ボクとアタシの休日
written by ジン
Act.2【奇跡の再会】
シンジが不思議な少女アスカと出会ってから1週間の時が流れた。
その間シンジは、ある事をずっと後悔していた。
それは、アスカと再び会う手段を聞いておかなかった事である。
あれからシンジは、アスカと出会った公園の並木道、一緒に見た映画館、そして最後の別れをした駅前と、毎日毎日時間がある時はそれらを歩いて回っていた。
もしかしたらまた偶然会えるのではないか?と言う淡い期待を込めて。
しかし再び偶然が訪れることは無く、シンジはアスカと一緒に撮ったプリクラを眺めては溜息をつく日が続くのであった。
夏休みに入って最後の登校日である今日も、シンジは一人携帯の裏蓋を取り電池パックに貼られた唯一の二人の出会いを証明するプリクラを眺めていた。
「なんやセンセ、浮かない顔してどないしたんや?」
ぼーっと携帯を眺めているシンジに、級友のトウジが話し掛けた。
「えっ?べ、別にどうもしないよ。………あのさぁトウジ、惣流アスカって子知ってる?多分芸能人だと思うんだけど」
「惣流アスカ?知らんなぁ」
トウジが首を傾げて答える。
「この子なんだけど」
シンジは今まで見ていた携帯に貼られているプリクラをトウジに見せた。
それを見たトウジは、やや冷やかし気味に言った。
「おっ!なんやツーショットかいな。センセも隅におけへんなぁ。なかなか可愛い子やな……って、これ如月ルイやないか!?」
「如月…ルイ……?」
「センセ知らんのか!?」
トウジが『信じられない』といった口調でそう言った。
「ボクそう言うのにあんまり詳しくないから」
「それにしても知らん言うのはシンジくらいちゃうか?」
「そんなに有名なんだ…」
「有名も有名、今のトップアイドル間違い無しや!」
熱く叫ぶトウジに、シンジは唖然としてしまう。
その騒ぎを聞いて、もう一人の級友ケンスケが話の輪に加わって来た。
「どうしたんだよ?馬鹿でかい声で」
「どうしたもこうしたもあらへん!これ見てみい!」
トウジはシンジの携帯をケンスケの目の前に付き付けた。
「何だよいきなり………!?シンジ!お前、如月ルイに会ったのか!?」
「……多分」
「多分って何だよ、多分って」
「いや、自分で『惣流アスカ』って言ってたから…」
シンジはアスカと出会った時の事を思い出しながら言った。
「騒がれるのが嫌で偽名でも使ったんか?」
トウジがケンスケに問い掛ける。
「それか、本当に似ているだけか………もしくは本名って可能性もあるな」
ケンスケは自分のバックからモバイルPCを取り出し、如月ルイの公式HPを開いた。
シンジとトウジも一緒になってそのページの開かれたPCを覗き込む。
そこにはアスカと名乗った少女と瓜二つの女の子が載っていた。
「どっからどう見ても本人としか思えんなぁ」
トウジがプリクラとHPを交互に見ながら言った。
「後はそのサインだな。たしかここにあったと思ったんだけど……」
何回目かのクリックで如月ルイのサインが載っているページが画面に映し出された。
「このサインも、これで見る限りは本物だよな……」
ケンスケがこれまたプリクラのサインと見比べながら言った。
「かぁ〜羨ましいのう!如月ルイに会ったなんて。で、どんな感じやった?やっぱり可憐でおしとやかだったんか?」
トウジのその質問に、シンジは即答する事が出来なかった。
「……どうすれば可憐でおしとやかになるのかな?」
シンジはそう呟き考え込んでしまう。
そんなシンジを無視して、ケンスケもトウジの意見に賛成する。
