幸せになるのよ : 番外編
By:何処
…
ん…
何?
ふと私は目覚めた。
何か…瞼がゴワゴワする…
あ、そうか
さっきの涙が乾いたからなのね…
枕元の時計を見る。伊吹さんの結婚祝いのお返しに頂いた、猫の針が追い駆けっこする時計。親猫の時針は七十度辺り。
常夜灯の淡いオレンジに染まる室内、私は音を立てぬ様にゆっくりと布団を抜け出し、洗面所へ。
明かりを付け、顔を洗う。
首を上げると、鏡の中の私と目が合った。
瞼が腫れているのは泣いたから。
少し濡れた蒼い髪、赤い瞳、色素の欠落した肌。彼女はこの存在…私を人間と呼んだ…
又涙が滲むのを自覚する。
あの時、私と彼女は抱き合いながら、声を上げて泣いた…
涙…目球を保護する体液、感情の高揚で溢れる物…
誰かの為に涙を流して喜ぶ…私は今までにも何度かそれを見た記憶がある。
エントリープラグから私を救出した碇君…
ディラックの海から脱出し、回収された初号機のエントリープラグから碇君を救出した時も、LCLに溶けた碇君がコアから回収された時も、葛城三佐は泣いていた。
けれども、それは与えられた記憶…この肉体が実際に体験した訳では無い…
今日…いえ、もう昨日ね。私が体験した様な事を以前の私も経験したのだろうか?
経験したのかもしれない、経験していなかったかもしれない。
経験しただろう…経験していて欲しい…そう願うのは何故?
もう一度顔を洗い、照明を消す。一瞬視界に入った鏡の中の私は…何故微笑んでいたのだろう?
ゆっくりと布団に入る。隣で眠る少女の寝息は心地好いリズムで私を再び眠りの園へと追いやった
…
夢…
これは…夢…
そう…これは夢…
水面に私は立っている。
四方は見渡す限り何も無く、水平線は霞んで見えない…
ボンヤリと人影が見える。一人とも数人とも取れるその人影はゆっくりと私に近付いて来る。けれどその姿は霞んだまま…
「あなただれ?」
『判らない?』
『クスクス…』
『私はあなた』
「私?」
『『『クスクスクス…』』』
…?
『貴女は私』
『貴女の事は私の事』
『私は貴女の事を知っている。』
「…なら…教えて。」
『クスクス…』
『教えてですって…クスクス…』
『貴女は答えを知ってるわ…だって貴女は私なんですもの…』
「…未だ聞いてないわ…教えて欲しい事を…」
『言ったでしょう?』
『私は貴女、貴女は私』
『貴女の心は私の心、貴女の事は皆知ってる…貴女も私の事を知ってるわ』
『貴女が人間かどうか、貴女は知りたがっている』
『貴女が何故存在するのか、貴女は知りたがっている』
『そして貴女は、知らない自分の知らない過去を…記憶を知りたがっている』
「…ええ…」
『貴女が人間かどうか…それは貴女の主観次第…』
「私の…主観…」
『貴女は何故存在するのか…答えは貴女が知っている…』
「知っている?」
『そう、貴女は知っている…自分がヒトか、違う存在なのかも、貴女の存在理由も、そして過去も…』
「…私は知らない…」
『いいえ。貴女は知っている』
『貴女の存在する訳も』
『貴女が知らないと思っている過去も』
「!」
『『『さあ、思い出しなさい』』』
「あ…うぁっ!?くぅ…はうっ!ん、んあぁぁぁ…ああっ!」
『『『さあ…』』』
「私は…泣いた…そう、零号機で…碇君が…私も…」
『そう』
『思い出して』
『貴女の前の、その前の貴女を』
『今の貴女なら解る筈』
『思い出して…私達を』
『貴女の本当の姿を』
…何故?
何故私は最後の記憶の後の出来事を…リリス…初号機に意思を乗っ取られた事を知っているのだろう?
私が自爆した時…私は彼に会えなくなる悲しみと…彼を救う事が出来る喜びに泣いた…その記憶を何故持っているのだろう?
そして…赤木ナオコ博士をATフィールドで弾き飛ばした記憶…これは何?
『息子ならシンジ、娘ならレイ…』
『そう…良い名前ね…アナタ。』
貴方逹は…
フィフス…いえダブリス…私の手の内、死を願う貴方は幸せかも知れない。けど残される碇君は?
私…リリス…碇司令…赤木博士…ああ、そうだ…私はリリスへ還った…そう…
ああ…碇司令…ごめんなさい…せめて私の中へ…唯さんが待ってるわ…
赤い海…あれは…私!?
