ちょっと遅いけど(^_^;)
「Gehen wir!」150000ヒット記念SS


1周年 by石井覚






「ああもう! 何をニヤニヤしてんのよ! 気持ち悪いわね!!」

・・・・・もう限界だ。あたしは堪らずに問いただした。どうも、今日のシンジは朝から様子がおかしいのだ。
思い出し笑いばかりしている。

「いい加減にしないと怒るわよ? あたしまで変に思われちゃうじゃない。何があったのか言いなさい!!」

「ご、ご免。気を付けるよ。・・・・・ふふ」

「あんたねえ・・・・・もういい。一緒に学校いってやんない」

「ああ! 待って。違うんだよアスカ。アスカ〜!」

私はシンジを置いてさっさと駆け出した。
何か弁解しながら追いかけて来ているみたいだったから、更に走るスピードを上げやった。
まったく、隣でニヤニヤされたら誰だって腹が立つじゃない。せっかく気分良くしていたのに何であいつは・・・・・。
それに、こんな登校中の生徒が大勢いる通学路で、
へらへらと吹き出している男と二人で歩くこっちの身にもなってほしいわね。

ちょっと頭を冷やさせるために私は殆どスピードを落とさないで曲がり角を曲がってから、ようやく足を止めた。
多分、シンジはしょげ返りながら今にこの角から飛び出して来るに違いない。
そして私を見つけてやっぱり「ご免」と謝るのだ。

私は、ふう、と深呼吸をした。






小学校を卒業して第壱中学に入ったシンジは(私もそうだけど)、格段に遅刻が多くなった。
それまではどちらかというと大人しくて、問題など起こさない、手のかからない生徒だったのに、
中学入学と同時に遅刻しだしたのだ。
理由は簡単で、「朝おきられないから」
第壱中はそれまで通っていた小学校よりも20分くらい早く起きないと間に合わない距離にあって、
それが私達の学区の生徒の大きな不満でもあり、彼いわく、その影響をモロに受けてしまったのだという。

しかし中学ともなれば高が遅刻くらいでとやかく言う先生もおらず、
シンジも取りあえず1時間目が始まるまでには何とか登校してくるので、特に誰も注意せず、
段々と遅刻が日常茶飯事となっていった。
だから、そんな惰性の続いている状態のナマケモノに活を入れるため、
私は毎朝シンジの部屋まで起こしに行ってやることにしたのだった。

それはもちろん初めの内は嫌がられたが、次第にあいつは私が来ることを見越して眠りこけるようになり、
私もシンジの寝顔を眺めたりほっぺたを突っついたりといったことが何だか楽しくなっていって、
いつの間にか習慣になって、2年生になった今でも私は目覚まし時計の代わりをやっている。





そうして2年生になって1ヶ月ほど過ぎた今朝、いつものように起こしに行ってやったらシンジはもう朝食を食べていて
「今日はアスカも一緒にどう?」と言ってきた。
この私が行くよりも先に起きていて、しかも朝食を食べているなんて、正直に言って我が目を疑ってしまった。
そんなことはこの1年間でほとんど無かったし、あったとしても、
それは私が押しかけて朝までTVゲームに付き合わせたり、
シンジが週番で朝が早い日に間違えていつも通りの時間に起こしに行っちゃったりとか、
そういう特別な理由があった時だ。
こんな何も無い日に、自分から起きているなんて―――。

「―――なんて、今日はどういう風の吹き回しよ? 槍でも降るんじゃないの?」

そう言いながら食卓の椅子に腰掛けると、
それまで広げた新聞に隠れていたゲンドウおじさんが、ふっ、と短く笑って新聞を畳んだ。
黒のスーツに赤いネクタイを締めているところを見ると、そろそろ出勤なのだろう。

「流石はアスカだな。ユイと同じことを言う」

「急に早起きなんかして、アスカを困らせるんじゃないのよ」

流し台にいたユイおばさんが、湯飲みの三つ乗ったお盆を食卓に運んで来た。

シンジの両親が私の名前を呼び捨てにするのは、以前遊びに来たヒカリに言わせると凄く不自然なことらしいけど、
私とシンジの両親は昔からそうしてきたし、今更お宅のアスカさん、シンジ君と呼び合う方が
他人行儀な感じがして不自然だと思う・・・・・とヒカリに言ったら、う〜ん、と難しい顔をされてしまった。
そんなに悩むことなのかしら・・・・・?

