【5】ステム(船首部)、トランサム(船尾部)

 これまでの作業はすべてモールドを形造るためのものであったが、これからはい

よいよハル本体の工作となる。従って今後ベニヤ合板はすべてマリングレードのもの、木

ねじはステンレス製、接着剤はエポキシ系のものを使用する。

  

 ステム材は14 mm厚のヒノキ板から切り出し、これを2枚積層する。このほうが2倍の

厚みの板から作るよりも工作が容易であり強度も増すからである。

 

 

 トランサムは6mm厚のマリン合板2枚を木目が直交するよう積層し、これに25mm幅、

14mm厚のフレーム、デッキビーム及び中央補強材を接着する。デッキビームは左右のS

7を結んだ位置に取り付ける。

デッキビームについてはかなり後の【14】項で述べるように同じ形のものが全部で6本

必要になるが、この段階では1本だけ切り出すのがよい。ここで他の5本分を用意しても

実際の使用はまだ先のことであり、それまでに変形してしまう恐れがあるからである。

 

 ステムもトランサムも、図面からではなく、モールドから直接型取りする。ステムとト

ランサムは完成後モールドから離れてハルの一部となるのであるから、取付けは少し工夫

する必要がある。つまりモールドの外側に本物のステムとトランサムを仮止めするのであ

る。ステムは木ネジにより、トランサムはクランプにより仮止めする。そして外板との接

着面の部分をモールドから滑らかにつながるようにベベルをとりながら仕上げる。

 

 トランサムと外板が接する部分は完成してからとても目立つところとなるので、丁寧に

仕上げること。

 ステム、トランサムはキールとはニーを介してしっかりと接続されるようになっている。

まず6mm合板3枚を積層してニーを作り、ステムとトランサムにステンレ

スボルトを介して接着する。外から見えるボルトの頭は沈め、トランサム側はさらに木栓

を打ち込んでボルトの頭を隠すこと。 ステム側のボルトは後に隠れるので、

木栓の必要はない。

  

 ステム、トランサムともモールドの上の部分にはニーのスペースのために「切り欠き」

を設けなければならない。またモールドのF3とF2にもセンターボードケースが収まる

スペースを設ける。

  ← F0(船尾のフレーム)を内側から見る

 

 【6】センターボードケース

              

      モールドにキールを備え付ける前に、センターボードケースを準備しておく

必要がある。ハルが完成してからケースを取り付ける簡易な工法も考えられるが、精度、

強度の点でこちらが優れているので、ここではこの方法を採用する。

 センターボードはUP、DOWNがスムースに行われねばならないうえに、充分な強度

を持つ必要があり、船内でのスペースを取り過ぎるのもまずいし、喫水の問題もあるなど

様々な理由からやや複雑な形になっている。

  ←センターボード・ケースの製作

  ←型板でセンターボードの動作確認

                   そこでまず3mm厚の建築用合板で原寸のセン

ターボードの型板を切り出し、これに合わせるようにしてケースを組み立て、センターボ

ードが確実にUP、DOWNすることを確認する。ケースはセンターボードを完全に納め

るのではないので注意が必要だ。つまりセンターボードを引き上げたとき、ケースの下端

からセンターボードの前縁が全長に渡って20mm顔をのぞかせるように調整する。この飛

び出した部分はホグに取り付けるときその厚みの中にかくれるので問題はない。

 

 このとき使用した型板は後に本物のセンターボードを作り上げるまで保存しておくこと。

ケース下側のホグとの接触面のラインにはゆるやかな曲線でありこのカーブは正しいハ

ルを完成するうえで非常に重要である。基本的には現図から求めるのであるが、最終的に

はモールドにホグを仮り止めした後に型紙を当てて確認すること。

 センターボードケースの前後のポストはキール部分を貫通するだけの長さ(約40mm)

