真夜中の・・・・
byコウ
夜。
夜の闇は全てを覆い尽くす。
ここ、第3新東京市も例外ではない。
夜の第3新東京市を照らすものは、月の光と、街灯と、ときおり走り去る車のヘッドライトだけ・・・・・・。
昼間の喧噪とはうって変わった、静寂な夜の街。
コンフォートマンション、かつては気の弱い少年が住んでいた部屋。
今ではその少年を叩き出し、可愛らしい少女が健やかな眠りについている。
彼女の名前は、惣流・アスカ・ラングレー。
アメリカ国籍の日系ドイツ人のクォーター。
碧い瞳。
金色の髪。
14歳とは思えない肢体。
東洋人と西洋人の長所を併せ持つ美少女。
そのあどけない表情からは普段の勝ち気な性格は伺えない。
安らかな寝顔。
まさに天使のそれである。
「・・・・う・・・ん・・・・。」
寝苦しいのか、深夜にも関わらずアスカは唐突に目を覚ました。
目にはいるのは月明かりに照らされた自分の部屋。
意識は未だ半分以上夢の中を彷徨っている。
しかし、小さな物音がアスカの意識を一気に覚醒状態のレベルまで引き上げた。
深夜の静まりかえった部屋では、通常昼間においては聞こえないであろう小さな物音まで響きわたる。
温度変化による家具類のきしみ音とは明らかに違う音がアスカの鼓膜に響いた。
(今の音は・・・・・・もしかして・・・・・・。)
(・・・・・いるの・・・・・?)
カサカサ。
再び聞こえる物音。
(・・・・・いる・・・・・。)
アスカは、ビクッと体を強ばらせた。
彼女の背中に空調が行き届いているのにも関わらず汗が流れ始めた。
もちろん暑いためではない。
俗に言う冷や汗、脂汗の類だ。
時折思い出したように発する物音に、アスカはベッドの中で身動きができずに凍りついていた。
聞きたくない音。
想像したくない物。
それでも、アスカの意識は物音に集中してしまう。
物音の発生源は彼女のクローゼットの下方から聞こえてくるようだ。
(どうする・・・・・・どうするのアスカ・・・・・・。)
(・・・・・・やるの・・・・・・?)
(・・・・・・それは・・・・・・嫌・・・・・・。)
(・・・・・・でも・・・・・・、いるのはもっと嫌・・・・・・。)
アスカの心の中では激しい葛藤が起きる。
強烈な二律背反。
(・・・・・・。)
どちらが勝るのか。
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(・・・・・・アスカ・・・・・・いくわよ・・・・・・。)
やがて意を決したアスカは静かにベッドから身を起こし、ゆっくりと部屋の照明のスイッチに手を伸ばした。
バン
バン
バン
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!!!!」
深夜のコンフォートマンションにアスカの絶叫がこだました。
碇シンジは同居人たる少女の部屋の方から物を叩く音を聞いて目を覚ました。
(アスカの部屋からだ、こんな夜更けになにやってんだろう・・・・・・。)
そんなことを思っていると、今度はアスカの絶叫がシンジの耳に響いてきた。
その瞬間シンジは布団から跳ね起き、アスカの部屋に駆け寄り部屋の戸を押し開ていた。
もちろん、戸にかけられているプレートのことなど眼中にはない。
ちなみにこのマンションの持ち主である葛城ミサトは自分の部屋であられもない姿で爆睡状態だった。
おそらくこのまま世界の滅亡が起きても目が覚めることはないだろう。
ミサトを慕う日向マコトがこの姿を見れば百年の恋も冷めるかもしれない。(笑)
シンジが目にしたのは、掛け布団にくるまり、膝を抱いてガタガタと震えて蹲っているアスカの姿だった。
「アスカ、アスカ、どうしたの!」
シンジはアスカに駆け寄り心配そうに声をかけた。
しかし、アスカは何の反応も見せず震えているばかりだった。
