新世紀エヴァンゲリオン  Side Story

アスカのバレンタイン




「ねぇアスカ、今日の放課後空いてる?」
 昼休みに一緒にお弁当を食べながら、学級委員長ヒカリは亜麻色の髪をした親友に話かける。
「今日はネルフのテストも無いし、空いてるわよ」
「じゃあさ、ちょっと買い物付き合ってくれない?」
「別にいいけど…何買うの?」
 アスカはシンジ特製のから揚げを頬張りながら聞き返す。
「ほ、ほら今週の金曜日って、その…バレンタインじゃない…」
「あ、な〜るほど。鈴原にあげるチョコを買いにいくのね」
「べ別に鈴原にあげるって訳じゃ…」
「うふふ、分かってるって」
「もぉアスカってば!」
 親友にからかわれて、ヒカリはプイッと横を向きながら反撃にでる。
「アスカこそ碇君にチョコあげないの?」
「ななな何で私がアイツにあげないといけないのよ!」
 顔を真っ赤にして文句を言うアスカ。
「えへへ分かってるって。じゃあ放課後よろしくね」
「ヒカリ!」
 ヒカリは意味深な笑みを浮かべるとお弁当箱を洗うために席を立った。

 もう何言ってんのよヒカリってば!
 何で私がバカシンジにチョコをあげなきゃいけないのよ。
 ふとシンジの方に視線を向けてみる…。

「良く見てろや…これが手放し牛乳一気飲みや!」
「おおっ!」
「トウジ…鼻から牛乳出てるよ」
 シンジはトウジやケンスケ達と牛乳一気のみに興じていた。

 全くガキなんだから。
 でも…チョコあげたらアイツ喜ぶかな…。



 放課後2人が足を運んだデパートのチョコ売り場は華やかに彩られていた。
 ハートマークを大きくあしらったイルミネーション。大小様々なチョコレートの数々。それをラッピングする色とりどりのリボン。目を輝かせてそれらを選ぶ女の子達…。

「うわぁ、すごいね」
「ほーんっと。本当のバレンタインってこんなのじゃないのに」
 アスカもドイツ時代からバレンタインはもちろん知っている。しかし好きな男性にチョコをあげるという日本独自の習慣を知ったのはつい最近だ。
 雑誌の特集を読んだり、ヒカリやミサトに聞いて一応の知識はあるのだった。

「ねね、鈴原にはどんなの買ったの?」
「えっと…これ…」
 ヒカリが恥ずかしがりながら見せたのは、可愛いとかとは程遠いチョコレートのブロック。
「何それ。そんなのあげるの?」
「違うのよアスカ。えっとね、これを溶かして…その…型に流してね…」
「ふ〜ん、手作りチョコかぁ。アイツ喜ぶわよ」
「そ、そっかな。喜んでくれると…イイナ…」

 そっか手作りか…。
 加持さんにはお酒の入ったアダルトなチョコレート。これはスグに決まった。
 実はシンジにあげるのどーしよっかなーって迷ってたのよね。
 も、もちろんシンジのは義理なんだから迷う必要なんて全然ないんだけど。
 …どうしよう、私も作ってみようかな…。

 アスカはヒカリが選んだものと同じブロックチョコレートを何気なく手にとってレジに並んだ。
 その様子をしっかり見ていたヒカリが嬉しそうにアスカの肩に手を置く。
「アスカもそれ買うんだぁ。じゃあ一緒に手作りチョコ作ろうよ」
「べべべ別にシンジの為になんか作らないわよ!」
「あれ〜、私一言も碇君なんて言ってないんだけど」
「う…。ち、違うのよ!」
 自分の心の中を見透かされた様な気がして真っ赤になって反論するアスカ。
「分かった分かった。ねぇ一緒に作らない?」
「ヒカリがそこまで言うんなら一緒に作るわよ。でも勘違いしないでよね!これは私が自分の為に作るんだから!」
「はいはい。じゃあ明日の放課後、私の家で作ろうね」
「ぜーったい勘違いしないでよ!」
 アスカは顔を真っ赤にしながらしつこいぐらい念を押す。

