シンジ達は暇だった。いや、クラスの全員が暇を持て余していた。

 予定されていた授業が急に無くなってしまい、代わりに残されたのは担任が前の黒板に書いた「自習」と言う文字のみ。


 始めのうちは皆この予想しえないハプニングに喜んでいたが、そのうちだんだんと場が覚めてくる。
 その訳は簡単で、シンジのクラス以外は授業中なのだから必然的に大騒ぎはできない。
 しかも普通は自習用のプリントなり、何かあるはずだがそれもない。まさに「自ら習え」状態である。騒げない、他に対象物がある訳でもない、グダグダ加減もいいところである。

「ケンスケ・・ヒマやな・・・。」

「そだね・・・。」





ある日常の風景


By:関西方麺





 ケンスケはトウジの席に来て、二人で机に顔をつけてボソボソ話をしている。いつもならバカ騒ぎを繰り広げる二人も、今日ばかりは静かであった。

 トウジが他を見渡してみると、シンジとアスカもやる事がないのだろう、それぞれ自分の席で寝ているし、ヒカリと綾波は本を読んでいて、マユミは編み物、カヲルはシンジから借りたDATを聞きながら、自分の席で目をつむって腕を組んで座っている。

「なんや、コイツらヒマそやの・・・。」

 オマエが言うなよ、とケンスケが言うが早いか、トウジはシンジの席に向かい、 パこーん!! と丸めた教科書で頭をはたいた。

「シンジ起きんかい!」

「??!?!」

 頭を押さえて驚くシンジ。熟睡していたのか、ボーッとして目の焦点が合っていない。

「おまえのう。授業中、しかも自習の時間に眠りこけるとはどう言う了見じゃ!」

 オマエが言うなよ〜と教室の皆が言ったかどうかは分からないが、トウジはこの状況を打破できるオモチャを見つけたようだ。

「なんだよ・・トウジ、せっかく人がいい感じで寝てたのに・・・」

「アホか、よう聞け。オマエの行動は勉学に励むこのクラスの誰もの気持ちから逸脱しとる!」

 なにが逸脱だよ、誰も勉強なんてしてないじゃないか・・・

 哀れシンジ。彼に目をつけられた時点で運命は決まってしまったようだ。

「ええか、ワシも勉強せえとは言わん。ただ神聖な授業中に、こともあろうか眠りこける事は感心できん。よってシンジには罰として、最近あった学校以外の出来事をこのワシに話せ!」


 ・・・ムチャクチャである。
 なんの事はない、トウジは
 「ワシは暇やねん、なんぞオモロイ話でもしてくれ」
 と言っているにしかすぎない。

 しかしトウジとしては自分の暇が潰れればそれでいいのだ。しかも相手をシンジに選んだ所がミソである。
 なにせ他の奴と違い、相手はエヴァのパイロット。
 いくら全てが終り、使徒の危険性が無くなったとはいえネルフに通うシンジの事だ。色々と刺激のある話が聞けるだろう。

「あ〜あ、シンジも可哀相に・・」

 呟くケンスケ。しかしその顔はニヤリと笑っている。結局はケンスケもシンジの話を聞きたいらしい。
 だがそれを言葉に出さず、表情だけで表すところが彼らしいと言えばそうなのだが。

 それにケンスケとしてもこの状態が少しでも緩和できればいいのだ。
 人の不幸は蜜の味と言う言葉があるが、今はその蜜を思いっきり吸いたい、と言うのが本音だろう。


「はようシンジ、なんぞ言うてみい。」

 せかしたてるトウジ。心なしかその目がキラキラ光っている様に見えるのはご愛敬か。
 実際トウジは、シンジがこれから話す事に対してどうリアクションをとろうか、などと悠長にかまえていた。



 しかし、返ってきた言葉は刺激的といえばそうであるし意外と言えばそうともとれる言葉であった。

「・・マナにあったんだ。」

「へっ、マナって霧島のことかいな?」



 霧島マナ。
 チルドレンとは違うが戦自によってしくまれた子供。このクラスのみならず、マナの事はこの学校に在籍している者なら誰もが知っているし、大体の話も人づてに入ってくる。
 が、その結末までは解らず、いつも思い出として話される程度であった。

「学校の帰りにスーパーで買い物をしようと思ってね、カゴを取って中に入ろうとしたら、後ろから急に誰かが抱きつい」

 ピシッ!!

