「私には、心が無いわ。だから感情も欠落しているの。」 蒼い色の髪をした少女は、とても悲しい事を言った。 自分が何者であるのか、どんな存在であるのか。 事細かに説明するよりも、それはとても残酷なことだった。 紅い髪の少女と黒い髪の少女はそれを静かに聴くだけ。 と言うよりも、呆気に取られていた。 暑い昼下がり、ワイワイとクラスメイトの活気溢れるお喋りが聞こえるランチタイムにそんな事を急に言われたのだか ら。 蒼い髪の少女、レイは2人の様子を伺っている。 2人から思っていた以上の動きがないからだ。 そこに黒い髪の少女、ヒカリがすっと右手を伸ばしレイの左頬に付いていたご飯粒をひょい、と取ってあげ自分の口に 静かに運ぶ。 そして、続いて紅い髪の少女、アスカがハンカチを持った左手をレイの口元に持って行き、少し汚れている彼女の口 元を拭いてやる。 優しく拭かれているものの、レイは「ん〜」と大げさに少し声を漏らし、目を瞑る。 親にされる子供のように。 2人の作業が沈黙のまま遂行され、完璧に完了された時、アスカがその沈黙を破る。 「アンタ、何訳解んないこと言ってんの?」 「酷い事言うのね。洞木さんは何も喋っていないわ。」 「おもしろいボケをかましてくれるじゃない。私はアンタに言ったのよ?」 「・・・・・・・・・理解しやすいぐらいの言い方だったと思うわ。」 「そーいうことじゃなくて・・・・・!」 この子のことをもう毛嫌いすることはなくなったが、どうしても話の噛み合いが取れず幾度かイライラが頂点に達せら れることもある。 今もその時だ、今更この子が何だろうと気にもしないつもりだし、知ろうとも思わない。 だが、時々こうやって悲しいことを平気で言えるそれが気に喰わないのだ。 「・・・・・・・・・・綾波さんは、私達と一緒に居て楽しい?」 2人の遣り取りを遮る様にヒカリが先ほどのレイの様に唐突に聞き出す。 「・・・・・・・・・解らないわ・・・・。」 「じゃあ、私達が居なくなったら悲しい?」 「・・・・・・・・・解らないわ・・・・。」 「私は綾波さんと一緒に居て楽しい。もちろん、アスカも碇君も相田君も・・・鈴原君も・・・。」 「・・・・・・・・・。」 「綾波さんは、苦手なだけだと思うの。感情を出すことが。 心が無いだなんて私は信じない、だってたまにだけど綾波さんの笑顔を見るもの。」 ゆっくりと語るそれは暖かく優しいものだ。 レイだけでなくアスカもヒカリのその言葉1つ1つに彼女の優しさを感じずにはいられなかった。 「それに・・・、お肉苦手なんでしょ?ちょっと無理があるかもしれないけど、苦手って気持ちも心の感情よ?」 そう言ってヒカリはクスクス笑う。 レイは何だか『肉が嫌い』ということをそういう風に解釈さえるとは思ってもおらず、先ほど言ったことが恥ずかしく思え 頬をほんの僅かだが紅く染めた。 「なら、私からも言ってあげましょーか?」 今度はアスカが話し出す。 すっと椅子から立ち上がり、レイに顔を近付け心の底から本音を吐き出す様に。 「私はアンタが大ッ嫌いだったわ。」 「・・・・・・・・・・。」 「人形の癖に、ただ言われた事をホイホイとこなしていくアンタが。」 「・・・・・・・・・・。」 「でも、今は・・・・。」 すっとレイのおでこに手を這わせ、優しく撫でる様に手を動かす。 「嫌いじゃないわよ、アンタの事。」 そこだけ早口な口調で、ペシッとデコピンをしながら言い放つ。 彼女なりの照れ隠しなのだろう。 「・・・・・・痛いわ。」 「いらぬ十字架を背負ってたから、吹っ飛ばしてあげたのよ。感謝しなさい。」 すりすりと自分のおでこを撫でる。そして考える。 2人にこう言われて自分の考えは変わらないと思う。 それは変えられない真実が決定付けたもの。平たく言えば『運命』だ。 けれども、みんなと居ればその『運命』を忘れられる時がある。 一時の場合もあれば、何日も忘れている事だって。 何時か、何時かは解らないけれども、それを永遠に忘れることが出来るかもしれない。 その気持ちと共にレイの胸に暖かいものが生まれる。 初めてじゃない、その感覚。 「・・・・・・・そう、私にもあったのね・・・・。皆に教えて貰った・・・・、これが『心』。」 表情は何時ものレイだが、2人には喜びと恥ずかしさが入り混じったものを感じる。 「ありがとう・・・・。」 そして、笑顔。 ここからまた始まる。自分としての、何もかもが。 パンッ! 突如、アスカが手を叩き軽快な音を奏でる。 「さて、辛気臭い話はこれぐらいにして、結局アンタは何が言いたかったわけ?」 「そうね・・・、何か意味があったの?」 「あっ」と、今思い出しましたと言わんばかりの表情でレイが話し始める。 「・・・・・私には、心が無」 「アンタ、ワザと言ってる?」 「・・・・・冗談よ・・・・。」 ピクッと2人は、レイが冗談を言ったということに反応する。 これで心も感情も無いと言うのだから、ついさっきのことも今となっては可愛いものだ。 「・・・感情の表現も、人に対しての感情の接し方も苦手な私だけど」 さきほどよりも柔らかくなった言い方である。 