「な、なんだよ母さんまで。いいじゃないか早く起きたって」

「ところで、ユイ、湯飲みが一つ足らんぞ?」

「あなたはもう行って下さいよ。いつまで座ってるんですか。会議に遅れて冬月先生にお小言いわれるの、
あなたなんですよ?」

「むう、もうそんな時間か。アスカがいると時間が経つのが早いな」

「そんなこと言ったって何も出ないですよおじさん」

おじさんは、ふっ、と小さく笑うと、足許の黒いアタッシュケースを持って立ち上がった。
そして、玄関へ歩くその背中にあたし達3人が、行ってらっしゃい、と声をかけると、
後ろ姿のまま軽く手を振って出勤して行った。
そのあと、私はおばさんと世間話をしながらシンジが朝食を食べ終わるのを待った。



「それにしても、なんで今日に限ってこんなに早起きなのよ?」

「うん・・・・・。ちょっと、ね。その内、話すよ」

「あら。アスカには話してもお母さんには秘密なのね」

「いや、別にそういう訳じゃ・・・・・」

「どうせ大した理由じゃなかったりしてねえ?」

「・・・・・そうかも知れない」

「はあ? 拍子抜けするようなこと言わないでよね」

「そ、そうだね・・・・・ふふっ」

「っな! 何がおかしいのよ!」

少しうつむき加減ではにかむシンジを、ちょっとかわいいかも、なんて思ってしまう自分がどこかにいて、
ついつい必要以上に声を揚げてしまう。
あたしのこういう気恥ずかしさはおばさんには筒抜けで、だから余計に気まずいんだけど、でも、
こういう関係って私は結構好きだったりする。

「まあまあアスカ。この子はまだ子供だから」

「こ、子供じゃないよっ」

「あら。アスカの前だと反発するのね」

「お、おばさんっ」「母さん!」

「ほらほら二人とも、もう学校に行く時間よ」

おばさんはパンパンと手を叩いて急かすように登校の支度を促した。
こんなことを1年近くも続けているのかと思うと我ながら進展が無くて呆れてしまうが、
やっぱり、私は今のこの生活が気に入っているんだと思う。
そして、それはきっとシンジも感じていることなんじゃないかなあ。





そんなこんなで、結局なんでシンジが早起きしたのかは聞けずじまいのまま、私達は学校へと歩いていた。
そんなことほかの人にとってはどうでもいいことなのかも知れないけど、
中学の一年からシンジを起こしている私にとっては由々しき事態なのよ。
私が行くよりも先に起きているなんて、悔しいじゃない。
この私が起こしてやってこそシンジは本当の朝を迎えられるのよ、うん。



「で? なんで今日は早かったの?」

私は努めて何気ないように聞いてみた。

「なんかいいことでもあったの? 嬉しそうじゃない」

「あはは。そうかな? 学校の帰りにでも話すよ。その時までのお楽しみっていうのは、駄目かな?」

「むううう、この心のモヤモヤを放課後までとっとけっていう訳ぇ?」

「そんな大げさな・・・・・」

反射的に「大げさじゃないわよ!」と大声を出そうとして、やめた。何も通学路で揉めなくてもいいことよね。
そんなことをしたら、また喧嘩になっちゃいそうな予感もするし。たまには抑えることも必要だわ。

「・・・・・ま、いいわ。その代わり、ぜったい放課後に教えること。いい? 忘れんじゃないわよ」

「うん。分かってるよ」

ほら。綺麗にまとまったじゃない。こんな簡単なことで丸く収まるものなのね。
やっぱり、これからは怒鳴るのも時と場合を考えなきゃいけないわね。

「・・・・・ぷ」

・・・・・。

「ご、ご免。何でもないんだ・・・・・あははっ」

・・・・・・・・・・。

「くくくっ、駄目だ。止まんないや」

・・・・・・・・・・・・・・・ぷち。

「ああもう! 何をニヤニヤしてんのよ! 気持ち悪いわね!!」

やっぱりキレた。






「うわあ!!」

曲がり角から飛び出して来たシンジは、殆ど全力疾走のままで私の目の前を突っ切ろうとして、
こっちに気付いて止まろうとした・・・・・んだけど、足をもたつかせて前のめりに転んでしまった。
なんだなんだと登校中の生徒が集まりだす。

