カレが前を向くために、
彼女が
スナオであるために
by.烏
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「気持ち悪い……」
シンジの耳に、その言葉が届いているかは分からなかった。ただ、鳴咽が、涙が。途切れることなく、アスカに降り
注いでいた。
THE END OF EVANGELION
ORIGINAL ADDITION:
“Let’s talk,together.”
どれくらい時間が経ったのだろう。相変わらず暗い空にはささやかな燐光を放つ星星が瞬き、赤いさざなみの音が
空気を震わせる。
いつのまにかアスカは目をつぶり、そしてシンジは静かにアスカの体から降り、横たわる彼女の脇に蹲っていた。
しかしシンジの瞳は彼女を映してはいない。何を映しているかは分からない――あるいは、もはや何も映していない
のかもしれない――が、彼はひたすらに俯いていた。
沈黙。重い沈黙ではない。何も含んでいない――ただ空虚な沈黙。
やがて、アスカが目と口を開いた時も、それは変わらなかった。
「……なんで、アタシの首を絞めたの?」
沈黙と同じ、空虚な声。しかしシンジは体をびくりと震わせる。
答えはない。
もう一度、アスカは繰り返した。今度は、見えないシンジの顔に視線を向けて。
「なんで、アタシの首を絞めたの?」
「…………………………
……恐かったんだ……」
ようやく、シンジが口を開いた。口を開いただけ。何の抑揚もない、ただの音。
「……アタシが?」
「うん……でも、それだけじゃない。僕は、僕が恐かった。
知ってるだろ。僕は、アスカに最低のことをした……僕は、自分のことしか考えてなかったんだ……自分が傷付くの
が恐かったから、他人の本当の心を知ろうともしないで、上辺だけ取り繕って、嫌われないようにして……それが本
当に人を傷付けてたなんて、考えもしないで……ずっと、アスカを傷付けて……裏切り続けていたんだ……」
「……うん」
「アスカは……アスカは、僕が嫌いだろ?」
「……ええ」
わずかな間を置いて返された言葉に、シンジは息を漏らした。誰にも聞こえないように、そっと。そして、再び息を呑
む。
もう、逃げないように。今ここで逃げ出してしまったら、今度こそ本当に、何もかも失ってしまうような気がしたから。
たとえそれが、どんなに辛い言葉であっても。人を傷付けてしまうかもしれない言葉であっても。
「だから、恐かった。また人に――アスカに捨てられるのが、恐かった。そしたらまた、僕は誰もいない世界を願って
しまうから……
恐かったから……たまらなく恐かったから……捨てられる前に、僕が捨てるしかなかった」
そして、シンジは顔を上げた。
紺碧。シンジの瞳に、何よりも恐い、そして何よりも愛しい紺碧の瞳が飛び込む。
心がひるみそうになるのを感じる。恐い。でも、傍にいたい。
だから、もう逃げない。
「やっぱり、最低だな、俺って……」
血の匂いを含んだ風が吹きぬける。その風を掴み取るように、シンジは強く、拳を握り締めた。
「でも、力が入らなかったんだ」
恐くてたまらなかったから、アスカの首を絞めた。でも、そのはずなのに、手が震え、肩が震え、思い切り体重を掛
けることも出来ず。
ただ、アスカの喉を押さえているだけだった。
「気持ち悪かった。自分が本当にしたいことが何なのか、分からなかった。アスカのことが恐かったはずなのに、ア
スカがいなくなるって思ったら、もっと恐くなったんだ。
――アスカ。アスカはどうして僕に触れてくれたの? どうして気持ち悪いって言ったの?」
再び、沈黙。しかし、さっきのとは違い、空虚な沈黙ではない。重さと――確かに、何かの意味を持った沈黙。
アスカは視線を上に向けた。シンジから目を逸らした一瞬。しかし、拒絶ではない。自分に目を向け直すための、
