カートップを考える

 このページは「KAZI」誌'93年10月号から「アマコンジャーナル」欄に連載された「木造艇製作の周辺技術」シリーズの'94年11月号記事から転載しています。内容に変更はありませんが‥‥
・一部構成をWEB に対応に変更し、目次とリンク機能を加えました。
                        執筆者:土井 厚

                       無断転載等をお断りします。

 

   ディンギーセーラー永遠のテーマ、「カートップ」を考える

  目次 <‥‥>部分をクリックすると該当記事にジャンプします)

<前書き>

<なぜ カートップか?>

<カートップとトレーラー>

<カートップの可能性>

<なぜカートップが困難なのか?>

<シングルハンド、カートップ作業の実現>

<カートップ装置の説明:画像付き>

<バーゼル(台車:ドーリー)の自作>

 

 

 

 この写真を見て読者の皆さまはどう思われるでしょうか。

見慣れない光景です、いかにも屋根の上が重くて安定が悪そうです、クルマがかわいそうと言う方もおいでになるでしょう。

しかしこの写真のボートは毎月のこの欄でおなじみのGL工法(グルードラップストレーク:接着によるクリンカー構造)で作られた軽量木造艇(ハル重量約70Kg)ですから見た目ほど厳しい状態ではないのです。

 

<なぜ カートップか?>

 日本のセーリング事情を眺めてみると、カートップが非常に狭い分野でしか利用されていないことが判ります。

カートップで運搬されるのはほとんどがセールボードか、最近増えてきたカヌー、カヤックの類に限られていると言って差し支えないくらいです。

またこのことはこれらのウオータースポーツがカートップが可能であるからこそ我が国で盛んになったと言い換えることができます。

それは日本の海岸線のほとんどがこれら軽量級以外のセーリングクラフトが自由にアクセスするのを拒んでいる実態を物語っているという表われでもありましょう。

 

 ここで視点を変えて考えると、もしも簡単にセーリングディンギーをカートップでき、帆走に適した海岸まで自由に運搬できるなら、木造艇を自作してみようと思い立つ人がぐっと増える(?)という仮説が成り立つのではないかと言うことです。

 自作志望者にとってクリアーすべき第1の障害は、完成のための作業場の問題ですが、完成後の保管場所運搬にかかわる第2の障害も重要課題です。

こんなところにも自作をためらわせる要因があると考えられますが、作業場の問題を解決できる人にとっては、完成後の置き場の問題はすでにクリアーしている訳ですから、残る運搬方法が唯一の障害となるのです。

そして運搬方法をカートップにより解決すれば、マリーナに縛りつけられることなく、遊牧民さながらに好みの海岸線を自由に利用できることになるのです。

 また「カートップでは満足なディンギーを運ぶことはできない」と考えられ勝ちですが、この認識には大きな誤解があります。

実は構造上も法規上も乗用車にはかなりのサイズのボートを搭載することが可能なのです。

ただルーフキャリヤー上にボートを載せる作業が困難なために近づき難いものを感じてしまうのです。

つまり最初のハードルだけが、やけに高い障害コースみたいなものなのです。

 

<カートップとトレーラー>

 このほかにトレーラーという運搬手段もあります。

これは非常に有効な手段ではありますが、残念なことに我が国ではトレーラーについて過剰とも言える数々の規制があるので、ここでは深くは触れません。

しかしここで、カートップとトレーラーの特徴を比較すると非常に面白いことが判ります。

  

カートップ

トレーラー

本体装置

比較的簡単、自作可

やや複雑、自作困難

車体構造

ルーフ形状に制限あり

シャシ構造に制限あり

揚げ降ろし

困難

容易

運  転

容易 、高速運転可

バック困難、高速運転やや不適

法規上の制限

クリアーが容易

やや困難

長さ

車の全長の110%以下

車輛登録(車検)が必要

車の幅を超えない

灯火、慣性ブレーキ、サイドブレーキ

高さ

全体で3. 8メートル以下

牽引側の車輛との関係確認が必要

重量

全搭載重量で定員重量以内

(1人55Kgで計算)

全体重量が750Kg を超える場合は牽引免許が必要

 これらの特徴を考慮すると、近くの海岸に頻繁に短時間でアクセスするにはトレーラーが適している。

 これに対して、長距離ドライブでは移動速度が速いカートップのほうが、困難な揚げ降ろしを差し引いても、結局効率が良いと言えます。

 

