フットホールド作戦が完了して2週間が経過した。地上軍は着々と進軍して、
ジャクソンビルを占領したらしい。とは言え、なんだかんだ言ってもベルガ軍の戦力は大きく、ベルガ本土は広い。上陸作戦成功の余勢をかってフロリダ州の
大半を制圧したものの、これからはベルガも戦力を整えてくる。
一方のコルシア軍は遥か大西洋を越えないと戦力を送り込めない上に、通商破壊の潜水艦もちらほら出現して、撃沈された輸送船もあるらしい。そのために海軍
の戦力は潜水艦狩りにかなり割かれていて、輸送船団は海軍の護衛のもと航行している。時にはインヴィンジブル級軽空母が護衛につくこともあるんだそうだ。
そして今までネルフ島を根拠地に任務を展開していた僕たちだったけど、ついにこの基地を離れる時がやってきた。この島からでは前線が遠すぎて役に立たない
のだ。
碧空の航空隊
第一二話 〜邀撃〜
written by JAF
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西暦2009年11月5日1003
「アスカー」
「なにー?」
「本土で買いこんできたあの荷物どうするの?」
「考え中ー」
今、僕とアスカは荷物を積み込むためのポッドに私物を詰め込んで引越しの用意をしているところだ。戦闘機に搭載するポッドは、一般に知られている偵察用
ポッドや、機関砲を搭載するガンポッドなどの他に、パイロットが機体ごと基地を移動する時に使われる荷物を入れるためのポッドのようなものもある。
中には着替えなどの私物が入っていたり、その機体用の部品が入っていたり、時にはお土産は入っていたりする。でもなんでもかんでも入れられるというわけ
じゃない。地上の1気圧では袋の形を保っていられるものも、上空では周りの気圧が低くなるから相対的に袋の中の気圧が上がって、ついにははじけてしまうこ
ともある。
僕の先輩の中にはビーフジャーキーを持って帰ろうとして、帰ってみると破裂して中が酷いことになっていた、という例がある。
それにもし途中でGをかけたりすれば、脆いものは割れたりつぶれたりするかもしれない。まあ移動中にはそんなGをかける事態にはまずならないけど、今は戦
争中、いつどこで何が起こるか分からない。だから下手なものは入れられないのだった。他の私物はあとで輸送機が持ってくることになっている。既にエプロン
にはC-5「ギャラクシー」超大型輸送機が駐機してあって、他の人たちの荷物の運び込みを行っている。戦車を積んで飛べるC-5にとって人間の荷物など軽
いものだ。
「やっぱり輸送機に載せていくしかないかしらね?」
「多分ね」
今度の基地移転では、ネルフ基地全体の人員が新たな基地に移動し、代わりに本土から戦略爆撃機が進出してくるらしい。島は小さくても、基地としてみればそ
こそこ広いから、場所と合わせて戦略爆撃機運用に適当だったんだろう。要するに本土に足がかりを確保した以上、こんな不便なところにある島は戦闘機を使っ
た航空戦略上は不要ということだ。
僕の荷物は元々少ないから、すぐに終わった。アスカも僕の30分後にはいっそのことインテリア系のものは全て輸送機に任せることにして整理は終わった。部
屋の整理はもう済ませていたから、荷物を詰め込んだトランクやケースを輸送隊の人に預けて書類にサインをした。
時計を見ると今は11時過ぎ、2時間後には新しい基地に向け出発だ。
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西暦2009年11月6日0900 パトリック空軍
基地改め新ネルフ基地
この基地に移ってきて最初の朝を迎えた。亜熱帯気候らしく、ネルフ基地より気温が高く、日差しも強かった。
このパトリック空軍基地、今では「新ネルフ」とかいう何のひねりもない基地名になってしまったけれど、ベルガの宇宙開発の拠点の1つだったこともあって規
模はかなり大きい。旧ネルフ以外の基地からもかなりの数が移転してきていて、A-10サンダーボルトUのような攻撃機や海兵隊のF/A-18C/Dホー
ネットの姿も
見える。珍しいところではスウェーデン地方軍が独自に開発・運用している色物JAS39グリペン、それに輸送機に20mmバルカン砲や105mm榴弾砲の
ような重火器を搭載したAC-130スペクターもいる。ここを近接航空支援も含めた一大拠点にするつもりらしかった。
ところで今度の基地名の変更は特に意味があるわけではなく、ネルフ基地から一切合財移動してくるからなんとなくらしい。こういう無駄な名称変更はやめた方
がいいと思うんだけど…変わってしまった
ものは仕方が無いから、僕も「ネルフ基地」と呼ぶことにする。前の基地と混同するから、前のは「旧ネルフ」と呼ぶことにする。
午前中はCAPの予定も入っていないから、昨日のうちに見つけておいた風通しのいいところに行くことにする。さっきも言ったようにここは亜熱帯で湿度が高
くて、ヨーロッパで生まれたときから生活していた僕にはちょっと気候が合わなかった。蒸し暑い、なんてことは北ヨーロッパでは中々おこらないものだった。
「ふー、気持ちいい」
やっぱり風通しのいい場所で寝転がるというのは気持ちのいいものだった。特に気温も湿度も高めのここでは格別。それも旧ネルフの同様の場所に比べて滑走路
から遠くて、少しだけどジェットエンジンの爆音も小さい。ただ回りに自動車道が走っていて、空気が少し悪いのが難点だった。
排気ガスで飛んでいるようなもののジェット戦闘機に乗る身が言うのも変だけど、排気ガスは苦手だ。早く燃料電池や電気自動車、少し譲ってもハイブリッド
カーが一般的にならないだろうか。コルシアではだいぶそんな車が広がってきてるけど、国家財政がコルシアほど裕福じゃないベルガでは国の補助体制が整って
いなくて依然ガソリン自動車が9割以上を占めているようだった。
……そういえばここのことをアスカに教えていなかった。きっとアスカも涼めるところを探していることだろう。後で教えてあげよう……
そこまで考えたところで、人が近づいてくるのを感じ取った。アスカかな?