一瞬。
そして、シンジの焦げ茶色の瞳を見詰め直した。
「……シンジ、アタシはアンタを許せる」
「――えっ?」
思いに反する言葉に、思わずシンジは声を漏らした。
それに構わず、アスカは言葉を紡ぎ出す。
「アタシはアンタが大っ嫌い。アンタはアタシに何もしてくれなかった。アタシの最後の拠り所を、アンタはあっさり奪
って行った。
アタシが壊れた時にも、アタシにすがるだけだった。それもアタシを見てくれたんじゃない。誰でもよかった……た
だ、アタシしかいなかったら、アタシにすがっただけ。アンタは、自分のことしか考えられなかったのよ。
アタシがエヴァシリーズに陵辱された時も。アンタはいじけてるだけで、助けてくれなかった。
アタシはアンタが憎いわ。大っ嫌い」
ふ、とシンジの口から吐息が漏れた。自嘲の笑みにすらならなかったものが、シンジの体から抜けて行く。結局、
逃げても逃げなくても、結果は同じだったのか。
(やっぱりな……許される訳がないんだよな……)
「アスカ、もう……」
「最後まで聞いて」
最後の光を失いかけたシンジの瞳を、アスカの紺碧の瞳が見詰め返した。
彼女の目にあるのは――決意?
再び俯こうとしたシンジの目を引きとどめ、アスカは言葉を紡ぐ。今まで出来なかった事、言えなかったこと。心の
底から、なけなしの勇気を振り絞って。
「でも、アタシはアンタが好き。ユニゾンの時、アタシを追いかけて来てくれた。マグマの中にアタシが沈んで行く時、
助けてくれた。
アンタはアタシを、エヴァンゲリオン弐号機パイロットとしてだけじゃなく、ただの惣流=アスカ=ラングレーとしても
見てくれた。
ひとりの14才の女として見てくれた。
みんなと――アタシともう一度会いたいって言ってくれた。
アタシはアンタが好き。アタシだけのものにしたい。だからアタシは補完なんかされたくなかった。アンタにとって、た
くさんいる人たちの内のひとりになんか、なりたくなかった。アンタにとって、アタシは唯一のものになりたかった。ア
タシにとって、アンタは――唯一のものだから。
――アタシはアンタのこと、愛してる。アンタのことが憎いけど、それ以上に愛してると思う」
そして、アスカはひとつ息を吐いた。激しい鼓動を感じながら、もう一度、決意を新たに心を落ち着かせる。
「なんで、気持ち悪いって言ったか、だったわね」
それは、ただ口を衝いた言葉だった。実は今まで、自分がなんでそんな言葉を言ったのか、自分でも分からなかっ
た。少なくとも、シンジに向けた言葉ではない。
それを知るためには、アスカにはまず自分の心を知ることが必要だった。
「アンタに首を絞められた時、私はたまんなく嫌な感じがした。エヴァに感じたママじゃなくて、首を吊ってたママを思
い出したわ。私が一番思い出したくなかったものを思い出したわ。それを思い出させたアンタが、凄く憎かった。
でも、息はあまり苦しくなかった。アンタ、ずっと無表情で、アタシを殺そうとしてたはずなのに……
それで、アンタが震えてるのも分かった。アンタが何を怖がってるかはわかんなかったけど、ものすごく追いつめら
れてるんだってことは分かった。そしたら、アンタのことが急に、凄く可哀相に思えたのよ。憎くてたまらなかったの
に……
……気付いたら、アンタを慰めたくて……手が、出てたのよ。
自分で自分が何を思ってるのか、分からなくなったわ。どっちが本当の自分の気持ちなのか。アタシはどうしたらい
いのか。分からなくて、分からなくて、頭が混乱して……声を掛けたかったけど、あの時は、気持ち悪いとしか言え
なかった」
そして、やっと出た答が、告白された。
「アタシにもやっと分かった。アタシの気持ちが。
アンタのこと、嫌いな所もたくさんあるけど、でも、それ以上に好きなんだなぁ、て。