その瞳に生気はなく虚ろで、なにも写してはいないようだ。
「アスカ!」
アスカに手を掛け体を揺さぶってみる。
「・・・・・シ・・ン・・ジ・・・・・・。」
徐々に光が戻り始めるアスカの瞳。
「どうしたんだい、急に悲鳴を上げたりなんかして・・・・・・。」
「シンジ、シンジ、シンジ〜。」
ガバッ
「あ、アスカ。」
シンジを認めていきなり抱きついてきたアスカに、シンジは真っ赤になりながら、さらに問いかけた。
「アスカ、急にどうしたの。」
「・・・・・・出たの、出たのよ〜。」
「出たって・・・・・・何が出たの、アスカ?」
「ゴキブリ。」
「えっ、アスカ聞こえないよ。」
「だからゴキブリ・・・・・・。目が覚めたら、カサカサって音がしたの。アタシ、ゴキブリって大っ嫌いなの。でも、この部屋にゴキブリがいることにも我慢できなくって殺そうとしたんだけどうまくいかなくって・・・・・・。そうしたら、アイツがいきなりアタシめがけて飛んできたのよ〜。アタシもう怖くて怖くて・・・・・・。嫌なの、嫌いなの〜ゴキブリは〜。」
ゴキブリ、人類発生の遙か以前から存在し、おそらく世界が滅亡し人類が死に絶えても生き残るであろう種族。
世に一番疎まれる種族。
何処にでも、いつの間にかいる種族。
よほどのショックだったのだろう、普段の彼女の様子からは伺えないほど、アスカは弱々しかった。
ゴキブリ、その言葉を聞いてシンジの態度は豹変した。
「大丈夫アスカ、僕に任して。」
シンジはそう言うとアスカからゆっくりと離れて部屋を出ていった。
「シンジ・・・・・・。」
しばらくして戻ってきたシンジの両手には、殺虫剤と熱湯を入れたやかんが握られていた。
そう葛城家の台所を預かる主夫、碇シンジにとってもゴキブリは撲滅すべき天敵だった。
「アスカ、奴はどこにいるの?」
「そこのタンスの後ろ、多分まだそこにいるはず・・・・・・。」
シンジはタンスを睨みつけると、
「じゃあアスカはこの殺虫剤で奴を追い出してくれるかな。」
「殺虫剤で殺せばいいじゃない。」
「殺虫剤じゃ、なかなか死なないんだよ。だいぶ吹きかけないとね。それに殺虫剤のにおいが残っちゃうよ。叩きつぶすとぐちゃぐちゃになっちゃうしね。追い出す程度でいいから・・・・・・、後は任して。」
アスカはシンジに言われるまま殺虫剤を持ってゆっくりとタンスに近寄った。
腰が引けているのはよほど怖いらしい。
シンジはやかんを構えて反対側に立った。
「いいよ、アスカ。」
シュゥ〜〜〜〜。
シンジの合図に会わせてアスカは殺虫剤を吹きかけた。
殺虫剤に驚いたゴキブリがシンジが待ち受けてる方に飛びだしてくる。
シンジはタイミングを見計って手に持っていたやかんを傾けた。
やかんからこぼれ落ちた熱湯は狙い違わずゴキブリを直撃。
全てはこれで片づいてしまった。
後に残ったのはゴキブリの死骸とこぼれ落ちたお湯。
「アスカ、終わったよ。」
シンジはアスカの方を振り返ってニッコリと微笑んだ。
しばしシンジの微笑みに見とれていたアスカだったが
「や、やるじゃないシンジ・・・・・・。」
アスカの顔が心なし赤いのは気のせいだろうか。
(やるわねシンジ、アイツをこんなにあっさりとやっつけるなんて・・・・・・。)
ちょっぴりシンジを見直したアスカだった。
アスカがシンジに見とれているうちにシンジは死骸を処理し、こぼれたお湯を拭き取り後かたづけを済ませてしまった。
「それじゃ、もう大丈夫だと思うから、アスカおやすみ。」
(・・・・・あっ。)
部屋から出ていこうとするシンジを、アスカはいつの間にかシンジのシャツの裾をつかんで止めていた。
「・・・・・・ん・・・・・・。」
何事かと振り返ったシンジに、アスカが俯きながら、
「・・・・・・いっしょに居て・・・・・・。また出たら・・・・・・・。」
「なに?」
「アンタの布団をここに持ってきなさいと言ってるのよ。また出たら困るでしょ!!」