「そりゃそうだろう。あんな感じの良い子は滅多にいないからな」
二人の意見を聞いて、さっきからずっと考え込んでいるシンジ。
そんな様子に気が付いたトウジが言った。
「どないしたんや?そない難しそうな顔して」
「…ボクが会ったのは……如月ルイって子じゃないかも………」
シンジは二人の如月ルイに対するイメージが、どう考えてもアスカと結びつける事が出来なかった。
アスカは『可憐でおしとやか』と言うより『じゃじゃ馬』と言った方がピッタリだったからである。
「じゃあ、あと確かめるって言ったら、如月ルイの声を聞く事位かな」
ケンスケはそう言って、再度PCを操作して彼女の出演一覧を呼び出した。
「でもまぁテレビつけてれば何かのCMで絶対見られるけど……っと、今日の夜にラジオがあるな」
ケンスケはシンジにモニターを見るように手招きした。
シンジはそのモニターに映し出されたラジオの放送時間を見て言った。
「この時間はダメだ…」
「あぁそうか、シンジ今日は部活だったっけ。なら俺が録っておいてやるよ」
ケンスケがPCをしまいながら言った。
「どっちにしても、こない可愛い子なら紹介せーや」
トウジがシンジを肘で小突く。
「それが無理なんだよ。ボク彼女の名前しか知らないし、その名前も今は本当かどうか解らないしね……」
シンジは寂しそうにそう言って今日何度目かの溜息をついた。
シンジが失意のうちに過ごしている頃、とあるスタジオの控え室で同じ様にアスカが溜息をついていた。
「アスカ、最近変よ?溜息ばっかりついて」
アスカのマネージャーが心配そうに言った。
「何でもないわよ……」
そう言ってアスカは、今まで開いていた手帳を閉じた。
「まっ大体予想はつくけどね〜」
マネージャーはわざとらしく含み笑いする。
「へ〜ミサトに予想なんて出来るんだ?」
アスカはそれを軽くいなして、今まで飲んでいた紅茶を口に含んだ。
「当ててみよっか?男の子でしょ?」
ミサトのその言葉に、飲んでいた紅茶を噴き出しそうになってしまったアスカは、激しく咽込みながら言った。
「な、何突然言い出すのよ!?」
「やっぱりそうみたいね。アスカのお目にかかった子はどんな子なのかしらね〜?」
普段から色々とやり込まれているアスカにここぞとばかりに仕返しをするミサト。
「シンジとはそんなんじゃないわよ!!」
言った後でアスカは(しまった!!)と思ったがそれはもう後の祭、ミサトは攻撃の手を緩める事無くアスカに畳み掛ける。
「シンジ君って言うんだ〜。どんな顔してるのかなっと」
後のアスカ曰く『ミサトがあんなに早く動けるなんて…』と言うような動作で、今までアスカが眺めていた手帳をあっという間に取ったかと思うと、おもむろにそれをパラパラとめくり始めた。
「あ〜!!ちょっと何すんのよ!返して!返しなさいよ!!」
アスカの抵抗も空しく、ミサトはすぐにシンジと一緒に写っているプリクラを見付けた。
「へ〜ずいぶん可愛い子ね〜」
「もう!返してったら!!」
ミサトから手帳を取り返したアスカは、その手帳を自分のバックの奥深くへとしまい込んだ。
そんなアスカの様子をニヤニヤ見つめていたミサトは、アスカに尚も質問攻めをする。
「ねえ、シンちゃんって幾つなの?どんな子?普通の学生?もう付き合ってんの?」
まるでおっさんのようなミサトの質問に、アスカは少し表情を曇らせ答えた。
「本当に…そんなんじゃないのよ……」
さすがにいつものアスカと様子が違う事を感じ取ったミサトは、今までとは打って変わって真面目な口調で言った。
「アスカ、良かったら私に話してみない?」