「なーんだ、ここ見つけたのアタシだけだと思ってたのに。さすがはシンジ様、早いわね」
ほらやっぱり。それにしてもアスカも見つけてたのか…行き着くところは一緒だけど、教えて感謝されるというシークエンスが省略される分なんだか損をしたよ
うな気分になった。
「様ってなんだよ…とにかく、ここまで来たんだし、僕がいたからって帰りはしないでしょ?座ったら?」
「帰ろうかしら」
「ええ!?」
「冗談よ、別にアンタのこと嫌いじゃないし」
嫌いじゃない、か…好きでもないってことだよな…
そう考えているうちに、アスカは僕の隣に華麗に座った。そして青空を見つめると、こう言った。
「この土地も、この空も、ついこの前まではベルガの人たちが見上げてたのよね…」
「え?」
「殺しあっている2つの国の人たちが、同じところに座って同じ空を眺めてた。そう考えると不思議じゃない?地面も空も変わっちゃいないのに、人間が決めた
境界線でこっちはコルシア、向こうはベルガ。昨日はベルガ、今日はコルシア。バカバカしいと思わない?」
そんなこと僕は考えたこともなかった。土地の所有権だって国の主権領土だって当たり前のことで、戦争をすれば戦闘と占領でその境は変わっていく、それが当
たり前だと思っていた。だからそんな僕にとってアスカの言葉は妙に深々と僕の心に入り込んだ。
「なんてね。冗談よ」
そう言ったアスカの目は笑ってはいなかった。むしろ悲しい目をしていた。
その後は僕もアスカも黙り込んでしまった。
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『パイロット非常呼集。スクランブル。総員、飛行準備をしてブリーフィングルームへ。至急』
日向さんの声がスピーカーから流れる。同時にアラートが鳴り響いた。コルシアのそれとは音の室やパターンが少し違う。スピーカーの性能がいいのか取り付け
位置がいいのか性能自体がいいのかわからないけれど、旧ネルフよりだいぶ通りがいい。通りが良すぎてうるさいくらいだ。だけどもし性能がいいのだとした
ら、是非これを正式採用してほしい。少なくとも聞き取れなくて行動が遅れて怒られるということがなくなる。
「アスカ」
「分かってるわよ」
2人同時に立ち上がって、2人同時にロッカールームに向けて駆け出す。いつもならもうスクランブル態勢にあった機体が離陸する頃だけど、今のネルフにはそ
れさえ用意されていなかった。機材の不備だから仕方ないといえば仕方ない。午後からはスクランブル機が待機するはずだった。むしろこのタイミングを的確に
つけるベルガの方がおかしい。
そこからロッカールームへ
の道のりの中で、ふとした戦闘とは全く関係のないやましい考えが浮かんだ。はたし
てベルガ空軍では女性パイロットは一般的で、更衣するスペースはちゃんとあるんだろうか?もしなかったら男性用ロッカールームでカーテンか何かで区切っ
て……いや、僕は何を考えているんだ。そんなことどうでもいいじゃないか。アスカがカーテン1枚隔てて着替えていたって…いたって………
まあ僕の欲望と期待と不安の入り混じった心配事は杞憂に終わった。ちゃんと女性用ロッカールームはあったのだった。
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ブリーフィングルームは旧ネルフと違ってかなり広かった。僕がそこに駆け込んだとき、前に立っていたのはいつものグラード少佐じゃなくて、いつもは姿を全
くみせない父さんだった。あいかわらず空
軍の制服を着ておらず、サングラスをかけた髭面が周りを威嚇しているかのように思える。明らかにいつもと比べて部屋中の空気が重い。
全員が集まってくると、父さんはおもむろに口を開いた。
「諸君、勘付いてはいるだろうが、敵攻撃部隊がこの基地に接近している。ここに航空部隊が集結したのを見計らい、一網打尽にしようという魂胆だろう。この
図を見ろ」
この辺り一体の地図と敵を示す赤色のアイコンがプロジェクターから投影される。
「AWACSからの報告によれば、敵の数は攻撃機だけでも30を超えている」
一瞬室内がざわついた。この近代戦争で30を超えるといえば凄い数だ。一個飛行団の総力をあげた攻撃ということになる。
「既に4機のF-16が迎撃に出ている。直ちに出撃し攻撃部隊を撃滅しろ。以上だ」
室内のパイロットたちが一斉に動き始めた。僕達の方が数の上では有利、だけど…果たして準備が間に合うだろうか。いくら戦闘機の数はあっても、ミサイルの
搭載が追いつかなくては意味がない。旧ネルフの整備員たちは全員移動してきているけれど、他の部隊はまだ移動してきていないところがほとんどで作戦能力を
持っていないという話も小耳に挟んだ。さらには基地防空隊はVADSが運び込まれた気休め程度でSAM部隊は展開していない。まさに敵は絶妙のタイミング
を狙ってきた。
「バカシンジ!どこいってるの!こっちよ!」
「え?」
アスカに遠くから呼ばれて、自分が全く違う道を走っていることに気付いた。体が旧ネルフに慣れてしまっていてその通りに動いていた。先が思いやられる…
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ハンガーにつくと整備員が大急ぎでAIM-120をパイロンにセットして点検していた。僕とアスカの機体の所にいくと、ちょうど全てのミサイルを搭載し終
えたところらしく、最終点検に入っていた。
「整備班長、どうですか?」