 ふふっアスカってば素直じゃないんだから…。



 翌日の放課後、アスカとヒカリは授業が終わった途端2−Aの教室から消えていた。
「あれイインチョは?」
 授業で使ったノートパソコンの電源を落としながら、トウジが傍らのケンスケに話かける。
「ん?惣流と一緒にいるんじゃないの」
 ケンスケも辺りを見渡すが2人の姿は見つからない。
「委員長ならアスカと一緒に出ていったよ。なんだか急いでたみたいだったけど…」
 帰り支度をしながらシンジが話に加わる。
「ふーん、惣流となぁ…」
「なんだよトウジ。そんなに委員長の事が気になるのか?」
「な、何言っとんのやケンスケ!そんなんじゃあらへん!」
「もうトウジ君たら、照れ屋さんなんだからっ」
「なんやてぇ!?」
「ははは、悪い悪い。2人で買い物にでも行ったんじゃないの?」
「ただの買い物なのかなぁ…」
「ん?」
「それにしてはアスカも委員長もすごく急いでたけどなぁ」
「みてみいケンスケ。シンジだって惣流のこと気にしとるやないか」
「ち、違うよ!」
「センセ、照れんでもよろしいがな」
「そんなんじゃないって!」
「はぁ…なんだかんだ言って、2人ともラブラブでいいねぇ」



 その頃、男共の話題になっていたアスカとヒカリはエプロンに身を包み、洞木家のキッチンに立っていた。
 ヒカリは毎日着慣れているせいかエプロン姿が実に様になっている。一方のアスカもヒカリに借りたエプロンの着心地に多少違和感を感じていたが、十分可愛らしく着こなしていた。
「わぁアスカ、エプロン姿似合うじゃない」
「え…そう?ありがと」
 いつもなら「当ったり前でしょ」とか言いそうな所だが、今日のアスカはちょっと違っていた。誰かの為に何かを作るのってこんなにドキドキワクワクするものだとは思ってなかった。素直にそんな事が感じられる自分にちょっぴり嬉しさを感じる。
「えっとじゃあ、まず湯煎でチョコを溶かして…」
「溶けたチョコはこの中に流し込むのよね」
「そうよ。型はいろいろあるから好きなの選んでね。…あっ!つまみ食いしちゃダメよアスカ!」
「いーじゃない。味見よ、味見」
 2人はきゃあきゃあ言いながら、楽しげに手作りチョコを作り始めた。



 そして2月14日…バレンタインデー当日。
 年に1度の特別な日。
 シンジ達の通う第壱中学校も普段とは違う雰囲気に包まれていた。何気ない風を装いながらもしっかり意識している男子達。期待と不安を胸に秘めてチョコを忍ばせる女の子達。

「ねぇアスカ、碇君にもうチョコあげた?」
「なんであのバカにチョコをあげなきゃいけないのよ!」
 ついヒカリに大声で言い返してしまう。
 アスカは不機嫌であった。
 朝のうちにさり気なく…と思っていたのだが、機会を逸してしまい、チョコレートを渡す事が出来なかった。

 学校に着いてからタイミングを見計らって…。
 アイツどんな顔するだろう。
 手作りって気が付かなかったらパンチだからね。
 なんたってこのアスカ様の手作りなんだから。
 ……………………
 …喜んでくれるかなぁ…。

 などといろいろ想像してドキドキしていたのだが、学校に着いてスグにそんな気分は吹っ飛んでしまった。
 いい気分はしないけどシンジは女子にちょっと人気があるから、少しはチョコを貰うんじゃないかと思ってはいた。しかしシンジの下駄箱や机の中に入っていた大量のチョコ、廊下で手渡されて照れるシンジの顔を見たら苛立ちを押さえられなくなってしまった。

 バカ!シンジの大バカ!何よヘラヘラしちゃって!バカバカバカ!!

「アスカ…」
 ヒカリの寂しそうな声を聞いてハッとなるアスカ。
「ご、ごめんねヒカリ。大きな声出しちゃって…」
「ううん、いいのよアスカ」
 ヒカリにはアスカの気持ちが良く分かっていた。
「ひ、ヒカリこそさ!もう鈴原に渡したの?」
 胸の内のモヤモヤを振り払う様に無理矢理明るい声を出す。
「う、ううん。お弁当と一緒に渡そうと思って…」
「それなら確実ね!頑張んなよヒカリ」
「うん…ありがと…」