「ミサトに話しても、何かが解決するとは思えないけど?」
今までの仕返しとばかり、アスカは皮肉をたっぷりと込めて言った。
「失礼ねぇ。少なくともアスカよりは恋愛経験豊富だと思うけど?」
「経験だけいっぱいあってもねぇ…」
「でもその中に答えは無くても、何かヒントがあるかもしれないわよ」
珍しく真っ当な事を言うミサトに、アスカは暫し考え込む。
「一人で考えているだけじゃそれこそ何も解決しないわ。誰かに話すだけで自分の中で違った見方も出てくる筈よ」
アスカを見つめるミサトは、アイドルとそのマネージャーではなく、まるで妹を見守る姉の様な微笑を浮かべていた。
そんなミサトに不思議と穏やかな気持ちになったアスカは、あの夏の日の出会いをゆっくりと語り始めた。
「……ミサト、実はね…」
アスカの話を聞き終えたミサトは、その話の中で一番驚いた事を口にした。
「アスカを知らない子ってまだ居たんだ」
「そうなのよ!アタシはてっきりそれで追い駆けて来てると思ってたから…」
「でも、シンちゃんってアスカと同い年位なんでしょ?」
「多分…」
「なら話は早いじゃない。その周辺の中学校を虱潰しに探せばすぐに見つかるわよ」
「それはそうなんだけど……」
ミサトのごく普通の解決策にアスカは余り気乗りしないらしく、モゴモゴとそう言った。
「何か問題でもあるの?」
そう聞くミサトに、アスカは自分の本当の気持ちを打ち明けた。
「怖いのよ…」
「怖いって……何が?」
「あの時シンジは、アタシを“如月ルイ”としてじゃなく“惣流アスカ”として見ていた訳じゃない?でもきっともうアタシが“如月ルイ”だって気付いてると思うの…」
「そりゃあのプリクラをシンちゃんの友達とかが見れば一発で解るわよ。それがどうして怖いの?」
「今までアタシに出会った人は、殆どアタシを“如月ルイ”として接するでしょ?それがさ、何か誰も本当のアタシを見てないような気がして……嫌なのよ………。もちろんこの業界に居るからそれはしょうがない事だし、アタシの意思でそうしてるのも十分解ってる。でも、シンジはそうじゃなかった。アタシをアタシとして見てくれたのが嬉しかった…。だけど、もし次にシンジと会った時、アタシを“惣流アスカ”としてでななく“如月ルイ”として見られたらって思うと……」
そこまでアスカが話した時、今までアスカの話を静かに聞いていたミサトが口を開いた。
「要するに、アスカ個人で見てくれないかもって事が怖いの?」
「……うん」
「だから素直に『また会える?』って言えなかったんだ?」
「………うん」
「でも本当はもう一度会いたいから、さっき言ってた“きっかけ”を残して来たんでしょ?」
「そうだけど……その日はもうすぐそこだし、奇跡でも起きない限りシンジが気付く筈ないし……」
それを聞いたミサトは、急に強い口調でアスカに言った。
「アスカ、奇跡ってのはね、起きてから初めて奇跡と呼べるの。それにね、待ってるだけじゃ奇跡は絶対起こらない。そのきっかけを残して来たのだったら、アスカもそれに向かって動かなきゃダメ。私の言ってる事解る?」
「解るけど……」
ミサトの言っている事が正論だと言う事はアスカも十分理解しているのだが、アスカは気持ちの部分でどうしてもその一歩が踏み出せなかった。
アスカが何を思っているのか解っているミサトは、一つの提案をした。
「それならこう言うのはどう?」
ミサトはアスカの耳元でこっそりと囁いた。
その提案を聞いたアスカは素っ頓狂な声で叫んだ。
「え〜〜〜!!!公共の電波でそんな事出来る訳無いじゃない!!」