それに対して2人は笑顔でうんうんと頷く。 「アスカが碇君を好きだという事に明らかにバレバレなのにまったくバレていないと思っていることと、 それに当の碇君だけが気付いていないというのは凄く不思議に思うの。」 沈黙。 がやがやと騒がしいはずの教室なのに、妙に沈黙という言葉が似合う一角。 だが、その沈黙も長くは続かず唐突に破かれる。 もちろん、アスカによって。 「ア、ア、ア、アンタは、ナ、ナ、ナ、ナ、何!」 真っ赤になっての抗議。 その間、ヒカリはお腹を堪えて蹲る様にして声を出さずに笑っている。 ちょっと目を向けてみれば、3人の近くでお喋りしながらランチを楽しんでいた別のグループの女子もこの話を聞いて いたのだろう、ヒカリと同じ状態だ。 「ヒ、ヒカリ!なぁ〜に、笑ってんのよ!ちょっと、そっちのアンタ等も何が可笑しいのよ!?」 「可笑しいわ、だって人一倍『感情』が苦手な私にでも解るもの。それなのに・・・」 「え、え〜い!何を根拠の無いデタラメ言ってんよ、アンタは!?」 「・・・・・・周りの人の反応を見る限り、私の言い分もそれほど間違いではないと思えるわ。」 「アンタの言っている事が見当違いだから、皆して笑ってるのよ!」 「・・・・・アスカ・・・・」 「何よ!?」 「顔が林檎のように赤いのは羞恥心からくるもの?」 その台詞を聞いた瞬間、リミッターが解除されてしまった。 アスカは両手を伸ばしレイの両頬を掴んでぐにぃ〜、と伸ばす。全力で。 「この!くぉの!」 「いふぁい、いふぁい!」 頬の限界まで全力で伸ばされたとあっては痛くないわけがない。 レイはその痛みに堪えきれず少し涙が出てしまっている。 「アスカ、落ち着いて。」 少し笑いが収まったのか、ヒカリがアスカを押さえつける。 だが、その表情は笑顔というよりもニヤケ顔、まだ『笑い』の余韻は引いていない。 「う〜〜〜。」 やっとのことで頬の痛みから解放されたレイは両手でそれぞれの頬を摩り、今は二次的痛みのヒリヒリに耐えてい る。 「こ、この女はここで殺してやるぅ〜!!」 「アスカ、ちょっと暴れないで!」 流石に本気で暴れるアスカをニヤケ顔で止めれるわけも無く、真剣な表情でアスカを宥める。 だが、一方のレイはまだヒリヒリする頬を摩りながらも、少し影を差した様な暗い表情でアスカをキッと睨む。 「・・・・・酷いことするのね・・・。」 「アンタがー!変な事をー!言うからでしょー!」 「・・・・・許さないわ・・・。」 「はん!何がどー許さないってーの!?」 負けじとアスカもキッと睨み返す。 その瞬間、レイはパッと顔を伏せる。ヒカリや腹を抱えて笑っていた別のグループの女子もアスカの睨みに竦んだか と思った。 だが、次の瞬間にはレイはバッと顔を上げ、いつもの表情ながらも軽い口調でこう言った。 「わったしが♪アっスカが♪イっカリ君を♪好っきだと♪おっもう♪りっゆう〜♪」 これまた突然のレイの発言にアスカを含め全ての者が、きょとんとしてしまう。 だが、それを気にせずレイは続ける。 「その壱〜、とあるお店の前での事。」 するとどうだろうレイがそう言った瞬間、アスカがまたしても顔を真っ赤にしながらレイに掴みかかろうとする。 「アンタ!まさか!」 その鬼気迫る表情はただ事ではないことを物語る。 アスカは瞬時に作戦を練った。 ヒカリの拘束を素早く解き、一気に目標の口を封じる。 伊達にネルフでの訓練を受けているわけではない、これぐらい容易いことだ。 だが 「綾波さん、アスカは任せて。」 さきほどとは違いヒカリの拘束具合が強烈になっている。 そう、ヒカリは感じ取ったのだ。この話の真髄に。 となれば、乙女パワー全開である、乙女はこんな話に目がないのだから。 「ヒカリィ〜、やるじゃない!だけど、そう簡単には・・・」 いかに乙女パワー全開中のヒカリと言えど、1人ぐらいなら何とかなる。 そう、1人ぐらいなら。 「ヒカリ、手伝うわ。」 「こっちもOKよ!」 しかし、戦況はガラリと変わる。 そう、先ほどのレイの爆弾発言で腹を抱えていた別の女子グループが、この戦いに参戦を申し出てきたのである。 理由は言わずもがな、乙女だからだ。 「念には念を・・・。」 「私達が綾波さんの護衛をするわ。」 2人がヒカリの援護、つまりはアスカ拘束組、そして残りの2人が綾波レイ護衛組として戦場に名乗りを挙げる。 アスカは、感じた。 この乙女達は、今ならネルフの黒服でさえ張っ倒す力を持つことに。 「ちょ、ちょっと!マジで止めなさい、アンタ達!後で酷い目に合うわよ!ってか、合わせる!」 「それは、一週間ほど前の、3人でネルフに向かう途中の出来事だわ。」 「無視すんなー!」 「あっつーい!あっっっつーい!」 「毎日、毎日。飽きないでそればっかり言うね。」 「暑いもんは暑いのよ!この暑さなんとかしろー、バカシンジ!」 「『心頭滅却すれば火もまた涼し』、暑いと思うから暑くなるの。要は慣れだね。」 「アスカの無理難題を驚くほど軽やかにかわす碇君が素敵。」 何時まで経っても炎天下。 シンジの言う、『要は慣れ』という事も納得出来ないでもないが、やはり暑いものは暑い。 