NERV本部の司令室では、様々な画面を映したモニターが並んでいた。
「青葉君、避難状況確認システム、ちゃんと動いているかしら?」
「はい、各フィルター間の照合が進んでいます」
ナオコの質問に、青葉は画面を見ながら答えた。
「技術部もやるわね・・・エヴァの開発と並行して、そんなシステム作ってたんだ」
目を丸くしたミサトに、リツコは微笑む。
「ええ、各フィルターにいる避難者を照合して、逃げ遅れた人がいないか確かめようってわけ。
・・・怪我人は出したくないもの」
「随分と至れり尽くせりね」
ミサトは意外な気持ちだった。
「住民全員にも公共施設とかにも指示は徹底してるし、避難訓練もしてるでしょ?」
「そんな想定通りに行ったら、世の中で事故なんて起こらないわよ。
こういう管理をしているからこそ、この街はもぬけの殻にならずに済んでるってわけ」
「制限時間につき、全フィルター施錠!
避難未完了者が2名発生!」
ナオコがエヴァ出撃の指示の方にかかっているため、リツコが青葉の側に行き、モニターを確認する。
彼女の口から、舌打ちする音が漏れた。
「・・・だからって、いきなり役に立ってるんじゃないわよ、このシステム」
X 出撃、第3新東京市
リツコは、小さく肩をすくめると、ナオコの方に行って報告をし、何やら相談を始めた。
加わるべきかと思いあぐねていたが、すぐにリツコは戻って来た。
「救助隊、出すわね」
「それは無理よ」
簡単に提案を却下したリツコに、ミサトは呆気に取られた。
「少しは考えなさいよ、これから戦闘が始まろうって時に、生身の人間を集団で外に放り出すだなんて」
「じゃ、何のための報告システムよ!」
「それは・・・パイロット達に情報を伝えれば、何も言わないよりは手だてがあるってものよ」
この場にアスカがいたら、リツコに「バカァ?!」と叫ぶだろう、とミサトは思った。
「エヴァに乗ってて、せいぜい指先程度の大きさの人間を探しながら戦えって、不可能に決まってるでしょ?!」
「その指先レベルの人間を増やしたら、被害拡大は間違いないわね」
リツコの反論に、ミサトは舌打ちをした。
そこへナオコが近付いて来る。
「大丈夫、何も、あの子達に貴方から話せとは言わないわ」
そんな問題じゃないんですけど。
ミサトは内心で呟いた。
誰が話したところでパイロット達の反応は同じだろうし、その反応を受け止める責任から逃れたくて言っているのではない。
そもそも、3人のうち2人は自分の同居人だ。
ナオコには年の功はあるだろうが、シンジとアスカの心には、自分の言葉の方が響くはずだと自負がある。
「私から、話します」
「貴方自身が納得していないのに、どうやってシンジ君やアスカを納得させようと言うのかしら」
ナオコの苦笑に、ますますミサトは苛立った。
「私が納得してないから、あの子達に共感して話す事が出来ます」
「そう、どうしてもと言うなら任せるわ・・・でもね」
ナオコの顔が真顔に戻る。
「自分が共感している事実が、相手に伝わるとは限らないわよ」
その頃、学校内のシェルターでは、ヒカリが呆然自失の体で座り込んでいた。
「大丈夫だよ、委員長、2人の事は、先生がNERVのシステムで通報してくれたから。
NERVって精鋭部隊だし。」
「どうしてあの時、私、あんな事言いかけたのかな・・・ナツミちゃんの名前なんか持ち出して・・・」
「トウジはきっと、その前から自分が行くって決めてたよ」
「・・・私・・・どうして・・・」
ケンスケの言葉など、ヒカリは耳に入っていなかった。
件の女子達が顔を見合わせ、1人が尋ねて来た。
「ねぇ、ヒカリに何があったわけ?」
ケンスケは、まだ心ここにあらずのヒカリに目をやると、彼女に聞こえぬよう声を落として言った。
「委員長の妹が、家にいるらしくてさ、避難出来てないんじゃないかって話になったんだよ。
で、トウジの奴が・・・あんなことあっただろ、何だかんだで責任感じててさ、様子見に行った・・・ってわけ」
