新世紀エヴァンゲリオン  Side Story

かみさまへのおねがい






「ねぇアスカ、今日はどんな事をしたの?」
「えっと今日はねぇ、せんせーに教えてもらったおりがみでお船を作って、それからみんなでお歌をうたったの」
「ふんふん」
「それからねぇ、シンちゃんといっしょにお絵かきして、シンちゃんといっしょにえほんを読んで……んーと」
「ん?」
「んーとねぇ……あ! あとみんなでオニごっこした!」
「その鬼ごっこはシンちゃんも一緒だったの?」
「もっちろんよ! シンちゃんってばねぇ、かけっこおそくてすぐにオニにつかまりそうになっちゃうから、ずっとあたしが助けてあげたのよ」
「ふふっ、そっかそっか」
「オニに追いかけられたシンちゃんがころんじゃって泣きそうになっちゃった時も、ちゃんといたいのいたいのとんでけーってやってあげたんだから」
「あら、偉いわね」
「そしたらシンちゃんはね、アスカちゃんのおかげで痛くなくなったって言ってわらったんだよ! そしたらあたしもすっごくうれしくなって、その後いっしょにおやつを食べたの!」
「へーえ。それにしても、本当にアスカはシンちゃんの事が大好きなのね。シンちゃんはちょっと泣き虫だけど、優しいもんねぇ」
「そ、そんなんじゃないもん!」
「あら、そーお?」
「シンちゃんのことなんて、ぜんぜん、ぜんぜん、ぜーんぜん好きじゃないんだからっ!」

 リビングテーブルで大好きなママお手製のハンバーグにかぶり付きながら、プウっと頬を膨らませている小さなあたし。その向かいにはニコニコ楽しそうにあたしの話を聞いているママ。

 ……………………
 これはあたしが見ている夢。
 小さい頃の……そう、幼稚園の頃の夢。
 ああ、今自分は夢を見ているんだな、と理解しながら夢を見ているというのも変な話だが、事実なのだから仕方ない。
 夢診断って良く聞くけれど、夢を夢と自覚しながら見ているというのはどんな診断結果になるかな。明日ネットで調べてみよう、うん。

 なーんて事を思っていると夢の中の場面は変わり、フカフカのベッドで寝ている小さなあたしになった。

「シンちゃんが転びませんように」
「シンちゃんがハンカチとちり紙をわすれませんように」
「シンちゃんがお寝ぼうしませんように」

 ……小さなあたしったら何を言ってるのかしら!?
 って思い出した。これは幼稚園時代のあたしが毎晩寝る前にやっていた「かみさまへのおねがい」だわ。
 この頃のあたしは、必死にお祈りすれば神様がきっと願いを叶えてくれるって信じてたのよね。うーん、なんて純真無垢な少女なんだろう。ギュッと目を瞑って手まで組んじゃって、我ながら可愛いわね。

「シンちゃんがサツキせんせーにデレデレしませんように」
「マナちゃんやマユミちゃんや、ええととにかくほかの女の子がシンちゃんにちょっかい出しませんように」

 ……………………
 むー、しかし見事にシンジの事ばっかりお願いしてるわね。しかも結構凄い内容。……独占欲強すぎ?
 ま、まぁこの頃からシンジの事が気になる……というか好きだったからしょうがないんだけど。
 だけどこれはママがからかいたくなる気持ちも分かるわね。あたしがシンジに好意を持ってるってバレバレもいいとこだもん。

 とか何とか夢の中なのに変な事を思っていると、小さなあたしは組んでいた手を解いて、ベッドに深く身体を埋めていた。
 そして眠そうな表情でポツリと何かを呟くと、すぐにすぅすぅと気持ち良さそうな寝息を立て始めた。
 ……あ、思い出したわ。
 いよいよ眠りに落ちる前の、最後の「かみさまへのおねがい」は決まってこの事を願ってたんだっけ。