「おお、来たか。機体自体は万全にしておいた、安心しろ。それよりこっちもは急ぐから、コクピットに入っておいてくれ。状況が状況だ、外周点検はなし、俺
たちを信じろ」
「はい!」
僕もアスカもすぐにラダーに取り付いて愛機のコクピットに滑り込んだ。まだ呼び電源しか作動させていないから機内からの電子機器の点検もできない。はやる
気持ちを抑えながらヘルメットの点検でもして待つ。やがて整備班長がラダーを登ってきて
「アウト、オールOK」
と叫ぶ。機外関係の点検が全て終わったという合図だ。すぐに
「アウト、オールOK」
と復唱する。整備班長は親指をたてるとラダーを飛び降りて、続いて整備員がとりついてラダーを外す。それを確認した僕はキャノピーを閉じて、主電源を入れ
る。全ての計器が動き出すのを確認して担当の整備員に合図を出す。すぐにそばで待機していた牽引車がF-15のノーズギアと連結する。時をおかずに牽引車
から通信が入る。
『ブレイブ1、引き出すぞ。準備はいいな?』
「オールグリーン、いつでもどうぞ」
言葉の返事の代わりにF-15の巨体が動き出す。決められた経路に沿ってハンガーから外に出る。一度曲がったところで牽引車が連結を解除して大急ぎでアス
カのF-15を引っ張り出しにかかる。アスカ機が僕の横に引っ張り出されて、役目を終えた牽引車は次の仕事にかかるべく大急ぎで退避していく。
「アスカ」
『準備よし、そっちは?』
「問題ないよ、エンジン始動」
僕もアスカも同時にエンジンを始動した。2基のF100-PW-220唸りを上げ始める。エンジン音にも全く以上は見られない。これで全てのシステムを動
かすのに十分な電力を得ることもできる。
「ブレイブ1、エンジン異常なし」
『2、同じく』
全ての点検は終わって、あとは滑走路に入って飛び立つだけだ。前にはスウェーデン地方軍のグリペンがタキシングしている。F-15に比べてその姿は一回り
も二回りも小さい。小柄で優美なアウトラインを持つこの機体は、F-15の持つ美しさとは別の方向の美しさを持っていた。
「タワー、こちらブレイブ1、2機編隊。今3番格納庫の前にいる。誘導を要請する」
『2番機、同じく』
『ブレイブ1・2、33滑走路へのタキシングを許可する。誘導路は
RH-1を使用せよ。滑走路入り口で入り口待機、ピクシー10・11・12・13が離陸後滑走路に進入し待機せよ』
旧ネルフでは滑走路は1本だけだったから滑走路の指
定はなくて他にもだいぶ省略されていたけど、ここは方向の違う滑走路があったりしてそこまで指定されないといけない。33滑走路ということは、南東から北
西にむけてのびた滑走路だ。
「滑走路は33、誘導路はRH-1、ブレイブ1了解」
誘導員が前に立って棒をふり始める。前進の合図だ。
スロットルをアイドル状態から73rpmまであげてゆっくりと前進を開始する。アスカが後に続く。
長い誘導路を滑走し、滑走路にたどり着く。ピクシーことグリペン編隊はもう離陸していたから、そのまま滑走路に入ってブレーキをかけ、停止する。アスカも
ピタリと定位置で止めた。
『ブレイブ1・2、北西に向け高度3万フィートに離陸、その後スカイ
アイに管制を引き渡す、チャンネル2で交信せよ』
「北西に高度3万フィート、スカイアイとチャンネル
2で交信」
『ブレイブ1、復唱は正しい。ブレイブ2の復唱は省略する』
『ブレイブ2、了解』
「タワー、離陸許可を要請する」
『ブレイブ1・2、離陸を許可する。状況が状況だ、急げ』
「了解、テイクオフ」
斜め後ろのアスカに合図を送って、スロットルを全開にする。20tを超える推力が生み出す爆発的加速度がかかり、速度は瞬く間に離陸速度に到達した。操縦
桿を引いて機首を上げ、急上昇する。垂直上昇さえ可能な機体、この程度はわけない。
高度3万フィートに到達、水平飛行に移行した。それをレーダーで捉えていたのだろう、すぐさまスカイアイからおなじみの声で通信が入る。
『ブレイブ1・2、こちらスカイアイ。管制をタワーより移行した。早
速だが方位3500に向け400ノットで飛行、6分30秒後250に転進せよ』
「ブレイブ1、了解」
『ブレイブ2、了解』
機体を傾けてゆるいバンクをかけながら、機首を指定された方向に合わせる。機体を元に戻してまた水平飛行に移る
『ブレイブ1・2、聞いているとは思うが敵は強大だ。先に接触したシ
エラによれば敵の攻撃機はSu-24、これだけなら問題ないんだが、護衛にSu-30MKKが多数ついている。数はおそらく8だ。本来なら合流を待ちたい
ところだが、時間がなさすぎる』
『なんでもっと早く気付かなかったのよ』
「アスカ…」
『すまない帰還途中だった、という言い訳は通用しないな』
『ふん、まあいいわ。こうなってしまったものは仕方ないし』
『…さて、回り込むつもりだったが、敵も用意周到だ。AWACSを
きっちりつけていたらしい。迎撃してくる態勢に出た』
『ベルガがAWACSをつけてくるなんて珍しいわね』
ベルガのAWACSと言えばA-50メインステイだけど、これは早期警戒レーダーはともかくデータリンクに難があってコルシアのE-767と比較して著し
くその能力は劣っていると聞いている。それでも音声による管制はできるわけだからいないよりいた方が遥かにいいことは確かなのだけれど。それにしてもベル
ガがAWACSを持ち出したらしい航空作戦は開戦から今までの作戦を見てもかなり少ない
「奇襲は不可能ということですね」
『でもこの高度差よ、中距離AAMを正面から撃っても十分やれるわ』
