Scullの部屋(別名:漕ぎ部屋) このページでは、GL-Laboの「櫓」の研究史、そして話題のAD-scullの情報をまとめました。
目次
1.イントロダクション

「GL-Labo」では、1990年代後半から2001年に掛けて、 日本の伝統的な櫓に関する研究・実験を行ってきました。当時の活動を写真を交えて振り返ります。

2.櫓をつくってみる

GL-Labo管理人による、「ろ」の開発・実験結果を順を追って紹介していきます。 新しい櫓「AD-Scull」を発明をするまでの開発・実験過程をご覧ください。

3.櫓の周りの流れを見る

伝統櫓とAD-Scull,それぞれの櫓の周りの流れの違いを動画で紹介します。

4.AD-Scullの原理

AD-scull の原理と仕組みを理論的に説明します。

5.AD-Scullをつくってみる

実際にAD-Scullを作ってみましょう。基本的な作り方をご紹介します。

6.さらに優れたAD f-scullとは

2004年に、またしても世界初の「究極の櫓」を発明しました。 これまでの「AD-scull」を改良した「ADf-scull」です。

7.驚異の前後漕ぎ

一人で二本の櫓を漕ぐ!米国・英国・NZでのAD-Scull特許取得記念企画



1. イントロダクション 〜櫓の歴史から〜

伝統的な船の手漕ぎ装置である「櫓」は、鎌倉時代までに中国から日本に伝わったとされ(諸説あり)、 その後、江戸時代の前期までに少しずつ改良されてからは、現代までの約400年もの間はほぼ同じ形状を保っています。 それだけ、伝統的な櫓は、優れた機能と性能を保持していたものと想像できます。


「GL-Labo」では、1990年代後半から2001年に掛けて、この日本の伝統的な櫓に関する研究・実験を行ってきました。 多くの方々の協力を得て、伝統の櫓に実際に触れられたことがその後の有意義な研究成果に結びついたことを確信しております。

まずは、当時の活動を写真を交えて振り返ります。



東京都江東区横十間川親水公園にて
和船友の会のご協力(2000/10/18)


こちらは「脇櫓」の妙技。

舷側にカンコと言う横木を出して、そこに櫓を取り付けて漕ぎます、名人が漕ぐと船はまっすぐに進みます。 脇櫓に対して、船尾で漕ぐ普通の櫓を「艫櫓(ともろ)」と言います。(2001/01/15)


こちらは「艫櫓」と「櫂」の絶妙のコンビネーション!

この技を使うと、船を止めたり、バックさせたり、横這いさせたりできます(2001/01/15 追加分)

GL-Laboでは、その後、独自に櫓の製作と実験を重ねました。



2. 櫓をつくってみる

このコーナーでは、GL-Labo管理人による、「ろ」の開発・実験結果を順を追って紹介していきます。 ぜひあなたもこの自作情報を参考にして、櫓の世界を体験してください。

それでは、開発・実験過程をご覧ください。 開発・実験過程を見る



そして、2002年、GL-Laboは、それまで学会では認知されていなかった「伝統的な櫓が抱える潜在的な問題」を明らかにした 世界初の研究成果を発表しました。



その提案が「AD-scull」です。
AD-Scullはこのような形状(↑の図)をしております。 (櫓は軽量のため浮き上がっていますが、漕ぎ始めれば自然に推力で沈みます。) AD-Scullは、伝統櫓のように「返し」(ブレードの回転時に発生する抵抗波)による乱流を生じないことが大きな特徴です。


なぜそうなるのか?・・・流体力学専攻の方もそうでない方もいろいろ想像してみてください。 そして、アマチュアの方はぜひ自作して試してください。

ご注意:「AD-scull」に係る知的財産権は当「GL−Labo」が所有しています。 アマチュアによる非営利目的の自作は自由ですが、業者の方などが営利目的で製作、販売することはできません。




3. 櫓の周りの流れをみる

伝統櫓では「返し」が非常に大きく、この傾向は艇の速度が大きくなるとますます顕著になり、 高速で走ることが困難になります。一方、AD-scullではこの様な有害抵抗が発生しないため、 高速で走ることができます。

水中動画をご覧ください。

【従来の伝統的な櫓】
【AD-scull】


4. AD-Scullの原理

次に、AD-scull の原理と仕組みを理論的に説明します。 まず、水中の櫓の動きをじっくりと観察してみましょう。 注目していただきたいのは、櫓が左右に動きを切り替える(返し)瞬間です。


【従来の伝統的な櫓】
【AD-scull】

「伝統櫓」では高速域で非常に無駄な角度変更を行っています。 これに対して「AD-scull」では(伝統櫓とは)反対方向に角度変更を行いますので、その変化量が 非常に少なく、しかも渦(抵抗)の生じない向きに廻るのです。 この「返しの領域」をさらに詳しく検証しましょう。