3人は光る汗を拭いながらネルフを目指す。 いかに使徒がいなくなったとは言え、人類補完計画がこの様な形で終焉を迎えたとは言え、エヴァにはまだ使い道 はある。 それは、戦う道具では無く、子供達が憧れるロボットヒーローの様に。 故に、チルドレンも健在。 そして、それは同時にネルフの健在も意味し、こうして3人は週に1度の実験の為に足を運んでいる。 「シンジィー、せめてあそこの売店でジュース買ってー。」 流石に喉の渇きが限界まで来ていたのか、甘えた調子で懇願する。 「はぁ、解ったよ、解りました。で、何買ってくれば良いの?」 「んーと、アンタと一緒のが良い。」 「ん?僕の?ジュースじゃなくてお茶にするつもりだけど良い?」 「一緒のが良いー。」 「解った。」 こんな遣り取りを聞かされたレイはほとほと不思議で堪らない。 今のアスカの発言は深読みしなくてもシンジに好意を持っているからこその発言としか思えず、されど当のシンジに はまったく通じていないのだから。 「綾波も何かいる?」 「じゃあ、私もいっしょ・・・」 そこまで言いかけてある威圧感に襲われる。 アスカの鋭く光る眼光、それによってだ。 シンジが買おうとしているお茶は自分が好きなお茶でもあって他意は無く、本当にそれが欲しかったにも関わらず彼 女はそれを良しとしない。 「いっしょの売店でオレンジジュース。」 レイの変な言い回しに疑問を持ちながらもシンジは注文されたものを買いに売店へと走る。 その間、2人は近くにあったベンチにちょこんと座り、暑さに耐えながらシンジの帰りを待っていた。 「ふぅ・・・・。」 何時も涼しげな表情をとるレイでもやはり暑いものは暑いのだろう。 ブラウスの胸元をパタパタと仰ぎながら少しでも風を得ようとする。 「あっついなー、もぉー。」 かたやアスカは周りの目を気にしていないのかスカートの裾を持ちバッサバッサと仰ぐ。 その豪快さにレイもある意味羨ましい生き方と思ってしまう。 しかし、幾ら暑いからと言ってこれは流石に行儀が悪い。 注意しようにも自分の忠告を簡単に鵜呑みする相手ではないことは百も承知なので、とある一言を付け加える。 「そんなに行儀が悪いと、碇君に嫌われるわ。」 レイのその台詞を聞いた瞬間、アスカの両手はスカートの裾を離し皺が出来た部分をキチンと正しながら咳払いをす る。 「別に、アイツに嫌われてても私はなーんともないわよ。」 行動と言っていることがアベコベ。 まだバレていないと思っている彼女を可愛いと思う反面、少しイタズラ心も沸いてきてしまう。 レイ自身はその『心』の動きには気付いていなかったが、その衝動を抑えることができず行動へと移した。 「そうね、碇君も、もうあなたのこと嫌いになってるし。」 わざと確定した様な言い方をしてかなり酷な内容にしてみた。 前を見つめる体勢ではあるが、目だけは隣にいるアスカの反応を伺う様にチラチラと動く。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それ、ホント?」 出来るだけ平静を保とうとしているつもりなのだろうが、顔色が悪い。 今まで自分がされたイタズラの数々や、行儀の悪さを直してもらうつもりも込めて更にキツイお灸を据える。 「ええ、碇君から聞いたわ、『アスカなんて、嫌いだー。』って。」 少しキツ過ぎたかと思ったが、どういう反応が返ってくるのかも楽しみではある。 かなりの小悪魔的発想ではあるが、レイ自身それには気付いていない。それはそれで恐ろしいのだが。 チラチラと横目でアスカを見るも表情は何も変わっていない。 想像していた反応の1つも返って来ないことにかなり不思議に思うレイだったが、次の瞬間ぎょっとする。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 それもそのはず、アスカの目から大粒の涙が溢れ零れているのだから。 「アスカ・・・、実は・・」 やっぱりやり過ぎた、と感じレイは直ぐに嘘だったということを告白しようとするがアスカの嗚咽が聴こえてきてそれを 遮られてしまう。 「ぐすっ・・・・・解ってた・・・ぐすっ・・・・、絶対・・・すん・・・嫌われてるって・・・・。」 「あのね、アス・・・」 「・・・・・私・・・何してるんだろ・・・・、ぐすっ・・・・もう死にたい・・・。」 「惣流・アスカ・ラングレーさん、お話をお聞き・・・」 「うええぇーーー、うえぇーーーん!」 さきほどの大胆なスカートぱたぱたと同じように人の目などお構いなしの大号泣。 レイはあまりの出来事にうろたえることしか出来ずにいるが、何とか誤解を解きたいと必死になる。 「お願い、話を・・・」 「うえぇ、もう・・・帰る・・・・うぇえん!」 「アスカ!」 レイにしては珍しく、いや、初めての叫びとも取れる大声を上げ、アスカの耳を自分の話に傾ける。 「ごめんなさい、さっきのことは嘘なの。」 一言、解り易くそれだけを伝える。 あまりにも酷いことを言い過ぎた、これからアスカの大いなる逆襲劇が始まるが自分はそれを甘んじて受けるしかな い。 「嘘・・・・なの?」 