『それがいいだろう。但し近づきすぎるといくら下からのベルガのミサ
イルでも危ない。ドッグファイトにでも持ち込まれたらフランカーの機動性からするとさらに危険性が上がるかもしれん。いいか、撃たれる前に撃ち、ヒットア
ンドアウェイだ』
『ブレイブ2、ラジャー』
「ブレイブ1、ラジャー」
『ピクシー、今の交信内容は聞いているな?』
『ピクシー10、聞いている』
『言ったとおりだ。ヒットアンドアウェイ。了解か?』
『ピクシー10、ラジャー』
『よし、全機交戦を許可する』
レーダー上のピクシー隊が一斉に旋回して敵編隊に機首を向ける。現在の高度差は1万フィート以上、これを活かさない手はない。上から攻撃すれば速度は上
がって機動しやすくなり、ミサイルの射程は伸びる。逆に下からの攻撃はいいことなどない。この辺りは「空戦エネルギー」という概念がよく言い表している。
高度と速度の和が「空戦エネルギー」で、そのエネルギーの大きい方が勝つ、という話だ。
もはやお馴染みになってきた音声をコールする。
「ブレイブ1、エンゲージ」
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ブレイブ隊の前方1万2000m ピクシー10
『ブレイブ1、エンゲージ』
「さてさて、エース様の先導役と来た」
『エース様にグリペンの性能を見せてやるいい機会ですよ』
『新聞で見た顔は美男美女、ブリーフィングルームにもいましたが、どうせ鼻持ちならない奴らに決まってますよ』
『ここは1つ、出鼻を挫いてやるとしましょうぜ』
「まったくお前らは…面白いことを考える。早速やるとしますか」
『了解リーダー。敵、距離42000、この高度差ならAMRAAMが軽く命中しますよ』
「OK、Rb.99(AIM-120Bをグリペン搭載用に改修したタイプ)射撃用意」
『既に完了してますよ』
「FOX3!」
大空へと解き放たれたRb.99は白煙をなびかせながら加速し、重力度による加速度も加わり高速で目標になったSu-30へと向かっていく。これを為替は
しないだろう。この一撃で俺たちの勝利だ、手柄は俺たちの物。見てろエース様。
『敵機の攻撃行動を確認』
『了解、オーダー826実行』
『オーダー826実行します』
ミサイルが敵との距離は半分くらいまで詰めたその時、レーダー画面にに異常が発生した。捉えていた目標が一斉に消失し、代わりに何本もの線が入り始めた。
「これは…」
『ジャ…グで……ダー』
「ピクシー13、聞こえない!復唱しろ!」
『…ング…リー』
敵のジャミングだ…それも凄まじく強烈な。ECCM能力に長けたグリペンのレーダーを無力化するなどただものではない。電子戦機が一体何機いたらこんな妨
害ができるだろうか。直ちにレーダーの周波数を変えてみるが効果がない。これは最近の主流のスポットジャミング(敵の使用周波数帯だけを妨害する方式)で
はない、昔ながらの全周波数帯に向け妨害電波を撒き散らすバレッジジャミングだ…だがバレッジジャミングなら敵もレーダーは使えないはず…
ここまで考えてハッとなった。敵は最初からレーダーを使った戦闘など考えていない。こっちのだいたいの位置をつかんでそこでジャミング、コルシアの優秀な
レーダーと中距離対空ミサイルを無力化して、後はベルガ御得意の赤外線式探知装置のIRSTを使ってこっちの位置をつかみなおす。そして接近戦に持ち込む
つもりだ。AIM-9Xでも積んでいれば接近戦でも優位に立てるだろうが、このグリペンに積んでいるのはRb.74、AIM-9Lだ。
それもレーダーは使えず通信も不能、しかもここで通せば基地がやられる。ならやるしかないじゃないか。
「全機に告ぐ!接近戦を開始する!繰り返す!接近戦を開始する!接近戦を開始する!」
断片的にでも届いた通信が繋がって言葉になるように何度も繰り返す。僚機との近距離通信であれでは後ろのエース様やAWACSとの交信は絶望的だ。援護を
頼むこともできない。後続機は誘導がなくただ右往左往するだけだろう。やるしかない。
『…メで……えし……い!』
ブレイブ1かららしいが、何を言っているのかがさっぱり分からない。これはもう無線など役に立たない。切った方が雑音がない分増しかもしれない。アフター
バーナーに点火して戦闘状態に移行するが、レーダーが使えないのだ、敵機発見は目視に頼るしかない。前方に広がる青空に目を凝らして敵機を探す。だが敵機
の発見よりも早くミサイル警報が機内に鳴り響いた。R
-73か!?R-73は赤外線画像誘導式で対欺瞞能力が非常に高いと宣伝されているが、整備が悪いベルガのそれはかなり信頼性が落ちていると聞く。その幸
運に頼ってフレアを出し続け、急旋回し続けるしかない。
感応式サイドスティックに力を入れロールし旋回を始める。今までは感じなかったが、遊び分しか動かないこの感応式サイドスティックがとても頼りなく思え
た。頭の中では昔ながらの操縦桿よりも体への負荷がずっと軽い装置だというのは分かっているのだが、体への負荷が全く無いというのも心理的に心配になるの
だった。だがそんな思考は直後襲い掛かってきた猛烈なGに押しつぶされた。
このGで首を下手な方向に向けようものなら脱臼は免れないし下手をすれば死ぬ。自分を狙うミサイルなど見つけられるはずもない。外れてくれるのを祈りなが
らひたすら回り続ける。恐怖は感じない、ただただ興奮しているだけだ。
フッと警報が解除される。旋回を緩めて首を回せるようにして敵を探す。
どこだ、接近してきてるんだろう?どこにいる?