あ…あ…碇君、アスカ…アスカ何を…駄目!アスカ駄目!何故!?貴女は彼を…ああ碇君!いけない碇君!!貴方は彼女を!!
「今の…何?」
私の最後の記憶は碇司令が私を迎えに来た時…ドグマのプラントへ来た時の筈。
戦自の侵攻を私はリリスを通じて…
え?
…そう…
…そうだった…
私は…綾波レイは…
綾波レイの持つ魂は…
元は初号機の自我意識…
そうだった。
だから零号機は…私を似て非なる存在と認識し、私を拒んだ…
碇君を受け入れて私は変わり…変わった私を零号機は受け入れた…他人として…
今、私の前にいる私は…
一人目のレイは唯さんの深層意識…
二人目のレイは綾波レイとしての意志…
三人目のレイは…リリスの…初号機の自我…
「私は…」
『零号機が自爆した時、貴女は零号機を補完した』
『貴女は零号機の魂と共に』
『一つの魂として確立された存在となった。』
『碇唯の移し身でも無く』
『初号機の分身でも無く』
『リリスの欠片でも無く』
『『『貴女は綾波レイと言う『個』になった。』』』
『貴女の魂は初号機に受け入れられ』
『初号機は自ら綾波レイの素体にその魂を移した』
『三人目の綾波レイ…彼女は初号機の映し身。』
『『『綾波レイ』』』
『貴女の魂は初号機に入り』
『中に残る碇唯の魂に触れた』
『そして貴女は私になり、私は貴女になった。』
『私が貴女の体を借りていた間、貴女の魂は初号機に眠っていた。』
『そしてサードインパクト。貴女は私に還り、そして再び私から生まれた』
『貴女は初号機であり、リリスであり、綾波レイである。では』
『『『私は誰?』』』
「貴女は…私…」
『『『そう』』』
『私は綾波レイ、碇唯のもう一つの姿、母にして科学者にして女…それが私』
『私は綾波レイ、私は…私。エヴァンゲリオン零号機パイロット…ファーストチルドレン…綾波レイと言う存在。それが私。』
『私は綾波レイ、リリスの一部にしてエヴァンゲリオンの意志…碇唯によって補完された存在、それが私』
『私は』『私は』『私は』
『貴女の精神』
『貴女の意志』
『貴女の本能』
『綾波レイ』
『貴女は私』
『そして…』
『『『私は貴女』』』
『私は貴女の一部』
『貴女の一部は私』
『私の一部は貴女』
『『『貴女は』』』
『何を願うの?』
『何を願ったの?』
『何故願うの?』
「…存在を…碇君を…何故?…判らない…判らない…判らない…」
『いいえ』
『貴女は』
『知っている』
『『『綾波レイ』』』
『私の映し身』
『私の全て』
『私の娘』
『貴女は何を願うの?』
『貴女は何を願ったの?』
『何故貴女は願うの?』
…それは…
『あんた馬鹿ぁ?そんなの決まってるじゃない!』
!?
『良い事!あんたは私のライバルなのよ!』
そう…そうねアスカ…
『『『…答えて…』』』
「私は…願った…存在を、生を…求めた…彼を、碇君を…私は…そう、私は彼をあいし…」
pipipipipipipipipipi…
…
…朝…
…何?…
夢…見てたみたい…
私…何か…大事な事…
…判らない…何かしら…
「ん〜…あとごふん…ムニャ…」
「…」
アスカ…そう、彼女を病院へ送らないと…
「アスカ…起きて…」
一時間後…
「レイ…あんた…」
「何?」
「…いつもこんな所来てるの?」
「ええ…安くて美味しいわ…」
…彼女は怪訝そうに店内を眺めている…何故?
