Introduction for Future World

フューチャーワールド	<序章>

 西暦2054年、現在では2046年を人類は「覚醒の年」と呼んでいる。2046年、
海洋考古学者 スタンリー・ハワードはマリアナ海溝におけるビチアス海淵において、
1つのモニュメントを発見した。このモニュメントには、ラテン語によって
こう書かれていたという。

 「我々の子孫に送る。
    このメッセージを受け取るとき、そなたらは我々の意志を受け継ぐに値す
  るものへと進化しているであろうことを願う。
    不幸なことに我らは、己が意志を実現するにあたって滅びへと進まんとし
  ている。
    ここで、我らと他の地の民は、滅びの後に生まれ来る我々の子孫に我々の
  遺産を残そうと思う。
    しかし、自分たちがこの遺産を受け取るに値しないと思われるのならば、
  遺産には手を触れずにもらいたい。
    なぜならば、この遺産は未熟なる者へと渡るならば、必ずや災いとなるで
  あろうからだ。
  されど、我々の意志を受け継ぐに値する者ならば、必ずやそなたらへの助け
  となるであろう。
   さあ、ここに覚醒の鍵を示さん。
  この鍵により開かれし世界に幸あることを願って」

 そして、そこにはにはある一定の波長をモニュメントに照射するように示されていた。
この後、スタンリー・ハワードは、学会においてこの事を報告して、実験を開始する
ことを提案した。

 そして、「覚醒の年」の幕が開いたのであった。
 初めは単にモニュメントが波長に同調しているだけであったが、しかし次の日には、
様相が一変していた。モニュメントの同調が世界各地域におよび、特に各国の遺跡や
有名な地域においてはその現象が強く現れ、世界中に大きな異変をもたらしたので
あった。
 モニュメントの同調は1週間続き、その後やんだ。

 かくて世界は大きく生まれ変わったのである。最も顕著な例をあげるならば、
「覚醒の年」まで超能力としてその存在すら怪しまれていたものが、現実として一般の
ごく普通の人々に備わってしまったことであろう。
 そして2054年現在、超能力と言われてきたこの言葉は単に「能力(アビリティ)」と
言われるようになっている。
 さらに世界各地の遺跡から超古代文明とも言うべき、人類がいままでに空想の中でしか
考えられなかった科学文明の知識やブラックボックスを発見したのであった。
 また、人々が絵空事のように語ってきた幻想や伝説の世界が現実のものへとやってきた
のである。魔法、怪物や幻獣、そのなかには −− とくに魔法など −−「覚醒の年」以前
から影に隠れるがごとく、世界の表には現れず存在しているものもあったが、
覚醒によって現実のものへとして、一般の人々の心に深く刻まれるようになったのである。

 そして、「覚醒の年」から8年が過ぎ去った2054年、混沌とした、それでいて本来の
地球の姿に人々は、新たなるかつ、古のこの世界の錯綜とした迷宮から逃れようと
順応しつづけているのである。


「2054年における世界の状況」
(MITパラサイコロジー研究所長
	リロイ・マクレガー著「覚醒の幕開けとその可能性」2054年刊 より抜粋)


 2054年のこの世界において最も劇的な変化といえば、やはりアビリティの発現で
あろう。しかし、一般の人間にアビリティが備わったといっても、現在わかっている
だけでもその数は世界人口のわずか1%程度である。さらに、そのアビリティを自分の
意志でコントロールできる人間はその中のごく僅かである。一般的に、アビリティを
無意識に発動させてしまう人々を”クラスD”と呼び、完全ではないが自分の意志に
よりアビリティをコントロールできる人々を”クラスC”と呼ぶ。また、自由にアビ
リティをコントロールしたり、複数のアビリティを持つ人々を”クラスB”と呼び、
さらに驚異的なアビリティを持つ人々や、アビリティを持つ人間をも超越した人々を
”クラスA”と呼んでいる。
 また、アビリティとは2040年以前における超能力だけを指すものではない。
この言葉は魔法や剣技、東洋の神秘である気功や忍術などのさまざまな人間の持つ
特殊な能力全般を指すのである。
 2054年までにアビリティについて分かっている事は以下の事である。一般に
アビリティの発現には個体差があるということであり、その理由として特殊な遺伝子の
覚醒が起因していることである。この遺伝子はHDNA(Hiden DNA)と
呼ばれており、アビリティが発現した人間の脳細胞に存在し、アビリティ発現の大きな
理由となっていることが分かっている。現在の学説では、古代人(エンシェント)、
つまり我々人類の先祖である彼らの大半は、HDNAによりアビリティを使用してい
たが、彼らが滅亡するときに何らかの方法でHDNAを封印して、覚醒の年に封印が
解かれるようにしたのではないかということである。しかし、幾重もの年月が
エンシェントの血を薄めたがゆえに、全人類のHDNAが同時に覚醒しなかったと
いうことである。


「日本の現状」
(2049年度 ルーンスパン財団 経済推移調査室報告書 より一部抜粋)


 覚醒の年以前の日本は20世紀末の経済停滞や、2020年に制定された移民簡易法に
よる外国人移民問題等による治安の悪化等の問題を抱えている。また、治安悪化により、
2035年から一般人の小火器携帯許可法や、探偵制度の導入などが行われているが、
治安悪化の歯止めには至っていない。
 覚醒の年以降、つまり2046年以降の日本は古代技術の相次ぐ発見や、その技術転移
等により、著しい経済発展が起きている。

 また、覚醒の年に起きた自然原始化現象により、都市部を一歩離れるだけで魔獣などが
住む未開の地ということになってしまった。この現象は日本のみならず世界中で
起こっている。




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