目を凝らすが見えるのは青空ばかりだ。くそ、どこだ。
『リー……しろ……2機……』
通信を聞いた瞬間反射的に後ろを向く。後ろからアタックしようとしている青い塗装をした2機のフランカー目に飛び込んできた。もう回り込まれていたのか!
頭で考えるより早く体が反応し、とっさに右旋回を開始する。回避機動のGから解放されて一息ついていた体にまたも猛烈なGか容赦なく襲い掛かる。状況は敵
に優位、アビオニクスもこっちは効かない、エース様は賢いから助けに来てはくれないだろう。だったら手は一つ。
自分の腕とグリペンの性能を信じて戦うのみだ。
旋回中の自分の視界に、炎の花が映った。どっちがやられた?
『…シー12………イデイ、メ……』
そして再びミサイル警報が機内に鳴り響いたのはその直後だった。
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突然レーダーも通信システムも何もかもがダウンした。発射体勢に入っていたAIM-120を解除して一旦旋回する。ジャミングだと気付いてECCMを作動
させるけれど目に見えた効果はない。周波数を変えてみてもダメ。相
当に強烈な妨害のようだった。こんな妨害ができる機体をベルガが?
これじゃあ意思疎通も全くできない。だけど意思疎通ができなければこれから先の行動さえ伝えられない。
『…んだって…よー!…CMも……し……ジ……える?』
聞こえないけど言いたいことは理解できた。「なんだってのよー!ECCMも効果ないし。シンジ、聞こえる?」だろう。
「聞こえないよ」
この「聞こえない」という通信さえ聞こえないのだから手に負えない。
『ハァ!?…て言…の!?』
これは「ハァ!?なんて言ったの!?」だ。これが予測できるというのはそれだけ僕がアスカの暴言になれているということなんだろうか。まさか超能力でアス
カの言っていることが分かる、みたいな話じゃないと思う。とにかく今考えなくちゃいけないのはこの状況下での対処だ。有線通信なら妨害は受け難いけど、飛
行中の戦闘機間にそんなものがあるはずがない。
『全…ぐ!……せを…す………接近……る……開………』
無線からピクシー10らしき声が出てくるが断片的過ぎて何を言いたいのかがわからない。言葉の切れ端とペースを考えて頭の中で何を言いたいのかを復元した
結果、ふと「接近戦を開始する」と言ったのではないかと思い当たった。それ以外に思い浮かばなかった。僅か4機で8機のSu-30に挑むと言うんだろう
か。無謀だ!
「ダメです!引き返してください!」
必死で無線に向けて喋るけれど、これも多分届いてはいないだろう。このままではまず4機のグリペンが撃墜され、次の標的は僕とアスカだ。2機で8機を相手
にすることなどできない。少し持ちこたえたところでやがて撃墜されてしまうだろう。どうすべきだろうか。このまま突っ込んでピクシー隊とともに戦闘に参加
するか、または引き返して基地上空で敵を待つか、それとも待機か。参加しても8対6でアビオニクスの点で僕達が不利、基地上空では敵Su-30と戦闘をし
ている間に基地がやられる、かといって静観していればみすみす仲間がやられるのを見過ごすことになる。いや、僕が決めたところでどうやってアスカに伝え
る?今アスカは戦闘編隊で2km横にいる。アスカが見落とすとは思えないけれど、万が一ということがある。無線を使えないことがこんなにも厄介なことだと
は思わなかった。必死で考えてみるけれど結論は出ない。
遥か前方の空域で火炎の花が1つ咲いた。
『…シー12………イデイ、メ……』
きっとやられたのは味方だろう…これを見ても状況の
判断が下せないなんて!
アスカなら…アスカならどうする?
『何うじうじしてんのよ!これだけ実戦してきたのにまだ変わってないのバカシンジ!!』
「アスカ!?」
無線から音質はひどいけど聞き取ることのできる声が流れてくる。
アスカは僕の機体から僅かに後ろにずれたところに主翼を重ねるようにして飛んでいた。衝突ギリギリの距離、ここまで近寄ってきていたのか…
『どうやらこの距離ならなんとかなるみたいね…でも音質が最悪だしこの距離は流石に危ないからハンドサインにするわよ』
「分かった」
無線が再び沈黙して、アスカが少し離れて右に並ぶ。そしてバイザーを上げて片手でハンドサインを始めた。ハンドサインだけで伝わらないところは愛コンタク
ト、ということだ。
《パートナーがこんなに接近しているのに気付かないなんてどうかしてるわよ!上陸作戦から学んで無いの!?アタシが敵だったら今頃あの世行きよ!分かって
る!?
…ハンドサインで怒られるとは思ってなかった…僕も操縦桿を左手に持ち替えてバイザーを上げ、ハンドサインで返す。
(ごめん。いつの間に?)
《んなことどうだっていいのよ!で、なに迷ってんのよ!味方がやられてる!なら助けるしかないでしょうが!》
アスカの覇気溢れる声が僕の心を勇気付ける。情けないことにやっぱり僕はアスカがいないとダメらしい。
(その通りだね、目を覚ましてくれてありがとう)
《お、お礼なんていいわよ……行くわよ!》
(分かった。僕が先に行って追われている味方を助ける。アスカは僕の援護を)
《了解!》
そして僕とアスカは戦場へと躍り出た。
==========================================================
戦闘空域 ピクシー10
「くそっ!しつこい奴らだ!」
敵は後ろにピタリとついたまま離れない。ミサイルも3発はかわした。何度か回りこめるかもしれないというところまで来て、別の機体に邪魔される。こいつら
の連携は一体どうやってとっているんだ?敵も無線は使えないはずだぞ…だがそんな疑問を抱いている余地はない。とにかく逃げなければ殺られる。今考えてい
いのはその事実と、どうすれば殺られずに敵を殺れるかだ。もっとも今は殺ることなんて考えている暇はないが。
グリペンは小回りが効くから格闘戦には強いはずだが、敵は大推力のエンジンにものを言わせて圧倒的な加速力とパワーで食らいついてくる。
意識はまだ元気だが、持続する急旋回に体が悲鳴を上げ始めていた。血が足のほうに集まって脳にいかなくなってくる。これじゃあ長くはもたない…
『ピク………メイデイ……イ』
2機目がやられた。これで2対8、状況は悪くなるば
かりか…これで4機はついてくるぞ。
『……1、FOX2』
『………F…2』
お、ピクシー11が反撃に成功したのか?僚機の姿を探し、追いかけ
られているグリペンを見つけた。どうみても反撃したようには見えなかった。なら今のコールは何だ?遊びか?遊んでいる暇などないぞ!それとも気でもふれた
か?帰ったらカウンセリングを受けるといい、帰れたらの話だが。いかん気がふれ始めているのは俺か?
