新世紀エヴァンゲリオン  Side Story

ただいま!    Cパート




 <Bパートの続き>



 アスカがドイツに里帰りしてから、3週間ちょっと経っていた。
 トウジやケンスケ達は「休みってのは月日が経つのが早い」なんて騒いでいたけど、僕にとっては長い…本当に長く感じられる3週間だった。
「アスカが帰ってくる日まで、まだ1週間もあるのか…」
 カレンダーを見て、思わず呟いてしまう。

 そう、僕はアスカと会えない日々をとても辛く感じていた。
 アスカからは毎日必ず電話がかかってくる。
 両親とうまくいってるらしく、ドイツでの生活を明るく元気な声で話してくれるのはうれしいのだけど、僕は受話器を置くとものすごく不安になる。

 …このままアスカは帰ってこないんじゃないか?

 毎回この事を考えてしまう。
 そりゃ両親と一緒に暮らすのは普通当然の事だと思うけど。
 でも、僕には夏休み明けもアスカが側にいない生活なんて想像もできない…いや、したくなかった。


「シンちゃん、おはよ。……どしたの?」
「い、いえ何でもないです。…おはようございます」
 ミサトさんの声に僕も慌てて挨拶を返す。
「まぁたアスカの事を考えていたんでしょ?」
「ち、違いますよ…」
 一応否定するけど我ながら全然説得力がない。カレンダーを見ながら溜息ついてるんだもんなぁ。
 「無理しちゃって」と言って笑っているミサトさん。思いっきりお見通しみたいだ。
 僕は少し赤くなってしまった顔を隠すようにして朝食の準備を進めた。
 今日の献立はトーストにスクランブルエッグ、サラダにコーヒー。…そして卵焼き。
 今朝は洋食、しかも卵料理が2品あるのはおかしいと思うかもしれないけれど、毎朝卵焼きは必ず作る。
 それはもちろんアスカの「シンジの卵焼きはすっごく美味しいから、洋食の時でもなんでも毎朝作って」というワガママのせいなんだけどね。
 今彼女はいないんだから作る必要はないんだけど…でも作ってしまう。

「アスカがいないと、なんだか食事も寂しいわね」
「そうですね…。いつもアスカがうるさいぐらいいろんな事を喋ってますからね」
 と苦笑しながら卵焼きを口に入れる。
 ……なんだか美味しくない。
 アスカと一緒に食べる食事、アスカの笑顔、アスカの笑い声…。
 彼女という特上のスパイスがないと、僕の自慢の料理もいつもと全然違って感じられた。




「ふぅ」
 お茶の缶を片手にまた溜息。ここのところ、なんか溜息ばっかりついてる気がするなぁ。
 ここはネルフの休憩所。
 今日の午後はネルフでのテスト日だった。
 アスカが不在だけど、僕と綾波のテストは夏休み中も行われている。
 今日もいつもと同じテスト…なんだけど、結果は散々だった。

「シンジ君、シンクロ率が昨日よりも5も下がってるわよ」
 テストが終了した後、モニタールームに呼び出された僕はちょっと恐い顔をしたリツコさんに怒られた。
「夏休みに入ってからちょっとずつ下がってたけど、ここ数日は特に酷いわ」
「すいません…」
「まぁまぁリツコ。シンちゃんは愛するアスカが側にいなくて寂しいのよ」
「ちょ、ちょっと、何を言うんですか!」
「顔を真っ赤にしちゃってぇ、んもぅ照れ屋さんだからっ」
「ミサトさん!」
 ぎゃあぎゃあ騒いでいた僕とミサトさんに、リツコさんが呆れたように声をかけた。
「姉弟ゲンカは家でやってちょうだい。それより夏休みが終わるまでテストを中止にしようと思うんだけど、どうかしらミサト?」
 ちょっと驚いた僕をチラっと見て、ミサトさんは真面目な顔をして答えた。
「ん…そうした方がいいかもね。このままシンジ君の精神が不安定のままテストを続けても意味がないからね」
 ぐっ、その通りだ。
 でも僕のせいで大事なテストを中止するなんて。
「私もその方がいいと思います」
 あ、綾波まで…。
「碇君、惣流さんがドイツに帰ってから全然元気ないし、話をしていても別の事を考えてるみたいだから…」
「レイの言う通りね。じゃあ残りの夏休み中のテストは中止にしましょう。碇司令には私とリツコから言っておくわ」