「何言ってんのよ。正に今日のトークテーマにピッタリじゃない?シンちゃんにだけ解れば問題ナッシングよ」
「シンジが聞いてるとは限らないじゃない!?」
「そん時はそん時考えればいいんじゃな〜い?取り敢えず今出来る事をするのが大切よ」
ミサトはアスカに向かって懇親の笑みでVサインをする。
そんな様子を見たアスカは、一気に力が抜けてしまった。
「全く、ミサトらしいわ……」
そうは言ってもミサトの能天気さに、心の中でアスカは(ミサトの提案に賭けてみようかな?)なんて事を考え始めていた時、部屋のドアがノックされた。
「如月さん、そろそろスタンバイお願いします」
8月最後の日曜日。
シンジはその日、部活がある為学校に来ていた。
そして部活も終わり帰ろうとした時、シンジはケンスケに呼び止められた。
「おっいたいた。ほい、この前の如月ルイのラジオ」
ケンスケはそう言って1枚のMDをシンジに渡した。
「ありがとう。夏休みにケンスケが学校に居るなんて珍しいね?」
「あぁ、ちょっと部室に用があってね」
ケンスケはそう言うと手に持っているカメラをシンジに見せた。
「そっか。でもこの暑い時に暗室って大変じゃない?」
「大変どころじゃないな。下手したら死ぬって」
ケンスケがおどけて言った。
「死なない程度にね」
シンジもそう返してケンスケに別れを告げ、家路へとついた。
自分の部屋に戻って来たシンジは、着替えもそこそこにケンスケから貰ったMDをコンポへ入れ、再生ボタンを押した。
シンジが出会った少女が“如月ルイ”かどうか確かめる時間がついに訪れ、コンポから流れてくる声を聞いた時、シンジの中でそれが確信へと繋がった。
(アスカだ……)
喋り方は多少違っても、あの時一緒に時を過ごしたアスカの声が、今目の前にあるコンポから聞こえていた。
(やっぱり…もう二度と会えないのかなぁ……)
自分とは違う世界に居る事をはっきりと認識してしまったシンジは、自分の胸にぽっかりと大きな穴が空いたような気がした。
そんなシンジの気持ちを知る筈も無く、アスカの声だけは今もシンジの元へと届いている。
番組が中程を過ぎた頃、毎週あるテーマに沿ってトークするコーナーへとなった。
今週のテーマは【運命の出会い】。
アスカが紹介しているハガキは、女の子が落とした定期券を拾った男の子がそれを届け、そこから恋愛が始まったと言うような内容だった。
(ボク達の出会いも、ある意味運命の出会いだったのかなぁ……でも、ボク達には終わりはあっても始まりはないんだ……)
シンジがかなり後ろ向きに物事を考えている間もアスカのトークは続き、その後も同じ様な内容のハガキが紹介されていた。
シンジがアスカの声を聞いているのが辛くなって来た頃、アスカはミサトが提案した事を実行へと移した瞬間が来た。
『運命の出会いは、きっと誰の元にも訪れると思います。でもそれに気が付かないでやり過ごしてしまう人がいっぱい居るのではないでしょうか?運命のきっかけは本当に些細な事ではないか…と、今日紹介した皆さんの体験を見て思いました。例えばそれが落とした定期券だったり、出せなかった年賀状だったり。私の友達でも間違い電話から出会いが生まれた人もいましたしね。きっとそんな誰もが運命の出会いに繋がるような出来事と思わない事程、意外とそうだったりするんですよね……。皆さんの周りにもそう言った物があるかもしれませんよ?例えばプリクラの裏とか…何てね』
それを聞いたシンジは、最後の言葉が今までの話と全く関係ない事が気になった。
(プリクラの……裏?)