またロックオン警報。直ちに回避機動をとる。だが俺は自分がとんでもない過ちを犯したことに既に旋回を始めた後気がついた。こっちに旋回したら敵に真後ろ
をとられる……過ちに気付いたところでもう取り返しがつかない。あとは撃たれて終わりか?殺られる。覚悟は決まった。
目の前に閃光が走った。機体がガクンと揺れる。
……痛みも何もない。穏やかだ。死ぬというのはこういうものか?
だが違った。これは死などではなかった。俺は生きていた。ロックオン警報も消
えている。何故だ?何が起こった?どうなったのか分からない。閃光でくらんだ
目が視力を取り戻す。辺りを見回した。宙に浮かんでいたのは火を噴く2機のSu-30と、2機のF-15、それを追いかけようとする2機のSu-30だっ
た。奴らは現代航空戦の肝といえる、レーダーという名の電子の目と無線という名
のコミュニケーション手段を使わず正確に敵の死角からここに到達し、ロックオンし、撃墜した。化物か…
「チッ、よりによって奴らに助けられるとはな・・・」
2機のF-15はブレイクして2手に別れ、それをそれぞれ1機ずつのSu-30が追う。ラダーとエルロンをたくみに使ってR-73のシーカーで捉えられな
いギリギリの角度を旋回している。偶然ではない、意図してやっているのだ。ギリギリという角度を保つことで撃たれず、また追いかけさせるようにして。そし
てF-15は同
時に途中で急激に向きを変え互いの方向を向き、反航する形になった。そしてすれ違いざまに相棒の後を追うSu-30に向けミサイルを放ち、Su-30はそ
れに真正面から突っ込んだ。炸裂。
機首が吹き飛んで衝撃は胴体に伝播し、エンジンをも破壊、さらに燃料に誘爆したのか派手に爆発した。
それを見た俺の心に浮かんだのは彼らへの賞賛でも正面からミサイルを食らって敵パイロットへの哀れみでも助かった喜びでもない。彼らへの心からの畏怖だっ
た。俺は震えていた。
「あれが…ブレイブか…」
彼らは俺の無事を確認するように近寄ってくると、4機に追われる僚機のもとへと再加速していった。
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片方を追いかけている4機を撃墜して次の味方の援護にかかる。さっきの急機動は体への負荷もかなりのものになったけれど、戦闘は続けられる。伊達に実戦を
かいくぐってきたわけじゃない。訓練生時代の僕なら失神していただろうけど、今の僕にとっては強めの負荷に過ぎなかった。僕も成長したのだ。いや慣
れ、といった方が適切かもしれない。
味方がやられたのを確認したらしく2機のSu-30が追撃をやめてこっちに向かってくる。正面からR-73を発射されれば回避は難しい。
横についたアスカにハンドサインで指示を送る。
(アスカは上にブレイク。僕はもう少し突っ込んで頃合を見て旋回、囮になってひきつける。そこを後ろから撃墜して欲しい)
《了解。付け加えるわよ。撃墜後はピクシーにSu-30を任せて攻撃機撃墜へ回る。いくらあいつらでも2対2ならなんとかなるでしょ。OK?》
(了解。じゃあブレイクを)
アスカは返事の代わりに行動に移した。アスカ機は一気に上昇していって、あっという間に芥子粒程度になった。アスカ機から目を離して前方の敵機に集中す
る。どうやらアスカを意に介した様子はない。2機でまず1機をしとめようという算段のようだ。目測で16kmくらいまで近づいたところで右にロールして旋
回を始める。ロールを反対側にして敵の様子を伺うとちゃんとついてきている。
距離がある分ロックオンはされやすい。早速鳴り響き始める。だけど敵に対して直角を維持するようにして二次元的に高速を維持してミサイルシーカーにとらえ
にくく機動する。R-73の発射角は最大で60度、だけどこの角度では当たらない。まだきついけれどせめて45度にしたいところだろう。なら50度以上く
らいの角度を保っていればいい。さらに完全なロックオンをされないように緩旋回とラダーを使って小刻みに動かしながら直進する。
敵が僕を撃墜しようと追尾しているところをアスカが…逆落としにする。
そしてそうなった。
アスカに向けバンクをすると、敵攻撃機がいるであろう方向にむけ飛んだ。
アスカが前に出た。
『違うわよ、こっちよ』
…どうも航法というのは苦手だ…少々なれてきたところで、アスカにはかなわない。
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アスカの言うとおりだった。敵攻撃隊がほぼ直下に見える。位置は基地まで7分といったところか。接近したからか、ジャミングの影響はますますひどくなって
いる。まずはコミュニケーション回復のために電子戦機を落としたいところ、だけど悪いことに敵は全部Su-24フェンサーで、電子戦機型のフェンサーは遠
目には区別できない。だけど判別している暇はなかった。
僕の気持ちを見透かしたようにアスカが急降下を始めた。だけど機速はわざと落としてある。アスカにサイドワインダーの残弾はないから、攻撃開始の合図だけ
して、「アンタがやりなさい」ってことなんだろう。僕はサイドワインダーを2発残しているけど、1発は自衛用に残しておきたいところだった。だけど、基地
までこの距離ならほとんど関係ないか、と思い直して両方の発射準備をする。
HUDに表示される敵との距離表示はいかれてしまっている。機体の誘導は目測に頼るしかなかった。だけどミサイルの方は赤外線画像誘導だから電波妨害は関
係ない。短距離戦闘モードに切り替える。レーダーは使えないから敵が四角のマーカーで囲まれることもない。ただ赤外線シーカーが捉えるまで接近するのみ
だ。やがてダイヤモンド型のマーカーが表示され始め、点滅する。それとともにトーンがだんだんとうるさくなってくる。