 こんな事があって残りのテストは中止。
 リツコさんは「この機会にNewエヴァの整備をしっかりしておくから、自分のせいだなんてあんまり思わなくていいわ」って言ってくれたけど、ちょっと自己嫌悪。


「よっシンジ君」
 下を向いて落ち込んでた僕は、不意に声をかけられて慌てて顔を上げた。
 そこには長身の、僕の尊敬する人。
「加持さん…」
 加持さんは自販機でコーヒーを買い、僕の隣に腰を下ろす。
「どうした、若いのに元気がないぞ」
「そ、そうですか」
「葛城から聞いたよ。夏休み中のテストは中止なんだってね」
「ええ、僕のせいで…」
 と言ってまた僕は顔を伏せた。
「アスカがいないとそんなに寂しいのかい?」
「加持さんまでからかわないでくださいよ」
「でも事実だろ?」
 なんですかそのニヤニヤした顔は!……でも否定できない。
「…最初は少し気が楽だったんです。アスカのワガママからちょっと開放されるや…って思って。でも…そんな気分はすぐに変わりました。アスカがいないと、その…うまく言えないんですけど、心にぽっかり穴が開いたみたいで…」
「心に穴…ね」
「いなくなって気付いたんです。アスカは僕の一部だったんだ、いて当たり前の存在になってたんだなぁって…。あ、なに言ってるんだろ、へ、変ですね、僕」
「そんな事ないさ」
 加持さんはコーヒーをグッと飲むと、嬉しそうな表情を浮かべた。
「シンジ君は…アスカの事好きかい?」
 好き?…アスカを?
 い、いきなり何て事を言うんだ加持さんは。うう、顔が赤くなっていくのが分かる。
「アスカにも良く「シンジはお子様だ」って言われるんですけど、ホント、僕って子供だから、人を好きになるとかって良く分からないんです。……でも…」
「ん?」
「アスカに僕の側にいて欲しいし、僕もアスカの側にずっといたい…。それに…アスカの事を守ってあげたいとも思います」
「それを世間じゃ「好き」って言うんだぞ」

