【1】作業場について

 

ADの船体を組み立てるスペースとして最低2.5m×5.0m、およそ普通車の駐

車場相当の平らな地面または床面を必要とする。このほかに資材置き場、作業のためのス

ペースが必要になる。これらは隣接しているのが望ましいが、多少離れていても作業は可

能である。

雨、直射日光等の影響を避ける為屋根は必要であるが、塗料、接着剤などを扱うので空

気の流通が充分あることも重要である。最も理想的なのは普通車2台を並べる事のできる

屋根付きカーポートのようなスペースである。作業場に電源はぜひ必要であり、照明があ

れば作業時間が制限されなくて効率を上げられる。但し夜間の作業などの騒音で近所迷惑

にならないよう考慮すべきである。水の便があればなお良い。

 

 

 【2】工具について

 

一般に日曜大工に使用する工具以外に特別なものは必要がない。電動工具は作業の

能率を格段に向上させるので利用できれば好都合である。丸ノコ、ジグソー、ドリルの3

種類は利用頻度が高いので、かなりの時間の節約と出来栄えの向上が期待できる。新規に

購入するのであれば、高出力の機械に高性能の刃物を組み合わせるのが結局のところ賢い

買い物になるであろう。またドリルは回転数を自由にコントロールできドライバーと兼用

できる物が便利である。最近コードレスの電動ドリルが売られているが、これはややパワ

ー不足だが使い勝手は良いようである。また工作の最終段階、スパーの工作で一個所だけ

ルーターを使用したいところがある。この工具は使用目的が限られているので普通持ち合

わせないものであるから、早くから借り入れ先などの手当てを考えておくのが良い。

 それから可能なかぎり多くのクランプを準備する(サイズ取り混ぜて40個以上、1個

で助手1人分の働きをするので多い程好都合)。クランプも普通は持ち合わせが充分では

ないので安い店で早目に少しづつ買いそろえるか、友人同志で都合しあうのが良い。また

丈夫な作業台が必要である。自作しても良いし、代用できる物も多いので工夫することが

できる。

工具か材料か意見の別れる物に仮釘がある。GL工法では仮釘を大量(千個以上と思わ

れる)に使用して外板などを固定する。仮釘を自分で準備するのは可能ではあるが手間が

大変なので既成品を捜したいところである。筆者の経験では適当なサイズの物では頭の部

分が簡単に折れるようになっている便利な物しか見付からなかった。これは抜き取りに細

心の注意が必要で非常に苦労した。

MAX社の仮釘タッカーという工具はホールド力は弱いが小型の仮釘を連続的に打ち込む

ことができ便利である。筆者は結局この両者を補い合うように利用して満足すべき結果を

見た。

 

 

 【3】材料と接着剤など

 

船体用の木材としては6mm厚マリン合板を多用する。従って120cm×240cmの

大きなサイズ(4・8と呼ぶ)の合板を購入すること。手に入るうちで最も高級な合板を

求めるのが良い。当然高級品ほど高価であるが、全体のコストから見ればわずかな違いで

あり、これによる艇の寿命の延びを考えればここにお金をかけるのは賢いことと思われる

。木取りを工夫すれば8枚で間に合うが、9枚用意すると余裕を持つことができる。同じ

材質のものが手に入るのなら、もちろん一時に全量を求める必要はない。このほかに14

mm厚に削ったヒノキ板をキールを始めとしてフレームなど多くの部分に使用する。カシ、

ケヤキ、チークなどの材料が手に入れば部分的に使用したいところもあるが、これらが無

くても差し支えない。近くの材木屋さん、製材屋さんと懇意にして仕上がり寸法で注文で

きるようにしておくと効率が良い。 モールド用には安価な建材用の合板(12mm厚)ま

たはコンパネ(コンクリートパネル)それにラワン角材などを使用する。

 

 木材以外ではエポキシ系接着剤、ステンレス木ネジ各種、ボート用金具(艤装品)各種

が必要である。一般的な鉄製の木ネジ、釘などはモールドには使用しても良いが、船体に

は絶対使用しないこと。ステンの木ネジは多用するので、5〜6種類のサイズをネジ専門

店にて箱で購入しておくのが経済的である。

 

 GL工法はその名の通り接着によりハルを形成するのであるから、高性能の接着剤を正

しく利用できることがもっとも重要である。接着作業は最初から必要になってくるので、

自分が入手できるエポキシの特性を良く理解してから作業に取りかかる必要がある。各メ

ーカーから数種類販売されているが、仕上がりが無色透明のものでできるだけ大きなカン

入りが手に入るとよい。メーカーの説明書を良く読んでから、サンプルを使って破壊テス

トをすること。破壊テストでは、接着面が分離しなければ合格である。テストの際、外気

温度と硬化時間の関係を確かめること。また意図的に正規の混合比を狂わせ、この影響を

体験することも良いことである。そして一連のスカーフ作業も事前に練習すること。接着

作業と言うのは結局のところ、いかに自信を持って作業を進めることが出来るかがポイン

トとなる。事前のテストと練習がこの為に大切なのである。塗装工程で低粘度エポキシを

使用するので、接着剤と同じメーカーの物を取り寄せておくこと。

 