「ア、アスカ、ご免・・・・・。いたた」

「やっぱり最初の台詞は、ご免、だったわね」

上半身を起こして頭をさすっているシンジの横にしゃがんで、目の高さを合わせた。
怪我は無いみたい。

「反省した?」

「・・・・・反省した」

「誰だって、意味もなくニヤつかれたら嫌なの。分かるでしょ?」

「・・・・・ご免・・・・・」

転んだショックが効いたのかしら、随分しおれちゃったわねえ・・・・・。
まあ、これで大人しくなるでしょ。あたしは立ち上がって、大きく息を吸い込んだ。

「うらあ!! 見せモンじゃないのよあんた達!! さっさと消えなさいよ!!」

それまで呑気に見物していた連中が、ビクッとしてわらわらと足早に立ち去って行く。

「ア、アスカ。それはちょっと・・・・・」

「ああ、すっきりした。ほら、誰もいなくなったわよ。あたし達も早く行きましょ」





「よお、碇。今朝の話聞いたぞ。惣流と徒競走やってコケたんだってな」

「惣流に慰められとったそうやないか。女々しいやっちゃな」

教室に入った途端、3バカの二人が声をかけてきた。まあ、それはいつものことだからもう慣れちゃったわね。
無視してりゃあいいのよ。

「な、なんでもう知ってるんだよ。あ、あれは僕が、その、アスカを怒らしちゃってさ、だからアスカは」

・・・・・こいつまた! なんでそうやってまともに答えようとすんのよ。適当に受け流せばいいじゃない。

「うっさいわね! あんた達には関係ないでしょ。見てもいないこと勝手に喋んじゃないわよ!」

まったく世話が焼けるわねえ。私がこうっやて助けてやんなきゃ何もできないんだから。

「わ、分かった。分かったからそない大声ださんといてくれ。シャレやないか。のう、ケンスケ?」

「お、俺に振るなよ。いや、惣流は顔立ちが綺麗だから目立つんだよ。今朝のこと、結構な騒ぎなんだぜ」

「あら、たまにはいいこと言うじゃない。ま、あたしが絡んでるんだから話題になって当然よ」

「へいへい。毎度おめでたいこっちゃ」

「な、なんですってえ!? もいっぺん言ってみなさいよ!!」

関西のノリのなのかどうか知らないけど、鈴原がまた余計なツッコミを入れてくる。

「アンタにおめでたいなんて言われたかないわね!」

「ア、アスカ。いつもの冗談なんだからさ、落ち着こうよ、ね?」

「シンジ、でも・・・・・」

「ほら、委員長も心配そうな顔してるし・・・・・」

「・・・わ、分かったわよっ」

結局、またシンジに諫められてしまった。
何だかんだ言って、私もシンジのフォローが無いと敵を作ってばっかりなのよね・・・・・。

「ま、今回は見逃して・・・って、あれ? 鈴原は?」

「トウジならとっくに逃げてったぜ」



「・・・・・あ、あの野郎・・・・・」






学校の方はいつも通りに(身のあるんだか無いんだか分からないバカ話やお弁当、授業)終わり、
放課後、私とシンジは二人で岐路に着いていた。

「アスカ、ちょっとウチに寄ってかない?」

「・・・・・なによ、いきなり?」

会話の途切れた間を突いてシンジがぶしつけに聞いてきた。

「ほら、今朝の、さ・・・・・」

「ああ・・・・・で、なんなのよ、一体。いい加減教えてくれてもいいんじゃないの? 放課後になったし」

「うん。だからウチでちょっと・・・・・」

「ふ〜ん」

どうもシンジは私を家に入れたいらしい。たぶん外や私の家では言えないことなんだろうか。
シンジの家にはしょっちゅう上がっているし、
シンジも別に鈴原の言うような下品な意味で誘っている訳じゃないのは分かってるから、
私は気軽に同意した。



「さ、一体なにがあったのかあ、シンジ?」

シンジのベットに腰掛けて、部屋の中を見回してみる。特に変わった所は無く、
相変わらず整理の行き届いている部屋だ。
シンジは「ううん・・・」と素っ気ない返事をしながら机の引き出しをごそごそと改めている。

「な〜にガサガサやってんのよ」
「アスカ、これ」
「は?」

私がベッドから立ち上がるのと、シンジが机から振り向くのとがほとんど同時だった。
シンジは、手の平くらいの平たい紙袋を持って立っている。

「・・・・・くれるの?」

言いながら、私の手は既に紙袋をつかんでいた。シンジも別段拒否せず、そのまま私に渡してくれた。
赤と白のチェック模様の袋の口は、「毎度ありがとうございます」とプリントされたセロテープでとめられている。
これは・・・・・駅ビルの洋品屋の袋だ。最近行ってないけど見れば大体わかる。

