この作品は「ヱヴァンゲリオン新劇場版:破」のネタバレを多分に含んでいます。
閲覧には十分ご注意ください。

事故防止のため、少し改行します。










































  ヱヴァンゲリオン新劇場版  Side Story

触れ合う時間






「……ふああっ…っと……」

 電気を消した薄暗い部屋の中で、布団の上に寝転がっている僕は、軽く身体を延ばしながらあくびをした。

 アスカが一緒に同居するようになってから数日。
 もと居た部屋を追い出されてこの狭い部屋に移ってきた訳だけれど、住めば都っていうのかな、なんだかもうすっかり慣れた感じがするや。

 慣れた……といえば、この第三新東京市での生活にも慣れてきたのな、僕は。
 今でも好きでエヴァに乗っているって訳じゃない。使徒との戦いで怖くないなんて思えたことは一度もない。
 ……でも、僕らが戦ったからこの街が無事で、クラスメートの皆も無事なのは素直に嬉しいと思う。
 この前の宇宙からやってきた巨大な使徒を3人で協力して倒せた時は、充実感みたいなものも感じた。父さんに「良くやったな」と褒められた時は本当に嬉しかった。

「……………………」

 S-DATがカチリと音と立てて巻き戻り、ヘッドホンからは新しい曲が聞こえてくる。
 父さんが昔使ってたこのS-DAT。トウジとケンスケに「何でこんな古いタイプの音楽プレイヤーを使ってるんだ」って言われたっけ。でも僕には……とても大切なものなんだ。

 そんな事をぼんやり考えていると、ふと頭の中に、ネルフのエヴァ格納ケイジで父さんと会話していた笑顔の綾波の姿が浮かんだ。
 あの時は、綾波ってあんな顔をして笑うんだって思って驚いたっけ。
 ミサトさんが言ってたナントカ作戦……ヤシマ作戦だっけ、あれが終わってから綾波は何となく変わってきてるように思う。
 僕が差し出した味噌汁やお弁当を「美味しい」って言ってくれたり、教室に入ってくる時に「おはよう」って言うようになったり。
 以前の近寄りがたい雰囲気……ってのかな、それが無くなってきてるように感じる。最近では料理の勉強を始めたみたいで、僕を食事会に招待してくれたしね。

 食事会か……。一体何を作ってくれるんだろう。
 他に誰が来るのかな。アスカは呼んだのかな? もしかして僕と綾波の2人っきり……なんてのは無いか。

「……………………」

 アスカは今どうしてるのかな。
 もう寝てる……よね、こんな時間だもん。

 だけどこの僕が、女の子を……その、下の名前で呼んでるなんて、自分でも信じられないよ。
 もちろん彼女が許可してくれたからなんだけれど、名字の式波って呼ぶより、アスカって呼ぶ方がしっくりくるんだよね。どうしてこう感じるのか、分らないんだけれど。
 彼女も僕のことを下の名前で呼んでいる。まぁでも大体「バカ」が名前の前に付いて、「バカシンジ」って呼ばれるんだけど。
 でも「七光り」って呼ばれるよりは全然いいよね、うん。

 ……この間、夜中にアスカがやって来て、いきなり横で寝始めた時はびっくりしたな。
 その、僕ってそういうのに免疫全然ないから……。身体が触れちゃうんじゃないかって、正直ドキドキしっ放しだった。
 でもあの時に初めてアスカとちゃんと話せて、お互いの変な距離感……そういうのが無くなったのはすごく嬉しかった。








「………ふわ〜あぁ…」

 もう一度、大あくび。色んなことを考えてたら流石に眠くなってきた。
 もう寝よう……。
 S-DATを止めて、っと。おやすみなさい。

 身体の向きを変えて、僕は本格的に寝る態勢に入る。
 と、その時――――。

「シンジ、起きてる?」

 ドア越しに聞こえてくるアスカの声。

「え? あっ、お、起きてるけど……」

 ちょっとびっくりした僕は、若干上ずった声を出してしまう。

「あ、あの、どうしたの? 何か用?」
「入るから。あんた、あっち側向いてて」

 質問には答えず、ドアをガラリと開けるアスカ。
 わわわっ!
 僕は反射的に身体の向きをドアの反対側、つまり壁の方へ向けた。

「あたし、今日もここで寝るわ。布団のスペース空けて」
「ええっ!?」

 また寝るって……この前みたいに?
 思わず振り返ってアスカの方を見てしまいそうになったけれど、ギリギリの所で踏ん張った。
 アスカって寝る時すっごいラフな格好してるから、恥ずかしくて見られない……というか、見たらまたキックされちゃうよ。