少女達が決まり悪げに顔を見合わせ、視線を下に落とすのを見て、ケンスケは小さな満足を覚えた。
友人の性格を思えば、さっきの出来事があろうとなかろうと、ノゾミの様子を見に行ったと思う。
ただ単に、少し女子連をやり込めたくなって、微妙な言い回しをしたのだ。
天井を見上げて、地上の様子を窺うが、何の音も聞こえて来ない。
好奇心と心配がない交ぜになって、ケンスケは、何とか自分も外に出られないかと入り口近くにそっと移動した。
その瞬間、ポケットに入れた携帯電話が鳴った。
(あれ、まだ使えたんだ)
ケンスケは意外な思いで電話を手に取った。
避難の時は、全ての通信機器に制限がかかると聞いていたが。
この番号は・・・。
「トウジ?!」
「ケンスケか? 今、家着いたんや。
委員長に、適当に窓とか壊すけどすまん、て言うといてくれ」
「あ、もし手が要るならオレも・・・」
ケンスケが言いかけた瞬間に、電話は切れた。
かけ直したが呼び出し音すら鳴らないところを見ると、どうやら制限寸前に繋がったらしい。
「委員長、トウジが、家に着いたって電話して来た。
窓とか壊すからごめん、だってさ。
アイツの家からだったから、ベランダから委員長の家に入る気じゃないかな」
そう、と、ヒカリの顔に、一瞬、安堵の表情が浮かんだ。
しかし、すぐに再び強張ってしまう。
「それでその後って・・・どうなるの?
シェルターって全部、閉じられちゃってるんじゃ・・・」
ケンスケは答えられなかった。
通知機能を備えている以上、NERVで遅れた人を保護してくれるだろうと希望を繋ぐしかない。
「・・・お母さんがいなくなって・・・お姉ちゃんに頼ってばっかりで・・・。
だから、私がノゾミの面倒見なきゃ・・・って思ってたのに・・・」
ヒカリの唇は、強く噛み締められるあまり色を失い、顔全体も血の気が引いていた。
「それに、もし、鈴原に何かあったら、私のせいじゃない・・・。
ねえ、相田君、やっぱり、私、今から外に出るから、何とか先生の気を逸らしてくれない?」
「そんな事したって、今からじゃ逆に状況が悪くなるだけだよ」
ケンスケが、理由を挙げようとした瞬間、遠くから振動音が聞こえた。
NERV本部、更衣室前。
「・・・どういう事よ、コレ」
プラグスーツに身を包んだアスカは、ミサトから渡された紙を見て顔をしかめた。
そこには、鈴原トウジと洞木ノゾミの名前と、避難未完了の大まかな経緯――トウジが隣人のノゾミの救助に向かった旨――が記されている。
「見ての通り、避難未完了者が2名いるわ。
戦いの時には、細心の注意を払ってね」
「エヴァに乗ってて見落としたらどうする気よ!
大体、この前の戦いだって、細かい事は大変だったでしょ?!
さっさと救助部隊行かせなさいよ!!」
「出来ないわ」
やけに冷淡なミサトの言葉に、アスカは食ってかかる。
「訓練受けてる大人がゴロゴロいるじゃない!」
「対人の環境ならね」
ミサトは小さく溜め息をついた。
「今、エヴァと一緒に救助部隊として人員を出したら、彼らが巻き込まれる確率は極めて高いわ。
要するに、負傷者が増える可能性が上がるわけ」
「放っておいたら、アイツら負傷で済むかしらね」
アスカは精一杯の皮肉を込めたが、ミサトは譲らない。
「それは、NERVの人員も同じよ」
「じゃ、何のために非難出来たかをチェックしてるんだか、意味ないわね」
睨みつけるアスカに、ミサトは溜め息をつく。
「アスカ、貴方が彼らの救助を最優先して欲しい気持ちはわかるわ。
でも、アスカが救助に出そうとしている人達にも、それぞれ人生がある。
運が良くないと助からないようなレベルの環境には、簡単に人を送れないわよ。
そもそも、先々の事を総合的に考えたら・・・」
「言い訳はもう要らないわ」
アスカは憤懣やる方ない表情だ。
「ノゾミはヒカリの妹で、それを助けるために鈴原は避難しなかったんでしょ!?