 好き…。

 …そうなんだ。
 側にいなくなってやっと分かった。僕はアスカの事が好き…なんだ。
「この僕の気持ちが好きっていう事なら…僕は、アスカの事が好き…大好きです」
「じゃあ彼女にちゃんとシンジ君の気持ち、伝えないとな」
「でも…きっと僕がアスカに好きなんて言ったら、彼女は迷惑ですよ。アスカは美人で頭も良くて明るくて…。そんな彼女が僕なんかを本気で相手にする訳ないですよ」
「本当にそう思ってるのか?碇シンジ」
「えっ?」
 ちょっとキツ目の口調に驚いて顔を上げると、そこには加持さんの怒ったような瞳があった。
 その瞳に見すくめられて、僕は何も言葉を発する事ができない。
 思わず目をそらしてしまいそうになった時、加持さんがニッと笑った。
「俺がここに来る前はドイツにいたのをシンジ君も知ってるよな?」
「は、はい」
「その頃のアスカは、誰の助けもいらない、独りで生きていくんだと片意地張っていてね、側で見ているこっちの方が辛かった。でも日本に来て彼女は変わった。本当に見違えるぐらい、いい子になった」
 加持さんはまたコーヒーをグッと飲む。
「なぜだか分かるかい?」
「い、いや…」
「シンジ君、君に出会ったからだよ」
「僕に…ですか?」
「そうさ。初めてあの空母で会った時から、アスカとの会話の話題は君の事ばかりさ。やれシンジはお子様だとか、内罰的だとか、すぐ謝るんだから…とかね。それでいて俺がその事に納得すると、今度は真っ赤になって「でもシンジにもいい所はあるの」とか言っちゃったりしてね。ははは、本当に可愛いよ」
 そう言って、加持さんは飲み終わったコーヒーをごみ箱に投げ捨てた。
「アスカがこんな年相応の女の子らしい仕草を素直に見せられるようになったのは、葛城と同居する様になったり、学校に友達もできたせいもあると思うけど、でも1番の要因は君なんだよ」
 僕は…僕はアスカと出会えて良かった。
 アスカと過ごす毎日は楽しかったし、ほんのちょっとだけどいろんな事に対して強くもなれたと思う。
 それに、アスカが側にいてくれたからこそ、あの辛い時期も乗り切れたんだもんな。
 そうか…アスカも僕と出会えて変われたんだ…。
「分かったかい?君はもっと自分に自信を持たなきゃ駄目だぞ」
「は、はい!」
「よしよし、アスカにちゃんと自分の気持ちを伝えろよ。彼女もきっと君の言葉を待ってるんだからね」
「加持さんも…ですね」
「へっ、俺も?」
「ミサトさんもきっと加持さんの言葉を待ってると思いますよ」
「おいおい、シンジ君…」
「ありがとうございます加持さん。いろいろ気を使ってもらって」
「いやなに」
「じゃあ失礼します!」
 加持さんに一礼し、僕は来るときとは全く違う気持ちでネルフ本部を後にした。

 後から分かったんだけど、僕の様子を心配したミサトさんとリツコさんが、加持さんに僕を元気付けてくれと頼んだらしい。
 ありがとうございます、ミサトさん、リツコさん、加持さん…。




 アスカに自分の気持ちを伝える!
 と決意したのはいいんだけど、家に帰ってきても何か落ち着かない。
 夕食を作りながらも、告白のタイミングとかをあれこれ考えちゃったりする。
 …電話でってのはちょっと情けないよなぁ。やっぱりちゃんとアスカの顔を見て言わないとね。でもアスカの顔をちゃんと見ながら言えるかな、僕…。
 なんて事を考えていたら、けたたましく電話が鳴った。
 この時間は…きっとアスカからだ。

「はい、もしもし」
『シンジ?あたしよ、アスカ』
 分かってるって。誰がアスカの声を聞き間違えたりするもんか。
 国際電話という事もあっていつもそんなに長い時間は話せないんだけど、アスカの元気な声を聞いてるとたまらなく嬉しくなってくる。
 本当に僕はアスカの事が好きなんだなぁとか思ったりして。…なんか照れるな。

「もうすぐ夏休みも終わりだね。1週間後には予定通り帰ってくるんでしょ?」
『ん…、その事なんだけどね…』
 アスカの声から元気さが消えた。まさか…。
『ちょっと帰るの遅れちゃうかもしれない…』
「ど、どうして!?」
『パパがね、日本に帰らないでこっちで学校に行けって言ってるの』
 そ、そんな…。
「あ、アスカはどうなの?日本に帰りたくないの?」
『バカ!そんなわけなんでしょ!私だってシンジの側に帰りたいわよ!……でもね…』
「…でも?」
『今ね…やっと家族の絆、取り戻せた気がするの。私と嬉しそうに話しているパパとママの顔を見てると、日本に帰るってなかなか言い出せなくて…』
 そうか…。
 家族との絆、ちゃんと取り戻せたんだね。
 でも、でも僕は…。
「よかったね…アスカ、家族との絆を取り戻せて。…でも、アスカには帰って来て欲しい……」
『…………』
「ご両親の気持ちも良く分かる。アスカは可愛い一人娘だもんね。でも、でもね、こんなのワガママかもしれないけど、アスカにとっては迷惑かもしれないけど、僕には…僕の側にはアスカが必要なんだ」
 自分でも信じられないけど、自分の気持ちをちゃんと言える。
 加持さんに元気づけてもらったおかげ…かな?
『シンジ…』
「僕、ドイツに行くよ。アスカを…アスカを迎えに行きたいんだ」
『…………』
「だめ…かな?」
『……ってる…』
「え?」
『待ってるって言ったの!シンジと一緒なら、ちゃんとパパに私の気持ちを伝えられると思うから…。だから待ってる!』
「う、うん!…ありがとう…アスカ…」