今度は櫓の位置を固定して眺めます。 すなわち、櫓から見たら周りの水はどう流れているか?を図示してみます。 上の櫓の動きの図を対照しながらご覧ください。


【従来の伝統的な櫓】
【AD-scull】

返しの操作(B位置)での水流の違いは、一目瞭然ですね。

特徴その1.「乱流」と「層流」の違い。
乱流と層流という用語を使うならば、 伝統の櫓は「乱流櫓」、新しく開発した櫓は「層流櫓」と呼ぶことになりますが、 従来の和船での操船を考える限り、伝統の櫓の完成度は究極の域にあって、 最高の手漕ぎ装置であることは間違いありません。なにより「層流櫓」は伝統櫓があったからこそ 生まれたことを考えると、「乱流櫓」と呼ぶのは不適切であります。 そこで、GL-Laboでは、2009年2月に「層流櫓」を「AD-scull」と改称しました。




特徴その2.「V」字状の曲がり

AD-scull の第2の特徴である「V」字状の曲がりについて説明します。 第2の特徴としますが、伝統櫓ともっとも違った感じを受けるのがこの「V」字状の曲がりであるかも知れません。 伝統櫓では「へ」の字状に曲がっていますね。 そもそも日本の櫓の特徴であるこの「曲がり」は何のためでしょう?


曲がりの理由について、通説(学説?)では、

  1. 櫓先を深く水中に入れて、推力を稼ぐことができる。
  2. 漕ぎ手の手元で、櫓腕が都合の良い高さに来る。
と言うことになっているようです。


しかし「GL-Labo」独自の研究により、櫓の曲がりは「櫓を自然に回転させるため」にある! と結論づけました。

どういう事かと言いますと、下の画像をご覧ください。

ブレードは水中では水の抵抗のためこの軸廻りに回転を起こしやすいのです。 ですから、アームを左右に動かすと自然に回転が起き、正しい迎え角の方向にを導きます。 またロープ(早緒)は迎え角を適切に制御する働きがあります。この様に「V」字状の曲がりは ブレードが返しの操作で自動的に適切な迎え角を作るのを助ける働きがあるのです。 曲がっていないと、かなり難しい操作になります。また、もし伝統櫓のように「へ」の字状に 曲がっていると、逆方向の回転が生じます。こうなると、船は後進してしまいます。 でもこの回転方向こそが AD-scull を漕ぐのに必要な回転方向なのです。

 

特徴その3.「スラストロープ(早緒)周りの形状」

第3の特徴である「スラストロープ(早緒)周りの形状」について。

まず、この「AD-scull」に関しては、伝統的な名称を使わないと宣言しました。 伝統櫓での「早緒」という名称は実に素晴らしいものです、まさに、言い得て妙! この早緒が無かったら、漕ぐたびに櫓腕が飛び上がってしまい、素人にはとても扱いにくい手漕ぎ装置となってしまいます。 筆者の推測ですが、初期の段階では「早緒」は存在しなかったと考えています。 欧米にはボートでの補助的な手漕ぎでスカリング(sculling)という漕ぎ方があります。 オールを船尾から斜めに突き出して狭い水域などでチョコチョコと機敏に動くことができます。 しかし応急的に漕ぐので早緒はありません。


しかしさらに本格的に(大型の)櫓を漕ごうとすると、櫓が発生する強力な推進力が櫓先を押し下げるので、 漕ぎ手は持ち上げられてしまいます。 その推進力は漕ぐ方向の(横向きの)力の10倍ほど発生します。この推進力をロープで支えるので、 漕ぎ手は強力な推力を実感することなく優雅?に(片手でも)漕ぎ続けることができるのです。

このロープのあることで、船の速度性能が大きくアップするので「早緒」と名付けられたのでしょう.(筆者の独断) その機能上の特徴をふまえて、GLラボでは「AD-scull」の早緒のことを「スラストロープ」と呼ぶことにしています。 AD-scull の場合の「スラストロープ」の特徴は、アーム(櫓腕)の下側に取り付けられたスティック(櫓柄)の先に繋がっていることです。 上の画像でお解りのように、スティックの先端の位置は、図示した回転軸に近いのです。

言葉だけでの説明は難しいですが‥‥アームを横に動かして漕ぎ始めるとまず「V」字形状のおかげでAD-scull が回転軸周りに回転して、水を掻く方向に向きます。 しかし実は放っておくと90度近く、まったく水を掻かない(抵抗の少ない)角度まで回転して、落ち着こうとします。 しかしその過程で推力が発生してスラストロープが 緊張します、これはAD-scull が回転し過ぎない方向に引き戻します。 この働きは伝統櫓 の早緒には見られない、まったく新しい機能です。