「本当にごめんなさい。」 すっとハンカチをアスカに手渡し、どんな罰が下るのか判決の時を待つ。 だが、また予想を裏切ることが起きる。 「良かったぁ・・・、本当に良かったよぉ・・・、ぐすっぐすっ。」 ハンカチで涙を拭きながら歓喜の声を上げるアスカ。 その喜びが大きいのか、自分には何の罰も下らない。 「あの・・・、ごめんなさい・・・。」 「いいの、結局のところは私がしてきたことが悪いんだし。」 それは、好きなのに好きと言えない、そして逆に相手を虐めてしまう、それを認めているが故の許しなのだろう。 「どうかしたの?」 きょとんとした表情で3本の飲み物を抱えながら、シンジが戻ってきた。 「別に。ただ目にゴミが入ったからファーストにハンカチ借りただけ。」 「でも、なんか大泣きした感じだよ?目元なんか凄い赤いし・・・。」 「なんでもないったら。」 何でもないと言われればそれ以上、深く聞き出すことも出来ず取りあえずはそれで納得したのかシンジはアスカとレ イに飲み物を渡す。 プシュッとプルタブを捻る音が爽快に聞こえ、直ぐに飲み物が喉を通る音が木霊する。 「プハーッ、おいしー。」 「あんまり一気に飲んじゃったらお腹に悪いよ。」 立ち直り、というか直ぐに表情がコロコロと変わるアスカにレイはそれが羨ましくも思えた。 だが、先ほどのことはやっぱりやり過ぎだ。 アスカ自身、泣いたということを知られたくないのかもしれないし、自分の為にそれを隠してくれたのかもしれない。 それを踏まえた上でレイは小声でアスカにもう一度だけ言う。 「ごめんなさい。」 返事はなかったが、変わりに可愛らしいウインク。 改めてほっと胸を撫で下ろす。 そして、改めて思うのがアスカがどれだけシンジに対して深い好意を持っているのかと。 まさか、号泣するほどとは思ってもみなかった。 しかし、それも彼女だからこそ。そう思える気持ちもある。 ただ、今回の自分の過ぎたイタズラは悪いことだったとは言え、これでアスカもシンジに対して少しは素直になれるか もしれない。 そういう意味では、やって良かったと思えなくもない。 レイとしても2人が結ばれることは幸せなことだ。 特にこの2人はお似合いなのだから。 その幸せを感じる日もそう遠くないと感じたレイは右手に持つオレンジジュースに口をつけようとした。 「あ、言っとくけど」 その一言で目線だけアスカに向け、構わずオレンジジュースを喉に流し込もうとする。 「コイツのことなんて、なんとも思ってないんだからね!」 満面の笑みで、シンジの首元に腕を回すアスカを見て、レイはオレンジジュースを落とすことしかできなかった。 「まさに『度肝を抜かれる』とは、あのことね・・・・。」 「アスカぁ〜、それだけのことしといてバレてないとでも思ったわけ?」 「な、なぁ〜〜にが!?別に本当になんとも思ってないからそう言ったのよ!」 「『嫌い』って思われてるかもしれないってだけで号泣したのに、まだ言うか・・・・。」 「それにしても、アスカが泣くなんて・・・、おっとめ〜♪」 「う、嘘よ、嘘!今言ったことぜ〜んぶ、ファーストのデタラメなんだから!」 「それだけ碇君を好きってことなのねぇ。」 「嘘だってば!」 「もう、『愛』って呼べるほどじゃない?」 「嘘だっつ〜の!」 「で、綾波さん?もちろん、まだあるわよね?」 「ええ・・・、その弐〜、ネルフでの事。」 「おーい!?」 「これは、リツコさんから聞いた話・・・。」 「とことん無視!?」 湯気が立ち込めるカップ。 熱くも無く温くも無く、程よい熱を持ったそれは彼女の喉を通るたび、澄んだ苦さを与える。 「それで?」 「え?」 猫の置物、と言うよりも猫に関するグッズがたくさんと並べられている机を直視していたアスカは、咄嗟にリツコの返 事に反応しきれずにいた。 「結局どうしたいわけ?」 「あ・・・、えーとね、まぁ、人類の宝とも言える超ハイパーテクニシャルコンピューターの『MAGI』なら、きっとなんでも 出来るだろうなー、と思って、その・・・」 「別にテクニシャルじゃないわよ。」 「それだけ凄いって意味よ。で、そのなんでもできちゃう『MAGI』なら『恋占い』とかもきっとできちゃうんだろうなー、と 思って・・・、その、興味本位で、ここにきたわけだけど・・・。」 「はぁ」とリツコの口から壮大な溜め息が漏れると少し怒り染みた感情を言葉にのせる。 「あのね、『MAGI』は遊び道具じゃないのよ?ただでさえ、争いの火種に成りかねないものなのにそんなことでイチイ チ使って・・・・」 「あ、やっぱりできないんだ。」 「十分ほど待ってなさい。」 「やっぱりできない」という言葉にカチンと来たのだろう、自信作とも言えるそれを貶す言葉は断じて許すわけにはい かない。それが『母』が造ったものにしろ、だ。 カタカタとキーボードを打ち続け、「ENTER」キーをポンッと押す。 「なんかエラーでてるけど?」 「・・・・・・・エラーじゃないわね・・。」 「じゃあ何?」 「『否決』。『MAGI』がそれを使うのを良しとしなかったわけ。」 「やっぱり無理?」 