「バカシンジ!」
「…なんだ、明日香か…」
「なんだとは何よ!」
そう言って、幼馴染の少女は腰に手をあてベットの僕のことをにらみつける。
腰近くまである輝くOrangeの髪、細い手足、澄んだ青色の瞳を持つ、頭脳明晰な心優しい女の子…だそうだ、本人いはく。
確かに僕の幼馴染、惣流 明日香は頭はいいし、黙ってればかわいいとは思う。
「なにブツブツ言ってんのよ!さっさと起きなさいよ、どんくさいわね!」
黙ってればね。
「ほら、早くしないと遅刻するわよ。」
「そういえば、また転校生が来るんだよね。」
「そりゃここも来年は遷都されて新しい首都になるんだから、人もたくさん来るわよ。」
「どんな子かな。かわいい子ならいいな。」
そのときまだ僕は、その転校生が僕の日常をことごとく破壊してしまう存在であるとは、知る由もなかったんだ。
アス・あす
By:koroコロン
「おっ、ミサト先生や。」
赤いスポーツカーが横滑りしながら駐車する。カッコいいな、ミサト先生。
「「はっ、三バカトリオが!」」
おかしいな。ミサト先生が着いてからずいぶんたってるのに、まだ教室に入ってこない。職員室で何かあったのかな。もしかして、今日来るっていう転校生のことだろうか。実はかなりヤバイ奴で、すでに問題を起こしているとか…
ガラガラッ
そんなこと考えてると、ミサト先生が入ってきた。
やっぱり様子がおかしい。学校に着いたときは元気いっぱいで、輝いて見えた先生が、今は肩を落とし、顔は疲れきっているように見える。その姿からは、活力はもちろん生命力さえ伝わってこない。
「よ、喜べ、男子ぃ……。転校生を紹介する……。」
そして、教室の外で待機していたのだろう転校生が入ってきた。
その瞬間クラス中の目が彼女に釘付けになった。男子のみならず女子までも。
しかしそれは憧れや羨望のまなざしではない。みんなの目は点であり皿であった。驚き、いや驚愕すべきその光景によって口は半開きになっている。あごの神経に電流を流し、筋肉を運動させることのできるものはもはやここにはいなかった。ただ一人、転校生を除いて…
「惣流 アスカ ラングレーです。よろしく。」
ガタッ
後ろのほうでイスを倒しながら誰かが立ち上がった。
その誰かを見て、転校生の顔にみるみる驚きが満ちていった。身体がわなわなと震えている。
「な、な、な……」
そしてお互いをビシッと指差して叫んだ。
「「なんなのよ!このパクリみたいな女は!!!!」」
「うちのクラスの惣流 明日香さんよ。仲良くしてね。じゃっ、空いてる席にテキトーに座っちゃって。」
ミサト先生はもうどうでもいいといった感じだ。
「まぁいいわ。え〜っと。」
そう言って彼女は教室を見回した。
僕のほうを見ると、ふうんといった感じで目だけで笑い、僕の隣に座った。そこは空席じゃなくて、ただ今日休んでいるだけなんだけど、すでに僕もどうでもいい気分だったので言わなかった。
「あんた名前は?」
「あ、えと、い、碇だけど。」
近くで見てもそっくりだ。寸分の狂いもなく。なんか明日香に名前聞かれてるみたいで変な感じだ。
「じゃなくて、名前よ名前。ファーストネーム!」
「し、シンジ。碇 シンジ。」
「じゃあ、あたしはあんたをシンジって呼ぶ。あんたはあたしをアスカって呼ぶ。オッケー?」
「え?」
「どうなの!」
「いいけど…べつに。」
ん、メールがきてる。端末の仮面のスミが点滅してる。
『なんだかタノシソ〜ねぇ、シンジ。仲良くしてあげるのよ。』
文面とは裏腹にすごい威圧感を感じる。手書きでもないただの活字で、僕は背中にイヤな汗をかいた。と、ちらりとメールをのぞきこんで、隣の彼女は
『なに?ヤキモチやいてんの?』ピッ
ガタッ