だから、そんなに恐がらなくてもいいのよ。アタシはアンタを見捨てないから……
アタシが、アンタといたいんだから……」
アスカの告白。彼女が求めて止まなかった、素直な心の吐露。
そして同時に、シンジが求めて止まなかった、他人の真実。自分の思い込みではない、他人の――彼女の本当の
心。
自分の真実、他人の真実。二人が何よりも恐れ、そして思い焦がれて来たもの。
心に触れることへのわずかな恐怖を、例えようもない歓びが包み込む。
しかし――いや、だからこそ、シンジは言わずにはいられない。
「でも僕は……恐いんだ。あの時確かに、みんなに――アスカに、もう一度会いたいと思った。人から傷付けられて
も構わないと思った。分かり合えるかもしれないって言う、希望があったから。でも、恐いんだ。
僕はまた他人を傷付けてしまうかもしれない。トウジを傷付けたように。カヲル君を殺してしまったように。アスカを
……壊してしまったように。人を傷付けて、僕はまた傷付けられるかもしれない。僕がここにいてもいいのか、まだ
分からない。
……僕が望んだはずの世界を、壊してしまうかもしれない。恐いんだよ、アスカ……」
「……それはアタシも同じよ。
アタシが本当にここにいていいのか、まだ自信が無い。アンタと同じよ。エヴァが無いのに、本当にアタシがいてい
いのか。今まで、唯一のアタシの価値だったエヴァのパイロットって言う事実が無くなって。
……アタシはまた、壊れてしまうかもしれない」
――僕は、弱い。
――アタシは弱い。
それは、変えられない事実。独りでは耐えられなかったから、シンジはすがった。自分の弱さを認められなかったか
ら、アスカは壊れた。
でも、それを知った今、二人は少しだけ強くなれた。
今は、弱い。でも、これからは強くなれるかもしれない。
独りじゃ、ないのなら。
「色々話そう、シンジ。アンタのこと。アンタが感じたこと。アンタが悩んだこと。
アタシも話すわ。アタシのこと。アタシの感じたこと。アタシが悩んだこと。
独りで抱え込んで悩むのはよそう。口に出して言わなきゃ、きっと何も分かり合えない。そうしなきゃ、今までと何も
変わらないわ。アタシは補完を否定したけど、分かったから」
「………………
そうだね……僕もだよ。
みんな、何も悩んでない訳じゃない。僕たちはさ、確かにみんなの悩みとは違うかもしれないけど、もっと悲しい目
にあった人もいる。
そう。僕らだけじゃないんだ。だから、色々話そう。独りじゃ出来なくても、二人なら――みんなとやれば、きっと僕ら
も変われる。
今は僕には価値が無いのかもしれない。でも、今の僕が僕の全てじゃないんだ。今、見付けられないのなら、これ
からそれを探して行けばいいんだ。たとえ独りで出来なくても、人と支え合えば、それが出来るかもしれない。
みんな、他人の心に触れて、きっと、少しだけかもしれないけど――優しい世界になったと思うから」
僕の中の希望。綾波が、カヲル君が教えてくれた。
自分のことは自分で決めなきゃならない。でもそれは、支えを必要としてはいけないって意味じゃない。独りじゃ出
来ないことも、二人なら、出来るかもしれない。人と分かり合うことが出来れば、自分で決めたことが、人と同じにな
るかもしれない。支え合えるかもしれない。そうでしょ、ミサトさん、加持さん。
だからこそ、他人がいる世界が嬉しいんだから。
ねえ――父さん、母さん。
「ねえ、シンジ」
決意するシンジに、アスカが話し掛けた。視線を宙にさまよわせていたシンジも、はっとアスカの瞳を見詰め返す。
はっとする。あれだけの真摯さに満ちていたアスカの目が、不安げに揺れている。
「どうしたの、アスカ」
どうしたの、アスカ。何が不安なの? やっぱり僕とじゃ不安なの?