そして完全に捉えた。トーン良好。ロックオンされた敵は回避し始めた。
…まてよ?何も撃墜までする必要はない。回避行動をとらせさえすれば基地防空の任務は十分だ。少なくとも時間稼ぎにはなる。下手に撃って攻撃手段をなくす
方が恐ろしい。
そう思って次から次へと目標を変える。その度にトーンが鳴り響き、敵機は回避行動をとってルートから外れる。次から次へと外れていく。一度外れれば大きく
旋回して元に戻らなくちゃいけない。それには時間がかかる。理想の攻撃編隊よりも攻撃能力も落ちる。次々と敵をルートから外させ、やがてすれ違った。目前
まで迫った地面を回避して、上昇する。後ろから来たアスカはサイドワインダーを持っていない以上ロックオンして離脱させる戦術は使えない。バルカン砲で直
接攻撃して、2機を炎上・空中分解させていた。
攻撃隊に明らかに動揺が見えた。攻撃されるはずが無いとでも思っていたんだろうか。こうなると通信手段が無いのが敵にとって混乱を冗長する原因になる。敵
は自分の首を絞め始めた。編隊を組みなおしたところで明らかに乱れている。これでは一斉攻撃はできない。一旦上昇して再び突入する。ロックオンするたびに
また逃げる。だけどこれをブラフと見抜いたのか、ロックオンしても動かない敵がいる。その機体に対しては発射した。これで避けなければどうなるか敵も身に
染みるだろう。高速で飛翔する毒蛇は寸分たがわず敵に食らいつき、炸裂した。
再度交差、今度はバルカン砲でも攻撃する。敵の先頭機に狙いを定めてトリガーを引く。6砲身のガトリング機構が唸りをあげて1秒間に100発の20mm弾
を発射する。展開された猛烈な弾幕はフェンサーの胴体に大穴をあけ、主翼を吹き飛ばし、エンジンの内部をズタズタに破壊した。その不幸な機体のパイロット
が脱出し、残された機体が墜落するまでそう時間はかからなかった。
さらにアスカがアタックして2機をまた撃墜する。これで敵は戦力の6分の1を失った。本来なら引き返す素振りを見せ始める頃合…だが敵は引き返さなかっ
た。ただ直進してくる。もう基地は見えてきている。どういうことだ、全滅をいとわないんだろうか。さらに上昇してアタック、時間稼ぎはするけれど、いつま
でもこれじゃあもたない。3機がさらに墜落してもまだ進む。もう攻撃できる時間は1度くらいしかない。残りは12機、味方の戦闘機はこの編隊に気付いてい
ない。きっと敵の高度が分からなくて上のほうでうろうろしているんだろう。
再度上昇、そして急降下。これで電子戦機を撃墜できなければ…基地はやられる。もうもったいぶっていても仕方がない。最後のサイドワインダーを発射する。
ロックオン、トーン良好。発し……ふとこれは電子戦機じゃない気がした。勘がそう告げる。勘の告げるままにとっさに目標を変えて再ロックオン。
「FOX2!」
他人に聞こえるはずもないコールをする。ただそのコールは自分が最後の一発を撃ったという事実の確認、そして覚悟を決めるための叫びでしかなかった。時間
が長く感じられる。飛翔するミサイルの姿がはっきりと目に映る。そしてそれは敵のエンジンに吸い込まれた。炎の花が空中に咲く。ノイズが軽くなる。一瞬
後、アスカがもう1機撃墜した。
ノイズが消えた。
『こちらスカイアイ!ジャミングが消えた!全機、敵攻撃機迎撃に向か
え!至急!位置はレーダーに示すとおり!繰り返す!全機至急敵攻撃機迎撃に向かえ!』
無線から大音量で声が聞こえてきた。桁外れのジャミングをしていた電子戦機2機は撃墜され、コミュニケーションは回復した。すぐに友軍機がかけつけ、攻撃
隊は1機の帰還機もなく撃墜された。もっとも最後の1機は予想以上にしぶとく、滑走路を一本破壊されることになってしまったが。敵の攻撃規模から考えれば
邀撃は大成功だったといっていい。
『全機、ごくろうだった。2機のSu-30が逃走した他は敵性航空機
は全機撃墜された。』
あの
残った2機は離脱したようだった。戦略的に見れば正しい判断だったといえる。でも本当なら4機になった時点で撤退すべきだった。これも敵自身も意思疎通で
きなくなったせいだろう。ベルガの大博打は凶と出た。
『ブレイブ、いつもながらお手柄だ』
「ありがとうございま
す」
それしか言う気力は残っていなかった。最後の勘に従った行動は精神的に相当な負担を強いたようだった。もうこんな賭けはしたくない。もし数ヶ月以内にネリ
ス基地を占領してラスベガスに繰り出す機会があっても、しばらくそういう気にはなれそうもない。
『さ、帰るわよ!』
アスカはまだまだ元気だった。
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1322 ネルフ基地廊下
基地に帰ると午前中は報告書を書いてそのまま残りは休みになり、午後も邀撃戦闘に主参加した昼食を食べたあと父さんに僕だけ呼び出された。なんと言うこと
はない、ただ「ごくろうだった」とねぎらうだけだ。むしろ雰囲気に押しつぶされてねぎらわれるどころか益々疲れた。父さんは相変わらず何を考えているのか
分からない。でもよくよく考えてみれば、わざわざ呼び出してねぎらうなんてことは初めてなんじゃないだろうか…裏があるのかな?そんな邪推なことを考えた
けれど、さっさとそういうネガティブな考えは取り払った。
呼び出しを食らった直後、アスカは
「先にあそこ、行ってるわよ」
と言い残して行ってしまった。何故あの空戦の後にこんなにも元気が残っているんだろうか。何故あんなに輝きを保っていられるんだろうか。アスカに関しては
だいぶ分かっていたような気になっていたけど、まだ分からないことだらけだ。確かにあのSu-35と交戦した時よりは疲れが無いのは確かだった。あの時は
2人とも倒れてしまって喋る体力も気力も残っていなかった。でも今度だって十分な疲れのはずだ。なのに何故?