 しかしながら困難な揚げ降ろし作業さえ克服できるなら、如何なる場合でもカートップのメリットを徹底的に享受することが可能になるわけです。

 

<カートップの可能性>

 余談ながらわたしの独断と偏見によれば、国内のボートメーカーはクルマによる運搬を真剣には検討していません。

これはほとんどすべての量産艇がマルコニーリグのレーサー仕様であることに表われています。

ほんの一部の接続式マスト採用の軽量艇を除いて、長いマストを合法的にクルマに搭載することはできないのです。

ディンギーセーリング普及のためメーカーも運搬という点からのアプローチを試み、昔ながらのガフリグガンターリグスプリットリグなどを再評価すべきではないでしょうか。

潜在的ファミリーセーリング志望者の多くは、決してレーシング仕様のディンギーばかりを求めているのではないと思われるのですが、、、。

 

またメーカーにとっては不都合なことかも知れませんが、カートップが可能になると持ち主は常に手元で管理できるので、結果的にボートの寿命が著しく伸びるという、思わぬ効果も期待できるのです。

陸置き中の接触破損、部品の盗難などといったトラブルからも解放されます。

前置きが長くなりましたが、今回はこのカートップについて真剣に検討を加えてみましょう。

 

<なぜカートップが困難なのか?>

 やはりボートの重量が大きいからです。

ボートを持ち揚げる人手が5人も6人も調達できるなら何も問題ありません。

しかしボートの定員(普通は2人〜3人)以上の人手を期待して海に出掛けることは実際的でありません。

浜にいくらでも手伝ってくれるセーリング仲間がいるような時期は、関東地方でいえば交通渋滞も間違いないところです。

カートップの素晴らしさは好きな時に好きな場所でセーリングを楽しめるということですから、シングルハンドでもカートップ作業ができることが望まれます。

 「KAZI」誌で以前カートップの様々なアイディアが掲載されたことがありました。

クレーン状の道具を使ったものもありますが、多くはクルマのサイドか後方にボートを伏せて立て掛け、その後ルーフの上まで引っぱり揚げるか、押し揚げるものです。

この場合後方に立て掛けたボートはデッキ部分かガンネル部分をガリガリと無神経にキャリアーにこすり付けることになり、自作艇としては耐えられないところがあります。

また縦位置に立て掛けるまでが非常に困難な作業となります。

またサイドからの場合には、最初の持ち揚げのアクションにとても腕力が必要で、しかも人にもボートにも非常に危険な状態を通過しなければなりません。

もしそのとき手もとか足もとが狂ったら…、などと想像すると、とても人に薦められるものではありません。

 

 つまりボートを持ち上げるのには体力が必要なので、出来るだけ短時間に一気に持ち揚げようと考えてしまう。

それでこの危険と縁が切れないでいるのです。

 

< シングルハンド、カートップ作業の実現>

 木造艇周辺技術を連載の筆者、丹羽さんはこれまで「ひとりで安全にできるカートップ」を目指して何種類もの実験(失敗も)を繰り返してきました。

そして最後に辿り着いた結論は、、、

  「ボートを一気に持ち揚げない、無理なく少しづつ持ち揚げる

という極めて平凡な、それでいて気が付かない、重要な考え方です。

ボートのような重量物を持ち揚げてみると、重量揚げの競技でも失敗し易い点があるように、非常にやりにくい姿勢になるところがあります。

ところが丹羽さんの方法で持ち揚げるのには全く腕力を必要としないのです。

この方法で腕力を必要としない要素が二つあります。

 

 (必要な)×(持ち揚げる高さ)  =  これを力学上の仕事量と言いますが、、、

 

 丹羽さんの方法では一度に20センチくらいしか持ち揚げません。

更に必要な力の方は常に片方の支持点があるので(支持点の配置によって)ボート重量の10〜20%に抑えることができるのです。

必要な力も、持ち揚げる高さも共に従来の方法の20%と仮定すると、掛け算の答えは何と従来の4%

 この信じられない値はかなり控えめに計算されたもので、実際に体験してみると感激です。

また離れて眺めるとボートが梯子をよじ登って行くようで、とてもユーモラスな光景です。

多少時間はかかりますが、非力な女性や子供でも簡単に積み込みができるのです。

 