「え、じゃないでしょ。早くしてシンジ。あたし眠いんだから」
「あ、う、うん……」

 僕が身体を動かすと、アスカは空いたスペースにドサッと身体を横たえた。
 衣服と布団が擦れ合う音と共に、シャンプーなのか石鹸なのかは分からないけれど、とにかく香ってくる良い匂い。思わず僕は緊張して身体を強張らせてしまう。

「もうちょっとそっち行ってよ。狭いじゃない」
「ご、ごめん」

 慌てて身体をズズッとずらす。
 ……っと、ずらした時の反動で、ちょっと手の甲がアスカの太もも……らしき場所に触れてしまった。

「きゃあっ! さ、触んないでよ、もう。バカシンジ!」

 わ、わざとじゃないんだけど……。でももちろん僕は平謝り。
 変な風に身体を動かさないように細心の注意を払いつつ、ちょっとづつ移動して自分の寝位置を定めた。

 とくにアスカは何も言ってこない。
 大丈夫……かな。

「……………………」
「……………………」
「……………フゥ…」

 ……あれ、今アスカ、深呼吸みたいなのしたよね。
 この部屋に来てからなんか口調が怒ってる……というより、ぶっきら棒な感じだし、もしかして僕と同じように緊張してたり……?

「……………………」
「……………………」

 アスカはどうだか分らないけれど、うう、僕は思いっきり緊張してる。  いくら1回こうやって寝たことがあるからって、全然慣れないよ。
 むしろアスカと一緒に暮らし始めて、その生活にも慣れた今の方が、前の時より緊張してる。

「……………………」
「……………………」

 妙な沈黙。まぁ寝るんだから沈黙でも別にいいんだけれど。

 ……アスカと僕の間に存在する緊張感。
 ギスギスしてるって感じじゃないんだけど、この雰囲気に耐えられなくなった僕は、何か喋ろうと頭の中でああだこうだと話題を考える。

「あ、アスカさ」

 僕の声に反応して、アスカの身体が少し動いたのを感じる。

「……今日の弁当どうだった?」
「は?」
「あ、いや、今日の弁当の味はどうだったかなーって」
「……どうして今ここでお弁当の話なのよ」

 確かになぜ今ここで弁当の話題……。
 自分でもなんて間抜けなんだ、って思う。

「……僕も分かんない」

 ちょっと情けない声を出してしまう。
 でもアスカは僕のこの言葉を聞き、一瞬の間の後、プッと笑いだした。

「分かんないって何なのよ、バカシンジ。んーそうねぇ、まぁまぁだった、かな」
「まぁまぁか。それって喜んでいいのかな」
「このあたしが一応褒めてあげてるんですもん、素直に喜んでいいわよ」
「う、うん」
「ま、基本的にシンジのお弁当ってそこそこ美味しいけど、もうちょっと味付けが濃い方がいいわね。その方があたしの好み」
「塩分の摂り過ぎはあまり良くないんだけどな」
「なーにみみっちいこと言ってんのよ。摂り過ぎた塩分は汗をかいて発散すればいいんだから。だから今度から味付けは濃い目にして、コロッケとかにもドバーッとソースかけてよね」
「ど、ドバッと?」
「そうよ、男らしくドバッと。頼んだわよっ」
「あんまり量が多すぎると弁当箱からこぼれちゃうなぁ……。でも分かったよ、何とかしてみる」
「よろしい」

 しかし男らしくドバーッって、豪快というか何というか。
 でも僕の弁当をアスカは美味しく食べてくれてるみたいだから、それは嬉しいかな。

「……………………」
「……………………」

 再び訪れる沈黙。
 だけどさっきまでの変な緊張感はない。
 おかしな話題で他愛もない内容だったけど、話せて良かったな……なんて思っていると、身体の位置を直しているらしい音と共に、アスカの声が聞こえてきた。