「・・・・・反対したのは『科学者としての母さん』ね・・・。」 スチャッとどこからとも無くマイクらしきものを取り出す。 「・・・・・こういうことが大好きだった、『女としての母さん』を引き出すまでね。」 そう言うと、リツコはそのマイクに対して実に親しく話しかける。 「こういうこと好きじゃない?」など「私の時にもいろいろしたじゃない。」など。 一方的にただマイクに語るだけなのだが、それだけで意外にも片は付く。 ディスプレイに映されていた『否決』の文字が消えたかと思うと、デフォルトされた可愛らしい動物のキャラクターや多 種多彩な花模様が散りばめられたピンク色の背景が現れ、真ん中には大きい文字で『乙女の恋占い』と表示され る。 「じゃあ、まずは女性の名前から。アスカで良いの?」 「もちろん。」 「惣流・アスカ・ラングレー・・・っと。で男性の名前は?」 「加持リョウジ。」 しれっと言うアスカをじっと見つめるがそれ以上何も言わないので黙って入力する。 「結果、出たわよ。『相性はそれほど悪くないわよ。でもちょっとラブラブ感が足りないかも?お互いに好意はあるけど それは恋愛の感情じゃ無い感じ。この愛、貫く?でももう三十路だもんね。頑張れ、リッちゃん!』・・・って私じゃない わよ。」 最後の部分だけマイクに向かって話すリツコ。 「どう、これで満足?」 「んー、なるほどなるほど。『相性が悪くない』ってことは、まだいける可能性もあるってわけね。」 この結果を見てアスカはご機嫌になる。 と、本人はそうであるつもりであったがもはや心ここにあらず、リツコにはまだ続きがあるのは明白であった。 「じゃあ、もう終わ」 「ああ、ついでだから」 ほら、きた。と心の中で苦笑する。 「まだあるの?次でラストにしてね。」 「はいはい、ついでだからあの馬鹿との相性も調べといて。」 「あの馬鹿?」 「シンジ。」 「ああ、はいはい。」 解っていながらワザと惚ける。つっけんどんに言い放つアスカの頬が紅くなるのを見たいが為に。 「えーと、『最高の相性よ!何をとってもラブラブゥー!貴方が居るから私が居る、つかず離れず、お互いになくてはな らない存在って感じかしら?100点満点の太鼓判!もう三十路なんだから、この相手離しちゃ駄目よ、リッちゃ ん!』・・・・だから私じゃないって。」 またもマイクに向かって話すリツコ。 「で、これで満足?」 そう言いながらアスカの方を向く。 だが、アスカはその言葉が聞こえていないのかポッーと頬を紅くしたまま言葉通り心こころあらずになっている。 「アスカ。」 「え?・・・・あ、ま、まぁ、一緒に同居してる仲だし、これぐらい相性が良くないとねぇ。まあ、ラブラブってところが許せ ないけど。」 幸せ一杯といった感じの満面の笑み。 それを見たリツコはこれでミサトとの酒の摘みはこの話題に決定と心の中で思う。 「それじゃあ、私はまだ仕事があるから。」 「あ、うん。アリガト、リツコ。」 椅子から立ち上がり、アスカは部屋の出口へと足を動かす。 だが出口へと向かう途中、はっと何かを思いついたのかアスカはくるっとこっちに向かい直す。 「あ、さっきの結果、プリントアウトしてくれる?」 ぶっと拭き出しそうになるのをぐっと堪える。 ここまで言っておきながら本人は好きということを認めないのだから。 「はいはい!後で持って行ってあげるわよ。」 それを聞き、安心したのか何も言わずに笑みだけを見せアスカが部屋から出て行く。 「まったく可愛いものね。」 椅子に凭れ掛かり、目を瞑り可愛い子供達のことを思い浮かべる。 ふふっと笑みが零れるが、まだこの『恋占い』騒動に終止符は打たれていない。 それを実行するためにリツコは動く。 「さて、と・・・・。」 どこからかディスクを取り出しそれをPCに挿入する。 「母さん、三十路のことは触れるべからずよ!」 『MAGI』お仕置き用のプログラム、中身は微弱なウイルス。 だが、文字通り『MAGI』にしては風邪をひくようなもの。いや、『母』にすれば、か。 「微弱ながらもプログラムしたのは私だから、私にしか排除できないわよ。」 嬉々としてそれを流し込むリツコ。それを止める様に『MAGI』からの警告メッセージが届く。 それは必死に謝るとある科学者のデフォルトされたキャラクターと共に。 『許してよー、リッちゃん!』 「あれだけ『恋占い』のこと馬鹿にしてたのに、アスカったら・・・・。」 「でもさぁー、それがアスカの良いとっこっろっ♪ってわけよねぇ。」 「ちなみに、リツコさん曰く『占いの結果は肌身離さず持っているわよ』とのこと。」 「うっわー、もうアスカ可愛すぎー!」 「もう・・・あの・・・勘弁して下さい・・・。」 「で、綾波さん?続きは?」 「・・・・・・・其の参〜、葛城家での事。」 「あ”あ”あ”あ”あ”」 「これはミサトさんから聞いた話・・・。」 夕日が周りを紅く演出する午後の日曜日。 ミサトはご機嫌で「ふんふ〜ん」と鼻唄交じりに玄関の扉を開ける。 「たーだいま。」 返事が無いことに、2人は出掛けているのだろうと思い、靴を脱ぎながら続けて鼻唄を奏でる。 