Future World 外伝 「こちら超常現象専門課」



 いきなり、フォークが飛んできた。
そして、フォークを華麗に避けた。
と、思ったのは本人、つまり俺だけらしい。
 これがB級トリロムービー(3次元映画)なら、俺は金髪のハンサムで、飛んできたフォークをまるで
気のない女にキスを迫らながらも軽くあしらうように躱し、眉一つ動かさずに軽い口笛を吹いた後、
気のきいた台詞の1つでも言ってるんだが……

 実際にはフォークは俺から20センチ以上も離れた壁に刺さっているし、
俺はというとわけのわからない叫び声を上げて、たぶん、もう1度してみろと言われても
できないようなポーズをとっていた。
 まぁ、普通に生きてきてフォークで命を狙われるなんてそうそうないという点では、
人生にまたとない経験として笑い話の1つにでもなるんだが……
 ともかく、俺の体めがけてそのフォークを投げてきた奴はというと、この世界にはいない。
 何をわけのわからんことをと言いたいだろうが、いない者はいないのである。
 しかも、飛んでいるのはフォークだけじゃない。
 OLが一人暮らししそうな――事実、OLが一人で住んでるんだが――マンションのリビングでは、
大きな家具やスクリーンTVなどの重たいものはともかく、軽い小物の類が空中を飛び交っている。
 さらに、部屋のあらゆる個所から、壁を叩く音やら何やらが喚き立てている。
 これはまさしくポルターガイスト現象ってやつだ。この言葉はドイツ語の騒々しいという意味の
polterと、霊魂という意味のgeistからきている。
 ようするに騒がしい霊、つまり騒霊とよばれる霊体が引き起こす超常現象であるというのが、
一般的な見解である。
 まぁ一般的にはね……

 飛び交う物から身を守るために地面に這いつくばって(うぅっ、かなり情けない…)いると、
やがてけたたましく鳴り響くラップ音が止んだ。
 と同時に、飛んでいた物も一斉に飛ぶ力を突然奪われたかのように、その場から重力に
捕らわれて床にばらばらと落ちてくる。
 「須賀さん、何やってるんですか?」
となりの寝室から俺の情けない姿を見て、呆れた声を出しているのは相棒の坂牧。
 「どうだった? 坂牧」
 俺の上に落ちてきた物を払い除けながら、人類の人類たる所以、二本の足で立ち上がる。
 「ええ、須賀さんの思った通りでしたよ。これはポルターガイストじゃなくて彼女が原因ですね。
彼女が夢か何かでうなされ始めてから、彼女に付けていたセンサーが反応し始めましたし、
霊現象特有の温度減少は起きてませんから」
 そう、心霊現象研究や超心理学では、このポルターガイスト現象は騒霊が原因であると
言われる一方で、人間が無意識に念動力などで引き起こしているという場合が意外と多い。
 難しい言葉で言うと「RSPK(再起性偶発的念動力現象)」ってやつなんだけど、
極度の心理的欲求に圧迫されやすい若い女性や幼い子供が自己の精神のはけ口を求めて
無意識のうちにPK(念動力現象)を使用してしまうということなんだ。
 さらに覚醒の年を経てからというものの、無意識にアビリティを発動させてしまう
クラスDという人間たちが増加してしまったことにより、
こういう現象は俺達超常現象専門課にとってはありふれた日常になっている。

 「やっぱりそうか……で、彼女、最近ストレスか大きな悩み事でもあったの?」
 「ええ……そのですね…彼女、最近ダイエットに失敗したらしくてですね……」
 「ダイエットォ!?」
 「ええ、まぁそういうことです」
 坂牧がなんとも言えない顔をして、撤収作業を始める。
 あっそう、そういう事?
ようするに俺はダイエットの失敗の腹いせにフォークで串刺しになりそうになったわけ?



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