何故かその言葉が頭から離れなくなってしまったシンジは、携帯の裏蓋を開けて二人が写っているプリクラを傷付けないようにゆっくりとそれを剥がした。
プリクラを剥がした裏には、マジックで今日の日付と今から数時間前の時刻、そして有名な遊園地の名が書かれていた。
それを見たシンジは大急ぎで着替えを済まし部屋を飛び出した。
誰も居なくなったシンジの部屋には、余りに慌てて出かけた為に消し忘れたMDが未だに流れ続けていた。
『このラジオを聞いてくれた皆さんにも、運命の出会いが訪れますように……』
シンジがその遊園地に着いた時、入り口にはこれから入る人は全く居らず、帰宅する人達で一杯だった。
シンジは入り口周辺の隈なく探したが、シンジの探している少女の姿はどこにもなかった。
(やっぱりもう帰っちゃったよな……)
シンジの心に諦めが浮かび始めた時、シンジは映画館でアスカが言った言葉を思い出した。
“特に最後の遊園地での再開シーンなんて感動しちゃった。あんな告白あこがれるわよね〜”
(あのシーンは確か……)
殆ど見ていなかった映画のワンシーンを必死で思い出し、それに最後の望みを賭けて、シンジはチケット売場へ走った。
「スミマセン、入場券中学生1枚お願いします」
係りの人はそう言ったシンジを不思議そうに見つめた。
「あのお客様?当園は後1時間程で閉園となりますが…」
「それでも構いません!」
「かしこまりました。中学生1枚で\1,000円になります」
まだ不思議そうな顔をしている係りの人にお金を渡すと、シンジはわき目も振らずある場所を目指した。
「はぁはぁはぁ…やっぱりもう終わってる………」
もうすぐ閉園と言う事もあり、いくつかのアトラクションは今日の運転が終わっていて、シンジが目指していたアトラクション、メリーゴーランドもすでに明りが落とされていた。
シンジはすぐ傍にあるベンチに座ると、そのまま項垂れてしまった。
「ボクがもっと早く聞いてたら……」
シンジの胸に後悔の波が押し寄せる。
どれ位そうしていただろうか?
園内のアナウンスが閉園の時間を知らせるが、まだ項垂れた姿勢のままベンチに座り込んでいたシンジは、不意に自分の横に誰かが座ったような気配を感じた。
「誰かお探しですか?」
隣に居る誰かがそう言った時、今まで下を向いていたシンジはガバッと顔を上げ、その人物を見て微笑んでこう答えた。
「うん…君を……アスカを探してたんだ………」
「ふ〜ん“アタシ”を探してたんだ…」
白いワンピースを着て、同じく白い大きな麦藁帽子を被ったアスカが言った。
「あの…ごめん……遅くなっちゃって………」
「本当遅いわよ!アンタ、アタシをこんなに待たせるなんていい度胸してるわ」
言葉だけ見るとキツイ感じがするが、そう言ったアスカの語尾はとても優しく柔らかだった。
「リアルタイムであの放送を聞けなくて、今日友達に録ってもらったやつを聞いたから…」
「そう…あれ、聞いたんだ……」
この場に居ると言う事は、普通に考えればあの放送を聞いていたと言うのは至極当たり前なのだが、それと同時に今シンジの隣にいる少女は “惣流アスカ”でもあり“如月ルイ”でもあると言う事を、シンジは知っている事になる。
「……アタシが“如月ルイ”だって知って、ビックリした?」
「そりゃビックリしたよ。ボクの友達は皆あのプリクラを見ただけで如月ルイだって解ってたし、凄く羨ましがってたよ」
「そっか……やっぱりシンジも如月ルイに会えて…嬉しい……?」
アスカは思い切って自分が本当に聞きたい事をシンジに聞いた。
シンジはちょっと驚いた顔をしてこう答えた。
「う〜ん…どうかな………?アスカは怒るかもしれないけど……正直言ってあのラジオを聞いた時に声でアスカだって解ったけど、喋り方とかは何か違うと言うか違和感があったと言うか…そりゃ今日こうして会えたのはすっごく嬉しいけど、別に如月ルイに会えたからじゃなくて……」
後半になるにつれて徐々に小さくなるシンジの声を、息を呑んで聞いていたアスカはその先を促す。
「如月ルイに会えたからじゃなくて?」
シンジを見つめるアスカの瞳があまりにも真剣な眼差しだったので、シンジも恥ずかしがらず自分の気持ちを正直に話した。