「ふんふふ〜んふふ〜ん♪」 ところがリビングを見てみると背中を向けた赤毛の少女が女の子座りでちょこんとそこにいるではないか。 「ただいま」という台詞が聞こえなかったのかな?と思いつつミサトはもう一度、その少女に対して言葉を投げかけ る。 「アスカ、たーだいま。」 だが、その言葉にも返事は無く、代わりに少女は口元に人差し指を持ってきて『お静かに』と言わんばかりの表情 だ。 ミサトは始めそれに対しきょとんとしていたがアスカの膝元を見て理解できた。 「なるほどね。」 小声でそう言ったミサトの台詞に対し、アスカはこくんと頷き、膝で眠るシンジの頭を優しく撫でる。 「おやまぁ。」と心の中でニヤリ笑い、自分の部屋に入りラフな格好に着替えて冷蔵庫からビールを静かに取り出し椅 子に座る。 「それで、どーしてそうなったのかなぁ?」 嫌らしく、プラスしてオヤジ臭い口調で聞くその姿は口調だけでなく正にオヤジ。 何時もの悪い癖みたいなものが出ているのだが、アスカは気にしない素振りで答える。 「別に。ただなんとなくこうしたかっただけ。」 その台詞から、彼女が独断でその行動に移ったのが解った。 ただ、うろたえもせずに答えることに、少しばかり面白みが無いと思ってしまう。 「たまにはお摘みにあまーいものも良いものね。」 先ほどの表情とは違い、大人の女性の柔らかい笑顔がそこにある。 少女は少年の顔をずっと眺め、女性はその2人をじっと眺めている。 「ミサト、そこの団扇取って。」 暑いのだろうか、そう言われて団扇をアスカに渡しながらふとあることに気付く。 「暑いならクーラー付ける?」 手渡された団扇を自分ではなくシンジにゆっくりと扇ぎながら首を横に振る。 「体に悪いわよ、寝てる時にクーラーは。」 少年の体を気遣ったその言葉に「おやおやまぁまぁ。」と心の中で驚き顔。 「それに、自然の風を感じるのも良いもんよ?」 「あら、言うわねぇ。」 「コイツの受け売りだけどね。」 コロコロと笑いながらアスカはシンジに目線をやる。 確かに、その子ならそういうことを言うだろう。 作りものによる風ではなく自然に吹かれるそれは、どこか優しさを感じ安らぎを与えてくれる。 ベランダの窓から吹かれる風がその証拠だ。 「あれ?その風鈴どうしたの?」 今の風で、小さく「チリリン」と鳴ったそれ。 昨日まで存在していなかっただけに気になる。 「コイツが買ってきたみたい。」 「へぇー、さっすがシンちゃん。風流よねー。」 「あ、シンジと同じこと言ってる。年寄り染みた2人ねー。」 「日本人の『心』よ、『心』。」 「ふーん。」 取り留めて何も無い会話。 だが、吹き抜ける風と相成ってそれはどこか気持ちよく懐かしい感覚を与えてくれる。 「それにしても、これだけ可愛い寝顔だとイタズラしたくなっちゃうわねぇー。」 すっとアスカの隣に座り、膝元のシンジの顔を眺めながらポツリとそう言う。 「ミサトってそういうところがまだまだガキ臭いのよねー。」 「五月蝿いわねぇ。」 「それより、デートどうだったの?」 「別に、可も無く不可も無くって感じ。」 「の割には鼻唄でチョーご機嫌だったじゃん。」 「ホンット五月蝿いわねぇー。」 2人して笑顔で、そして小声で語り合う。 それは似ていないようで良く似ている姉妹の様だ。 「あら?アスカもデートだったの?かるーくルージュなんかしちゃってさ。」 「べっつにぃー。」 その不満そうな様子から察するに、シンジにどこか連れて行って欲しかったにも関わらず何も言えずに結局家の中で ごろごろしていたというところか。 「ううっ、まったく不憫な子だわ・・・。」 「何よソレ。」 「に、してもやっぱりイタズラしたくなっちゃわねぇー。」 「もぉー、やめなさいよ。そういうのは若いうちに卒業するもの。」 「アスカだってしたくなるでしょー?」 「べっつにぃー、そういうのはわたくし卒業致したものですから。」 「ちぇっー。」 そう言いながらもう一度シンジの寝顔を見る。 と、あることに気付いた。 シンジの唇のところにほんの僅かだが、薄いピンク色の塗料らしきものがついていることに。 どこかそれは拭き残しという印象を感じる。 そして、もう一度アスカの顔を見てみる。 何故か、ぷいっと顔を背けるアスカ。 そんなアスカの顎に手をやり無理やりこっちに向かせるとミサトはバラが咲き誇るような笑顔でこう言った。 「何をした?」 拭ききれなかったことと、相手が相手であるというのに気付かれないと思った自分の浅はかさを呪うアスカであった。 「・・・・・・・『後はご想像にお任せするわ』とのこと。」 「きゃー!きゃー!だっっいたーん!」 「接吻ね!?接吻なのね!?」 「ねー、ねー、綾波さんもっと他にはないのー?」 「まだまだあるわ・・・・次は・・・」 次の暴露話に進もうかと言うところで遂にアスカが耐え切れなくなってしまう。 「うわあああぁーーーん!」 大号泣である。 「うえええーーーん!うえーーん!」 「ちょっ、アスカちょっと声がおおき・・・」 「なによぉー、別に、ひっく、私が何しようが私の自由じゃなーい!うわーん!」 クラスメイトがいる教室ということも気にせずアスカは泣き叫ぶ。 