「ねぇ、シンジ」
「なに?」
「もっとなんか話してよ」

 うーん、どんな話題がいいかなぁ。
 弁当……ご飯……あ、そうだ。

「そういえば、綾波が最近料理を始めたって知ってる?」

  僕の声に反応して、またアスカの身体が少し動いたのを背中越しに感じた。

「……知ってるわよ」
「食事会を開いて、自分で作った料理を振る舞ってくれるみたいだよ」
「それも知ってる。あたしも呼ばれたもん」
「あ、やっぱり綾波はアスカも誘ってるんだね」
「……………………」
「だけどあの綾波が料理をするなんて、本当にびっくりだよ。アスカが日本に来る前だったんだけど、綾波ってさ……」
「りょ、料理ぐらい!」
「えっ?」
「料理ぐらい、あたしだって出来るわよっ!」
「あ、あの、アスカ?」
「! な、なんでもないわっ、バカシンジ!」

 そう叫ぶと、アスカはタオルケットをグイッと引っ張って、身体を丸めてしまったみたいだ。
 え、えっと、アスカ怒っちゃたのかな。
 でも僕、何か怒らせるようなこと言ったっけ……。全然分からない。
 だけどこのままではまずいと思った僕は、慌てて話題を変える。

「あ、そ、そうだ。この間学校でさ、変なことがあったんだ」
「……………………」
「放課後、屋上で寝転がってた時に、いきなり空から女の子がパラシュートで降りてきて」
「……………………」
「どうも僕のことを知ってるみたいでさ、LCLがどうのとか、匂いがどうのとか」
「……ちょっと」
「あと、ネルフのことも言ったんだよね。すぐ居なくなっちゃったから、詳しくは分からないんだけど」
「ちょっと待って」
「その子、メガネをした女の子だったんだ。それでさ……」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「え? あ、うん」
「それってさぁ、問題あるんじゃないの?」
「問題?」
「そうよ。あんたのことや、LCLのことを知ってるってことは、一般人とは違うってことじゃない」
「うん」
「ネルフの関係者か、それとも別の何か……良く分かんないけど、そんな人間がパラシュートでこの街に来るなんて、どう考えたって怪しいじゃないの」
「あ、そうか……」
「ハァ。ほんっとあんたってバカシンジね。大体パラシュートでって時点で、もう思いっきり怪しいわ」
「ご、ごめん」
「あたしに謝ったってどうしようもないでしょ。だけどこれ、早急にミサトかリツコに報告した方がいいと思うわよ」
「うん。明日言っておく」
「そうしなさい」
「でも、あの女の子、一体誰だったんだろう……」
「知らないわよ。っていうかシンジ」
「ん?」
「あんたさっきっから、女の子の話ばっかりね」

 女の子の話ばっかりって、そんなつもりは無いんだけど。
 あ、でも間違ってない……ね。








 その後も僕とアスカは色々な話をした。
 僕の子供の頃のことや、どうしてこの第三新東京市にやって来たのか、どういう思いでエヴァに乗っているのか……とか。
 アスカも自分のことを少しだけど話してくれた。小さかった時のことや、エヴァに乗る切っ掛けなったこと、今の生活のこと……とか。

 真面目な話から、くだらない話まで、本当に色々と。

「―――それでね、その時ヒカリがあたしに言ったのよ。逆の発想をしてみてもいいんじゃない、って」
「ヒカリ? ああ、委員長の洞木さんか。なるほどね」
「それ聞いてあたし思ったのよ。ああ、こういう風にも考えられるんだなぁって。思わず感心しちゃった」
「すっかり仲良くなったんだね、アスカと洞木さん」
「ま、ね。そっちもいつもつるんでるのいるじゃない。あのジャージとメガネ」
「トウジとケンスケか。でもジャージとメガネって……ちょっとそれ酷いんじゃない?」
「だって名前知らないもん」
「鈴原トウジと相田ケンスケ、だよ」
「鈴原と相田ね。明日も覚えてたら、名前で呼んでやってもいいわ。忘れてたらジャージとメガネ。もしくはシンジも入れて3馬鹿って呼ぼうかな」
「3馬鹿……さらに酷い」
「ププッ。いいじゃん3馬鹿」
「じゃあ僕もアスカを、ええと……ワガママ娘って…」
「な〜んですってぇ〜?」
「あ、いや、うそです。ごめんなさい」

 僕の謝り方が面白かったのか、アスカは声を出して笑った。
 それにつられて思わず僕も笑ってしまう。

「……………………」
「……………………」

 そしてまた訪れる沈黙。
 ふと壁に掛けてある時計を見ると、時間は午前2時半を指していた。

「そろそろ寝ようか。もう2時半過ぎちゃってるよ」
「……そうね」
「じゃあ、おやすみ」

 そう言って僕は身体の位置をちょっとずらし、寝やすい姿勢を取る。
 アスカからの返事は無い。
 もう寝ちゃったのかな?