 一瞬、教室の温度が下がった感じがする。もっともその時は誰も気にはとめなかったが・・・

「てきた人がいたんだ。」

「それがマナやったんか?」

「うん、そうなんだよ。「シンジ・・・久しぶり・・」なんて言うからこっちも驚いちゃってさ。なんでも監視の目が離れて自由になったんで、こっちに戻ってきたんだって。」
 嬉しそうに話すシンジ。だがなぜか周りの空気は冷える一方だ。

「それでその後二人で一緒に夕飯の買い物をしてさ、いざ別れて帰ろうとしたら雨が降りだしちゃったんだ。そしたらマナが「ウチに来ない?」って」

 ビシイッ!!!

 また温度が下がったみたいだ。
 周りを見ると、アスカは寝ているみたいなのだが不思議な事に小刻みに震えている。

 本を読んでる綾波とヒカリ。だがよく見ると綾波の持っている本は逆さま、ヒカリの顔はまっかっか。
 マユミは編み目を間違えてしまったのだろう、サマーセーターをほどいている。

「言うんだよ。悪いとは思ったんだけど、「いま小雨だから本降りになる前に傘もかしてあげる」って言ってくれるんで・・」

 ・・・静寂が教室を包む。
 シンジが話を始める前は騒げないといえども、多少の話し声があった。
 だが今はシンジとトウジの話し声しかしない。
 他のクラスメート達は、この特異な状況を見守るしかほかになかった。

「ほんで霧島の家に行ったんか。カ〜っ!羨ましいやっちゃのう。」

 興味津々にトウジが茶々をいれながら、シンジに話しかける。

 ・・彼はこの雰囲気が分からないのだろうか。

「そりゃ自分も濡れて帰るのは嫌だったから。だけど結局マナの家に行ったら、傘をさしても効き目が無いぐらいドシャ降りになっちゃって、そのまま家にあがらせてもらっ」

 ・・何人かコソコソ教室を抜け出そうとしている。
 おそらくこの雰囲気に耐え切れなくなったのだろう。

 周りを見ると、アスカは寝ているみたいなのだが体は小刻み、手はグーの形でしかもそこから血が流れている。

 本を読んでる綾波とヒカリ。だがよく見ると綾波の本は逆さま、さらに何か力でも加わったのだろうか、真っ二つに破られている。
 ヒカリはすでに本など読んでいない。真っ赤な顔に手をあててイヤンイヤンの繰り返し。
 マユミは編み目を間違えてしまったのだろうか、青い顔をしながらほとんど編みあがっていたサマーセーターを、最初の所までほどいてしまっている。

「て雨を止むのを待つことにしたんだ。・・でも全然止む様子もなくて、しばらくマナとあの頃の思い出話をしてたんだけど、だんだん会話もとぎれはじめちゃって・・・」

「情けないやっちゃのう!ほんでどうしたんや、それでサヨナラやったんか?」

 トウジは身を乗り出してシンジの話に聞き入っている。

 ・・・彼は本っ当に、今自分達が置かれている状況が分かっていないのだろうか。

「・・いや、そうしたらいきなりマナが「・・シンジ、相撲とらない?」って言ってきたんだ。」

 「ハア?」と聞こえたような気がした。

 気のせいではない。シンジ達の他の生徒からの声である。確かに今までの話からするとここで相撲の話が出る事自体不思議だ。
 しかも小声でシンジとトウジは話しているつもりなのだろうが、教室内に声がよく通るらしく今のこの話を聞いているらしい。しかし、今この場所に残っている人数は当初の半分ぐらいまでに減ってしまっていた。

 ・・ムリもない話である。
 考えてみて欲しい。誰が好きこのんでまでこんな状況下で教室にいたい、と考えるであろうか。
 しかし、シンジ達以外の生徒がまだ残っている事も事実である。覚悟を決めたのか、それとも恐い物見たさなのだろうか、そんな雰囲気はよそに、シンジの話は続いていた。

「僕も全然マナの言っている意味が解らなくてさ。「なんで相撲なんかとるのさ?」って聞いたら、「訳なんかないわよ、・・ただ単にシンジと相撲をとってみたいだけ。」だって。・・・でも今から考えると、あの時のマナの顔って妙にニヤニヤしていたような気がするんだよね。」

 負に落ちない顔をしながら話すシンジ。彼もトウジと同じように周りの状況が見えないみたいだ。

 ・・いやたぶん普通の人なら、絶っ対に今のこの状況では話はしない、いやできない。

 それが証拠に、外ではジリジリと暑いはずなのにシンジ達の教室の体感温度はすでにマイナス。
 寝ているはずのアスカの血まみれの手は机にくいこみ、ゴゴゴ・・となぜか地響きのような音まで聞こえてくる。
 綾波はすでに本を読むのを止めて、どこから持って来たのか黄色い縁の眼鏡を両手で握り潰そうとしているしヒカリはイヤンイヤンと顔をふる速さが加速的に増している。
 マユミはサマーセーターを編むのを諦めたのか、泣きながら毛糸であやとりをしつつ「ギャラクシー!」って叫んでいた。