しばし考えてみるも、こんなこと結論が出るはずもない、下らないと思って思考を止めた。
僕も「あそこ」に向かう。と、向こうから1人の体格のいい男が近づいてきた。その男は立ち止まって言った。
「碇中尉か?」
「はい、そうですが」
「フリシオフ大尉だ」
大尉と聞いてとっさに敬礼する。
「ああ、敬礼なんてしなくていい。むしろしてくれるな…だからやめてくれ。頼むから」
そう言われ右手を下ろして気をつけをする。ただ気を付けしたつもりが足が支えきれずに結局休めになってしまったけど。
「休めか…それでも堅苦しいが、まあいいか。碇中尉、君には命を救われた。ありがとう」
「命を…ですか?」
「私の所属はスウェーデン地方空軍第206戦闘飛行隊…そういえば分かってもらえるかな?」
ふとSu-30に追いかけられていたグリペンの姿が目に浮かぶ。
「ではあのグリペンのパイロットは…」
「そうだ、ピクシー10を操縦していたのは俺だ。あの時君が助けに来てくれなければ俺は間違いなく死んでいた。回避機動を誤ったんだ」
それはこっちからも見てとれた。ミサイル発射があと数瞬遅ければあのグリペンもまた空に花を咲かせていただろう。
「感謝する。あの時の俺は君たちを高慢ちきな鼻持ちならない奴らだと決め付けていた。だがこうやって話してみるとどうやら違うようだな」
「そんな…」
「もう1人…惣流中尉はどこに?確か女性パイロットと聞いたが」
「ああ…用事があってここにはいません」
「そうか…残念だ。今日の夕食の時にでも伺おう」
「それがいいと思います」
「では、な」
「はっ」
フリシオフ大尉がすれ違って歩き去っていく。
そして僕も目的の場所に向けてまた歩き始めた。
新しい基地・仲間。それほど悪くないかもしれない。
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2009年11月6日 0310 総司令室
『碇、今回の事態は予想外だぞ』
「慌てるな冬月、この程度の誤差はなんでもない」
『本当にそうなんだな?』
「信用しろ。目的達成には着々と近づいている、計画に狂いはない」
『分かった。信用しよう』
「そうした方がいい」
『では切るぞ』
「ああ」
モニターに表示された画面がブツリと消える。総司令室に再び静寂が訪れた。
続く
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あとがき(らしきもの)
こんにちは、またも2ヶ月近くかかってしまったJAF
です。
今回の話は「レーダーも無線も使えない状況に陥った時どうするか」というお題でした。結局電子的手段が封じられれば近接戦闘によるしかなく、現実世界で言
う西側機と東側機の差異も小さくなると。普通の条件下で戦うと航空戦力のモデルがソ連・ロシアのベルガは整備不足・不良などの問題でいつも完璧にしてくる
西側機にアビオニクスの点で勝てるはずもなく、また情報戦ということを考えるとさらにその差異は広がってしまいます。これでアメリカがF-22Aを配備完
了した折には…
現代航空機でドッグファイトをしようと思えば、このような極端で特殊な環境下におくしかないのでした。なお今回ベルガが使った電子戦機はSu-24MPの
特別電子戦強化版という設定です。先のKa-50電子戦タイプもそうですが、ベルガは自国が劣っているアビオニクスをカバーするためにECM(ジャミング
などの電子機器に対する妨害・欺瞞手段)にかなり力を入れています。
ちなみにこの世界では現実世界よりも少々航空技術の発展が遅れています。飛行機の発明自体の時期は変わりませんが、この世界には第一次世界大戦に相当する
戦争が存在せず、それによって飛行機の発展が遅れてしまっています。だいたい5〜10年くらいの遅れです。なので「五十数年前」の「昔の戦争」は現実世界
の朝鮮戦争のようなものではなく、ミズホでは「一○式艦上戦闘機」の名で零戦によく似た機体が実戦参加していたりします。ただこの機体はどうやら敵国に対
して継続的な優位を占められず、戦争開始の1年後には「一三式艦上戦闘機」という名の烈風によく似た機体に主力が変わったようです。
今後ともよろしくお願いいたします。
JAFさんに投稿していただいた「碧空の航空隊」、その第十二話でした〜。
どうもありがとうございます、JAFさん!
今回は特殊な環境下でのドッグファイトのお話でした。
ジャミングにより通信手段を封じられた中での緊迫感のある戦い、大変読み応えがありました。
次話の完成を楽しみにしております。
そして今年もよろしくお願いしますね、JAFさん!
作者のJAFさんに作品のご感想をっ!
感想は作家の元気の源、是非お願い致します。
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