もし何かあったら、ヒカリが一生、自分を責めるじゃない!」
「アスカ、助けるなって言ってないわよ、ただ部隊は出せないってだけで。
とにかく、彼らに気を付けて戦いを・・・」
「無茶言わないでよ!
そもそも、それじゃ何のためにシステムがあるんだかわからないわよ!!」
「少しは落ち着きなさい!!」
ミサトはアスカを怒鳴り付けた。
「頭に血が上ってたら、助けられる人も助けられないわよ?!」
ポケットから街の地図を出すと、ミサトは指で指し示した。
「いい、2人のいる可能性のある場所って、ほぼ限られてるでしょ。
学校から洞木さん家を結ぶライン、時間的な事を考えると、もうほぼ洞木家周辺よ。
人を感知した建物は地下に収納しないようになってるし、遠くからでもわかるはずだわ」
「何で人がいたら地下に行かないわけ?
地下の方が安全じゃない」
「建造物を高速で収納する時の動きに、人が耐えられないからよ」
ミサトは早口で答える。
「その後、1番近いシェルターか学校に向かうだろうから・・・。
この辺りに、使徒を近づけないように誘導して戦うこと。
見つけたら当然、ガードしながらね」
「難しい事を言うわね」
アスカはまだ、刺々しい態度で言った。
「でも・・・それしかないって言うなら、やってやるわよ」
アスカの隣で、それまで黙っていたレイも、こっくりと頷いた。
「・・・で、バカシンジは、まだ準備出来てないわけ?
女子より着替えに時間かかるって、どれだけぼんやりなのよ。
バカシンジー! さっさとしなさいっ、大変な事になってるんだから!!」
アスカは男子更衣室に向かって怒鳴った。
「とにかく、アスカ、準備しましょう」
レイに促され、アスカはエヴァへと向かった。
歩いていくうちに、頭に上っていた血が落ち着いて来たのを感じる。
途中、ふとレイに向かって言った。
「あのさ・・・ありがとね」
レイは不思議そうな顔をする。
それに対し、アスカは、小さく笑った。
「あたし、ずっと自分が認められたくてエヴァに乗ろうとしてたんだけどさ。
今は、友達に笑ってて欲しくて、助けたくて・・・そんな目的が出来たんだよね。
レイが、あの時、みんなで友達になれるようにしてくれて、本当に良かった。
ずっとお礼言いたかったんだ・・・ありがと」
レイは、少し目を伏せて首を振った。
「私がいなくても、アスカはヒカリさん達と友達になっていたわ」
「まあ・・・ヒカリだったら、確かにあたしが転校して来た時点で世話焼いてくれたと思う。
でもね、先に友達になってたから、日本来るの楽しみだったし、やっぱりレイには感謝してるわ」
言いながら、アスカはレイの顔をまじまじと見た。
目の前にあるのは、やけに厳しい表情だった。
アスカの言葉に対する反応としては、明らかに似つかわしくなかった。
「・・・アスカ」
レイは、不意に鋭い目でアスカを見た。
「私に感謝なんかしないで」
呆気に取られたアスカを残し、レイは1人ですたすたと先に行ってしまった。
物思いにふけっていたシンジは、アスカの声で現実に引き戻された。
慌てて、止まっていた手を動かし、着替えを済ませて外に出る。
「・・・シンちゃん、落ち着いて聞いて。
避難が完了してない人がいるわ」
シンジの緊張は一気に高まる。
「しかも・・・シンちゃんが、よく知っている人よ」
ミサトが静かに見せた紙を、シンジは引ったくるようにして目を通した。
そこに記された名前に息を飲む。
何が起きているのか、現実感がまるでなかった。
トウジと気まずく別れてから、2時間も経っていないのに、あれが遠い昔のように思える。
「いい、2人がいる可能性が高いのが、大体この地域。
使徒を近付けないように、ガードしながら戦う、いいわね?」
「はい・・・でも、出来るんでしょうか?」