「あしたもシンちゃんと仲良くできますように」

 って。








 翌朝。
 目覚まし時計の軽快な電子音と共にあたしは目を覚ました。

「…………む〜」

 昨日変な夢…というか、夢を夢と自覚しながら見ているというおかしな状況だったせいか、何となくスッキリと目覚められなかった感じ。
 でも乙女にとって朝の1分1秒は貴重な時間。
 お風呂に入ってちゃんと身だしなみを整えなきゃ。あ、もちろんちゃんと朝食も食べなきゃね。

「おはようございます! おばさま!」
「はーい。アスカちゃんおはよう」

 完璧に身支度を済ませたあたしは、いつも通りマンションの隣に住む碇家にシンジを起こしに行った。そして元気に挨拶したあたしを、ユイママがにっこりと迎えてくれる。いつも通りの朝の光景だ。

「いつもいつも、ウチのシンジを起こしに来てくれて悪いわね。本当にアスカちゃんには感謝してもしきれないわ」
「いえいえそんな、もう昔っから慣れっこですから。では早速起こしてきますね」

 と言って勢い良くシンジの部屋のドアを開ける。
 もちろんそこには幸せそうな顔で惰眠を貪っているシンジ姿。これもいつも通りの光景だ。

「こぉらシンジ! もう朝よ、さっさと起きるっ!」
「…………なんだ、アスカか。もうちょっと寝かせて」

 あたしの声に反応して薄っすら目を開けたシンジは、眠そうな目でこちらを暫し見詰めると、こんな事を言って布団を頭から被ってしまう。
 んもー、コイツわぁ。毎朝毎朝こんな感じなんだから!

「駄目に決まってるでしょ。早く起きないと、学校遅刻しちゃわよっ!」
「…うーん。あと5分だけ……」
「もー! ほらっ、起きる起きる!」
「……もうちょい……」

 未練がましくグズグズしてるシンジに頭にきたあたしは、力を込めてガバッと布団を捲り上げる。
 ――と、そこにはお約束のシンジの姿が。

「エッチ! 痴漢! 変態! いやー! もう信じらんないっ!」
「し、仕方ないだろ、朝なんだから!」
「と、とにかく早く起きて着替えるのよっ! あたしはリビングで待ってるからねっ!」

 これが毎朝繰り広げられるシンジの部屋での光景。
 はぁ…。今朝の変な夢なんて、もうどうでもいい感じ。ほんと、シンジってばあたしがいないとなーんにも出来ないんだから。








「……………………」

 その日の夜、あたしはベッドに潜り込みながら今日の事を考えていた。

 昨日あれほど言ったのに、今朝も寝坊してるし。
 あたしの下駄箱の中にラブレターが入ってても、嫉妬するどころか「アスカはモテるね」なーんて言って笑ってるし。
 体育の時間、渚にベタベタされても拒絶しないでニコニコしてるし。
 屋上で一緒にお弁当食べるつもりだったのに、鈴原がお弁当忘れたからって半分以上分けてあげちゃってるし。
 レイに猛烈アプローチされても、いまいち良く分かってないようでキョトンとしてるし。……まぁこれはいいけど。
 掃除の時間では、3バカトリオで騒いでてミサト先生に怒られるし。
 自分のはそっちのけで、風邪で休んでるクラスメートの為に一生懸命ノートをとってるし。
 下級生が不良グループに絡まれてる場面に出くわして、無謀にも止めに入って逆にやられちゃうし。……あ、もちろん不良達はあたしがボコボコにしてやったわよ。
 普通に帰る時や、たまにどこかで寄り道する時だって、いつもあたしが強引に連れ出すだけで、1回も「一緒に帰ろう」とか「帰りにどっかに寄っていこう」なんて言ってくれないし。

 ニブいし。
 鈍感だし。
 誰にでもすっごく優しいしくせに、あたしの気持ちには全然気付いてないし。

 相変わらず、今日もシンジはいつものシンジ。
 やっぱりシンジの中では、あたしは隣に住む幼馴染のアスカってだけなのかなぁ。
 はあぁぁ…。
 ったく、思いっきり溜め息ついちゃうわよ。
 積極的にってのはシンジの性格上無理だって分かってるけど、もうちょっとこう、微妙な乙女心に敏感になってくれてもいいじゃない。

