メランコリック・少年シンジの憂鬱 11だったのか

メランコリック・サスペンス劇場

作者:ごまめ

[562] 題名:メランコリック・サスペンス劇場 名前:ごまめ MAIL URL 投稿日:2011年07月17日 (日) 01時48分

※このお話は、「メランコリック少年シンジの憂鬱」の続きです。なんとなくシリーズ化。
※最初は、何処さんのお話から始まりました。
※お正月から数日たったある日。メランコリック少年は、野望を果たすことが出来たのか否か。

※あなたの人生において、何の役にも立たない話です。

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「ふんふんふーん♪家主さまのご帰還ですよっと…」

夜空にはもう月が出ていた。

常夜灯で照らされたマンションの廊下に、カツカツというハイヒールの踵の音と、ゴロゴロゴロというスーツケースの車輪が響く音をさせて、エレベーターから降りてきた葛城ミサトがつぶやいた。

「あたしがいない間、あの子達、ちゃんと仲良くしてたかしら?」

今年の正月休みはよかった。
加持の赴任先のドイツに遊びに行って、二人でずっと一緒にいられた。

去り際には空港で、

「日本に俺が帰ったら、ずっと言えなかった言葉を言うよ。待っていてくれ」

…だって!遅いのよっぶぁか!
…でへ。でへへへへへ!!

いよいよあたしも花の独身を卒業かしら!でへっ。

嫌でも機嫌がよくなるミサトであった。

カードキーを通し、ドアを開ける。

「たっだいま〜!お土産買ってきたわよーん!…あら?真っ暗じゃない」

マンションの廊下も、部屋も暗い。手探りで廊下の電灯のスイッチを入れたが、つかない。

「あら?なんでつかないの?ブレーカーが落ちてるのかしら」

傘の先で、頭上のブレーカーをつつくと、いっせいに廊下の照明が輝いた。

と同時に

「きゃああああああぁ!」

という絹を裂くような女の悲鳴が響き、ミサトは目を剥いた。

ガタンガタンばたーん!
どす、カラカランバタン

けたたましい物音がバスルームから聞こえたと思ったら、目に飛び込んできたのは、廊下に飛び出した一糸まとわぬアスカの後ろ姿だった。

「アスカ!?何やってるの!」

ただならぬ気配を感じて、慌てて靴を脱ぎバスルームに駆けこむと、湯舟につかった裸のシンジがのけぞるように上を向き、ぐったりしていた。


――――――血まみれで!

(BGM:火曜サスペンス劇場のテーマ)

「いやぁあ!シンちゃん!アスカね!アスカ、とうとうシンちゃんを殺ってしまったのね!!」

走馬灯のように三人で過ごした日々が思い浮かび、キッと振り向いた顔からは涙が玉になってこぼれた。

「いくらシンちゃんを自分のものにしたいからって、本当に殺してしまってどうすんのよ…!こんなことなら二人きりになんてさせるんじゃなかったっ!」

悔やんでも悔やみきれない。
二人の仲が進むようにとの願いもこめての、ドイツ行きだったのに。

こうなってしまっては仕方がない。現行犯逮捕だ。
破竹の勢いでアスカの逃げた先に駆け込むと、全裸のままのアスカが冷蔵庫の扉を開けてしゃがみこんで何ごとかをしていた。