そう続けそうになったシンジだったが、思い留めた。アスカの瞳。不安げではあるが、真摯さはいささかも損なわれ
ていない。アスカの言葉を待つ。
「……アタシは、アタシの気持ちを伝えたわ。
アタシは、アンタの気持ちが知りたい。アンタはアタシのこと、どう思ってるの?」
「あ、アスカぁ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げるシンジ。ここでそう来るか。
アスカの気持ち『憎いけれど、それ以上に愛してる』。それを伝えるのに、アスカにどれだけ勇気が必要だったか、
分かる。
分かるが、胸が張り裂けそうなほど鼓動が早まる。全身が紅潮する気がして、思わずシンジは顔を逸らそうとした。
乾いた音がして、シンジの顔は固定された。
アスカが両手で、勢いよくシンジの顔を挟み込んだのだ。顔の熱がアスカの手に伝わってしまうような気がする。
「聞かせて、シンジ」
そして、アスカが呟いた。
それを見て、シンジの心が急速に静まって行った。胸の動悸はそのままに、強い決意が心を満たして行く。
今伝えなくてどうするんだ。もうアスカを悲しませたくない。アスカを裏切りたくない。
何より、自分の心を偽りたくはない。
「僕も……アスカのことが大好きだ。まだ、アスカを傷付けてしまうかもしれないことが、僕が傷付けられるかもしれ
ないことが恐いけど……でも、それでも一緒にいたい。傍にいて欲しい。
――アスカ、僕はアスカを愛してる。誰よりも」
アスカは手を放さなかった。
ただ、青い瞳が、潤んでいた。
突き上げる喜びが、全身から溢れていた。
その時間が、数分も続いただろうか。ふとシンジは気付き、アスカに声を掛ける。
「アスカ、この手、大丈夫なの?」
と、視線でアスカの右手を示す。肩口から包帯でぐるぐる巻きにされた腕。それに、ガーゼで覆われた左目。血は
付いていないが、その下は、どうなってしまったのだ?
「え?……あっ」
はっとしたように、アスカは自分の右腕を見た。すっかり忘れていた。コピーとは言え、ロンギヌスの槍に――神殺
しの槍に刻まれた傷。あの時の、気が狂わんばかりの激痛を思い出し、背筋を冷たいものが付きぬける。
「わから……ない……痛くは、ないけど」
恐る恐る、左手で包帯の上を撫でてみる。やはり痛みは無い。軽く力を込めてみるが、何の抵抗もなく腕は曲がる
し、指も動く。
「ゴメン……僕が助けなかったせいで……」
顔を歪ませ、泣き出しそうな顔でアスカに言うシンジ。あの時、いつまでも悩み続け、今しなければならないことを
放棄したためにアスカが受けた傷。今までの、自分が傷付かないための表層の謝罪ではない、本当の後悔からの
詫び。既に遅いとは言え、謝らずにはいられない、気持ち。
その気持ちは、アスカにもよく分かった。湖の中でママを感じられなかったら、自分も何もせず、死んでいたかもし
れないから。
だから、アスカは決意した。
「シンジ……包帯、取ってみるわ」
「アスカ、でも……」
不安げに問い返すシンジ。しかしアスカはきっぱりと頭を振った。
「いつかは向き合わなきゃならないことよ。アタシたちが変わるための第一歩――
今ここで逃げてたら、今までと何も変わらないわ」
「……」
シンジは逡巡するようにアスカを見つめた。しかしやがて、唇を結ぶと、頷いた。
「分かったよ、アスカ。でも、僕に包帯を取らせて」
「え? でも……」
「アスカ、言っただろ? 私たちが変わる為だって。だから、僕に取らせて」
「………………
――分かったわ」
自分は目を閉じ、右手をシンジに差し出す。シンジはいたわるように、一度その手に自分の手を重ねると、彼女の