「……………………」

 ふと頭の中に今朝見た夢の事が浮かんだ。

「かみさまへのおねがい、か」

 うーん。
 ……………………
 え、えっと、こんなの小さいあたしが勝手に信じてただけで、一生懸命お願いすれば願いが叶うなんて、今はもちろん思ってないんだけれど。
 ……………………
 でも、ちょっと昔を思い出してお願いしてみちゃおうかな……。あ、あくまで昔を懐かしむだけであって、決して本気でお祈りするわけじゃないんだから!
 ……って、あたしは誰に言い訳してるんだろう。
 ま、まぁ、言うのはタダだし、せっかくお祈りの事を思い出したんだから、ここは久しぶりに神様にお願いしちゃおう。今朝夢にも見た事だしね、うん。
 と強引に自分を納得させたあたしは、目を瞑り、小さく口を開いた。

「シンジがあたしの気持ちに気付いて、ちょっとでも積極的になってくれますように……」








「…………アスカ、アスカ、起きて」
「……うにゅ〜」
「うにゅーじゃないよ。ほら、起きてよ可愛いアスカ」

 うるさいわねぇ、シンジってば。せっかく人が気持ち良く寝てるってのに。
 ……………………
 ……ちょっと待って。
 これって寝ているあたしをシンジが起こしてるの?
 あたしの部屋にシンジが居て、寝顔を見られてるって事?
  ……………………
 それに今、「可愛い」とか言わなかった……?

「――――――――!!」

 緊急事態発生。
 事の異常さに気付いたあたしは、慌ててベッドから身体を起こした。

「やあ、起きたね。おはようアスカ」
「お、おはようじゃないわよ! どうしてあんたがここに居るのよっ!」
「どうしてって…。それはもちろん、アスカを起こしに来たからだよ。僕の愛しいアスカをね」

 なーんて言って、爽やかに笑うシンジ。なんか歯がキラッとか光ってるし。
 っていうか、「可愛い」とか「僕の」とか「愛しい」とか、歯の浮くような思いっきり恥ずかしい単語を連発するんじゃないわよ!

「あんた、シンジの偽物でしょ!」
「そんな訳あるはずがないだろ。僕は僕。碇シンジだよ」
「う、嘘よっ! 寝ぼすけなシンジが早起きして、あたしを起こしに来るなんて絶対、ぜーったい有り得ないもん!」
「いつも起こしてもらったばかりで悪いなと思って、今日は頑張って起きたんだよ。この世で一番大切なアスカの役に立ちたいと思ってね」
「ぼぼぼぼ朴念仁のシンジが、可愛いとか、愛しいなんて言うはずないもん!」
「アスカに対して素直になろうと決めたんだ。僕の本心を素直に伝えたいから、自然とそういう言葉が出ちゃうんだよ。信じてくれる?」

 と言って、あたしの顔を覗き込みつつまた爽やかな笑み。
 喋っている内容や言葉遣いはアレでソレだけれど、姿かたちや声は間違いなくシンジだ。
 ……それにしても今度は「この世で一番大切」だって。
 あああああああ、恥ずかしい! シンジからこんな事を言われるなんて夢にも思ってないから、もう心臓はドキドキしっ放し。顔も熱い!

「も、もう分かったから、ちゃんと起きたから! 着替えるから出てって!!」

 恥ずかしくて居ても立ってもいられなくなったあたしは、声を荒げて部屋からシンジを追い出そうとした。

「オーケー、分かったよ。じゃあリビングの方で待ってるからね。マイハニー、アスカ」

 ……………………
 ま、まいはにーって……。ああ、頭に血が昇りすぎてクラクラしてきた。
 ……………………
 き、今日のシンジは一体なんだってのよ! もうっ!