「ミサト!?帰ったの?!きゃああ」

「問答無用よアスカぁ!観念してお縄を頂戴しなさい!」

ほっそりした白い裸体を押し倒し、片腕を決めて後ろに回した。
キッチンの床にうつぶせにしたアスカに馬乗りになる。

「あぁっ!痛いィ!やめてぇ!」

「おとなしく自首すれば情状酌量って道もあるわ!」

手近に転がっていた、縦長に畳まれたスーパーのポリ袋で手首をふんじばる。

まとめていた長い髪がほどけ、白い首がのけ反り、裸の胸を晒したなまめかしすぎる容疑者をしっかり確保した。

そこでキッチンと部屋の異常に気がついた。
あの綺麗好きな、掃除が人生の義務のようなシンジがいたにも関わらず、部屋が乱れ、汚れている。

さては、この子達、若さに任せて怠惰極まりない日々を送ったのね!その果ての凶行なのね!
自分自身にただれた日々の思い出がないとは言えないミサトは、すぐに理解した。

「どうしてこんなことしたのよー!うぅっ!アスカー!」

「違うって言ってんでしょうがー!離せー!」

アスカがジタバタと暴れた。

※※※

「シンジが、どぉ〜〜〜しても、あたしとお風呂に入るってきかなかったんだから!!」

「それがこうなった理由?ふざけないで」

「本当だってば!!あたしは恥ずかしいから絶対嫌だってずっとずっと断ってたのよ!」


※※※


「嫌よ!イヤイヤ!絶っっ〜対にいや!」

「なんで嫌がるのさ!綾波とは入ったくせに!」

「あんた馬鹿ー!?」

「綾波はよくて僕はダメなの!?僕はいらない彼氏なの!?」

「あんたの思考回路は一体どーなってんのよ!」

思わず、シンジを突き飛ばすアスカ。

「…!」

ゆっくりとスローモーションのように、床に倒れこむ主人公。

突き飛ばした側のアスカは立ったまま息を呑んだ。

「……」

沈黙したままうつむいて、ゆっくり、ゆっくりと立ち上がったシンジは、いつもの彼と異なった、異様な雰囲気を発散させていた。

「…シ、シンジ…?」

彼は拒絶されることが何よりも怖いのに。そして本当は自分もそうだ。また地雷を踏んでしまったのだろうか。
でも恥ずかしいものは恥ずかしいっ!下を向いたままのシンジに、恐怖を覚えた。


次の瞬間。

「わかった…そっちがその気なら…」

「えっ…?」

「僕はもう家事をいっさいしないからねっ!要求がのまれるまで断固ストライキさせてもらう!」

「はあー!?」


※※※


「……それで、家がこんなに汚れちゃったのよ…」

「いつから」

「お正月の三日から」

「…アスカ、あんたが片付けるという選択肢はなかったの?」

「やったわよ!しょーがないから!でもシンジったら酷いのよ!あたしが片付けてるその横にやってきて、わざわざ散らかして行くんだから!テロリストよ、あいつ!」

「それで要求を呑んであげて一緒にお風呂なわけ?」

「あたし、そんなのでへこたれないもん。でも料理までシンジがしなくなって」

「お腹が空いて要求を呑んだの」

「ちがうわよ。自分の分くらい用意したもん。そしたら、あいつハンガーストライキまではじめて、ご飯食べずに、あたしが食べてるとこ部屋の角からじっと見てるんだもん。すごく気になるじゃない!」

「とにかく、それで入浴したのね」

「ちがうわ。…だって、だって…、キスまでストライキだって…してくれなくなっちゃったからつい…耐えられなくて…」

もじもじ。

「あのさ。あたし海外帰りで疲れてんの。結局あんたノロケ聞かせたいの!?とにかくそれでアスカはシンちゃんの要求を呑んだのね!?」

「でもでも、ちゃんと危なくないようにしたんだから!」

「どうやって?」

「電気消したの」

「ソレ余計にイヤラしいんじゃないのっ!?真っ暗闇のお風呂に二人きり??」

「だって見られるの恥ずかしいし、見るのも恥ずかしいじゃない!」

ぷうっと膨れて言い返すアスカ。

「それでわざわざブレーカーまで落としたわけ?!」


◆◆◆


「真っ暗闇じゃないか!あれ?電気つかない!」

「いーの!それで!あんたは先にお風呂につかってなさい!絶対出ちゃダメよ!ジェリコの壁で出来たバスタブだからね!」

バシャン!