 ボート用の金具や艤装品は仕上げの段階で必要になってくるのであるが、種類が多くて

一時に揃えるのが困難であり、予算的にも苦しくなりやすいので、早くから少しづつ揃え

ておくのが賢い方法と思われる。部品によってはハルの工作時にサイズや形状を確認する

必要があるものがある。たとえば点検ハッチは【15】バルクヘッドの工作の時までに用

意されていなくてはならないし、マスト関係の金具も全部揃ってからでないとスパー(マ

ストなどの円材)の工作を始めることができない。

 

 

 【4】用語について

筆者の独断と偏見によれば、ボートの工作に関係する用語は、日本語には必要充分な

だけ存在していない。そのためこのテキストでは英語圏で普通に使われている用語をその

まま使用することにしている。その用語がなじみの薄い言葉の場合でも読み進むうちに(

そのページ内で)理解していただけるように配慮しているつもりである。

 更に念のため巻末に使用した関連用語すべてを索引にして解説を付しているので、意味

不明の言葉に出会ったら直ちにここを参照していただくのが手っ取り早いかも知れない。

 またADでは独特の工法を採用しているところがあるため、一部で一般的でない使い方

をしている。

索引のなかで「ADでは」と断わっている用語がそれであるので、よそで使う場合には少

しだけ留意していただきたい。しかし大きな意味の違いはない。

 

 

 【5】工作の概要

ボートの工作というと最初は難しそうに感じられるが、良く理解と準備をしてか

ら始めればさほどのことはなく、むしろ興味ある作業の連続である。また最近は優れた性

能の接着剤が手に入るようになったので、接着面の精度をそれ程気にしなくても良くなり

、工作が非常に容易となった。

 このテキストは紙面の都合上、自作者のバイブルとも言える舵社発行の横山晃氏の著書

「新ヨット工作法」をすでに読み終えた人を対象にして作られている。

従ってまだこの本を読んでいない自作志望者には「現図作業」「接着作業」「積層フレー

ム」など部分的に解りにくい個所が出てくるかも知れないが、その部分は構わず読み進ん

でいただきたい。そして横山氏の著書には遅くとも自作開始前までに目を通して疑問点を

理解しておく事をお願いする。横山氏が特に自作の意義について多くのスペースを割いて

述べておられるので、この部分を是非じっくり味わっていただきたい。

 

ADの工作ではグルードラップストレーク(GL)と呼ばれる特徴的な工法部分を採用

している。この方法はモールドの上でクリンカーのハルを組み立てるのにこれまでのよう

に銅釘でなく接着剤を使用するものである。

歴史の浅いこの方法はまだこれからも改良が重ねられていくものと思われるが、ここでは

筆者がAD−03で実際に用いた方法をまとめて紹介する。

 

 

 【6】危険防止について

 

ボートの工作では、言うまでもなく多種類の刃物を使用するのでこれらの扱いには

充分慣熟してから作業を始めること。刃物は常に良く切れる状態に保つことが危険防止上

も、作業効率を上げるうえからも大切である。また便利な電動工具は間違った扱いをする

と大変危険であるばかりでなく、スピーディーに作品を台無しにしてしまうこともあるの

で充分使い慣れた方法で使用すること。ジグソー、電動ドリルなど、折れた刃先や木屑の

飛び散り易い工具の使用に当たっては保護眼鏡を着用すること。またいかに注意しても小

さな手傷を負うことがあるので、作業場の近くに救急箱を用意しておく。

接着剤や塗料、シンナーを使用するので、作業場の換気など健康上の配慮も、またこれ

らの保管については火災防止、子供の行動範囲からの隔離などの配慮も必要である。

製作途中のボートは、自由に動かしたりすることができないので、自作者はかなり無理

な姿勢のまま作業を行うことになりやすい。低い位置の作業が続く場合には、ボート全体

を高めにセットし直す等、無理な姿勢が原因で腰を痛めるようなことが無いように計画す

ること。無理な姿勢のままで作業を続けると、時間の浪費となるばかりでなく、精度も出

来栄えも劣ることを考えるべきである。

 

 

 【7】参考文献

「新ヨット工作法」           横山 晃

「ヨット、モーターボート 材料と構造」 戸田孝昭

「小型ヨット 工作の実際」       熊沢時寛

以上 舵社

 

「DINGHY BUILDING」 Richard Creagh-Osborn

JOHN de GRAFF

「ULTRALIGHT BOATBUILDING」 Thomas J.Hill

INTERNATIONAL MARINE PUBLISHING

「CLINKER BOATBUILDING」 Jhon Leather

ADLARD COLES

「CLENCHED LAP or CLINKER」      Eric McKee

NATIONAL MARITIME MUSEUM

「THE OXFORD COMPANION TO SHIPS & THE SEA」

OXFORD UNIVERSITY PRESS