「出来るか出来ないかではなく、やるかやらないかだ」
ミサトの背後から、低い声がした。
その方に目をやると、父・ゲンドウが立っていた。
「・・・父さん」
「彼らがどうなるか・・・全ては結果でしか判断されん」
ゲンドウは感情を全く含まぬ声で言った。
「でも・・・救助は・・・?」
「アスカも同じ事を言ったわ・・・駄目よ」
「私の判断だ・・・今、ここで訓練された部隊を救助に出すと、確実にNERVの戦力は落ちる」
「戦力って・・・命がかかってるんだよ?」
いつも明るく親切なミサトが救助を否定した事に、シンジは愕然とした。
そして、ゲンドウの言葉も、シンジが想像した以上に冷たかった。
「シンジ君、2人を助けるために大勢を犠牲にするなんて出来ない、司令の判断はそう言う事よ。
『戦力』って一言で言ってもね、大勢の命が集まってるの。
私達の役目は、それを出来るだけ多く守る事よ」
「でも・・・」
シンジはうつむいた。
ミサトの言葉に、反論は出来なかった。
それでも、トウジやノゾミを犠牲にするなんて考えられないし、考えたくもなかった。
「シンジ」
沈黙を破ったのは、ゲンドウだった。
「彼らを助けたければ、お前の自由だ、止めはしない」
僕がエヴァを起動出来ない事を知っていて言うんだから酷い、とシンジは思った。
「助けたければ、自分の力で助けてみろ・・・私は関知しない」
どこまでも冷淡な父の言葉に、激しい反発心が沸き起こる。
シンジは黙ってゲンドウを睨むと、踵を返して歩き出した。
(エヴァに乗る・・・動かす・・・それしかない)
ゲージに到着した時には、既に遠くから振動が聞こえていた。
もう、使徒が来ている。
「・・・3人とも、いいわね?」
ナオコの指示により、3機の最終準備が次々と進められる。
そして、起動。
だが、動きを見せた零号機や弐号機と違い、初号機は今日も反応しなかった。
「仕方ないわね・・・レイとアスカ、2人で出て」
「了解っ! じゃ、シンジはおとなしく見てなさい」
「碇君・・・大丈夫よ、私達に任せて」
ミサトの声と共に初号機以外のエヴァ2機が排出されるのを、シンジは見送るしかなかった。
「・・・何で・・・何で動いてくれないんだよっ!!」
シンジは拳を握り締めて叫んだ。
「頼むから、動いてよ!
僕は行かなきゃならないんだから!!」
使徒が近付く中で、ヒカリの妹であるノゾミを救うためにまだ外にいるトウジ。
トウジとノゾミを心配し、心を痛めているであろうヒカリ。
ヒカリを力付けるのに苦心していると思われるケンスケ。
そんな様子は、容易に想像出来た。
(――助けてくれるって便利な奴だよなァ、お前は)
シンジの迷いは、上級生の声となって頭の中で響いた。
(違う・・・!)
シンジは必死で雑念を振り払う。
エヴァを動かせない自分を励ましてくれたレイ。
何とか遅れを取り戻せるようにと心を砕いてくれたアスカ。
2人にだけ大変な思いをさせるなんて出来ない・・・行かなくては。
《――しなきゃいけないから?
そんな無理はしなくて構わない。
ずっとここにいれば良い・・・ここにいたら安全だから》
さっきと違う、もっと優しい囁きが、心に響く。
そうだ、なぜ自分は無理をしなきゃならないんだろう。
ここに来た時、思ったじゃないか・・・自分を好きでもない人のために、なぜ・・・って。
《――そう、誰がどうなろうと、関係ない》
関係ない・・・構わない・・・本当に?
(違う)
突然、シンジは自分の心を理解した。
(自分が傷付くのは嫌だけど、僕の知る誰かが傷付くのも嫌だ。
行かなきゃならないから行くんじゃない・・・)
迷いはもう、なかった。
「何でもいい・・・何でもいいから動いてよ・・・僕は・・・僕は、みんなを助けたいんだよ・・・っ!