「なっ、そんなわけないじゃない!ただ…そう、あたしはあんたが見るからに友達できなそうだから手伝ってやったのよ!」
「そりゃ、あんたは友達いないかもしれないさぁ。顔だけパクってもほかがねぇ。」
「パクってんのはあんたじゃない!失礼なこと言ってんじゃないわよ。あたしはそうゆーあんたの性格のことを言ってんのよ!!」
「まぁ、もーいーじゃない。どーでも…二人ともやめなさいよぉ。」
ミサト先生が止めに入るが、本気ではない。
このまったく同じ二人の存在のために今やこの教室には、大切ななにかを諦めたような、信じるべきものを失ったような、一種敗北感にも似た空気が満ちていた。一時間目も始まっておらず、何もしていないというのに皆疲れきっていた。
止まらない二人の口論を聞きながら、僕は言い知れぬ不安を感じていた。
「しっっかし、どうなっとるんじゃこの世界は。双子でもないのに顔も性格もいっしょ。おまけに名前までそっくりとは…」
「確かに天文学的出来事ではあるけどな。まぁ、いんじゃないの?二人いればシャッターチャンスも二倍なわけだし。シンジも幼馴染が増えてよかっただろ?」
「いや、幼馴染が増えたわけじゃないと思うけど…」
教室で話す僕とトウジ、そしてケンスケ。放課後になり、みんな何とか現実を認められるようになってきたようだ。人間の環境適応能力を甘く見てはいけない。
「シンジぃ、仕事よ。し・ご・と。」
「明日香。なに、また荷物持ち?」
「んーん、学校の案内してもらおうと思って。いいでしょ?」
「ラ、ラングレーさん?」
「もうっ、アスカって呼んでって言ったじゃ〜ん。ほら、いこーシンジぃ。」
ドタドタ
「おい、ケンスケ。」
「ああ、これはエライことだ。」
「「シンジが間違えるとは。」」
学校の案内といっても、学校の構造なんてどこも似たようなもんだし、今日一日も問題なく授業を受けたじゃないか。いや、問題はそこじゃない。問題なのはどうして今僕はラングレーさんと腕を組んでいるのかということだ。何かこの状態は非常によろしくない気がする。よくわからないが本能が危険を告げている。
「あのー、アスカさん。あまりくっついてると歩きにくいんじゃないかな。あの、それにほら、僕けっこう汗かいちゃってるから…」
彼女はバッと僕のほうを向いて、すぐに目をそらした。
「ごめんね。やっぱり嫌だったよね。馴れ馴れしかったよね。なんだか、シンジがとても優しそうだったから甘えちゃって、迷惑だったよね。」
「あ、その、そんなつもりじゃ…。ごめん。その、えっと…」
「ふふ…。動揺しちゃってカーワイー。やっぱりシンジは優しいね。そこが好き。」
な、な…。これは、この状態はいいのか悪いのか。どうすべきなんだ。ありがたい、確かにありがたいが危険な気もする。
僕の思考は混乱したが、直後、はっきりした。この状態は悪い。非常に、非常に…。
「こんなとこにいたのね。荷物持ちの出番よ!って、なにやってんのよ!!」
「なにって、学校を案内してもらってんのよ。わかんない?」
「そうじゃなくて、何で腕なんて組んでんのよ!」
「あたしがシンジと腕を組んで、あなたに何か問題があるのかしら?」
そう言って両腕で僕の腕をぎゅっと抱きしめる。
「し、シンジなんて馴れ馴れしく呼んでんじゃないわよ!とにかくシンジはあたしの荷物持ちっていう仕事があるんだから!行くわよ、シンジ。」
反対側の手をつかんでグイグイ引っ張る。
「そうやっていつもシンジをこき使ってんのね!行こう、シンジ。こんな女のこと気にすることないわ!」ぎゅう!
「なに言ってんのよ!シンジはいつも喜んでついて来てるんだから!ほらシンジ!」グイッ!
「や、やめ……。い、痛い。」
「シンジが痛がってるじゃん!さっさと離しなさいよ!」ぎゅう!
「あんたが離せばいいんでしょ!」グイッ!
