Gehen wir!「季節はめぐらず」




季節はめぐらず


By:ふぇいと




それはいつもの光景である。
変わらない暑さにもかかわらず,彼は友と共にそこにいる。
どこか頼りなげな線の細さを感じさせる。慣れた皆でさえうだる熱気を
意識させないような穏やかな空気を振りまくあたり,近しいもので無くとも
彼がそれだけの人間ではない事を感じる。そう,これは何でもない毎日の一欠けだ。

そう遠く無い昔,『それ』は彼にとっては唯一の友人であったかもしれない。
他の何者も彼を癒してはくれなかったから。
望んで一人でいる時間中そばにいてくれたから。

つらいことが多すぎた。
淡い期待は,内心の「やっぱり僕はいらない子供なんだ!」という叫びとともに,
付き合いなれた絶望に取って代わった。
それは彼の最も渇望していたものであったのに。
それまでですら,平穏な日々などとは縁遠かった。
それなのに,神が埋め合わせをしようとすらしなかったのは彼の行いの所為だとでも
言うのだろうか。
その過去が形作ったヒビだらけの心にまた一つ新しい傷がついた。
自分からすら隠しきれないほどの。

彼は崩れ去ろうとし始めたのだ。

そして,彼の人生の中でさして長くも無く,さりとて忘れ様も無いあの時間が始まった。

そう,彼の心はやさしすぎたのかも知れない。
それすら彼の罪だというのだろうか。そう言ったものはいなかった。
だが,彼自身は自らを許せなかった。自分の内に在る優しさすら認めることが出来ずに, それを自分の弱さの裏返しと蔑んだ。
寂しさという当たり前を認められなかったがために。
責められるべきは,彼をそこまで追い込んだ『大人』たち,世界にあまねく悪意の具象としての存在で合ったのでは無いだろうか?

つらいことが多すぎた。
そう述懐できる様な余裕すら持たない彼は,巻き込まれた。
だが,そこは生き地獄でもなかった。友人と付き合う事も覚えられた。期待してくれる人もいた。
それこそ命を懸けて守ってくれた戦友もいた。姉の様に労わってくれる人もいて,戦いに押しつぶされる事も無かった。
忘れられない出会いをした己が半身との出会いもここでもたらされた物であったし。そして…
求めても手に入らなかった『家族』があったから。

『親』の,いや,大人のいないかりそめの安寧は,脆さを晒し誰も幸せにすることが出来ぬまま朽ち果てた。
一時の安らぎも罠への撒き餌に過ぎなかったのか? 子供たちは距離を取れずに摩擦による傷を和らげること無く,
暖かさを知ってしまったが故に一層速度を増して,破滅へ坂を転げ落ちていった。

かつて出会い,表れ方が両極であったものの,そのカタチが似ていたために引き合った二つのタマシイ。
似すぎていたために憎み傷つけ合うことを避けられなかった。しかし,弱さを纏っていたはずの傷ついたココロは,
実は自らを省みず,何も見返りを求めずとも恐ろしい他人にやさしく出来るほどに強く在った。
どぎついまでになっていたのに気づかず,折れそうな自らをを守るために光を放ちつづけ,ついに灼き切れてしまった別のココロ。
纏っていた危うい鋭さの奥に,消えてしまいそうな穏やかで清らかなを光を見ることが出来た。

ついには世界が紅くたゆたうのみとなった地獄の光景。
魂に課せられた試練が心の壁を認めた上で他人を知ろうとする勇気を
学ばせたのかも知れない。
病み衰え痛めつけられていたかもしれないにせよ,そうできる『何か』は彼等のコアたる部分からはからまだ失われてはおらず,
ほんの少しだけかもしれないが大人に近づけた。
同じ物を与えられることを望み,同じ事を求められるのを欲した幼い子らは,それ故に憎みあう事になってしまっていた。
だが,それぞれが一歩を踏み出した時には,相手を自分の持つ全てで癒そうと考えられるようになった。

なぜなら,互いの希望を他の誰よりも理解してあげられたから。

ついでの様に,世界は救われた。

いつもの様に彼は佇んでいる。
絵に描いたような青く,抜けるような空の下である。
『優しげな好青年(非売品也)』などと自身が噂されている事は露とも知らず,彼はとある女子高の校門に彼は寄りかかり,
目を瞑っていた。柔らかな微笑が浮かぶ。
S-DATのイヤホンから聞こえるのは,クラシックだろうか。

外との接触を彼はかつて恐れ,望まぬそれをかわし内なる波を静めるために,
心の壁の形として今と同じ行為をしていたのだろう。その時は微笑みは浮かべ得なかった。
ただ怖れら目と心を閉ざしていた。それは弱さの所為だから。
そんな彼が頼り,縋った友,今ではそれは,彼の中では好きな物の一つであるに過ぎなくなっていた。
しかし,それに口が利けたならこう彼に伝えるであろう。
「素直に好き認められるだけの強さを身につけたんだね, それだけで十分だよ。僕はうれしいよ」,と。

彼は下ろしていたまぶたを引き上げ,空を見上げる。
なぜだかそうしないともったいない気がしてくるほどに,空は澄み渡っている。
ぼうっとしたしばしの後,彼に目を細めさせたのは陽光の強さのか,それが風景に与えた生気に満ちた美しさなのか。
もしくはそれらが思い起こさせた,彼の待ち人の面影であったかもしれない。
いつも曲に混じってくる耳に心地よい呼び声は未だ聞こえない。

ふと,呟きが漏れる。


「…歌はいいよ,ね…」




あとがき

 え〜,ふぇいとと申します。 あちこちでSSを読んでいるうちに,自分もエヴァのコミュニティで 作る側に回りたくなり,頭の中のもやを形にしてみました。

 物語形式の文章を組み立てたことが無かったので,ヌルいのはご容赦ください。 人物の心理を操る自信が無いため,叙事に徹している事からもバレバレですね。 結局,好意に値しないキャラへの当て擦りも入りましたが, 書いた動機もテーマも最後のパラグラフにあります。 この状況では,ちょっと薄味(いわゆるLASの点で)かも知れません…。だめ?

 最後に,掲載を許可してくださったえび様,並びに読んでくださった方に 感謝致します。ありがとうございました。


Geheに初投稿してくださった、ふぇいとさんの「季節はめぐらず」でした〜。
ふぇいとさんどうもありがとうございます!

このふぇいとさんの作品を読み終えた時まず思ったのが、「深いなぁ」って事でしょうか。
詩のような文章の言い回しの中に表現された、ふぇいとさんの描くエヴァの世界。
シンジの心理を語っているであろう文面の中に、苦悩から成長までを描いた、とても「深い」様々な事が込められているような気がします。
ラスト付近の「彼はとある女子高の校門に彼は寄りかかり,目を瞑っていた。」って所なんて非常にいいですね。
もちろんシンジが待っているのは彼女の事ですよね。
こういう風に薄っすらとですがLASの匂いを入れているのもポイント高いです(w

初投稿本当にありがとうございました、ふぇいとさん!
次回作も期待して待ってますよ〜。頑張ってください!



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