動いて欲しい時に動かないなんて・・・エヴァなんて役立たずだよ!!」
その瞬間、シンジの意識は真っ白になった。
「初号機・・・シンジ君のシンクロ率が、急上昇しています!」
「まずいわね」
マヤの叫び声に、リツコが顔をしかめた。
「ここまで行ったら・・・逆に暴走するかもしれないわ」
「暴走って・・・この細心の注意払って戦えって時に?!」
ミサトは悲鳴のように叫んだ。
「何かあったら、シンジ君は気に病むわ!」
「初号機の排出を止めて」
リツコが指示を出したものの、拘束具やシャッター等、障害となる物はあっという間に破壊され、初号機は外に飛び出した。
追い討ちをかけるようにアスカの焦った声が通信で入る。
「ミサトっ、初号機が、あたし達を追い抜いてったわ!!」
「進路は?」
「使徒に向かって真っ直ぐよ」
アスカは緊張した声で様子を伝えて来る。
「さっき、レイが鈴原達を見つけたわ。
ガードに入ってるから、初号機の影響を受けないとは思うけど・・・」
「早いわね、レイ」
ミサトは感心したように呟いた。
「とにかく、あたしはシンジを追いかけるわ!」
アスカの声に、ミサトも落ち着きを取り戻す。
「みんな、モニターの生体反応を確認して!
それぞれの位置次第では、レイにも戦闘に戻って貰うわ!」
「あ・・・あの、それが・・・」
マヤが困ったような顔で振り返る。
モニターを覗き込んだ日向が、焦った声で報告した。
「生体反応が見えません!
エヴァの位置だけはレーダーでわかりますが・・・」
「そう、それは、生体反応検出システム及び映像システムが働いていないって事ね」
「落ち着いて言わないでよ、リツコ!!」
この状況にしては、やけに平然と言い放つ友人に、ミサトは苛立ちを爆発させた。
「リッちゃん、早くこちらに来て、修復するわよ」
既に作業を始めていたナオコから声をかけられ、リツコも急いでシステムに接続する。
一方、アスカは苛々と走っていた。
「待ちなさいよ、シンジっ!!」
彼の耳には入らぬのを承知でアスカは叫ぶ。
「レイ、鈴原とノゾミは、アンタに任せたわよ!」
「了解」
それにしても、なぜレイは、すぐに彼らの居場所がわかったのだろう?
零号機の方を少しだけ確認すると、遭難信号――白い旗が見えた。
なるほど、と思った次の瞬間、アスカは再び怪訝な顔になった。
(・・・誰?)
旗を持って立っていたのは、銀髪の見知らぬ少年だった。
思わず立ち止まりかけた瞬間、少し離れた場所で派手な物音がした。
急いで目的を思い出し、音のした方に向かう。
「アスカ、初号機は暴走状態よ」
ミサトの声が聞こえる。
「シンクロ率が高過ぎて、このまま行くとシンジ君の体にすごく反動が行くわ。
だからと言って、攻撃対象がなくなっても、破壊活動が起こるかもしれないし」
「どうしろってのよ!」
アスカは苛々と叫ぶ。
良い考えが思い浮かばない自分にも腹が立って来た。
「まずは初号機のケーブルを抜いて。
その後は、初号機と使徒を離れさせて、距離を移動して時間を稼いで」
「ミサトってばバカァ?! ここに飛び込めって無茶よぉ!!」
初号機が使徒に飛び付き、攻撃を連打で加えている所だった。
が、使徒の動きも非常に俊敏で、とても割って入る余地などない。
「ATフィールド中和するとか、遠方から射撃するとか、訓練が全く役に立たないわよコレ!
ボクシングの試合に第3者が割って入ろうってレベルよ!」
「・・・見る限り脚も入ってるから、ボクシングじゃなくて、むしろ総合格闘技・・・」
「レイってば、今それ必要?!」
「私にもわからない・・・」
冷静に見て相当に危険な状況だと思うが、レイはさほど動じていない様子だ。
頼もしく思うべきか苛立つべきか、アスカは迷った。
「とにかく、近寄りにくいから、ケーブル抜くだけでも時間かかるわよ?」
アスカは舌打ちすると、初号機の背後に回ろうとする。
「・・・アンタ達ね・・・少しはあたしの事も気にしなさいよっ!!」
シンジが気付く様子もない事も腹が立つし、使徒が完全に初号機に集中しているのも面白くない。
だが、まずは初号機の電源供給を止め、初号機活動停止後にシンジを守りつつ使徒を倒すのがセオリーだろう。
(大丈夫、あたしなら出来る・・・!)
