受け取ると、
パティはまた小さな人影になり、ついには見えなくなった。
「ありがと、か。」
小さな、しかし確かに聞こえたお礼の言葉をノブは呟いてみた。
温かい、満足感や達成感のようなものが沸き上がり微笑みがもれる。
それから、しばらく固まっていた左手を下ろすと、彼もまた帰路についた。
少し赤くなった少女の顔とかすかに触れた手のぬくもりを思い出しながら。
「・・・せめて、感想だけでも聞きたかったなぁ。」

カランカラン
「あら、おはようリサさん。どうしたのこんな朝早くから?」
「おはようございます、アリサさん。パティの親父さんの代理で来たんですけど、
ボウヤいますか?」
「えぇ、今日はまだ何も仕事が入っていないから上で寝ているはずだけど。」
「それじゃ僕が起こして・・・あ、ちょうどノブさんが起きてきたっス!」
少し前から起きていたのだろうか、目当ての青年はすでに着替えも済ませており、
顔つきも足取りも、寝起きのそれではなかった。
「おはようございますアリサさん、テディ。」
階段からいつもの二人に挨拶を済ませたノブは、すぐにもう一人の存在に気づいた。
「おはようリサ、来てたのか。」
「あぁ、まぁね。」
「おはようノブ君。リサさん、パティちゃんのお父さんの代理で仕事の依頼に
来たんですって。」
「へぇ、パティじゃなくリサが来るなんて珍しいなぁ。で、何の仕事?」
その言葉に、リサは預かって来たらしいメモとお金を突き出し短く答えた。
「人物警護。警護する人間は行けば分かる。」
「そぅ。分かった、その依頼引き受けるよ。いいですよね、アリサさん?」
「それは構わないけれど、朝食を食べてからじゃ駄目かしら?すぐに準備するから。」
「あぁアリサさん、朝食はこちらで準備しますから。」
「あらそうなの?だったらノブ君、早速行ってきてもらえるかしら?」
「わかりました。それでは行ってきます。」

「考えたんだけど、さくら亭の客の警護ならリサがすれば済むんじゃないか?」
「行けば分かるって言ったろ、それとも一旦引き受けた仕事を断るのかい?」
「まさか、男に二言は・・・あんまりない。」
ちょっと弱気な彼らしいセリフに、それまで堅かったリサの表情が初めて和んだ。
「すぐに分かるよ。あんたしか出来ない仕事なんだ、よろしく頼むよ。」
「まぁパティに朝食を作ってもらえる役得があるから、俺には何の文句もない!」
その横顔を見ながらリサがくすくす笑っていることにノブは気づいた。
「どうせ俺はいつまで経ってもボウヤだよ。」
「・・・あぁそうさ、ボウヤはボウヤさ。」
その言葉は、心なしか優しい響きがあった。それからすぐ二人はさくら亭に着いた。
準備中の札のかかった表戸は通り過ぎ、裏口に回る。いつもの決まり事だ。
「ただいま。親父さん、ノブを連れてきたよ!」
「おぉ来てくれたか!」
さくら亭の主人、即ちパティの父親は嬉しそうにノブを迎えた。
いつだったか『男だって料理くらい出来なくてはいけない。』と意気投合して以来、
ノブは彼のお気に入りとなっていた。
「どうも。で、警護する人物っていうのは・・・」
それらしき人物を求めて辺りを見回していたノブの視線はピタリと動かなくなった。
いつもと違う、ある光景を見つけた途端に。
包丁で軽快なリズムを奏でる人物が着ていた服は、いつもの魔法陣のような模様の
ものではなく、白いワンピース、彼女が欲しがっていたものであった。
「俺が、贈った服・・・」
何気なくもれた一言にパティは手を止め、ノブを見つけると彼を睨んだ。
が、それが照れ隠しであることは、ここにいる者にはもう明らかだった。
「とても、良く、似合ってる。すごく、綺麗だ。」
ともすれば泣きだしそうな彼女に、ノブは必死に言葉を紡いだ。
なおも感動に彼が体を震わせていると、肩に大きな手が置かれた。
「今日はこいつに休みをやったんだ。で、その相手を君に頼みたいんだが、どうだ?」
「よ、喜んでお引き受けします!」
大声で答えるノブ。そんな彼を温かく見つめる二人の視線。
そしてあと一つのそれは、あどけない少女のものに変わっていた。
「そ、その・・・今日一日よろしく。」
「あ、あぁ。こ、こちらこそ。」
「さぁ、何をするにもまずは腹ごしらえからだ。」
照れる娘とお気に入りの青年の肩を軽くたたくと、パティの父親は朝食を運び始めた。

窓を通って彼らに降り注ぐ朝の光は、いつもより優しい感じを帯びていた。



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