 ドイツ行きの事を話したらミサトさんは思いっきり驚いていた。当たり前だよな、いきなり「アスカを迎えに行きたい」とか言ったんだから。
 でもアスカとの電話のいきさつをちゃんと話すと、快くドイツ行きを賛成してくれた。
 案の定「シンちゃんも言うときは言うじゃん」ってからかわれたけどね。
 そうと決まればミサトさんの行動は迅速で、ドイツまでの飛行機のチケットをマヤさんの手を借りて大急ぎで手配してくれた。
 そのおかげで僕は翌日の朝一番の飛行機に乗る事ができ、今はドイツに向かう空の上。
 ほんと、ありがとうございますミサトさん。

 もうすぐ、もうすぐアスカに会える。
 そう考えるだけでなんだかソワソワ落ち着かない。
 会ったら…アスカにちゃんと伝えたい事があるし…ね!




「はぁ…」
 ベッドに寝転がりながら、私は今日何度目か分からない溜息を吐いた。

 こっちに帰ってきてから3週間、なんかあっという間に過ぎた気がする。
 ドイツに来てからの私は、ホント、目が回るぐらい多忙だった。
 あのエヴァのパイロット、選ばれたセカンドチルドレンの帰国って事で雑誌の取材やらテレビに出演、大学や企業のセミナーにも呼ばれたりした。
 昔の私だったらこの事を誇らしげに思い、生きる糧としただろう。みんなが私を見ててくれる、必要としてくれるって屈折した思いでね。でも今は違う。もっともっと大切な事を日本で知ったから…。

 それから何と言ってもパパとママと過ごす家族の時間。
 パパとママと実際会うときはさすがに緊張した。なんてたって1年以上ぶりに顔を会わせたんだもんね。
 でも2人とも暖かく私を迎えてくれて、私も笑顔でそれに答える事ができた。
 以前の私だったらこんなに素直になれなかったと思う。
 ずっとパパも、本当の生みの親じゃないママも苦手だった。嫌いって訳じゃなかったんだけどね。
 私が変われたのは…ううん、本当の自分を取り戻せたのは…全部シンジのおかげ。

 今みたいにちょっとでも空いた時間、1人でいる時間が出来るといつもあいつの事を考えてる。
 初めて会った時は冴えない子とか思ったし、ずっと軟弱で内罰的なやつだと思ってた。
 でも…いつの間にか好きになってた。
 シンジの側にいると心の底から安心するし、あの優しい笑顔を見るとたまらなく幸せな気分になるの…。

 私はシンジが好き…大好き。

 …シンジはどうなんだろう。私の事をどう思ってるんだろう。
 シンジはいつも私の事を見ててくれるし、優しい笑顔も見せてくれる。でも……不安。
 シンジに言って欲しい、シンジの口からはっきりと「好きだ」って言って欲しい。
 しばらく会ってないせいか、私のシンジへの想いはつのるばかり。
「……シンジのばぁ〜か…」
 私は呟きと共に瞼を閉じた。


 んんっ?あれ、ここどこ?…ベッドのなか?
 いっけない、少し寝ちゃったみたい。
 時計を見ると…ええっ!もうこんな時間なの!?
 急いで電話しなきゃ!…毎日必ずしてる、シンジへの電話をね。

 ミサトの家の番号をポンポンポンっと。へへっ、もう目をつむってたってかけられるもんね。
 プルルルル、プルルルル、ガチャ。
『はい、もしもし』
 シンジ?あたしよ、アスカ。
 えっ、分かってるって?
 なによ、言うじゃないの。
 でも…嬉しい。シンジの声を聞いてるとドキドキするぐらい嬉しくなっちゃう。
 本当に私はシンジの事が好きなのねとか思ったり…。やだ、なんか照れちゃうな。