初号機のケーブルを掴み、勢いよく引き抜いたまでは良かった。
だが、初号機の動きを交わす事を考え過ぎて、不覚にも抜いた時の体勢に気が回らなかった。
「くっ・・・」
さすがにバランスを崩すレベルまで間が抜けた事はやらかさなかったが、戦場に背を向けてしまった。
そして、視界の隅には、ケーブルを失った事で、微妙に重心がずれた初号機がよろめく姿が入った。
次の瞬間、アスカの背中に鈍い痛みが走る。
使徒の関心は弐号機に移っていた。
「しまった、武器が・・・」
ケーブルを抜くのに邪魔だから、一旦撤収していた。
通常なら蹴りでも対抗出来るだろうが、それには背後の敵に向き直る必要がある。
そんな隙を、使徒が与えてくれるはずもなかった。
「バカシンジっ、さっさと立ち上がりなさいよ!!」
聞こえないことをわかりながらも言ってしまう。
だが、初号機は倒れた段階で動かなくなっていた。
攻撃を受け止めるのも、長くは持たない。
「アスカ!!」
ミサトの叫び声がして、アスカは痛みを覚悟した。
しかし、予測した衝撃は、いつまで経っても訪れない。
目を開けると、青い機体が使徒の足を受け止めているのが目に入った。
「・・・レイ?!」
何をしているんだ、と思った。
彼女は、トウジとノゾミの保護に当たったはずだ。
「ぼんやりしてないで、早くして」
言われて急いで体勢を立て直す。
続いて、すかさず零号機に脚を掴まれて動けない使徒に1発をお見舞いした。
その勢いで、零号機の手から使徒の脚が離れる。
「掴まえておいた方が楽だったかも」
「それよりアンタ、何してるのよ、アイツらだけじゃ危ないでしょ?!」
「私が来なかったら、アスカが危なかったわ」
レイは断固とした口調で言うと、銃を構えた。
アスカも、武器を再び手にしようと準備をする。
その時だった。
「シンジ君!」
ミサトの声に、初号機を見る。
紫の機体が、再び立ち上がった。
一見、おぼつかない足取りのように見えたが、すぐにさっきと同じ勢いに戻り、使徒に突進する。
アスカは内心、初号機が突撃したのが自分達でなかった事に感謝した。
初号機の動きは、これまで以上になっていた。
一方、使徒はアスカの一撃で、脚が弱っていたようで、さほど動けていない。
さっきと違って、初号機が優勢に見えた。
「シンジってば・・・!」
最後に動いてズルイ、と言う暇もなかった。
初号機の出鱈目な攻撃が、遂にコアに達したのだ。
使徒サキエルは、活動を停止した。
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<後書きと書いて言い訳と読む>
えびさんから、うちの綾波さんをお褒め頂くたびに、終盤に入った時の反応が今から怖かったりします(遠い目)。
お陰様をもちまして、何とか、第1章の折り返し地点(予定)まで辿り着きました。
それにしても、戦闘描写は苦手っす・・・これがあと何回も続くのか・・・お見苦しいですがお付き合い下さい(大汗)。
とりあえず、大事なのはこの場に謎の銀髪少年がいることなんです・・・が・・・まあ、よく見えたなぁ、アスカ(苦笑)。
そしてサキエル戦名物、初号機暴走。
したわけですが、シンジ君の意識がぶっ飛んでるおかげで、逆に影が薄い気がします・・・(汗)。
アスカとレイが戦力として動けているので、相対的に目立たないですね。
いやまあ、私に文字だけで状況を見せるだけの力があれば良かったんですが・・・ごめんよ初号機(シンジ君じゃないのか)。
ガギエルに比べ、あんまり強くなってない気がするサキエルも、ちと(いやかなり?)不遇かも。
一応、パワーアップはしております。
ナントカの1つ覚えで当初は巨大化していたんですが、エヴァですらデカいのに、それよりデカかったら何ぼ何でも街が廃墟化決定的。
そう思い直したので、俊敏さを上げてみましたが、やっぱり目立ちませんね。
戦略もへったくれもなく、どさくさで倒されちゃったせいでしょうか。
次回、前回のゴタゴタに決着です。