肩口から包帯を取って行った。
しゅるしゅると、しばし衣擦れの音だけが耳に響く。夜の心地良い空気が、肩に、ひじに、手首に――そして、右腕
全体に触れる。
「アスカ……目を開けて」
声。わずかに体を震わせ、そして心を決めると、ゆっくりと目を開く。
最初に飛び込んだのは、涙ぐんだ、しかし心からの微笑みを浮かべるシンジの顔だった。
アスカの右腕――傷ひとつ、しみひとつない、舞い下りる雪の白さを湛えた、しなやかな繊手。
「シンジ!」
「うん!」
次いで、左目のガーゼに手をかける。もう迷わない。でもアスカが痛くないように、丁寧にテープをはがす。
空の青。海の青。アスカの、紺碧の――双眸。
2、3度瞬き、そして、抱擁。
「シンジぃ!」
「うん、うん、アスカ。良かった。本当に良かった」
あふれ出る涙を拭おうともせず、二人は抱きしめ合った。お互いの暖かさを、今ここにある歓びを放してしまわない
ように。それを永遠のものに出来るように。
二度と、失わないように――
紅のラインを身に刻んだ月が傾き、東の空が青みを帯びてきた。長い、長い一日が終わり、新たな明日が始まろう
としている。
二人は並んで海岸に横たわっていた。
言葉はない。しかし、空虚な沈黙ではない。重い沈黙でもない。
二人の手は、かたく結ばれてているのだから。
やがて、シンジが上体を起こした。暖かいアスカの手から自分の手を放し、立ち上がる。静かに、しかし微笑みを
絶やさず、アスカに話し掛ける。
「アスカ、行こう」
「どこに?」
「他の人たちを探しに。今はまだ、誰もいないかもしれないけど、きっとみんな帰ってくる。
補完されている時は、幸せだったかもしれない。でも、その幸せも、自分がいなきゃ、他人がいなきゃ意味が無い
んだ。自分だけでしかそれを感じられないのなら、それはただの自己満足と一緒だから。
だからきっと、みんな帰ってくる」
しかしその言葉に、顔をそむけ、シンジから目を逸らすアスカ。蚊の鳴くような細い声で、
「……シンジ、アタシと二人っきりなのは嫌なの?」
「えっ!? い、いやそんなことないけど、で、でも、ほら、僕たちだけじゃ、どうしようもないし、そ、そうだよ! アスカの
服も探さなきゃ! いつまでもプラグスーツのままじゃ――ってアスカ! からかったね!」
いつの間にか、肩を震わせて笑いを堪えていたアスカに、顔を真っ赤にさせたシンジが食って掛かった。とたんに
仰け反って大きな笑い声を上げるアスカ。
「あははははっ! 相変わらずバカみたいにウブね、アンタは! こんな手に引っ掛かってんじゃないわよ!」
「ひどいよアスカ! そんな落ち込んだみたいにされたら、しょうがないじゃないか」
「ははは、ゴメンゴメン。ま、アンタはそれぐらいが丁度いいわよ。じゃ、行きましょうか。
はい」
言って、包帯の取れたばかりの右手を差し出すアスカ。
きょとんとそれを見返すシンジ。アスカの目が険悪に歪む。
はっと思い当たって、シンジは満面の微笑みを浮かべた。そっと――しかししっかりとアスカの手を握ると、そのま
ま彼女を立ち上がらせる。
「ん、ありがと。でも、これくらいすぐに気付きなさいよ」
「うん、ゴメンね。これからは気を付けるよ」
微笑んだまま言ったシンジに、一瞬アスカは不満気な表情を浮かべたが、すぐにやれやれと言った感じで微笑み
返した。
「ま、いいわ。それじゃ、行きましょ。食べ物も欲しいし、お風呂にも入りたいからね」
「そうだね。良く考えたら、僕たちって体中LCLでべとべとだし。でも、水道、水が通ってるのかなぁ?」
「アンタバカァ? そんなの、やってみなきゃわかんないじゃない。行くわよ!」