 学校でもシンジは「これって誰? 本当にシンジ?」という様な感じだった。

「ちょ、ちょっとアスカ! 今日のシンちゃんってば、一体どうしちゃったのよ!?」
「そんなのあたしの方が聞きたいわよ」

 レイが血相を変えてあたしに聞きに来るのも無理はない。いつも通り朝一番から自分にアプローチをかけてきたレイに対し、

「やあ綾波さんおはよう。君のその元気で眩しい笑顔を見ていると、僕の心このも青空のように晴れ渡っていく気分だよ」

 なんて事を言い出すんだもん。

 授業中は活発に発言してミサト先生を唖然とさせるし、体育の時間ではサッカーで次々とゴールを決めてるし。ユイおぼさまの血を引いてるだけあって元々顔の造形はいいから、才色兼備の男性版……ええと、文武両道の美少年って所かしら。

 このおかしなまでのシンジの変わり様。
 ……もしかして、昨日の夜のあのお願いを神様が聞いてくれたのかしら。しかも出血大サービスで。
 そんな非科学的な!とは思ってはいるんだけれど、この状況を納得するにはそんな「見えざる力」的なものを考えなければ腑に落ちないワケで……。

 今日のシンジは正に非の打ちどころがないスーパーマンという風なので、その噂が広まって同級生はもちろん、下級生や上級生の女子からキャーキャー言われること言われること。実はシンジって結構モテるってのは何となく知ってたけど、まさかここまでとは。……正直かなりイライラする。
 でもそのスーパーマンシンジは、キザな口調や女の子慣れしたその様子からプレイボーイになっちゃったのかと思いきや、一途にその……あ、あたしだけが好きみたいだった。

「碇く〜ん、今日あたし達と遊びに行かなぁい?」

 帰り際、クラスでも派手目な女の子数人がこう誘っても、

「誘いは嬉しいけど…ごめんね。僕にはアスカっていう最良の相手がいるから行けないんだ。さ、アスカ、一緒に帰ろう」

 とかクラスメートの前で堂々と言っちゃって。
 鈴原や相田が口をあんぐりさせてる横で、恥ずかしいやら嬉しいやら何やらで思わず倒れそうになっちゃったわよ。幸いヒカリが支えてくれたから、本当に倒れずに済んだけど。

 それで今はシンジと一緒に並んで帰宅中。しかも、あの……シンジが手を差し伸べてきたもんだから、しっかりと手まで繋いじゃって。

 あたしの横で優しく微笑んでるシンジ。
 何故かスーパーマンに変身しちゃったシンジ。
 積極的で、あたしの事を第一に考えてくれて、あたしの事が好きで……。

 ……………………
 程度の差はあれど、自分が「こんなシンジになってくれたらいいな」と望んだ事なのに、胸の奥に感じる違和感。

「どうしたの、アスカ。何か考え事?」
「な、なんでもないわよ」

 シンジは「それならいいんだ」と言って、眩しいぐらいに素敵に笑う。
 それを見てすっごくドキドキするけど……。
 だけど…何か違う……。








 マンションに着いたその足で、シンジはそのままあたしの家に遊びに来た。
 あたしの家もシンジの家もママが仕事をしているから、昼間は誰も居ないのが普通。だからどちらかの家に集まって、夜まで一緒に過ごすのは割と普通のことだった。
 年頃の男女が二人っきりで数時間過ごす…。傍から見たら色々と問題があるのかも知れないけれど、小さな頃からいつも一緒だったあたしとシンジは別に変に意識することも無く、宿題をやったりゲームをやったりして普通に過ごしていた。そう、いつもは。
 だけど今日はちょっと状況が違う。スーパーなシンジに「今日はアスカの家で母さんが帰ってくるまで居させてね」と言われた時は、自分でも滑稽なぐらいオタオタとしてしまった。

「アスカ。僕はアスカのことが好きだ。大好きだよ」

 家の玄関からリビングへ移動した途端、シンジはあたしの腕をしっかり掴んでいきなりこんなことを言ってきた。朝から「可愛い」とか「愛しい」とか「マニハニー」とか言われたけれど、こう面と向かって「好き」と言われるのは自分でも驚くぐらい破壊力抜群だった。シンジに……この目の前にいるシンジに違和感を感じてはいるけど、そんなのお構いなしにあたしの顔はボボボッと音を立てて真っ赤に沸騰してしまう。