・つまり伝統櫓の早緒は、推力を一手に引き受ける頼もしい働きものだが...  ・AD-scull の「スラストロープ」は推力を受け止め、しかもブレード(櫓脚)の面を適切な角度(迎え角)に保つと言うインテリジェントな知恵者でもあります。
 

実際漕いでみて解ったのですが、AD-scull は返しの操作が伝統櫓よりさらに簡単です どれくらい簡単かと言うのは表現が難しいですが、これまでの実績ではまったくの初心者でも最初から75点くらい取れます。  2005年の秋には某テレビ局の企画で「猿にも漕げるか?」という実験をし、見事成功しました。

 

 以上が「AD-scull」の基本理論の説明の総てです。


さらに櫓の運動を詳細に調べると‥‥深みにはまってしまいますが、さらにご参考として、 こちらをご覧ください。


以下はごく簡単に。

  • 櫓先の運動の軌跡は、水面上では直線的なジグザグと考えられているが、実際は(サインカーブのような)波状曲線に近い。
  • さらに細かく観ると、波状曲線ではあるが、綺麗でなく少し歪んでいる。なぜなら、船は一定方向に移動し、櫓先は円弧を描いて往復運動するからである。
  • 櫓の水中での動きを観察する場合は、櫓先だけでは不十分であり、もっと全体を眺めなければならない。と言うのは、船の前進速度は固有の数値だが、櫓の往復の速度は位置により違う。

  • つまり、ブレードの部分部分ですべて迎え角が異なっている。 このため、有効な推力を発生しているのはブレード全体のわずか1/3?程度で他の部分は推力を発生していないし、部分的には有害抵抗になっている。
    ここまで考えてみると、飛行機のプロペラの姿が眼に浮かびますよね。 プロペラは、根本から先の方に向けて美しくねじれています、このためどの部分も有効な推力を無駄なく発生できます。 櫓にも理想的なねじれを与えれば、驚くほど性能が向上します(独断)。 しかし悲しいかな、伝統櫓はブレードの進行方向が、AD-scull は迎え角の方向が入れ替わる。 だから普通の材料でねじれを与えられた櫓は、往復運動ができない。 形状記憶合金などを使ったら、ねじれが入れ替わるような究極の櫓が出来るかな?




    5. AD-Scullを造ってみる

    簡単に自作できます。基本は伝統櫓と同じです。 櫓の寸法というは、使用する艇に固有のモノですから、ご自分の艇に合わせて決めてください。 考慮すべき諸元は‥‥

  • 艇のトランサム(船尾部)の水面からの高さ
  • 漕ぎ手が立つ場合は足場の高さ、座って漕ぐ場合はベンチの高さ
  • トランサムから漕ぎ手の手元までの(前後方向の)距離
  • 漕ぎ手の身長、または座高(座って漕ぐ場合)


  • などです。最初は簡単な模型でサイズを検討することをお奨めします。 この画像は、わたしの11号櫓での例です、素材、形状などは各自で工夫してください。 新しいアイディアを発見されたら、お知らせください。

    櫓脚(ブレード)の素材を積層しているところ。材料は15ミリ厚のヒノキ板、ブレード部の幅は90ミリ.細い部分の幅はは45ミリ、 ちょうど3枚分の厚みと同じなので手元では正方形になります。エポキシ系接着剤を使って積層します。
    接着剤の硬化を待ってクランプを外し、削り出しの準備。画面上部に小さな角材が追加接着されているのはブレードの厚みががこの部分では足りないからです。

           

    カンナで豪快に?削ります。このカンナ屑をお風呂に入れるとヒノキ風呂の風情(^_^) 伝統櫓との違いは、上下面の区別なく対称形にすること。 この画像では左側ですが、前方をやや丸く、後方(右側)を薄く仕上げます。
           

    櫓腕(アーム)を削ります、この素材はタモ材です。 櫓柄(スティック)もしっかりと取り付けます。 伝統櫓と違って、このスティックには抜ける方向に力が掛かるので、確実に取り付けます。 タモ材のカンナ屑はお風呂に入れても風情はなく、 家族の評判はさんざんでした (;_;)