「またアスカに会えたから……」
その言葉をシンジの口からはっきり聞いた瞬間、アスカは自分の心の中でずっと引っかかっていた物が解けてなくなって行くのがはっきりと解った。
「ここまで待った甲斐はあったって事…か……」
アスカはそう呟いてそっと立ち上がると、座っているシンジの目の前に立った。
「今アンタの目の前にいるのは“如月ルイ”なのよ?それよりも“惣流アスカ”に出会えた方が嬉しいなんて……シンジって本当に変わってるわね」
そう言ったアスカの顔は、今まで誰にも見せた事のないような笑顔だった。
シンジも同じ様にゆっくりと立ち上がると、アスカの微笑みに答えるように優しい微笑みを浮かべて言った。
「だってアスカはアスカでしょ?」
シンジの返事を受け取ったアスカは(やっぱりミサトよりアタシの方が男を見る目があるわね)なんて事を思っていた。
その時、園内に完全閉園を伝えるアナウンスが流れた。
それを聞いたアスカは悪戯っぽくシンジに言った。
「あ〜あ、シンジが来るのが遅いから」
「本当にごめん。次は絶対遅れないから」
アスカは尚も悪戯っぽく続ける。
「次はあるか解らないわよ?」
それを聞いたシンジは、アスカとは対照的に真剣な口調で言った。
「あの時、アスカと初めて出会ったあの日、アスカに言えなかった言葉があるんだ。ボクはそれが言えずにずっと後悔してた。もうあんな思いはしたくないから……。アスカ、また会える?」
自分に向けられた眼差しを、避ける事無くしっかりと受け止めたアスカが言った。
「そうね…シンジがそう望むのなら……考えてあげてもいいかな?」
本当のアスカは、内心はあの時自分も言えなかった言葉をシンジが言ってくれた事に、それこそ舞い上がってしまいそうになる気持ちを押さえるのに必死だった。
そしてその返事を聞いたシンジは、その喜びを隠す事無くアスカに伝えた。
「本当!?また会ってくれるの!?何時会える!?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。アタシも一応“如月ルイ”としての予定もあるから、何時になるかはっきりとは解らないわよ。……だからこれで、ね?」
アスカはそう言って、自分の赤い携帯電話を取り出して小さくウィンクをした。
どちらかが先に言い出したのか、はたまた自然とそう言う風になっていたのかは解らないが、退園を促すアナウンスを受けて出口へ向かって歩き始めた二人の手は、いつの間にかお互いの手を優しく握っていた。
「そう言えば…アタシがあそこに居たの良く解ったわね?」
アスカが唐突にそう言った。
「えっ?あぁ、だって二人で映画を見た時アスカが自分で言ってたじゃないか」
さらっと答えたシンジに、アスカは驚いて言った。
「シンジ覚えてたんだ!?アンタあの時頓珍漢な事言ってたから、もしかしたら来ないかなぁ?なんて思ってたんだけど…」
「頓珍漢な事って…何?」
「そ、それは…その……シンジ言ってたじゃない……あんまり映画は見てなかったって……」
「映画じゃなくてアスカを見てたって事?」
「…アンタって相変わらずそう言う恥ずかしい事を平気で言うのね」
アスカが“やれやれ”と言った顔で呟いた。
「だって本当の事でしょ?」
「そりゃそうだけどさ……」
「だったら隠しても意味無いし、それに伝えたい事が言えないで、前みたいにもう後悔したくないしね」
自分の思った事、感じた事を素直に相手に伝えるシンジに、アスカも自分の思いに素直になろうかな?と思い始めた時、シンジはまたしてもとんでもない事を言い出した。
「そう言えばアスカがラジオで言ってたけどさ……ボク達の出会いも運命の出会いなのかな?」
その言葉にアスカは、思わずさっき考えていた事を撤回しそうになってしまった。
「突然何言い出すのよ!」
「えっ?いやちょっとそう思っちゃって…」
アスカは(やっぱりアタシはシンジみたいにはなれないかも…)と思い、いつもの調子でこう言った。
「さぁね〜。運命と言うよりは偶然の出会いじゃないかなぁ〜」
「そ、そうだよね……」
それを真に受けてしまったシンジは、かなりテンションが落ちてしまったのがありありと解った。
