中央改札 悠久鉄道 交響曲

 どーん。どどーん。
 突然、通りの向こうから響いてきた鈍い爆音が、穏やかな冬の日差しに照らされていた街の静寂をうち破った。
 詰め所で当番に当たっていた二人の自警団団員は、顔を見合わせる。
「十五時間ぶりだな。」
 またかよ、といった感じで呟く一人。
「ああ。」
 もう一人は、もう慣れた、と肩をすくめた。
「間違いない。マリアだ。」

 <決戦、第三回新春ピザ早食い大会>
    〜マリア・ザ・ピザ〜
          作・亜村有間

 第1話 「私闘、襲来」

  「こらぁっ! あんたたちいい加減にしなさいよ!」
 さくら亭の看板娘は、ばん、とカウンターに手を付いて怒鳴った。
「むっ! ここかっ!」
 パティの言葉など聞こえなかったかのように、長身のエルフが手にしたモップを素早くテーブルの下に突っ込む。
「ふにゃあっ!?」
 悲鳴と共に、猫耳を生やした少女が、お尻を押さえて飛び出す。
「あっ…と…悪い、メロディ」
 エルは頭をかくと、すまなそうに手を合わせた。
「ふえーん、ひどいですー」
 べそをかく猫少女の隣に、ひょこっと、金色のお下げが飛び出した。そっとメロディの手を取るマリア。
「かわいそうに! でも、安心してちょーだい! 凶悪なエルフはもうすぐ滅びるわ!」
「出たな! 邪悪な魔道士め! すまん、メロディ、奴を退治したらなんか奢ってやるからな!」
「にゃー、うれしいよぉー!。 …でも、メロディ、エルちゃんとマリアちゃんがけんかをやめてくれたら、もっともっとうれしいですぅ…」
「ううっ、けなげよねぇ」
 さくら亭の隅で昼間から一杯やっていた由羅は、そっとハンカチを目に押し当てた。
しかし、その笑った口元からは、どうにもどたばた騒ぎを楽しんでいるように思われてならない。
 カウンターに手を付いたまま、ふーっ、と息をついて気を静めたパティは、ぐいっ、と顔を上げて二人を睨み付けた。
「わかってるよね、マリア、エル、あたしとの約束っ!」
「もっちろん! ひとーつ、店内でむやみに魔法を使わないっ!」
 マリアの放ったルーン・バレットが、素早く身をかわしたエルの横を通って開いた窓に吸い込まれていく。
「むやみになんてとんでもないよっ! ここぞというときにしか使わないように頑張ってるから、なかなか諸悪の根元を倒せないんだよねー。だいいち、今日はまだ一つも店内に命中させてないよ! 壊してんのはエルだけじゃん☆」
 言い終わると同時に、通りから爆音と悲鳴が響いてくる。
「ふたーつ、人間社会の常識を守ること!」
 マリアに向かって椅子を投げつけながら数え上げるエル。
「…って言っても、アタシは、エルフだしな…。そもそも、常識外れはあいつだ。聞いただろ? あの自分勝手で支離滅裂な論理を。アタシはあの常識外れを成敗し、正義を守るために戦ってるだけだぞ」
「…正義の戦争よりは不正義の平和の方がずっとましだと思うんだけど…」
 カウンター席を避難し、奥のテーブルで事態の推移を見守っていたシーラは溜息をついた。ちゃっかりその隣に座り込んだアレフが、腕を組んだまま何度も頷く。
「あーんーたーらーなーぁー…」
 俯いて目が隠れているパティの唇が、ぼそぼそという低い声とともに、片側だけ異様な痙攣を見せ始めた。
「みゃーっ!」
 殺気を感じたメロディが尻尾を逆立てて由羅の後ろに潜り込む。きりっと厳しい顔をして立ち上がりメロディを背後に庇った由羅は…。
 …そっと徳利を安全な懐にしまい込んだ。
「ど、どうしよう止めなきゃ!」
 呆然としていたシーラは、事態の急変に、慌てて立ち上った。
「だ、だめだっ、シーラ! 無茶はよせっ!」
 慌てて制止するアレフ。
 マリアが呪文を唱え、エルがモップを大きく振りかざし、パティがゆっくりと顔をあげたそのとき!
稲妻のようにその間に潜り込み、立ちふさがった人影があった。
 片手に作った小結界でマリアの魔法を弾き飛ばし、反対の手では鮮やかなチョップでエルのモップを受け流す。
 リボンの残像を残したその少女の正体とは!?

     <つづく>


中央改札 悠久鉄道 交響曲