「し、シンジ……」

 あたしはシンジが好き。小さな頃からシンジのことがずーっと好き。

「あたしも……シンジが好きよ」

 だから……シンジに見詰められて、自然とこう答えちゃう。

「アスカ、ありがとう。僕の気持ちを受け入れてくれて嬉しいよ」

 シンジは軽く微笑みながら、あたしの両肩に自分の手をそっと添えてきた。ちょっとビクッてしちゃったけれど、あたしはそれに反応してゆっくり目を瞑る。
 このままあと数秒待っていれば、夢にまで見たシンジとの初キス……。

 ……………………
 ……………………
 でも、でも……これはやっぱり違う。
 すぐ側に居るのはシンジだけど、だけど……!

「だ、ダメっ!」

 あたしは顔を逸らし、シンジの身体を軽く押し離した。

「どうしたんだいアスカ? もしかして、照れちゃったのかな? そんなアスカも可愛いね」
「……あたしの知ってるシンジはそんな変な台詞言わない!」
「……………………」
「あたしが知ってるシンジは、寝ぼすけで、鈍感で、ニブくて、いつもボケボケっとしてて、あたしの気持ちに全然気付いてなくて……。でもやる時はやる芯の強さみたいなの持ってて、あとすっごく優しくて……」
「……………………」
「あたしの……あたしの大好きなシンジはそんなシンジだもん!!」








「――――――!!」

 声にならない叫び声を上げながら身体を起こすと、そこはあたしの部屋だった。
 カーテンの隙間から日の光が差し込んでいる室内。ベッドの上に半身を起こしている自分の格好。重たい瞼。喉の渇き。あたしは瞬時に今の状況を理解した。

「……なんだ、夢か……」

 思わず「ふぅぅ」と失望と安堵が入り混じったような溜め息を吐いてしまう。
 しかしヘンテコな夢だったわねぇ。あたしの願いが叶いすぎちゃって、シンジがスーパーシンジになるとか、トンデモすぎる内容だわ。
 う〜ん、こんな訳の分からない夢を見るなんて、あたしったら疲れてるのかしら。美容と健康のために、いつも8時間以上寝るようにしてるんだけどなぁ。
 ……でも、シンジとキス寸前かぁ。あの場面では拒絶しちゃったけれど、シンジはシンジだったんだもんね。ちょっと惜しかったかも。……なーんて。

「アスカ、起きてる?」

 そんなことをぼんやり考えていると、ドアをノックする音と共に聞こえてくるママの声。あたしは頭を軽く振り、ドアに向かって返事を返す。

「あ、うん、もう起きてるよ。すぐそっち行くから」
「あら、もう起きちゃってるのね。シンジ君残念ねぇ。アスカがまだ寝てたら、あの子のだらしない寝相を見てもらおうと思ったんだけれど」
「い、いえ寝相とかそんな。僕はただアスカを起こしに来ただけですから」

 あたしの声を受けて、ドアの向こうでママとシンジが話してる。
 ……………………
 って、なんでシンジがドアの向こうに居るのよ!

「ちょ、ちょっと! どうしてシンジがここに居るの!?」
「そりゃあ、シンジ君があなたを起こしに来てくれたからじゃない。変な子ねぇ」
「そ、そんなの分かるわよっ! あたしが聞きたいのは、いつも起こしに行くまでずーっと寝てる寝ぼすけのシンジが、どうしてあたしより早く起きて、しかもあたしを起こしに来てるのかってことよ!!」

 予想外の事態にあたしの頭の中は軽くパニック。必要以上に大きな声を出してしまう。

「いや、あの、いつもアスカに起こしてもらってばかりじゃ悪いかなーと思って」

 ちょっと照れたような、でも基本的にのんびりしているシンジの声。
 ああ、これだ……。これこそいつものシンジの声。
 ホッとするような、安心するような……。あたしの心の中に、何ともいえない安堵の気持ちが広がっていく。