もちろん、この騒動に気付かぬわけがなく他のクラスメイトもどうしたものかと、近寄ってくる。 「どーしたの?」 「アスカが泣くなんて・・・。ちょっとー、アンタ達なにしたのー?」 「ヒカリも一緒に虐めてたんじゃないでしょうねー!?」 「惣流さん、どうしたの?」 「アスカさーん、何かあったんですか?」 アスカを泣かせたヒカリ達女子一向は何とか誤解を解こうと他の女子に事情を説明する。 もちろん男子にはこの話はしない。乙女だけの秘密だ。 「はいはい、男子は向こうへ行く!」 「え?なんだよ、それ。何で泣いてるか気になるじゃん。」 「うっさい、ゴー!」 男子を跳ね除ける女子。 かと言ってそれを甘んじて受けるわけにはいかない。 なんせあのアスカが泣くという大事件である。気になるものは気になる。 おまけにやけに邪険に掃われるとあっては怒りの感情も込上げてくるものだ。 くるものではあるが、話を聞いた女子全員は乙女パワー全開である。 そんな途轍もないオーラを纏った彼女達に勝てるわけも無く、男子達は教室の片隅へと追い遣られる。 だがそれだけのオーラを放っている彼女らに対し、反旗を翻す鈍感な愚か者もいるのも確かである。 「ちょっと、待てよ!そんな言い方され」 そんな輩には鉄拳制裁。 目にも留まらぬ速さでその愚か者の顔面にパンチを決め教室の床へと沈める。 「そいつを引っ張っていきなさい!」 ぐるぐると目が回っている愚か者の左手と右手をそれぞれの男子が引っ張り端っこへと戻す。 「愚かだな、お前。」 「ああいう時の女子は最強だって。」 その光景を見ながら女子はフン!とざまぁみろと言わんばかりの鼻息を鳴らし、近くに男子の姿がないのを確認して からできるだけひそひそと静かに話し合う。 「ほーら、アスカー。もう泣かないでー。」 1人の女子がよしよしとアスカの頭を撫でながらあやす。 しかし、それでもアスカはまだ目に涙を溜め、しゃくりながら抗議の声を上げる。 「ひっく、なんでみんなで虐めるのよ・・・。」 「被告人洞木ヒカリ、弁論は?」 「いや、そのぉ・・・アスカって可愛いし頭良いし・・・そのぉ・・、そういうことでもいいから何か1つ優位な立場になりい なぁー・・・と・・・。」 「もっと簡単に言えば『弱みを握りたかった』・・・かな?」 「で、更に言えばそれでデザート奢らせるつもりだった・・・・かも・・・。」 アスカを泣かせた当の本人達は言い訳の『い』の字にもなっていないことを口走り他の女子から白けた目で見られ る。 「ぐすっ、なによ・・・・ヒカリ達の方が私より綺麗だし可愛いし性格も良いし・・・・ひっく・・・元々私より優位な立場じゃ ない・・・。」 突然、いつものアスカからは到底口にされない本音がでてくる。 それは、彼女達にとっては驚くべきものとしか言い様のないものである。 「えー!?アスカって私達のことそんな風に見ててくれてたんだー!」 「ねーねー!?私はー?」 「ぐすっ・・・・・私より・・・可愛い・・・。」 「じゃ、じゃあ私は?」 「・・・・・私より魅力的・・・・。」 「やーん!今のアスカ可愛いー!」 「意外よねぇー、なんかアスカって高飛車って感じでちょっと見下してると思ってたのよねぇ・・。」 「ううううううう、うえええ・・・。」 「こりゃ!」 ベシッと失言してしまった女子にチョップ。 「失敬・・・・。」 やいのやいのといつの間にか盛り上がる女子勢。 そして蚊帳の外で部屋の隅に追いやられる男子勢。 このまま奇妙な図により、昼休みが過ぎ去るだろうと思っていたが、当然ながら自分のクラスに戻ってきたあの人物 により事は更に動き出した。 「なんや?女子と男子できっぱりと境目ができとるなー。」 「みんな、どーかしたの?」 「なんか男子だけえらく疲れきった表情だな。」 その声に敏感に反応したのは女性勢であった。 言い方としては間違っているが事の発端に彼が関与していないとは言い切れない。 そこで1人の女子が目当ての彼をちょいちょいと手招きしながらこっちに呼び出す。 「碇君、碇君。こっちこっち。」 「ん?何?」 のほほんとした表情でスタスタとこっちに歩み寄るシンジ。 その間にシンジを呼び出した女子がアスカに耳打ちする。 「アスカ・・・、今回のことで女子のみーんなに弱み握られちゃったわよ?そこで、私がアスカの為に一石二鳥のみん なより優位に立つ方法と弱みを握られたことにならない方法を伝授してあげます。」 「ぐすっ・・・なに?」 「そ・れ・は・・・・・・告白しちゃえ。」 その台詞の一瞬の間の後、女子の集いから「きゃー!」という歓声が上がり気のせいでもなく教室が揺れる。 その怒涛の声に、シンジは少したじろいてしまう。 当然のことながら言われたアスカは顔を真っ赤にして泣くことさえ忘れるほどの衝撃を受けてしまった。 「む、む、む、む、無理無理無理無理!!」 「あらー、一番の手だと思うわよ?」 「そうよねぇー、考えたら今聞いた話を碇君に話して気持ちがバレてしまうという最悪のケースにならないとも限らない わねぇ。」 「仮に成功すれば、このクラス初の彼氏持ちになるしねぇ。」 