 お弁当と一緒か。きっと上手く渡せるよ、ヒカリ。
 私は…。
 アスカは小さく溜息を吐いた。



 そして昼休み。
「アスカ、はいお弁当」
 アスカの心境を何も知らないシンジがにこやかにお手製のお弁当を手渡す。
「………」
 黙ったままお弁当を受け取るアスカ。
「あれ、なんか元気ないね?」
「うっさいわね!何でもないわよ、バカシンジ!」
 アスカが怒るのも無理がない。
 なんたって彼女が元気がない原因はこの鈍感な彼なんだから。
 碇シンジ。もうちょっと女心を勉強した方がいいようだ…。



 その頃トウジとヒカリは屋上にいた。
「は、はい。鈴原、お弁当…」
 いつもより緊張した声と微かに震える手でお弁当を手渡す。
「いつもスマンなぁ委員長」
「べ別に3人分も4人分も作るのは同じだし、残飯処理にもなるし…」
「お役に立てて嬉しいで。委員長の弁当は旨いしな」
 その言葉に赤くなってる顔をますます赤くするヒカリ。精一杯の勇気を振り絞ってピンクの包装紙に赤いリボンの箱をトウジに渡す。
「こっこれ、デザート!」
「へっ…ワシに?」
 もちろん今日が何の日だか知っているトウジは、ちょっと照れた顔で受け取る。
「ありがとさん、委員長…。なぁ開けていいか?」
「いいよ。でもそれを食べるのは残さずお弁当を食べた後でね」
「へへっ、分かっとるよ」
 嬉しそうにヒカリ特製のお弁当を食べ始めるトウジ。
 それを幸せな目でみつめるヒカリ…。



 そして放課後、帰り道。
 重たそうにチョコの詰まった紙袋を抱えたシンジとその傍らにいるケンスケの前を、少し距離を隔ててアスカが歩いている。
 一緒に下校していたトウジ、ヒカリと少し前に別れてから、なんとなく気まずい雰囲気が漂っていた。
「なぁシンジ。惣流となんかあったのか?」
 ケンスケが小声で話しかける。
「いや、別に…」
「それにしちゃ、惣流いつもと違うじゃないか」
「そう…かな」
「………」
「良く分からないんだ、僕にも」
「多分な、そのシンジの抱えてる紙袋が原因だぞ」
「えっ、どうゆう事?」
「おまえ、惣流からチョコ貰ったか?」
「貰ってないけど…」
「じゃあやっぱそれが原因だよ」
「??」
「全くシンジは鈍感だなぁ…。おまえ学校で女の子達にチョコ貰いまくってただろ?」
「う、うん」
「それを見てさ、惣流がどんな気持ちだったのか考えてみろよ」
「あ…」

 シンジとケンスケの会話はアスカに聞こえていた。アスカは何も聞こえない風を装いながらもしっかりと聞き耳を立てていたのだ。もっとも2人の会話の後半部分は声が大きくなって、イヤでもアスカの耳に聞こえてきたのだが…。
 アスカはしばらく立ち止まって何かを考えていたが、右手をギュっと握ると追いついてきたシンジにカバンでパンチした。
「いたっ、何するんだよアスカ」
「あんたに渡すの忘れてたわ。はいこれ!」
 アスカはブルーにラッピングされた箱をシンジに投げつける。
「あ、アスカ…」
「勘違いしないでよね!それは義理でしょーがなくやるんだから!」
 そう叫ぶと顔を伏せて走っていってしまった。

「アスカ…」
 シンジはブルーの箱を手に少し呆然とつぶやく。
「良かったな、シンジ」
「ん…」
 ちょっと照れて、でも嬉しそうにシンジは箱を見つめる。
「なぁ、開けてみろよ」
「う、うん」
 ドキドキしながらラッピングされた包装紙をきれいに剥がし、小さな箱のふたをそっと開けてみる。
 そこには少し不格好だが、明らかに手作りと分かるチョコレート。
「これって…惣流の手作りじゃないか?」
「そ、そうだね…」
 アスカが僕に手作りでチョコをくれた。あのアスカが僕なんかの為にきっと一生懸命になって作ってくれたんだ。
 そう思うとシンジの心は幸せと喜びで一杯になった。
「僕のためにわざわざ作ってくれたんだ…」
「お、嬉しそうだねシンジ君。シンジといいトウジといい、いや〜んな感じ」
「えっ、いや、はは…」