「もー。意味ないじゃないかあ!しかもアスカ体にバスタオル巻いてるだろ!」

「当たり前よ!あたし、今から体洗うから、あっち向いてて」

「洗うの手伝ってあげようか?」

「あんた馬鹿?!殺すわよ!」

「………」

ポチャーン…

しゅわ、しゃわしゃわ…

静かな闇の中に、聞こえるのは肌を滑るタオルの泡の音だけ……。

やばい。これはかえって死ぬほど恥ずかしい。イヤラシイ。やばい。

「ね、シンジ…何か、喋りなさいよ…」

「………アスカ……」

「ひゃい!?」

いる。
闇の中にケモノがいる。
お湯に体を浸して、あたしのことを狙ってるわ。

繰り返される、シンジの吐息が、熱くて、重い。

「ど、どどどどうしたのよシンジ」

「…アスカ…アスカ…」

「シンジ……シンジ…あの…あたし…あの…」

「アスカっ!」
「シンジっ!歌唄って!いえ唄いなさい!命令よ!」

「…は?」


※※※


「…まさか、それでシンちゃんは素直に唄ったと?」

「うん。30曲くらい」

「30曲?は?30曲?」

「だって猛ったシンジは危険だから、お湯にしっかりつけて弱らせようと…」

「あんたらバカなの?それともアホなの?」

「どっちでもないわよ!」


◆◆◆


「アンコール!アンコール!アンコール!」

「ねえ…もう僕歌える歌ないよぉ〜!!暑い〜い…」

暗くて見えないけど、多分ユデダコみたいな顔色になってるシンジが、ぐにゃぐにゃになりながら音をあげた。

「歌謡曲も童謡もアニメソングも、知ってる歌は全部唄ったよぉ〜」

「あたし、まだ聞きたい!あれがあるじゃない。あんたがいつもチェロで弾いてるやつ」

「あれに歌詞はないー!もうダメだ暑い…」

「暑い?暑いよね!そーよね!じゃあもう出ようシンジ」

「いーやーだ!ダーメーだ!まだアスカと湯舟に浸かってないー!」

ばしゃんばしゃん。

「ちっ。しぶといやつ…」

「約束したじゃないかぁ…」

「ぐぅう… わ、わかったわよ……」


◆◆◆


「も、もうちょっと足曲げてよ…」

「う、うん」

暗くて見えないけどこっちを向いて三角座りするシンジを踏まないようにして、そっとバスタブにつかる。
もちろんバスタオルは巻いてるわよ!

「…………」

心臓がどっきんどっきん言いすぎてる…胸が揺れて、波を起こしてしまうんじゃないかしら

「……」

「シ、シンジの息、なんかやらしいからやめてよ…」

【無茶言うな!死ぬわ!】

三佐のツッコミ

「あすかぁ…」

ぱしゃん。

「きゃっ!……シンジ…」

一瞬、恐怖を感じて、身を固くしたが、シンジが左手を握ってきたので、緊張がとけ、ゆるゆると心が満たされていく。

「へへ…」

もしかしたら、ぐでんぐでんにのぼせて訳がわからなくなってるだけかもしれない。
でも、暗闇の中のシンジに安心し、愛おしさが増した。

そっと握り返す。
体も心もあたたかいわ…

【いや、シンちゃんはあったかいどころの騒ぎじゃないでしょうよ!】

「つぎは…」

「え?次?」

「おっぱいさわる」

「はあっ!?やーよっ!」

ばっしゃん。

「なんでだよ!綾波には触らせたくせに!」

「なんでそんなに対抗意識を燃やすのよーっ!それにそれにレイが触ったのなんて横のとこ、ほんのちょっと、ぽよってちょっとだけよ!」

「ぽよっとでも触らせるなよなー!とにかくさわる!僕も触る!」

ばっしゃばっしゃ

「やぁ!…あっ…イタッ…」

両方つかまれた。

「シ、シンジィ…」

早く離して…

「なんだよこれ…タオルごしじゃないか…直接さわる!」

「絶対イヤー!」

ばっしゃんばっしゃばしゃばしゃばしゃ!

「んきゃ!」

「ああアスカ…」

「ばかぁ…」

あたしを支えるみたいに触れてるあいつの、両腕に手をからめてしまった。
本当は制止するつもりなのに。チカラが全然はいらないの。

「このまま、キスしたい…」

「ダメ、それはダメ」

必死にかぶりを振る。

「…どうしてさ」

「だって今そんなことしたら、壁が、壁が…あぁん」

ジェリコの壁が崩れるどころか、溶けてしまう。涙出そうよ。

「壁がどうしたぁ!」

「あーっ!」

ばしゃーん。
かき抱かれるように胸と肩に急に力がこめられた次の瞬間。

パーーーーーーッ

急に浴室の明かりがついた。


◇◇◇

「そ、それ、あたし…?」

「そう、ミサト。」

◇◇◇


一瞬何が起こったかわからなくって。

きょとんとしたシンジと目があった。

視線を少しずつ下に落としたら、あいつの手が、思いきりあたしの胸を掴んでて。

白い肌にくいこむ細長い指を見た途端、顔じゅう口にして悲鳴をあげて立ち上がったら、あいつの目の前に、あたしの前面が晒されてしまった。

そうしたらあいつは思いきりよく両方の鼻の穴から噴水みたいに血を吹き出してのけぞったので、あたしは慌ててバスタブを飛び出した。

とにかく冷凍庫の氷を用意してシンジを介抱しなきゃと慌ててるとこを、バカなミサトにふん縛られた。

「というわけなの。へっぷし!」

「あんたらにだけはバカと言われたかないわね!じゃあシンちゃんは…あれ、鼻血なの!?」

「そうよ!ああシンジ!こんなことしてる場合じゃないわミサト早くほどいて!」

そういえばマッパのアスカをふん縛ったまま尋問していたんだった。

◇◇◇


「シンジ、しっかりして!」

「とにかく早く浴槽から出さなきゃ!アスカ、そっち持って!」

「「せーの!」」

「あら、まあ…。シンちゃん…すっかり成長したのね…」

しみじみ三佐。

「ぎゃあああ!どこ見てんのよミサトー!見るなあー!!って、えっ。キャー!イヤー!」

「あっ!手を離したらっ!」

ゴーーン!