『もうすぐ夏休みも終わりだね。1週間後には予定通り帰ってくるんでしょ?』
「ん…、その事なんだけどね…」
 もうすぐ夏休みも終わる。1週間後には予定通り帰るつもりだったんだけど、でも…。
「ちょっと帰るの遅れちゃうかもしれない…」
『ど、どうして!?』
「パパがね、日本に帰らないでこっちで学校に行けって言ってるの」
 そう、この事でも私は悩んでいた。
『あ、アスカはどうなの?日本に帰りたくないの?』
 バカ!そんなわけないじゃない!すぐにでもシンジに会いたい、優しい笑顔が見たい…。……でもね…。
「今ね…やっと家族の絆、取り戻せた気がするの。私と嬉しそうに話しているパパとママの顔を見てると、日本に帰るってなかなか言い出せなくて…」
 一瞬、会話が止まる。
 何か…何か言って、シンジ…。
『よかったね…アスカ、家族との絆を取り戻せて。…でも、アスカには帰って来て欲しい……』
 えっ?
『ご両親の気持ちも良く分かる。アスカは可愛い一人娘だもんね。でも、でもね、こんなのワガママかもしれないけど、アスカにとっては迷惑かもしれないけど、僕には…僕の側にはアスカが必要なんだ』
 ……嬉しい!
 シンジがこんな事を言ってくれるなんて…。
 私の…私の側にもシンジが必要なの!
「シンジ…」
『僕、ドイツに行くよ。アスカを…アスカを迎えに行きたいんだ』
 シンジが側にいてくれたら、ちゃんとパパに私の気持ち、本当の気持ちを伝えられる。
 だから…私はありったけ想いを込めて言ったの。

 「待ってる!」って…。




 翌日、空港へ向かうタクシーの中。
 ああっ、もうイライラする!なんでこんな時に渋滞に巻き込まれるのかしら!
 …って寝坊した私が悪いんだけどね。
 だってシンジに会えると思うと、ドキドキして明け方近くまで眠れなかったんだもん…。


 やっと空港に着いたのは、私が昨日予定してた時間より約1時間遅れ。
 あっ、日本からの飛行機もう到着してる!
 シンジはこの飛行機に乗って来てるはず。急いで探さないと。
 あいつ海外に来るの初めてのはずだから、きっと訳が分からずキョロキョロしてるに違いないからね。
 どこかな〜……ん〜っと。
 ……いた。
 ふふっ、やっぱりキョロキョロ辺りを見渡してる。
 でも3週間ぶりに見るあの背中…嬉しい。
 ちょっと驚かしちゃおうっかな?

「だ〜れだぁ?」
 後ろからそっと近づき、えいっと目隠し。
「……アスカだね」
 なんだ、つまんないの。
「だってこんな所で目隠しなんて、アスカしかいないじゃない」
 と言ってシンジは笑いながらこっちを向いた。ま、当たり前か。
「久しぶり、アスカ」
「ドイツへいらっしゃい、シンジ」
 と言って私とシンジは少し見つめあう。
 やだっ、ドキドキしちゃう。
「た、タクシー待たせてるの。早く私の家に行きましょ」
 なんだか恥ずかしくなった私はシンジの腕をつかみ、出口の方へ向かおうとした。
「待ってアスカ」
「え?」
「アスカに会ったら…すぐに伝えようと思ってた事があるんだ」
「な、なに?」
 シンジが私の目を見つめてる。
 顔が熱い。きっと私の顔は真っ赤なんだろうな。
「側にいなくなってやっと分かったんだ、自分の気持ち。僕はアスカのこと…」
 えっ、えっ?
 こ、これってもしかして…。
「好き…なんだ…」

 …………………!!