    ブレードとアームを約10度の角度で繋いで完成! 繋ぎ方は‥‥この画像を参考にしてください。 この画像は左から通算9号、10号、11号櫓です。 試作 AD-scull としては1号、2号、3号櫓となります。 右端に参考のため4号櫓(長いだろ)を並べました。 伸ばした巻き尺は2メートルを示しています。 9号櫓にはアームの上側にスティックがありますが、 実験の結果、下側に移動します(この画像では上下 双方にスティックがあって、試行錯誤中)。
    試作の3本の「AD-scull」はいずれもオールの金具を取り付けています。 高度なユニバーサル・ジョイントが使えれば、性能は向上しそうですが‥‥ 試作段階ならオール金具で十分と思われます。 この金具は AD-scull のどの位置でも支えられるので、長さの調節などでは好都合です。
      ご注意:このページでは従来の部分名称を変更してカタカナ表記にしています。 AD-scull では従来の伝統的な櫓の名称を引き継がない‥‥という試みの表れです。


    6. さらに優れたAD f -scullとは

    2002年12月に「GLラボ」は画期的な「AD-scull 」を初めて世に送り出し、多くの反響を受け、 その後も研究を重ね、さらに効率の良い櫓を追求してきました。 そして2004年に、またしても世界で初の「これ以上は考えられない、究極の櫓」を発表しました。
    これまでの「AD-scull」を改良した「ADf-scull」です。 「AD-scull」は伝統的な櫓の持つ「高速になるほど乱流が増大する」という問題点をクリアー した画期的な近代櫓ではありますが、よく調べてみると櫓の先端で部分的に乱流が発生している 事が判りました。‥‥これは櫓の先端部分と手元部分とでは(回転半径の違いから)左右に振ら れる速度が異なるのに、舟の進行速度は一定なので、櫓の部分部分によって水流を受ける角度 「迎え角」が微妙に(かつ連続的に)変化する事によります。

    ADf-scull の全景

    「AD-scull 」の先端にこの様なフィン(尾翼)を取り付けます。(取り外し可能)

    ADf-scull の先端部のクローズアップ。 曲がった飛行機の様ですね
     

    実は‥‥飛行機と同じ原理なのです。

    AD-scull の先端にこの↑画像のようなフィンを取り付けると、先端部分に生じる部分的な乱流を取り除き、 全域に渡って理想的な推力を生み出します。 先端部は運動速度が速いため、抵抗が特に大きいので、この 領域の改善は非常に効果があり、AD-scull がさらに軽く漕げるようになり、当然スピードも目に見えて増します。


    【AD-scull. under water view】
    【AD-scull. under water view with tip twisting fin】

    原理的には櫓に生じる捻れ(ねじれ)を利用しています。 「捻れ」に着目したのは、掲示板などを通じてこの「GLラボ」にお寄せいただいた 皆さまからのご意見がきっかけでした。皆さまのご支援に心から感謝いたします。 これからもご意見、ご質問などをお寄せ下さい。

     

    ご注意:上記の「ADf-scull」の知的所有権は「AD-scull」と同様に 「GLラボ」が所有しています。 アマチュアまたは研究者による自作は ご自由ですが,業者の方等による、営利目的の製作はできません。


    7. 驚異の前後漕ぎ

    一人で二本の櫓を漕ぐ!米国・英国・NZでのAD-Scull特許取得記念企画


    AD-scull には「とても漕ぎやすい」という特徴がありました。 どれくらい漕ぎやすいかと言うと「猿でも漕げるくらい!」 ということは先述のとおり実証済みですが、 ここで紹介する「前後漕ぎ」では、1人の漕ぎ手が両手に各1本(計2本)のAD-scull を 扱います。この漕ぎ方は、これまでの伝統櫓では考えられないことでしょう!


     
    「前後漕ぎ」はこんな感じです。

    「前後漕ぎ」ではこのアウトリガー・カヌーのように、漕ぎ手が 前後のAD-scull を扱える位置に位置する必要があります。 前後それぞれのAD-scullにはアームから前方に「早緒(スラスト・ロープ)」 が出ていて、足許のデッキに繋がっています。 しかし前のAD-scullには、それより前方にはデッキがない!ので 船首から斜めに補助のロープを張り、その途中に繋ぎます。

    すると、2本のAD-scullは「スラスト・ロープ(早緒)」の 張力により、とても安定して、巧く(返しの)回転が行われる ので、両手で簡単に2本漕げるのです!

    漕ぎのスタイルもなかなかスマートでしょう!??

    AD-scullはもともと片手で漕げるのですが、この「前後漕ぎ」はその特徴をアピールするためのパフォーマンスとも言えます。 ただし、スピードは今後の課題です。 「前後漕ぎ」はとても楽しいですが、どんなボートでも可能とは言えません。 このカヌーのように前後のAD-scull に両手が届かないと漕げないからです。 もし2人の漕ぎ手が漕ぐのなら、普通のカヌーなどでも可能になるでしょう、どなたか試してください。