「…で、あんた何食べるの?」
「…納豆定食…」
「う!?だ、駄目っ!あ、あたし納豆と生卵駄目なの!」
「そう…美味しいのに…」
「うぇ〜…でも…他にあんたここで一体何食べてるの?」
「牛丼も美味しいわ。」
「え?あんたお肉嫌…まさか肉抜きで頼んでるんじゃないでしょうね…」
「それが?」
「〜!!!あんた馬鹿ぁ!?牛丼肉抜いてどーすんのよ!」
「汁だくだくで…」
「ちっがーう!意味ちっがーう!」
「?」
最初は戸惑っていたアスカも食べてみたら気に入った様子。そして私逹は楽しく話し、楽しく食事をした。
誰かと一緒に食べる…嬉しい事なのね…
♪〜
「アスカ…携帯鳴ってる…」
「ん。…もしもし?あ、シンジ?え?今?レイと朝御飯食べに出てる…え?もう来てるって…マジ!?」
あ、碇君なのね。
アスカが笑う…綺麗な笑顔。あ、何か…悪戯っぽい顔に…
「ハーン…なぁにそぉんなに急いで来たのかなぁ?そんなにあたしの顔見たかったのかしらぁ?シンジくぅんはぁ?…ま、当〜然よね当〜然!こぉんな美少女を待たせるなんて世界を揺るがす大犯罪ですものねぇ。そぉんな事出来る訳が無いわよねぇシンジきゅんわぁ。ほぉらぁちゃ〜んと正直に言いなさいよぉ!」
碇君の困惑する姿が目に浮かぶわ…アスカ、その位で…
「…あらぁ残念。せえっかく美少女二人がシンジきゅんのお迎え待ってるのにぃ、つれないわぁ。…『は?』とは何よ?じゃあ何?シンジはレイとあたしが美少女じゃ無いとでも言いたいのかしら?それともぉ…やぁ〜っぱりぃあのエロ看護師がお迎えする方がいいのかしら?『シンジきゅんたらも〜わんこ君なんだから〜♪』って?ふ〜ん。なぁるほどぉ〜。」
アスカ…その人誰?碇君の事きゅんとか犬とか呼ぶなんて…看護師?
…何故かしら…不快な気分…何故アスカは笑えるのかしら?
「なぁに変な声出してるのよぉ。ま、良いわ。直ぐ食べ終わるからチョッチ待ってなさい。…色々と凄いわよ…あんたも一度体験すると良いわ…なぁに?楽したいの?何なら食べさせてあげる?良いわよぉ、手が動かなかった時はシンジに食べさせて貰ってた訳だし。何ならレイと二人で食べさせてあげる?『はい、シンジあーん』とか『碇君、口開けて』って?」
あ、それ良いわね。『碇君…食べて?』って…いけない、顔が熱いわ…
「じゃ切るわ。直行くから待ってなさいよシンジ。pi」
「碇君?」
「ええ、もう来てるみたい。さ、チャッチャと食べちゃいましょ。」
…あ、未だ食べてる途中だった…
「「ご馳走様!!」」
「うん、なかなか美味しかったわ!」
「そうね…」
「ご飯が美味しい、天気は上々、それだけで気持ち良くない?」
「そう…気持ち良いわね…幸せ…満足りる…満足…幸せ…私、幸せなのね…」
「あんた馬鹿ねぇ!私達はもっともっと幸せになるのよ!なんたって生きてるんですもの!なら幸せにならなきゃ損よ損!」
「アスカ…」
「さあて、食事も済んだし、あんまり待たせるのも何だしね。じゃあシンジの顔を見に参りましょうか恋敵さん!」
「…ええ…」
ありがとうアスカ…私、貴女が大好き。シンジ君と同じ位。
『『『おめでとう、レイ。』』』
「え?」
「ほら、置いてくわよ!あたしが今日のシンジ一番乗りね!」
「あ…ずるい…」
『『『クスクスクスクス…』』』
【おわり】
取り敢えず後書き
何処です。ええと後書きですが…
特に無し。以上。
追伸
えびさんと奥さんに
レイとアスカとシンジと読んでくれた皆様に
そして
数多の生まれてくる子供逹へ
『おめでとう』
『ありがとう』
『お幸せに…』
何処さんに投稿していただいた「幸せになるのよ」を一気に4話掲載させていただきましたっ!
どうもありがとうございました何処さん〜。そして掲載がものっそい遅くなってしまって大変申し訳ありませんでした;
前回投稿していただいた「幸せになろうよ」に続く今回の「幸せになるのよ」四部作。
一気に拝見させていただきましたが……いやもー参りました。ここまでレイに対して深く掘り下げた作品は久々に拝見しましたよ。
何処さんはレイやアスカはもちろん、エヴァという作品についても造詣が深いんだなーと感服しました。
造詣が深いからこそ、レイのセリフ1つとってみても重みが感じられるんですよね。うーんマジ素晴らしい。
メインであるレイの心理描写はもちろんですが、今回もアスカが非常にいい味を出してますよね。
前編の自分の気持ちに気付いたツンデレ全開なアスカはもちろんですが、レイに対して「人間よ!」と言い切る彼女のセリフを見て、心に強く響くものがありました。
「前編」はアスカ視点、「中編」は会話のみ、「後編」は再度アスカ視点、そして「番外編」はレイ視点という考えられた演出も相まって、非常に感銘を受ける作品でありました。
んーやっぱアスカとレイはいいなぁ。ここまでこの2人の魅力を存分に引き出した何処さんには本当に脱帽!ですね。
作者の何処さんに作品のご感想をっ!
感想は作家の元気の源、是非お願い致します。
後書きで、えびのリアルに気を使っていただいてありがとうございます。
とても嬉しかったです!
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