 言ってくれた。シンジが私の事を好きだって言ってくれた!
 この言葉を聞いた瞬間、私はシンジの胸に飛び込んでいた。
「嬉しい…シンジ…。私も…好き…大好き」
 あれ…?嬉しいはずなのに涙が…。
 や、やだ、止まらないよ。
「アスカ…」
 シンジは私の言葉にちょっとはにかんだような笑みを浮かべ、涙を拭ってくれた。
 そして私達はどちらからともなく顔を近づけ、そっと唇を重ねた…。




「わぁ…アスカの家って大きいんだね…」
「そう?これぐらい普通じゃない?」
 私の家に着いたシンジはその大きさに驚いていた。
 まぁミサトのマンションに比べれば驚くのは無理もないか。たしかにパパがいくつも会社を経営してるから、他の家よりもずっと大きのは確かなんだけどね。
「ほらっ、そんな事いいから、早く入りましょ」
「う、うん」

 最初はおずおずしてたシンジだけど、パパとママと顔を会わせると急にシャンとして挨拶していた。パパとママも私がドイツに帰ってから毎日シンジの事を話してたせいか、彼を大歓迎した。よかった、初対面は最高ね。
 シンジをお客様用の部屋に案内した後、私の部屋に行ったり庭に出たりしてたら、あっという間に夕食の時間になった。好きな人と過ごす楽しい時間ってのは経つのが早いのね。…なんちゃって。

 そしてママが腕を振るって作ってくれた料理を4人で食べる夕食。
 シンジってばすっかりパパやママと打ち解けちゃって、楽しそうに談笑している。3週間会わなかっただけなのに、ずいぶんシンジが強くなったように見える。日本でなにか自信のつく事でもあったのかな?

 楽しい食事も終わり、お茶を飲みながら私の今後の進路についての話になった。
「…どうしても日本で学校に行きたいのか?」
 パパの少し寂しそうな顔。隣のママも同じような顔をしている。
「…うん…」
 2人の顔を見てたらちょっと悲しくなってしまって、私は顔を伏せてしまった。
 あれ?手にぬくもりを感じる。
 シンジ?
 シンジは私の手を握りながら優しく微笑むと、パパとママの方へ視線を向けた。
「ご存知の事ですが、僕らはエヴァンゲリオンのパイロットでした。辛く苦しい闘いの連続で、僕は精神的にも肉体的にもボロボロになりました。…全ての事に絶望し、死にたいと思った事もあります。その時…側にいて僕を支えてくれたのがアスカだったんです。今の僕がこうしていられるのも、全部アスカのおかげなんです…」
 シンジは私の手を握ってる手に少し力を込めると、また話し出した。
「僕はまだ子供で、弱くて、臆病な半人前です。そんな僕の側には、アスカが…アスカが必要なんです。お父さん、お母さん、我が侭を言ってすいません。アスカが日本に帰る事を認めてください、お願いします!」
 シンジはそう言って頭を下げた。
 …シンジ、ありがとう。
「パパ、ママ、シンジはこう言ってるけど、私の方がいつもいつもシンジに助けてもらっていたの。何もかもが嫌になって、自分の事も嫌いになって、心がおかしくなっちゃった時期があったの。その時ずっとシンジが側にいてくれて、私を助けて励ましてくれたの。私がこうしてパパとママに元気な笑顔を見せられるのも…全部シンジのおかげ。ごめんなさいパパ、ママ。私、シンジの側にいたいの…ずっと!」
 パパは私達の言葉に驚いていたみたいだったけれど、やがてにっこり微笑んだ。
「2人は…お互い支え合ってたんだね」
 そう…そうなんだ。
 私達はお互いを支えながら頑張ってきたんだ。私とシンジは…。
「正直、娘と別れて暮らすのは寂しいが、アスカの幸せを考えると日本で暮らした方が良いみたいだな…。碇君、こんなじゃじゃ馬な子だが、娘をよろしく頼むよ」
「は、はい!」
 じゃじゃ馬?パパったらひどい。
「アスカ、良かったわね。こんな素敵で強い人が恋人なんて」
 や、やだ。ママまでなにを言うのよ。