「ほんで?」

「なんかなし崩し的にやる事になっちゃってさ。でもマナって元その道の関係にいただけあって強いんだよね。すぐに押し倒されちゃって・・・」

「どこに?」

「・・ベッドの上。」

 最悪の状況である。もう教室にはシンジ達以外誰もいない。「・・ベッドの」とシンジが言った時に、他の生徒達は撤退を決めたようだ。

「ベッドの上だから慌てちゃって、やめてよぉ、って必死で僕も抵抗したんだけど、マナったら「あたしはシンジをSTOにして、寝技に持ち込みたいだけなのよ!!」っていいながら、すごい速さで服を脱がしにかかるんだよ。」

「そ、そんでどうなったんや!?」

 目は充血、鼻血を半分垂らしそうになりながらトウジが聞く。

「そしたらトウジが起こしてきたんじゃないか・・・」




 沈黙。




「ほ、ほな何かい、今までのは全部」

 バゴオ!!!

 どこからか血まみれの机がシンジに飛んできてシンジの後頭部にブチ当たり、きりもみしながら倒れるシンジ。

「「「「 夢オチだったってえのオ!!! 」」」」

 学校の机といえども、まともに当たればただではすまない。
 だが、シンジはこれぐらいの事には慣れているのかどうか分からないが、頭を押さえながら立ち上がろうとすると、そこには・・



 鬼が四人立っていた。



「アンタっっ・・て人は、話をそこまで引っ張っておいて・・・!!」

 アスカの目はすでに座っていて話になりそうにない。

「いかりクン、なぜそんな夢を・・ひとつになりたいのだったら・・」

 いそいそと服を脱ごうとしかけている綾波。

「二人ともフケツようぅぅ!!!」

 首を振りすぎたのか、湿布薬を首に貼って叫ぶヒカリ。

「・・一緒に死んでください、碇さん・・」

 あやとりをしていた毛糸をピンと張り、イヤ〜な感じに眼鏡を光らせながらマユミが呟く。

「お、おいシンジ・・なんか雰囲気やばかないか?」

「へっ、何が?」

 ここまできてやっと事の重大さに気づくトウジ。
しかしシンジはまだ分かっていないらしく、目をパチクリさせている。

・・だがもう二人がどんなに弁解してもこの状況では遅すぎた。




「・・アンタ達覚悟はできてんでしょうね・・」




 ところでカヲルは何をしているかというと・・
 ここにきてやっとDATを聞きおえたみたいだ。

「ウ〜ン、やっぱり海原はるか・かなたの漫才はリリスの文化の極みだね。フッと息を吹きかけるとヅラがずれるところなんか・・アレッどうしたんだい、何かあったのかい?」




 下校時、先に校舎を出ていったアスカを追いかけながらシンジが後からついていく。
 よく見るとシンジ顔にはモミジの形がついているし服もズタボロになっている。だがシンジの方はまだ良いほうで、なぜかトウジの方が傷は深いらしくあれからすぐに担架で運ばれていったらしい。

「ねえアスカぁ〜・・」

「ふんだ!もう知らない!!」

 情けない声でシンジがアスカを呼ぶが、アスカは一向に後ろを振り向こうとしない。そればかりかどんどん歩く速度を上げてシンジとの距離を離そうとする。

 実際アスカは許せなかった。ミサトというお荷物がいるのは仕方がないとしても、始終シンジと二人きりで暮らしていて自分としてはかなりシンジに対してモーションをかけていたつもりだった。
 なのになんでシンジはマナの夢など見たのであろうか。