「今日で、ちょうど1年なんだよ・・・・・アスカ、分かる?」

「・・・・・え?」

「あはは。やっぱり分かんないよね」

またシンジが含み笑いをする。
別にいやらしい笑い方ではなく、むしろ私の反応を楽しんでいるような、そんな感じだ。

「な、なによ〜、それを教えてくれるんでしょ? もったいつけるんならもう要らない」

口をとんがらせて紙袋をつっ返す。
もちろん本気ではないけれど、朝のこともあるし結構シンジには効果があるかも知れない。

「い、いや、そういうつもりじゃなくてさ」

シンジが慌てて紙袋を私に押し戻す。・・・やっぱり効果があった。

「これは、一応お礼で」

「お礼?・・・・・私なんかしたっけ?」

「いつも、してもらってるんだけどな」

「・・・・・」

本当に思い付かない。いつも私が何をしてるんだろうか。
最近、シンジに特に感謝されるようなことをした覚えは、あんまり無いし・・・・・。

「分かりません」と顔に書いてシンジを見ると、シンジはそんな私を見て「ふっ」と小さく吹き出した。

「あさ、起こしに来てくれてるだろ? いつも大変なんじゃないかなあって思ってさ」

「・・・・・え?」

「初めて起こしに来てくれてから、今日でちょうど1年なんだ」

「そ、そうなの?」

「うん。でもアスカ全然気付いてないみたいで、それがなんかおかしくってさ・・・・・ご免」

「い、いいわよ、もう」

なんとかそれだけ言って、うつむいてしまった。無性に恥ずかしてしょうがない。
こんなプレゼントを貰ってしまって、遅刻するからムリヤリ起こしてやるんだって図式が崩れると、
あとに残るのは、そのあとに残るものは・・・・・シンジへの・・・・・。



「ああ、あ、開けても、いい?」

一人でしどろもどろになりながら、私は話題を紙袋に移した。そうでもしないと間が持ちそうになかった。

「うん、いいよ」

「・・・・・これ、ハンカチ?」

袋から出てきたのは、白とピンクのストライプ模様の、厚手のハンカチだった。

「油紙ってあるだろ?」

シンジが唐突に言う。私は「え?」と聞き返した。

「油紙みたいに、汗のほかに皮脂も取ってくれるんだよ、そのハンカチ」

「へえ〜、いいわねえ」

「これから夏になって暑くなってくるし、良かったら使ってよ」

「あ、アリガト・・・・・」

照れ隠しに話題を変えたつもりが、なんだかこっちでも照れる結果になってしまった。

「一応、それを渡したかったんだ。一年間ありがとってことで」

「そ、そう・・・・・」

シンジは恥ずかしくないのかしら。よくそんなこと平気な顔で言えたもんねえ。
でも、そういうもんなのかな。変に意識してるのって、私の方なのかな。



「も、モノでたしなめようとしたって、起こすの、手加減しないわよ?」

「え? それはちょっと・・・少しは丁寧に起こしてよ」

シンジがちょっとオロオロしながらそんなことを言う。
・・・・・ふう、やっぱりシンジだ。ちゃんといつもの私に戻れるようにしてくれた。
そう、今は、私達はまだこの方がいい。

「この私が起こしてやってるんだから、贅沢いわないのっ」

「そ、そんなあ」

「ざ〜んねんでしたねえ〜、ハンカチまで買ったのに」

私はハンカチを丁寧に袋へ戻してカバンに入れ、シンジの方をポンポンと叩いた。

「ま、これからも私が起こしに行ってあげるから、観念なさい」

私達は顔を見合わせて、ふっとお互いに吹き出した。





そう、今は、まだこのままの方が心地いい。
だから、もうちょっとこのままでいても、いいかな?
いいよね、シンジ?


次の朝から、私の起こし方はちょっとだけ優しくなった。





おわり


15万ヒットおめでとうございます\(^O^)/

え〜と、どうもみなさん初めまして。
石井覚という学生でございます。
遅ればせながら、このたび何とか15万ヒットの記念投稿に
こぎつけることができました。

・・・という挨拶が不自然でないくらい、
前回の投稿から相田が・・・じゃない、間が空いてしまいました。
ども。石井です。

今回、150000ヒット記念ということもあり、
また、Gehen wir!1周年ということもあり、
なにか1周年にちなんだ投稿を、と思って書いたお話です。
読んでもらってありがとうございました。



石井さんの当ページ15万&一周年記念SS、「1周年」でしたっ!
どうもありがとうございます〜!


何かにクスクス笑うシンジ。
なれが何なのか判らずプリプリしてるアスカ。
実は……なるほど、アスカがシンジを起こしに来るようになって1周年なのですね。
シンジから思いもよらぬプレゼントを貰っちゃったりして、
「次の朝から、私の起こし方はちょっとだけ優しくなった。」……くー、いいなぁ(^o^

ゲンドウとユイがアスカを呼び捨てにしてるのにはえびも一瞬「あれ?」と思ったんですが、読み続けていると全然違和感ないですね。
石井さんの学園エヴァではもう2人は家族公認の半夫婦ってワケですな(笑)


作者である石井サトルさんにご感想を!
どんな事でも感想は作家の励みになります。是非是非!!

しかし一周年か……早かったなぁ。
これからも末永く宜しくお願いしますねっ!>石井さん&皆様




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