「更には、どんだけ茶化されてもらぶらぶぅ!な関係でいられるしねぇ。」 「でも、私からなんて・・・・。」 「駄目よ、アスカ!乙女は、乙女は戦う宿命なのよ!」 「そう、待ってるだけじゃ駄目なの!こっちから攻めるのよ!先手必勝!後手必衰!」 「どーでもいいけど、碇君のこと好きって認めてない?」 「シッ!」 こう言われて「はい、頑張ります」などど事が上手く運ぶことなどない。 しかし、相手は乙女パワー全快の女子。しかも複数。 いかにアスカと言えどそのパワーに圧倒され洗脳されてしまっていた。 「が、頑張る!」 「そう、その意気よ!はい、深呼吸。すーはー、すーはー。」 そんな遣り取りを遠目から見つめるシンジ。 いつの間にか近づき難い雰囲気となっており、何時行っていいのか判断に苦しんでいた。 「はーい、碇君じゃあこっちに・・・」 「さっきから何しとんのや?」 「はーい、カメラ回ってますよー。スマイルでお願いしまーす。」 シンジの傍らにいる俗物2人。 刹那でその2人を沈黙させ、男子にそれを運ばせる。 「脱落者ゾーンへ、ようこそ。」 「お前らも愚かだよなー。」 そんな光景を目の前で見せられ、冷や汗をかくことしか出来ないシンジであったが改めて呼び出されると恐怖しなが らも足をそちらへと向かわせる。 「じゃあ、碇君。アスカの対面に座ってくれる?」 「・・・う、うん。」 ぐるりと女子に囲まれ、何か自分は悪いことをしたのかと泣きたい気持ちになってくるシンジであった。 ガタガタと椅子を引く音。 アスカの耳にはそれだけのことでも緊張感が一気に高まる。 どきどきと胸が早鐘を打つ。 それは今までに感じたことの無い感情。 EVAに乗る時でさえ感じられなかった不思議な感覚。 両手で胸を抑える様に当ててみる。 これはとても大切な感情。 こいつだけにしか与えられない・こいつからしか与えてもらえない感情。 何時かそれは爆発するだろうと思っていたがまさかこんな形とは。 こいつは受け止めてくれるだろうか? 同じ気持ちでいてくれただろうか? 閉じていた目をゆっくり開けながら恐る恐るアスカは口を開く。 「シンジ・・・。」 「ん?」 「あのね・・・・・私ね・・・・・ずっと・・その、アンタの事が」 何時の間にか窓側の席に座っていたレイ。 空は青く、雲も真っ白なものしかない。 とても気持ちの良い青空だ。 「気にならないの、綾波さん?」 レイはすっと声を掛けてきたヒカリに顔を向けると静かに言った。 「あの2人なら大丈夫。」 そう言って、また顔を空の方へと向ける。 「ふーん。」 同じようにヒカリも空へと顔を向ける。 ゆっくりと雲が流れている。 どこか現実離れしている幻想的なシーン。 静かに時は流れ、穏やかな日を演出する。 だが、それは突然に賑わいへと姿を変えることもある。 後ろの方から女子の奇声とも歓声ともとれる声が耳に届き、思わず少し驚いてしまう。 「上手くいったみたいね。」 「そうね。」 レイは取り留めて気にしていない様子に見えたが、どこか嬉しそうだった。 ヒカリは今も歓声の上がる賑やかになっている中心へと顔を向ける。 そこには手を叩いて喜ぶ女子の姿、歓喜のあまりまた泣いてしまうアスカの姿、そして顔を真っ赤にしながらもアスカ を宥めるシンジ。 「もしかして、綾波さんはこうなる事が解っててあの話を聞かせてくれたの?」 「まさか、私は神様じゃないもの。」 レイは何時までも空を眺め、ヒカリは幸せな友人を視界に映す。 「急に素っ気無い風になっちゃうのね。」 「そう?」 「うん。」 そこで初めてレイは未だ拍手の鳴り止まないその場所を見る。 「でも」 「ん?」 「『世は全てことも無し』なのよ。」 そこには笑顔の彼女がいた。 ヒカリは、数えるほどしか見たことがなかった彼女の笑顔だが、今の笑顔が一番輝いているように見え、これからもっ とそれを越える笑顔が見れるんだろうな、と妙な確信感を持っていた。 「でもね。」 「・・・・。」 「騒動のドサクサに紛れて、人のお弁当にお肉を入れまわるのはどーかと思うわよ?」 「あうっ!」 ペシッとレイの頭に軽くチョップを入れるヒカリの笑顔もレイに負けないほどの笑顔だった。 「あのー・・・・授業、始まっちゃってるんですけどぉ・・・。」 とある教科の教師は女子で盛り上がるこの教室をどうして静めたものかと困惑していた。 普段なら一喝して静めるのだが、どーもそういうことで静まる空気ではない。 「まぁまぁ、せんせー。」 教室の隅へと追いやられていた男子が声を掛ける。 どこか男子全員の表情も明るい。 「悲劇の少年少女が気持ちを分かち合ってるんですから。」 「そうそう、なんせ地球を救ったヒーローだもの。」 「これぐらい大目に見てやってよ。」 「まぁ、言いたいことは解らんでもないが・・・。」 「こういう時は、そう言う台詞じゃないっしょ。」 「ん?」 「『世は全てことも無し』ってね。」 「・・・・・・・・・意味解って使ってるか?」 だが、それでも『世は全てことも無し』なのだ。 書いてて訳解らんものに。 マジでなんかごめんなさい。 とりあえず、読んでくれた方には感謝。 では、また何時かに。 |