 ・・やっぱりアタシのやり方が甘いのかしら・・
 このニブチン相手には何をやってもムリなのかしら・・
 それなら・・


 ちなみにシンジは、なんでアスカが怒っているのか全然分かっていない。ここまでいくと国宝ものである。

「ねえアスカぁ〜、待ってよぉ〜・・」

 半分小走り状態でシンジが追いかける。
 どうやらアスカの歩く速度が増してきていたようだ。


 ・・なんでアスカ、マナの話を知っていたんだろ?
 あの時は夢の途中だったか

「シンジ!!」

 見るとアスカは急に立ち止まってシンジを見ている。
 心なしか顔が赤く見えるのは夕日のせいだろうか。

「た、単刀直入に聞くわよ・・アンタ、アタシの事どう思ってるの?」

「えっ、どうって・・」

 いきなりなので訳が分からないシンジ。

「あ〜っ!もうじれったい!アタシの事好き?嫌い?どっち?」

「そんな、いきなりそんな事言われても・・」

 言葉が詰まるのは当たり前、つい今し方まで怒っていた相手が突然に言い始めたら誰だってこうなってしまうだろう。

「き、嫌いじゃないと思う。」

「ホントに?嘘はついてないでしょうね?」

「う、うん。ア、アスカの前じゃ嘘はつけないよ・・」

 どもりながらも質問に答えるシンジ。顔が真っ赤だ。

 ・・まあ、コイツにしてはよく言えたほうね。
 ここまできたら後は・・

 すると、アスカはいきなりシンジの手をつかむなり、

「シンジ!ダッシュで帰るわよ!!」

「えっ、なんで?」

「き、・・決まってるじゃない!これからアンタと相撲をとるからよ!!」

 真っ赤な顔をして話すアスカ。これは夕日のせいではないみたいだ。

「それとも何?アンタ、マナとは相撲がとれても、このアタシとはとれないってーの!?」

「あ、あれは夢の話で実際にしたわけじゃ、」

「したもうえもない!傷つけられたプライドは、十倍にして返してやるんだから覚悟するのよ!!」

「そんな、ムチャクチャだよ・・」


 ・・この後、二人が実際に相撲をとったかはさだかではない。
 ただ、ネルフの訓練の時にやたらとシンジの寝技のテクニックが向上していて、担当の加持からほめられ、それを見るアスカの顔つきがなぜか恥ずかしそうだった事を付け加えておこう。


「シンジっ!今日も相撲とるわよ!」

「アスカぁ、勘弁してよ・・ここんところ毎日じゃないか・・」


・・世は全て事もなし。



初めまして、関西と申します。
今回えび様のご好意で載せていただく事ができ・・

「何くっちゃべってんのよ!」

あ、あれ?アスカ様。

「だいたいね、あんたみたいな者が、えびさんの所に出てくる事自体おこがましいわよ。」

い、いきなり辛辣なお言葉ですね・・

「だってそうじゃない、あんた掲示板に軽い気持ちでSS載せたのはいいけど、載せた後で後悔しまくってえびさんに謝りのメールしてたのアタシ知ってるわよ。・・まったく小心者以外の何物でもないわね。」

で、でもこれのおかげで、えび様とお知り合いになれたんですし。

「しかも話が下ネタじゃない。もっとマシな話にしなさいよ。だいたい海原はるか、かなたなんて誰も知らないわよ。確か松竹の芸人さんでしょ。」

マイナーですけど面白いんですよ、この芸人さん。一人が本当にヅラで相方の人がツッこむ時に頭に息を吹きかけるんです。そしたらずれるんですよ、髪が!
・・でも、次は少しはマトモなのをつくるっす。

「ゲッ、アンタまだやる気なの?処置なしね・・」

もちろん、えび様から許可をいただいてからにしますけど。今回初めてSS書きましたから、ひょっとしたらえび様に呆れられてるじゃないかと思いまして。

「えびさん許してやって。コイツ、また書きたいみたいだから・・」


関西方麺さんに初投稿していただいた「ある日常の風景」でしたっ!
どうもありがとうございます関西さん。アップがすげー遅くなっちゃってすいませんでした(汗

さてさてこちらの作品は……、おお、LASの基本!な学園系ですねぇ。
やっぱ平和な学園エヴァはいいですね。最初のトウジとケンスケの会話の時点で、こうワクワクしてきますもんね。
しかしシンちゃんってば相変わらずニブニブというか、オオボケというか…。
まさに「超鈍シンジ、ここに有り」ってな感じですね(w しかもトウジがそれを手助けしてるし(ww
シンジがマナという名前を口に出した後の、アスカ、レイ、マユミ、ヒカリのリアクションが最高に楽しすぎです。
特にヒットなのがマイナー眼鏡娘(おい)、山岸マユミ嬢のリアクションですね。イヤーンな感じに眼鏡を光らせないでください(w
そしてラストはいかにもシンジとアスカらしい雰囲気のLASLAS。んーいいですね!
しかし毎日相撲ですか…。委員長に「不潔よ!」と言われん程度にしときなさいよー(w

作者の関西方麺さん(おお、ドリキャス!)に作品のご感想をっ!
感想は作家の元気の源、是非お願い致します。

掲示板の事はんな謝らんといてください。つーかあの書き込みのお話もすげー面白かったですもんね。
それにこんな良い作品に対してどこに呆れる要素があるというんですか。
今後も素敵な作品が書けましたら、是非また投稿してくださいね、関西さん!



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