と、そこに別のクラスの男子生徒が通りかかった。
「何だ?碇と惣流、また夫婦喧嘩か?」
二人の「アスカ」は男子生徒をにらみつけ
「「なによ!!」」
「アスカ」が二人ということを認識した男子生徒は、目をパチパチ首をブルブルとして、遠い目をして去っていった。
結局三人で案内をすることになった。もはや僕に穏やかな日常はなくなってしまった。
昼休み
「ねぇねぇ、シンジぃ。あたしシンジにお弁当作ってきたの。食べてくれない?」
「はん!あんたのなんか食べたら、お腹こわしちゃうわよ!シンジ、そんなの食べるくらいなら、あたしのを食べなさい!」
「あんたのこそ、食べ物と呼べるの、それは?」
「なんですって〜〜!!」
「あ、あの。僕自分のが……」
「「うるさい!!」」
「「こうなったら、どっちがシンジに食べさせるかじゃんけんで勝負よ!!」」
「「じゃ〜んけ〜ん、ポン、ポン、ポン、ポンポンポンポン………………」」
じゃんけんは休みが終わるまで続いた。
下校中
帰る僕の両サイドにいるアスカと明日香。
アスカは僕と腕を組み、明日香は僕の制服の肩をつかんでいる。お互いの視線は火花を散らし、僕の鼻先はこんがりコゲた。
道の分岐でそれぞれ逆方向に僕を引っ張る。
「ちょっと!あたしはこれからシンジと映画見に行くんだから邪魔しないでよ!!」
「なに言ってんのよ!シンジにはこれから荷物持ちしてもらうのよ!!別に約束してたわけじゃないんでしょ!諦めなさいよ!!」
「そっちだって約束してないじゃない!!」
「「よーし。こうなったら、どっちがシンジを連れて行くかじゃんけんで勝負よ!!」」
「「じゃ〜んけ〜ん、ポン、ポン、ポン、ポンポンポンポン………………」」
じゃんけんは日が暮れるまで続いた。
碇宅
「あなたったら、たまに早く帰ったと思ったら、また新聞ばかり読んで。」
「ああ。」
「朝も読んでたじゃないの、まったく。」
「ああ、わかってるよ。」
「たまにはしっかりしてください!毎度、毎度、冬月先生に怒られるのは私なんですからね、もう!」
「ああ、わかってるよ。」
「あら、あなた?卵買ってきてって頼んだわよね?」
「ああ。」
「また忘れたのね!もう、ホントにわかってるのかしら!」
「ああ、わかってるよ。」
がちゃっ
「ただいま。」
「わぁ、ここがシンジのうち?へー、けっこう広いのね。」
「あら、いらっしゃい明日香ちゃん。」
「あっ、お邪魔しま〜す。で、シンジの部屋はどこどこ?」
ドタドタ………。
がちゃっ
「ちょっと!!シンジの部屋にあがりこんでなにする気なのよ!!あっ、こんにちは。おば様。」
「あら、いらっしゃい明日香ちゃん。」
「ちょっと待ちなさいよ!」
ドタドタ………。
「……あなた。私いま、明日香ちゃんが二人いるように見えたの。やっぱり疲れてるのかしらね。」
「ああ、わかってるよ。ユイ。」
こんな感じで、なにかにつけて、二人は言い争いをした。その度になぜかいつも僕は巻き込まれて、いろいろと被害を受けるのだった。そして…………。
放課後(教室)
この日もいつもどおりの言い争いのはずだった。
「だいたい、なんであんたはいっつもあたし達の邪魔するのよ!」
僕に腕を絡めて言うアスカ。
「じゃ、邪魔!?」
「だって、あんたがいなかったらラヴラヴになれるのにさ。シンジにかまってもらえなくて寂しいってんなら、そういやぁいいじゃん!」
「そ、そんなんじゃ……!」
「だったら何で邪魔するのよ!あんたは恋人でもない幼馴染。ただの幼馴染でしょ!!」
「そ、それは……。そうだけど…。」
「なら、あたしがここでシンジにキスしても、文句は言えないわよね。」
そう言ってアスカは唇を近づけてくる。
こんなの、こんなの駄目だ。いけないよ!こんなふうに…。こんなことしちゃいけない!!駄目なんだ!絶対に!絶対に駄目だ!!