「……………………」
「……………………」
「……あのね、シンジ」

 アスカはまだ寝ていなかった。
 さっきまでとは違い、小さな声で僕に話し掛けてくる。

「どうしたの?」
「あたし、最近分かったことがあるの」
「なに?」
「今までずっと1人だったし、これからも1人で生きていけばいいって思ってたけど、シンジとこうして話をしたり、ミサトと話をしたり、ヒカリやクラスのみんなと話をするのって……悪くないかな、って」

 この言葉を聞いた瞬間、僕の心の中に……何て言うんだろう、うまく言葉では言い表せないけれど、とっても暖かい気持ちが広がった。

「……僕も同じだよ」
「……………………」
「僕もここに来るまでは1人でいいって思ってたんだ。でもこの街に来て、綾波やトウジやケンスケやミサトさん。それにこうして……アスカと話をできるのって、いいなって思う」
「……………………」

 黙って僕の言葉を聞いているアスカ。

 どうしたんだろう?
 ちょっと気になって、そっと様子を見ちゃおうかなと思った瞬間、アスカが僕の方に身体を押し付けてきた。

「わ、ご、ごめん!」
「動かないで!」

 思いっきり身体が触れてしまったことに驚いた僕。
 謝りながら慌てて身体を離そうとすると、鋭い声でアスカが止めた。

「え、あ、あの……アスカ?」
「そのままで、いいから……」

 小さく呟くような、アスカの声。
 その声を聞いた僕は、ゆっくりと身体から力を抜いて、横たわった体勢を楽にした。

「……………………」
「……………………」

 薄い洋服越しに感じるアスカの体温。
 ドキドキしていないっていえば嘘になるけれど、緊張感よりももっと大事な……安心感みたいなものを感じる。

「……………………」
「……………………」

 身体が触れ合ってからどのくらいの時間が経ったんだろう。
 やがてアスカの方から、すぅすぅと規則正しい寝息が聞こえてきた。

「……………………」

 安らかに眠っているアスカの様子につられ、僕も眠くなって……きた。

 でも本当に……アスカはもちろん、綾波やミサトさん達とこうしてコミュニケーションっていうのかな、触れ合いが持てるのって嬉しいって感じる。
 ……昔の僕じゃ、絶対にこんなこと思えなかった。

 これからも嫌なこと、辛いことはいっぱいあると思う。でも、1人じゃ乗り越えられなくても、誰かと一緒なら、誰かが傍に居てくれれば……乗り越えられるかも…………しれない……。

 そして僕は、触れ合っているアスカの温もりを感じながら、眠りへと落ちて行った。







 <おわり>




えびです。最後まで読んでくださりありがとうございました。

公開初日に「ヱヴァンゲリオン新劇場版:破」を観まして、テンションが高いままこちらの作品を書いてみました。
テンションが高いわりに内容的にいまいちなのは、デフォで作者のスキルが不足しているせいなので勘弁してください;

このお話は時系列的に、レイが料理の練習を頑張っている(アスカがそれをちょっと気にしてる)〜エヴァ四号機の消失、の間ぐらいだと思ってください。
2回目の添い寝があったとしたら、きっとこんな感じでLASだったろう! ……という願望だけの作品です(;´Д`)
しかし、シンジもアスカも性格設定が非常に難しい! 特に式波アスカは突っ込んだ部分の性格描写が少なかったので、普通にツンデレな感じで書いてしまいました;

つーかこうしてSS/FF書くの、最近1年に1本というダメダメなペースになってますね;
何とか今年中にあと1、2本の作品を書けるように頑張り……ます。
劇場版に登場したマリもキャラとしては面白そうなので、今度は彼女を出した短編を書いてみようかなーとか思っております。
無事完成しましたら、また読んでくれると嬉しいです。

感想なんかありましたらえびまでお願いします。



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