<カートップ装置の説明>

 

1、

装置のすべて:ゴムのブロック(あおりゴム)をイボ状に並べたレール。

これをルーフキャリアのバーの端のピボットに取り付けるだけ。

 

2、

ボートを装置の脇に運ぶ:4箇所にガンネル保護板が付けてある。

 

3、

ボートをレールにもたせかける:180度反転させるのとは違ってひとりでも楽にできる。

4、

一段ずつ持ち上げる:もたせかけた状態でボートの前端を持ち上げてイボに掛ける。 次にボートの後端を持ち上げて掛ける。

 

5、

よじ登るボート:持ち上げの動作を繰り返すとボートはこのようによじ登っていく。 レールの間隔は狭い方が楽である。 持ち上げ荷重が減るからである。しかし、狭すぎると安定を欠く。 150センチ位が適当。

 

6、

 

 

7、

反転して水平にする:ボートの中心がレールのぴピボット付近に近づくとボートは軽い力で水平に反転できる。

 

ボートを押し込んでルーフラックの正しい位置に載せて装置をはずす。

8、

発進の前に:ボートをロープ等でしっかり固定する。 とりわけ、急ブレーキ対策はしっかりし、ボートの前後と車のバンパーやフックをロープで固定する。 スパー類も固定する。 ガンターリグのスパーの長さは、ボートの全長以内に収まるので法規上有利。 ルーフキャリアは、車にしっかり固定できて、ボートの荷重に耐えられるものがよい。 その点で雨樋がきちんと付いた車が望ましい。 最近そのような車が減って来たのは、残念。

 

 

 

 

<バーゼル(台車:ドーリー)の自作>

 人間とはぜいたくな生き物で、このように手軽にカートップができるようになると、それまで気にならなかった地上でのボートの移動が一番大変に感ずるようになります。

丹羽さんはDIYの店で入手可能な材料でバーゼルを自作して、クルマから水際(水中)までの移動に重宝しています。

製作の際の留意点としては、次のことが考えられます。

 

海水に侵されない材料を使う。

ステンレス、亜鉛どぶ漬け処理やプラスティックコーティング処理の鉄が望ましいが、やむをえず一般の鉄材を用いるときは、使用後に水洗いし、注油する。

なお、銅・黄銅・ブロンズの混用は不可である。電食により、みるみるうちに侵される。

 

船底の支持方法については、注意が必要である。

重量を分散するためには、ベルトがベストである。

そのほか、船底の形状にぴったり合わせた支えを置き、ゴムやフォームポリエチレン等の柔らかい材料で覆う方法もある。

 

ハル重心をバーゼルの車軸近くのやや前方に置くようにする。

ハルを前に出すと支持するのに重くなり、後ろすぎれば不安定になる。

 

車軸の取り付け方法は、両持ち式が望ましい。

片持ち式では、車軸の固定点に強いモーメントが掛かり、車輪が、へたりこんでしまう場合がある。

 

 

 

 バーゼル(台車:ドーリー)の自作例  

1、 分解不要型(上の画像参照):

カートップシステム完成後にルーフキャリアの隙間を測定して製作。

分解不要。土木作業用の一輪車の車輪と塩化ビニール被覆パイプ(イレクター:ヤザキ製)等を使った。

車軸が片持ち式なので制限荷重70kg。

 

2 折りたたみ・分解式:

アルミ製梯子兼脚立とステンレス製ものほし竿(3本つなぎ・ねじ込み式)等を使った。

車軸が両持ち式で200kgまで積載可能。

 

これで貴方はもうヨットハーバー、とかマリーナとかに縛られることなく、遠近にかかわらず可能な海岸を片端から自艇の母港とすることが可能になるのです。

そこには必ずや新しい発見と、可能性との出会いが待っているでしょう。

 

申し上げるまでもないことですが、海岸にクルマを乗り入れるときは、自然環境のため、他の行楽客のため、そして自分の艇とクルマのため、十分遠慮勝ちに行動しましょう。

その思いやりが今後のカートップの普及に関わってくるのです。

ヨットマンに限ってそんな心配はないと確信しますが、念のため。

 間違っても「心無いカートッパー達が、、、」などと地元の人々から嫌われ、挙句の果てに海岸の使用禁止などという事態にエスカレートされたくないものです。

ではボンボヤージ。

 

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