 でも…ありがとう、パパ、ママ…。




 それから数日間、有名な観光地や私の卒業した学校などをいろいろ見てまわったりして、ドイツでの楽しい時間が過ぎていった。

 そして私とシンジはパパとママの見送りを受け、今は日本行きの飛行機の中。
 帰りがけにパパったら「早く2人の孫の顔が見たい」ですって。
 もう、何言ってるのかしら。
 …でも将来、ちゃんと見せてあげるから…。うふふ、なんちゃって。

「ねぇシンジ。こうして並んで座ってると、新婚旅行みたいね」
 な〜んて言って、シンジの腕に自分の腕をからめる。
「な、なに言ってるんだよアスカ」
 あ〜あ、真っ赤になって照れちゃって。相変わらずこういうところはお子様なのね。
 でも…そうゆうところもシンジらしくて好きなんだけど…ね。



 やがて飛行機は無事到着し、最寄り駅で電車を降りた私達は、ミサトのマンションへの道を歩いている。
 シンジは「タクシーに乗ろう」って言ってたんだけど、どうしても2人で歩きたかったの。ごめんね、シンジ。

 ピリリリ、ピリリリ。

 なに?シンジの携帯電話?
「……はい、もうすぐ着きます。…ええ、ありがとうございます」
 シンジは嬉しそうな顔をして携帯のスイッチを切った。
「誰?」
「ん、ミサトさんから」
「ふ〜ん、何だって?」
「みんな待ってるから、早く帰ってきなさいって」
「みんなが待ってる?なにそれ」
「さっきね、空港から家に電話したんだ」
「あっ!私が…トイレ…行ってる時ね」
「あはは、そうそう。それでねアスカと今から帰るから、パーティの準備を進めてくださいって言ったの」
「パーティ?」
「そうだよ。僕がドイツに行く前から、ミサトさんと決めてたんだ。アスカが帰ってくる日はみんなを呼んで帰国パーティをしようってね」
「…そうなんだ」
「加持さんやリツコさん達ネルフの人達、綾波や委員長やトウジもみんな揃って待ってるって。ほら、早く行こう」
 優しく微笑みながら差し伸べたシンジの手に、私はしがみついた。

 …私の帰りをみんな喜んでくれるのね。…嬉しい、とっても嬉しい!



 そのまま手をつなぎながらのシンジと私は、ミサトのマンションに到着した。

 いろいろ辛い事、苦しい事もあったけど、日本に来て本当に良かった。いろいろな人に知り合えたし、親しい友人も出来た。家族の絆を取り戻す事もできた。
 …それに何と言っても、シンジに…碇シンジという人に出会えたんだから…。

 エレベーターを降りると、そこには見慣れたミサトの家の…ううん、私達家族の家のドア。
 私は小さく深呼吸をして、元気にそのドアを開けて言った。

「ただいま!」


 <おわり>




 はぁ、なんとか書き終えました。
 19日の映画公開前に終わってよかったよかった(笑)

 今回は結構ダラダラ長くなっちゃいました。
 まぁ、レイや加持、リツコも出たんでヨシとしましょう(^^;

 毎回同じ書き方だとアレなんで、
 Cパートで初めて、シンジ&アスカの口調(っていうのかな?)で
 書いてみました。
 これは難しいっすねぇ。上手に書ける方々を尊敬しちゃいます、ホント。
 まだまだ俺はクンフーが足らないっすね(^^;

 あと今作は「アスカ好き好きシンジ」「シンジ好き好きアスカ」ってな感じなんで、
 前2作よりもラブラブ度をアップさせたつもりなんですけど…どうかなぁ?


 えーっと次回作はアクセス数から見て、1万ヒット記念SSになりそうです。
 タイトルはまだ決まってないんですが、内容は大体できてます(頭の中で(^^;)。
 相変わらずシン×アスなラブコメです(笑)


 感想なんかをいただけると嬉しいです。
 叱咤激励、なんでもいいんでえびまでメールください(笑)




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