「あんた、頭のほう持ってんだから、手を離したら落ちるの当たり前でしょーが!自分の目を押さえるより先にやることやんなさい!あーあ、タイルに思いきり頭打った」

「キャー!シンジしっかり!やだ…。シンジ覚えてないよねコレ?」

「知るか!早く運ぶ!シンちゃんもいつまでもぐでんぐでんになってんじゃなーいっ!」


◇◇◇


プシッ

缶ビールの蓋をあけ、流しこむ。

「ふ〜い…。この最初の一口で生きていることを実感するわね…」

「グワー」

ぺったぺったと足音をさせて主人に近寄るペットの南極水鳥。

「ただいま、ペンペン。あんたも大変だったでしょ?ドイツのお土産のジャーキー食べよっか?」

「クワッ」

あのあと、えっほえっほと二人がかりで、ぐにゃぐにゃのシンちゃんをリビングに運びこみ、やっと今、人心地がついた。

Tシャツとショートパンツに着替えたあたしは、キッチンの椅子にかけて、のびたシンちゃんにパジャマを着せて、かいがいしく介護するアスカを見守る。
リビングの真ん中にしいた布団に横たわったシンちゃんの両方の鼻の穴にはティッシュペーパーが詰められ、保冷剤を首にまかれてる。
頭のたんこぶにも氷。

「しっかり…」

アスカも成長したわよね。それに、すっかり健康になった…。

あんたが今シンちゃんに使ってる「吸い飲み」は、あんたが寝たきりだったときに使ってたもの。
なんて、きっと今は誰も信じないわ。

感慨深くビールを飲む。
あら?アスカ、吸い飲みをほうり出してどうするの?

スポーツドリンクを口に含んで、口移し…。

ぐしゃっ

あり?なぜか空き缶を握り潰しちった!テヘ!

「ねぇペンペン…シンちゃんは、幸せなのかしら?不幸なのかしら?さっぱりわからないわ…」

アスカったら、細いくせに出るとこは出て、ウエストはキュッとして腰ははってるよね。バイオリンみたいなカーブ。肌は白いし、すべすべしてるし。
どーにかこーにかしたいって彼氏が思って当然だっての…。
シンちゃんも、気絶してなきゃ、運ばれてるとき、マッパのアスカのおっぱいが自分の背中に密着してるのよくわかっただろうに。

シンちゃんが見たくても見れてないものを、じっくり肴にビールをいただいてしまっているわ…。

先を越してごみんね。

「目の前に、ステーキがぶら下がってるのに、匂いはかげても絶対食べることは出来ないみたいなもんか」

「クコッ」

「不幸?そうよね…。」

…あと、もう一息のところを超絶いいタイミングで邪魔したことを、詫びるわ。心の中でだけだけど。
二本目のビールを喉に流しこみながら、部屋をぐるりと見渡した。
シンちゃんと同居を始める前の、ペンペンとあたしだけの二人暮しを思い出すような散らかりっぷり…。
ま、あたしは全然抵抗ないけど。むしろ落ち着くっつーか。

苦悶の表情を浮かべて、部屋をわざわざ汚す少年がありありと想像できた。

これだけ部屋を散らかすのに、壮絶な努力と忍耐が必要だったでしょうに…。あんたなら。

それもこれも、全てはアスカと一緒にお風呂に入りたいためとは…ああなんて、ふびんなコ!

「お姉さん、涙が出ちゃうわ!くぅ…」

そしてね。
なんでそんなにお風呂にこだわり出したのか知らないけど、一週間も二人きりにさせてやったんだから、ゴール地点の設定をそもそも見直しなさいよね!
努力の注ぎどころが間違ってるっつーの!

「ああ、加持が早く帰って、迎えに来てくれないかしら!だって…」

あたしにあの子達のバカがうつっちゃったらどうすんのよぅ。

「アスカ、いい加減に自分も服を着なさいよね!」


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自分ではいやらしすぎて掲載を断られるかもしれないと思いました。でも予想に反して快諾されました。(ごまめ)


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