「さ、シンジ君、中に入りましょ。アスカ、開けるわよー」
「あ、もうアスカはちゃんと起きてますから、いいですよキョウコおばさん。アスカもその、僕に寝起きの姿を見られたくないと思うし……」

 シンジのその言葉を聞いて、思わず寝崩れたパジャマの胸元を慌てて隠してしまう。部屋に入らないって言ってるんだから、見られる訳ないってのにね。

「そう? 相変わらずシンジ君は優しいわねー。じゃ、リビングに行ってお茶をしながらアスカを待ってましょう。美味しい紅茶を入れてあげるから」
「ありがとうございます。えっと、それじゃアスカ、僕はリビングで待ってるからね。お風呂も入るんだよね? 時間はまだまだ大丈夫だから、ゆっくり準備していいよ」

 足音と共に、2人の気配がドアの方から遠ざかっていく。
 ……………………
 ほぅ…っとまた溜め息。
 なによぉ、シンジのくせに。夢の中みたいにあたしを起こしに来るばかりか、妙に気が利くこと言っちゃってさ。
 ……………………
 何だか嬉しくなってきたあたしは、ぎゅううぅっと力を込めて枕を抱き締めた。








 そして朝風呂と朝食を済ませたあたしは、起こしに来たシンジと一緒に学校へと向かっている。
 かなり早い時間にシンジが起こしに来たってのと、あんまりシンジをリビングで待たせるのも悪いと思って急いで支度をしたから、時間的にはかなり余裕がある。
 いつもみたいにバタバタじゃなくて、ゆっくりのんびり学校に行けるのはいいんだけれど……何か変な感じ。

「ったく。今日は朝からいろいろ調子が狂っちゃうわ」
「え、なんで?」
「あんたのせいでしょうが。あ・ん・た・の!」

 と言いながら、シンジの頭をエイヤッとヘッドロック。あ、もちろん思いっきりじゃないわよ。軽くね、軽く。

「あたたた。な、なんで僕のせいなのさ」
「いきなりあたしを起こしに来たりしたからでしょーが。いつもはあたしが起こしに行くまで寝てるのに。一体どうしちゃったのよ、本当に」
「さっきも言った通りだよ。たまには早起きして、僕がアスカを起こしに行こうかなーって」
「……ふーん」

 ヘッドロックを外してあげると、少し痛そうな顔をしながらも照れ臭そうに笑うシンジ。
 うんうん。やっぱりシンジはこういうのがいいわね。夢の中のスーパーシンジより、こっちのシンジの方が何倍もいい。

「なに笑ってるの、アスカ?」

 げ、自分でも知らないうちに思わず嬉しい気持ちが顔に出ちゃったみたい。

「わ、笑ってなんかないわよ! シンジの気のせいよ、気のせい」
「そう?」
「そ、そうよっ!」
「僕の気のせいだったのかなぁ。……あ、そうだ。ねぇアスカ」

 ツンとそっぽを向いたあたしに対し、シンジはそんなのお構いなしといった風に声を掛けてくる。
 も、もう、何だってのよシンジ。こっちは赤くなっちゃってるであろう顔を見られないようにするのに必死なのに。

「な、なによ」
「その、今度のさ、日曜日って何か予定ある?」
「え、別に無いけど……。ど、どうして?」
「えっと、今上映してるあのアクション映画。あれアスカ観たがってたでしょ? もし良かったら一緒に観に行かないかな、って思って」

 ……………………
 こ、これってもしかして……で、デートのお誘いだったりするの?
 カァァァァァァァァ。
 デートって言葉を思い浮かべた途端、思いっきり顔に血が昇ってきた。あああ、顔が熱い! 心臓がドキドキする!