を突き出したまま残しておく。これによりキール部分との接合を確実にできるのである。

ケースの左右を張り合わせる前に、内側を充分にエポキシ塗料で防水塗装するのを忘れな

いこと。ケースが組み上がったら所定の位置にピボットの穴を開ける。この穴は漏水の原

因となりやすい個所なので、先にここで使用するボルト(直径9mm前後)を手に入れてか

らそれに合わせて穴の径を決めること、また穴が傾くことなく真っ直ぐに開けられること

も重要である。

 

 センターボードのようにピボットを中心に回転して上下する代わりに、ケースの中で上

下にスライドさせるダガーボード艇にする事も可能である。ダガーボードはスロープや浜

での離着岸のときやや扱い難いのが欠点であるが、これを補って余りある捨てがたい利点

もある。それは製作が簡単であるうえに船体を丈夫にそして軽くできること。水洩れ等の

トラブルが少なく、小型艇の割にコクピットが広く使えて居住性が良いこと等である。又

ここは接着、塗装など本格的工作の最初の取り掛かりの部分であり、後々トラブルの出や

すい個所でもあるので、初心者でまだ自信が持てないという場合には、簡単なダガーボー

ド形式を採用して作業を簡易化してもよい。ただしこのテキストではセンターボードにつ

いてのみ述べているので、ダガーボード艇とする場合には巻末の寸法を確認のうえ工作を

進めること。

 

 【7】キール部分製作

          ←左の部材がホグ、右がキール

   伝統的なボート製作においては、キール部分に極めて頑丈な材料が使われている

が、ADではこの部分をホグとキールとを積層することにより軽量化と簡素化を計ってい

る。ホグ、キールともに14mm厚、長さ4mのヒノキ板の節のないものを使用すこと。業

者に「無節」と指定して求めることは可能であるが材料費は2倍以上になるであろう。節

のある普通のヒノキ材でも製材された板の全幅を使用するわけではないので木取りを工夫

すれば何とかなるものである。どうしても手に入らない場合にはスカーフでつなぐという

奥の手も使うことができる。

 材料の幅はセンターボードスロットのところで広くなっており最大幅はホグが100mm

、キールが60mmである。ホグ、キールともにセンターボードの通るスロットを先に所定

の位置に設ける。センターボードの材料として使用する合板の厚みが指定通りの6沚板

の場合、スロットの寸法は20mm×900mmとなる。このサイズはかなり大きいので、変

形を防ぐためスロットを3個に分割して設けハルが出来上がった後に完成するようにする。

  

 まずホグとセンターボードケースとを接着(木ネジも使用のこと)する。

 

  ← ホグをモールド上に据え付ける

次にこれをモールドに取付けホグの前後の先端だけをそれぞれ仮り止めされたステム、ト

ランサムにニーと木ネジを介して接着する。 このときモールドとハル部分と

を確実にポリエチレンシートにより隔離する。今後いかなる船体部分もモールドとじかに

接することのないように充分に注意すること。ポリシートはスーパーマーケットの野菜売

り場によくぶら下げてあるロールが使いやすいので、これを1本(商品ではないが100

0円前後)分けてもらうのがよい。

 ホグの取付けが終わったら、ホグ両サイドのプランクとの接着面を幅20mmだけカンナ

で斜めに仕上げる。ストリンガーS1にカンナの台尻を当てて削ることで正確な面を得る

ことができる。このときホグのバウよりの部分は徐々に幅が狭くなってくるが、構わず削

ってしまう。

  ← ホグにキールを接着する

 次にこのホグの上にキール材を重ねて接着する。ステムとトラサム部分はニーを貫通す

るようにステンレスボルトを通し補強する。キールの表面にボルトの頭が顔を出さないよ

うに沈め、木栓を打ち込む。

  ← ホグとキールが備わった。後部から眺める

 キールはプランクの木口と接することになるので、このためのラベットをプランクの角

度に応じて刻んでおく必要がある。この部分のバウから1。くらいの間は外板と交わる角

度が大きくしかも連続的に変化するのでかなり面倒な工作となるが、ゆっくりと時間をか

けてラベットを刻むこと。 ノミと共に彫刻用の三角刀を使用すると作業がはかどる。