「あ、ちょっと待ってよ、アスカぁ」
軽やかに歩み出したアスカを、シンジは追いかける。すぐに追いついて――アス
カの、横を歩む。
いつも自分の後ろを歩いていたシンジを、アスカは少し驚いたような顔で見ながら――柔らかい微笑みを浮かべ
た。
「よし、行くわよ」
「うん。行こう」
そして二人は、歩き出す。今までの自分を変えるため。もっと二人で話すため。
きっと、少しだけ優しくなった世界を進むため――
新しい明日を歩む二人に、幸多いことを――
ONE MORE ADDITION:
“Darling……”
「ねえシンジ、あたしとキスした時のこと、覚えてる?」
「う、うん。……あれは……」
「シンジ。色々話そうって言ったばっかじゃない! ひとりでそんな辛気臭い顔するんじゃないわよ。あの時、どう思っ
たの? 話して!」
「うん……あれは、ちょっと――いや、かなりショックだったかな……」
「ふぅ〜ん……」
「ふぅ〜んって……それだけかよ」
拗ねたように、横を歩くアスカから目を逸らすシンジ。しかしアスカはその横顔に小さな笑みを漏らすと、跳ねるよう
にシンジの正面に回り込んだ。そして――
思い切りしがみつき、シンジの唇に、自分の唇を重ねた。
「!!!!!??」
唐突すぎるアスカの行動に、パニックを起こしかけるシンジ。目の前には瞳を閉じた愛らしいアスカの顔、鼻に感じ
るこそばゆい吐息、唇に感じる柔らかい感触。
甘い恍惚感が脳天を貫き、シンジはたまらずアスカの肢体を抱きしめた。
――長い、大人の、キス。二人が少しだけ進めたゆえの、キス。
やがて、二人の影が離れた。頬はこれ以上ないくらいに紅く染まり、瞳は潤んでいる。しばし、お互いに何も口にで
きず、そのまま佇み――
やがて、アスカが満面の――どこかいたずらっぽい――笑みを、シンジに見せた。
「ねえシンジ、知ってる? あれ、あたしのファーストキスだったのよ。このアタシが、たいっっっせつにとっておいた、
ね」
まだ恍惚感に酔いしれていたシンジだが、その言葉にようやく我に返る。耳に入った言葉を消化するために、数
秒、脳を回転させて――
「えっ!? アスカ、それって……」
「ふふーん。それくらい、自分で考えなさい!」
軽やかにきびすを返し、駆け出すアスカ。シンジがそれを追いかけようとする前に、もう一度振りかえり――
紅潮した頬と、心の底から沸き上がる本当の笑みを隠そうともせず、呼びかけた。
「バカシンジっ!」
終幕
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後書き
まず最初に、ここまで読んで下さった方々と、この作品を掲載して下さったえびさんに最大限の感謝を捧げます。
と、言うわけで、初めまして。初投稿の烏(からす)と言います。
初投稿って言うか、初作品。うーん……どうですか? 読みにくい? 一人よがり?俺ってバカ? 全く自信ないん
ですけど……
ともあれ、私の願うEOEアフターストーリーです。稚拙な文章で、言いたかったことを全部表現できたなんてとても言
えないですけど、ともあれ自分にとってはこれでいいか、と思ってます。
最後には一応LASに出来ましたし(笑)。
ともあれ、この作品の感想、批評、非難など頂けたら幸いです。
それでは、この辺で。さようなら。
p.s
EOE見直して気付いたんですけど、多分アスカは目を潰されてはないんですよね。丁度、槍が目を上下に挟むよ
うな形になってて。
書きたかったけど、どうにも入れられなかったんで、ここで書いちゃいました。気付いてた方、笑って許して下さい。
では、今度こそ本当にさようなら。