僕が肩に手をかけ、引き離そうとしたそのとき
「やめてよ!!!」
明日香が叫んだ。
「なに?ただの幼馴染なんでしょ?」
アスカが挑戦的に言う。
「ただの幼馴染だからってなによ!!確かにあたしは……。ただの幼馴染でしかないけど、それでも…………。それでも、あたしは…。あたしだってシンジのことが好きなんだから!!!!!」
沈黙が続いた。それをアスカが破る。
「やっと素直になったわね、まったく。我ながらよくここまで意地が張れるもんね。」
なにを言ってるんだ?明日香もへっ?という顔をしている。
「あたしはあなた。あなたの想いなのよ。素直になりたい、シンジのそばにいたい、シンジに甘えたい、見つめ合いたい、かまってほしい。そんな想いがあたしを創ったのよ。でもまあ、素直になれてよかったわね。それじゃあ……さようなら。」
そう言って教室から走り去っていく。僕も急いで追いかけたけど、教室を出たときにはすでに彼女はいなかった。
「……で?…………。」
僕の隣で弁当を食べている明日香。
「なぁ〜〜んで、あんたがまだいるのよぉ!!!」
反対側で弁当を食べているアスカ。
「なんでって、あたし、いなくなるとか言った覚えないけど?」
「じゃあなんなのよ!『さようなら』とか言ってあっという間にいなくなったあれは!!」
「あぁ〜、あれ。ドラマの再放送が最終回だったのよ。時間ギリギリ、間に合ってよかったわ。最後だけ見逃すなんて気分悪いもの。」
そ、そんなことで…。けっこう心配したのに。明日香はウンウンとうなずき、納得しているようだ。やはり、通じるものもあるのか。
「あたしはあんたの想いなのよ。そう簡単に消えてしまうほど、あんたの想いは軽くないわ。………それに……二人のほうが、一人より、シンジを幸せにできるはずよ!」
は?
「………それもそうね。」
なに、納得してるんだよ明日香!
「それで、今日あたしのうちに遊びに来ない?あっ、そうだ。今日金曜だし、泊り込みで土日もパーっと遊ぼう!三人で!一人暮らしだから、いっつも退屈なんだぁ。」
「あ〜、それいいわね。よし!決定!!」
あの、僕はまだ行くともなんとも……。
「よ〜し。だったら今のうちに寝ておくのよ。シンジ、今日は居眠りしてても起こさないでいてあげるから、思う存分寝るのよ!」
「え?遊びに行くのと居眠りと、何の関係が?」
「そんなこと、あんたは気にしなくていいのよ!!………とにかく!!」
「「あたしたちがシンジを幸せにするんだから!!!」」
あとがき
こんばんは、またはこんにちは、もしくはおはようございます。Koroコロンです。
なぜ、二人いるのか?それは聞いてはいけません。危険だからです。命にかかわります。口に出したり、文章化するのはもちろん、考えるだけでも危ないので絶対にやめてください。
それにしてもアスカの正体…。僕はまったく、フに落ちません。もっとマシなのにできなかったのでしょうか?まぁ、実際、二人いれば、双子だろうと、クローンだろうと、宇宙人の生体兵器だろうといっこうにかまいません。ではなぜそうまでして二人なのか?いけません、危険です。強いて理由めいたことを言えば、シンジにラヴラヴなアスカも、やきもち焼くアスカも、好きだということです。そして最後の台詞を言わせたかっただけです。
それにしても、今後のシンジ君が心配です。一人でも手に終えないのに、二人では勝ち目がありません。この後も、徹夜でウノやらトランプやら桃鉄やらにつき合わされるのでしょう。
ところで、こんなくだらない話を、最後まで読み切ったあなたは、とても立派な方です。話の展開が急だったり、つながってなかったりしていますが、それがヘボ作者の限界だと思ってください。ちなみに、タイトルは「アスカと明日香」を略したものです。
さて、無駄な話も終わりにしましょう。また会えるかはわかりませんが、それではまた。
koroコロンさんに初投稿していただいた「アス・あす」でした〜。
投稿どうもありがとうございました!
やっぱ初投稿してくださる作品を拝見するのってすごく嬉しいですね。
こちらの作品は、その嬉しさに加え、内容でももう十二分に楽しませていただきました。
幼馴染の明日香と、転校生のアスカ。その二人に挟まれ、翻弄されるシンジ君…。いやーすっごく面白かったです。
まさに「両手に花」状態のシンジですが、この二人に挟まれるってのはすっごく苦労しそうですよね(w
美少女×2に挟まれて羨ましい!…というより、ちょっと同情しちゃいます(汗
「明日香」の素直な部分を引き出してくれた「アスカ」。
でも結局は「アスカ」の方も消えずに残っているわけで…。シンジの苦労は今後も続きそうですね(w
最後のWアスカの「「あたしたちがシンジを幸せにするんだから!!!」」という台詞がとてもいいです。最高っす。
作者のkoroコロンさんに作品のご感想をっ!
感想は作家の元気の源、是非お願い致します。
本当に楽しませてくれた作品をどうもありがとうございました、koroコロンさん!
次回作も楽しみにしております〜。
第壱中学校資料館に戻る