完熟トマトのように真っ赤になる二人。
お互いに目線を会わすことができない。
「同じ布団に入るわけじゃないんだから・・・・・・。さっさとしなさい。」
「う、うん。」
アスカにはどうしても逆らえないシンジは自分の部屋から布団を持ってきてアスカのベッドの隣にひいた。
「じゃ、じゃあ電気消すわよ。いいわね、変なことしたら承知しないから!!」
「うん、おやすみアスカ。」
「・・・・・・・。」
アスカの部屋から人口の明かりが消えた。
ただ、月の光が照らすだけ・・・・・・。
そして、静寂が室内を支配する。
部屋に漂うのは少女特有の甘酸っぱい香り。
健全な少年であるシンジはなかなか眠る事は出来ない。
それでもシンジは己の理性を総動員して目を瞑っていた。
やがて理性が勝利を収めたのかシンジの布団から健やかな寝息が立ち始めたころ、
「シンジ、かっこよかったぞ。」
ベッドから降り立った影が、傍らに寝ている影と重なったのは窓から見えるお月様だけが知っていることだった。
「ありがと・・・・・・。」
翌朝、シンジはアスカの天使のような寝顔をしばらく眺めた後、アスカを起こさないようにそっと部屋を抜け出し朝の支度にかかった。
(もうちょっと見ていたかったな、アスカの寝顔。)
主夫は辛いものである。
支度を全て終え、アスカを起こし、ミサトを起こすため部屋の前にやってきた。
(そう言えばミサトさん、当分の間部屋には入るなって・・・・・・。この間の後始末で書類一杯抱えていたなぁ〜。)
「ミサトさん、朝ですよ。ミ・・・・・・。」
ガラッ。
バタン。
シンジはミサトの部屋を空けた次の瞬間、再び戸を閉じていた。
「あ、アスカ、悪いけどガムテープ持ってきてくれないかな。」
シンジはちょうど起きてきたアスカに向かってそう言った。
アスカの方を見むきもせず、戸をにらみつけている。
口調もどこかおかしい。
「何よ、シンジ。」
「いいから・・・・・・。」
不承不承アスカが持ってきたガムテープを受け取るとシンジはミサトの部屋の戸を目張りし始めた。(笑)
「ちょ、ちょっとアンタ、何やってるの!!」
「アスカは知らないほうが良いよ。」
そう言って振り向いたシンジの顔は真っ青で、目が据わっている。
やがてミサトの部屋の戸を全てガムテープで頑丈に、一分のスキもなく張り終えたシンジは、
「アスカ、リツコさんのところに行こう。」
「リツコんち???、何のために・・・・・・。それに朝食はどうすんのよ!」
「それは道すがら話すよ。一刻を争うんだ!」
(今、言えるわけないよ。ミサトさんの部屋がゴキブリの巣窟だなんて・・・・・・。)
そうシンジがミサトの部屋に入らなかった数日のうちにミサトの部屋は腐海へと姿を変え、ゴキブリの巣窟と化していた。。
昨晩のアスカのゴキブリ騒動も、ミサトの部屋から来た奴に違いない。
シンジが赤木リツコ博士の元に訪れるのは、ゴキブリ退治用に超強力殺虫剤を貰うため。
・・・・・・そして。
真っ昼間にリツコ特製、超強力殺虫剤をいくつも投入されたミサトの部屋から女主人の絶叫がコンフォートマンションに響きわたった。
「シンちゃ〜ん、お願い出して〜。(涙)」
「アスカ〜、許して〜。(涙)」
「ペンペン、助けて〜。(涙)」
シンジとアスカには、このミサトの叫び声は聞こえなかったようである。
「ふん、アタシに怖い思いをさせた罰よ!!」
(でも、シンジといっしょの部屋で眠れてちょっぴり嬉しかったかな・・・・・・。)
「ミサトさん、責任はとってもらいますよ!!」
(でも、アスカの寝顔が見れてちょっと嬉しかったかな・・・・・・。)
後に、この話の顛末を聞いた赤木リツコ博士。
「ふっ、不様ね」
お約束の一言である。(笑)
あとがきといういいわけ
アスカだけにゴキブリは苦手・・・・・・。
すいません、こんなんしか書けませ〜ん。