 …ありがとうアスカ。とってもとっても…本当に嬉しいよ…。



 アスカは一足早くマンションに帰ってきた。
 制服のままドサっとベットに横になる。

 やっと渡せた…。
 もうちょっとロマンチックに渡したかったけど。
 ま、しょーがないか。
 開けて中を見たかな…。
 どんな顔してるんだろう。
 …喜んでるかな…。

 そんな事を考えてるうちにトロトロと眠りに入ってしまった。


 数時間後、アスカは目を覚ました。
 制服のまま少し寝てしまっていたのに気づき、慌てて私服に着替える。
 部屋を出ようとドアに手をかけると、キッチンとリビングの方からシンジとミサトの会話が聞こえてきた。
「ミサトさん、もうご飯出来ますからチョコ食べちゃだめですよ」
「いいじゃなぁ〜い。ちゃんとご飯も食べるわよん」
「しょうがないなぁ…」
 ミシミシとシンジと思われる足音が聞こえる。
 ミサトはどうやら酔っているようだ。
「しっかし、こんなにいっぱい貰っちゃって、シンちゃんもやるわねぇ」
「からかわないでくださいよ」
「ねぇアスカにも貰ったんでしょ。どれ?」
「えっ」
「これ?それとも…これかな?」
「違いますよ」
「え〜っ、どれ〜」
「もう…ちょっと待っててください」
 また足音が聞こえる。
 その音はシンジの部屋の方へ消えていき、また戻ってきた。
「なぁ〜んだ。アスカのチョコは部屋に隠してあったのね」
「か、隠すってワケじゃ…」
「どれどれ…おおっ!手作りじゃない?これって」
「そうみたいです」
「へー、あの娘がシンちゃんの為に手作りするとはねぇ」
「な、なんですか、その目は」
「ふふん、べっつに〜。…ねぇ、食べてもいい?」
「だめです」
「何で、美味しそうじゃない」
「他のはいいですけど、それは絶対だめです」
「ちょこっとだけ…」
「だめです!」
「冗談よ、冗談。そんなにムキにならなくてもいいじゃなぁい」
「む、ムキになんか…」
 ビール缶片手にシンジをからかうミサトと、顔を真っ赤にしているシンジが目に浮かぶ。
「でも良かったわね。アスカにチョコ貰えて」
「え、ええ」
「嬉しそうね、シンちゃん」
「そりゃ嬉しいですよ。アスカから手作りチョコ貰えたんですから…」

 顔がカッと熱くなる。胸がドキドキする。
 頑張って作ってよかった。シンジ喜んでくれたんだ…。


「あ、アスカ起きた?もうすぐご飯出来るよ」
「う、うん」
 ミサトはキッチンで飲んでいるらしく、リビングにはシンジとアスカ。
「アスカ、チョコどうもありがとう」
「べ、別に…」
 シンジは照れながらも心からの笑顔でお礼を言う。
 アスカは真っ赤な顔を伏せてわざと簡単に答える。
 しばし沈黙する2人。
「あ、あの、昼間はごめん。その…アスカの前で他の女の子にチョコ貰って喜んじゃって…」
「わ、私に関係ないじゃない」
「そうだけど…でも他の女の子には悪いけど、僕、アスカにチョコ貰えたのすごく嬉しい…義理でもさ、1番嬉しいんだ」
「………バカ」

「シンちゃ〜ん。お鍋ふいてるわよ〜」
 その声に思わず見つめ合ってた2人はハッとなる。
「は、はい。すぐ行きます」
 シンジは焦りながらキッチンへ向かう。
 その腕にドンと体をぶつけてアスカは悪戯っぽく笑った。

「ホワイトデーの日は、10倍にして返してよね!!」


 <おわり>




 自分で書いといてなんだけど、すっげー恥ずかしいぞ(^^;
 しかもバレンタインネタ…。思いっきり時期はずれだし。
 2月に考えてたネタだったもんで…しょーがないっすね(^^;

 内容はなんでしょうねぇ、どーしようもないD級ラブコメですな。
 アスカは恋する乙女しちゃって性格変わってるし(笑)
 ケンスケは妙に鋭い、いい奴になってるしなぁ。
 しかもレイは出てこないし(^^;;;;


 次にアップ予定

   「ただいま!」

  ドイツに里帰りしたアスカを迎えに行くシンジ。
  ドイツでのドタバタなお話。
  これもきっとシンジ×アスカなラブコメです(^^;




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