「あの……いきなりこんなこと言って、迷惑だった?」

 ちょっと不安そうな声に慌てて視線を向けると、そこにはやっぱり不安そうな表情のシンジの顔。

「め、迷惑なんかじゃないわよっ! ただ、ちょっとビックリしただけ」
「そ、そう。えっと、それで、返事は……」
「も、もっちろんOKよ」

 そのあたしの返事を聞いて、シンジは「そっか。よかった」とホッとしたような表情を交えて笑った。
 ああ、そうか。一見いつも通りに見えたけど、シンジはシンジなりに勇気を出してあたしを誘ってくれたんだ。

「でもどうして急に誘ってくれる気になったのよ。今まで休日にどこか行くって時は、いっつもあたしが連れ出してたのに」
「うーん、今朝アスカを起こしに行った理由と同じ…かな。いつもアスカの方からばかりだからさ、たまには男の僕の方から行動を起こしてみようと思って」

 少し積極的になってくれた、ってことなのかな?
 そうなら素直に嬉しいんだけれど、今朝あんな夢を見ちゃったせいか、何かちょっと引っ掛かるというか、気になるというか……。

「……ちょっとシンジ。あたしのこと、「マイハニー、アスカ」なんて呼んだりしないわよねぇ?」
「は? ま、まいはにぃ?」
「ププッ」

 口をポカーンと開けて不思議そうな顔をしているシンジの顔を見て、思わずあたしは吹き出してしまった。
 ニブくて鈍感だけど、優しくて、一緒に居るとあたしに安心感をくれて、そしてちょっとだけど積極的になってくれて……。

「やっぱりシンジはこのシンジよね。これが一番!」
「え、なにそれ」
「あんたは分からなくていーのよ!」

 笑いながら空を見上げると、そこには抜けるような青空が広がっていた。








「ふぅ……」

 その夜、ベッドの中であたしは軽く息を吐きだした。
 あ、これは溜め息とかじゃなくて、今日はいろいろあったなぁという満足…っていうのかな、まぁとにかくそんな感じのやつね。
 あのヘンテコリンな夢を見て、シンジが迎えにきて、一緒に学校行って、その途中で映画に誘ってきて……。

「……………………」

 ……うーん、週末の映画のことを考えると自分でも呆れるぐらい顔がニヤけてきちゃう。
 まぁ別に誰に見られる訳でもないからいいか。見られてるとすれば、空の上の神様ぐらいなもんだし。
 ……………………
 神様、か。
 シンジがちょっと積極的になったのって、もしかしたらあたしの願いを神様が聞いてくれたのかしら。

 だけど、もういいわ。
 神様がわざわざ願いを叶えてくれなくても、いつも通りの日々を過ごしながら、ゆっくりとだけどあたしとシンジの仲は自然と深まっていくんだもん。

「……………………」

 でも、やっぱり最後にもう一つだけ「かみさまへのおねがい」。
 あたしは目を瞑り、両手を胸の上で組んでこうそっと呟いた。

「明日も、明後日も、明々後日も……これからもずっとずっとシンジと仲良く、そして一緒にいられますように」




 <おわり>




えびです。最後まで読んでくださりありがとうございました。
って事で、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」のDVD見てテンション上がったので、そのままの勢いで久々に短編を書いてみました。
実はこれ、Gehenで同人をやっていた時に絵師の東田君と作っていた絵本用のネタとして考えてたものだったんです。
諸々の事情でプロットだけ書いてお蔵入りになってたものを、短編として書き上げてみたんですが……むーん。
やっぱ久々に書くといろいろボロボロですね!(;´Д`)
アスカさんの視点で書いているはずなのに、性格というか考え方が何かいまいちアスカっぽくないような…。いやはや、やっぱファンフィクションは難しい。
まぁ学園エヴァって事で勘弁してください;

なんかここ数年、1年に1本ぐらいしか書けてないトホホな状況なので、今年こそはもうちょい書けるよう頑張ってみようと思います。
中途半端な書き掛けとか、プロットだけ書いたのとか、かなーり数だけはあるんで;
またその時は読んでくださると嬉しい限りです。

感想なんかありましたらえびまでお願いします。



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