そんな様子を見たアスカは、自分の発言にちょっと後悔してしまい、繋いでいるシンジの手を、強く優しく握り締めて言った。
「運命か偶然か解らないけど……奇跡の再会なら………したんじゃない?」
アスカの突然の発言に、シンジはビックリしてしまった。
「アスカ…どうしたの?」
「何よ?アタシがそう言う事言っちゃいけないの?」
アスカはシンジを横目で見つめて言った。
「別にいけなくはないよ。アスカがそう思っててくれたなんて……嬉しいよ」
シンジはアスカの方へ振り向いてそう言うと、今までの人生で一番良い笑顔を見せた。
その笑顔を間近で見てしまったアスカは、自分のつまらないプライドなんかもうどうでも良くなってしまった。
「あ〜はいはい、もうアタシの負けです」
「何が負けなのさ?」
いきなり敗北宣言をされて訳の解らないシンジ。
「何でも良いじゃない。……アタシもシンジにまた会いたいって思ってたって事よ。だから、今日こうして会えたのは本当に嬉しかった…」
「本当!?アスカも…その……ボクにまた会いたいって思ってくれてたの?」
今までそんな事を女の子から言われた事の無いシンジは、半信半疑でアスカに聞き返した。
「アンタねぇ……どうでも良い相手だったらこんな時間まで待ってないわよ!シンジはもう少し女心を知る努力をしなくちゃダメね」
「うん!頑張るよ!!」
真面目にそう言うシンジを見て、アスカはつい笑ってしまった。
「ふふっ、頑張ってね」
アスカはそう言ってシンジの腕を取り、ゆっくりとシンジに自分の身体を預けた。
街灯によって映し出された二人の影は、その後も決して離れる事無くいつまでも寄り添い続けていた。
この後、二人の関係がどうなったのかは定かではない。
ただ一つ言えるのは、次に二人が会った場所は、二人が奇跡の再会を果たした遊園地のメリーゴーランドの前だったと言う事。
そしてもう一つ、その時シンジがアスカに何かを言い、それを聞いたアスカは人の目も気にせず、シンジの胸にそっと自分の顔を埋めたと言う事だった。
〜Fin〜
『後書きと言う名の蛇足文』
皆様こんにちは、こんばんは。
いい感じにヘタリ気味のジンです。
何とかそんなに間を開けず続きを書く事が出来ました。
とは言っても、ぶっちゃけてしまうと今回のSSは、今まで書いた中で一番“?”な感じです。
本当にこんな物を投稿しても良いのか?なんて事を真剣に思ってしまいました。
そんな戒めの気持ちを踏まえて、さらなる高みへと登って行けたら良いなぁ…とか考えています(汗
話は変わりますが、作中に出てきたミサトの“奇跡”についての件は、気付いた方もいるかも知れませんが、本編の『奇跡の価値は』を参考にしています。
あの時のミサトさんの言葉がどうにも心に残ってしまい、いつか使いたいなぁ…とずっと思っていて、今回ついに使う機会が訪れたと言う訳です。
しかし、一字一句覚えている訳ではないので(心に残っていると言っておきながらかなりいい加減)、何となく言いたい事が伝わってくれたら万万歳です。
最後に、グダグダと長い今作を読んでくれた皆様、本当に有難う御座いました。
ジンさんに投稿していただいた「ボクとアタシの休日」のAct.2【奇跡の再会】でした〜。
どうもありがとうございます&執筆お疲れさまでした、ジンさん!
もう最初に結果から書いてしまいますが、無事運命的な再開を果たしたシンジとアスカ。
いやーよかったよかった。
学校や家でのシンジの心境、楽屋でマネージャーのミサトを相手にしているアスカの心情がしっかり描かれていたので、無事二人が再開できたシーンは感動的でした。
シンジはアスカを「如月ルイ」ではなく「惣流アスカ」として見ていた。
これがアイドルであるアスカの気持ちを大きく動かす要因ともなったわけですが、これはエヴァ本編にも通ずる部分でもありましたね。
「アスカ」を「アスカ」として見てあげる。とてもキーとなる要素だと思います。
作者のジンさんに作品のご感想をっ!
感想は作家の元気の源、是非お願い致します。
どうもありがとうございました、ジンさん。大変たのしく拝見させていただきました。
次作も楽しみにしております!
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