本当の私を・・・
第四話 奇妙な共同生活
書いた人:水源
とりあえず部屋の片づけも終わったので、風呂のお湯をためながら
僕はさっき買ってきた材料を取り出して今晩の夕食を作り始めた。
今日はイタリアンハンバーグとルッコラとホウレンソウのサラダ。
それとクリームシチュー。
タマネギをアッシェ(みじん切り)して炒めてるとキョウコさんが
やってきた。
「わぁ、ハンバーグかぁ。
あたしハンバーグ大好きなの。」
「あはは、それはよかった。」
ハンバーグか・・・アスカも好きだったよな・・・。
「じゃあ、私も手伝いますね。」
「え?。」
どこから見つけてきたのかエプロンを付けたキョウコちゃんは
そういうとシチューの具である野菜・・・
ジャガイモとかニンジンとかの皮をすすっと剥いて
手早く切っていく・・・もしかすると僕よりも早いかも・・・。
アスカは・・・料理なんて”全然”やらなかったよな・・・たしか。
そうするとやっぱり別人なのか・・・。
キョウコちゃんが手伝ってくれたおかげで思っていたよりもだいぶ早く
夕食が作れた。
二人でテーブルに並べると向かい合って
「いただきまーす。」
「いただきます。」
といって僕たちは食べ始める。
僕はキョウコちゃんが作ってくれたシチューを一口口にした。
「・・・・おいしい。」
うん、本当においしい。
「えへへ、ありがとうございます。
シンジさんの作ったハンバーグもとってもおいしいですよ。」
そういってにっこりと微笑むキョウコちゃんに僕は少し赤くなって
「キョウコちゃんの料理ってさ、なんか懐かしいって言うか
お母さんの味って感じがする。」
「あ、その悪い意味じゃなくって心がこもってるって言うか
心が暖まるって言うかそんな気がする。」
それを聞いたキョウコちゃんは自分でも不思議そうに左手を見て
「何故か分からないけど手が動くって言うか体が覚えてるって感じ
なんですよ。
私もしかした料理屋さんの娘とかだったりして。」
「え?。」
マナは・・・どうなんだろう?。
そういえばマナも料理は得意だったような。
家庭科の時作ったクッキーとか持ってきてくれたもんな。
「それとも小さいときから家族の料理を作ってたのかな?。」
僕はそれを聞いて少し考えたんだけど・・・・うーん。
「うーん、キョウコちゃんのイメージとはちょっと合わないかなぁ。」
「ああ、ひっどーい。」
そういってふくれるキョウコちゃん
「ごめんごめん、でもこんなに料理が上手なんてすごいね。」
「シンジさんだってすごいじゃないですか。」
「あはは、僕はトラットリアでバイトしてるくらいだし
将来コックになりたいと思ってるくらいだしね。」
「へぇーそうなんですか。
きっと成れますよ、だってこんなにおいしいですし。」
「うん、ありがと。」
こんな話をしてるとまるで新婚の夫婦みたいだな・・・。
ちょっと・・・いやかなり嬉しいかも・・・。
食事も終わってお茶を飲んでいるとキョウコちゃんは
もう一度エプロンを付けて食器を片付け洗い始めた。
「あ、洗い物は僕がやるから先にお風呂に入っちゃったら?。
一日中歩いて疲れてるだろうしね。」
「でも、私居候ですから・・・。」
「いいからいいから。」
「はーい、じゃあそうさせてもらいますね。」
そういってエプロンをはずすとキョウコちゃんは
バスルームへ向かって歩いていった。
「あ、言っておくけど・・・。」
「え、なに?。」
「のぞいたら殺すわよ?。」
キョウコちゃんの顔は笑っていたけど目が笑ってなかった。
「だ、大丈夫、そんなことはしないよ。」
”ふん、ふふん、ふふん、ふふん・・・”
バスルームからキョウコちゃんが鼻歌を歌ってるのが聞こえる。
今まで僕以外の誰かがお風呂に入ることなんて無かったから
気がつかなかったけど以外と中の音は聞こえてくるんだなぁ・・・。
いかんいかん、キョウコちゃんは僕を信頼してくれてるんだから
それを裏切るようなまねは・・・。
そんなこんなで僕が台所で悶々としていると
「あーいいお湯だった。
シンジさんも入っちゃえば?。
ありゃ?全然かたずいてないじゃないですか・・・。」
そういってバスタオルとヘアタオルを巻いて出てくる
キョウコちゃん
「え、ああっ!。」
「もう、いったいなにを考えてたんですか?。」
「え、あ、その・・・。」
僕が凍り付いてるのをみてキョウコちゃんはかわいく舌を出して。
「・・・・もうエッチなんだから。」
といって部屋においてあったバックを持って脱衣所に戻っていった。
はぁ。
そんなつもりはなかったのに・・・。
「はいどうぞ、早く入らないとさめちゃいますよ、お湯。
食器は洗っておきますね。」
キョウコちゃんが服に着替えて笑いながら言った。
服といっても着替えはないので僕の貸したワイシャツを
だぼっときてるだけなんだけど・・・。
よかった・・・嫌われた訳じゃないみたいだ。
”シャァーーーーーーーーーーーー”
シャワーノズルからちょっとあついくらいのお湯を出しそれを
浴びる、本当は頭を冷やすために水を浴びたかったけど
この寒いときに水を浴びたら風邪を引くしね。
なんだかずっと前にも同じようなことがあったような気がする・・・。
けどそんなはずはないよな。
僕がおじさんのところに預けられて離れの勉強部屋をもらって
その後誰かと一緒に寝泊まりしたことは一回もないし。
僕は湯船に使って十分暖まって風呂から上がった。
もう食器はかたずいていて台所にキョウコちゃんの姿はなかった。
「キョウコちゃん?。」
どこいったんだろう?。
キョウコちゃんはソファーでぐっすり寝てた。
クッションを毛布の代わりに抱きかかえただけで。
「そっか・・・やっぱり疲れてたんだね。」
僕はちょっと残念に思う反面、ほっとした。
記憶のないまま街を歩き回る。
見知った人間が誰もいないなんて寂しいだろうし
元気な振りをしてても本当はすごくつらいんだろう。
僕もずっと一人だったから・・・よく分かる。
あどけない寝顔を見ながらそんなことを考えた後
僕は押入から毛布を取り出してキョウコちゃんにかけた。
「お休み。
記憶を早く見つけられるように・・・
僕も頑張るから、キョウコちゃんも・・・。」
がんばれ・・・そんなことを考えていると
「ううん・・・。」
とキョウコちゃんが寝返りを打った。
うっ。
キョウコちゃんの顔が僕の目の前に・・・。
キス・・・したら怒るかな・・・。
「・・・マ・・・マ。」
え。
「・・・・ママ・・どうして・・・。」
僕はその言葉に我に返った。
同時に自分が恥ずかしくなった。
キョウコちゃんは僕を信頼してくれたのに
その信頼を裏切るようなことをするなんて・・・。
僕は・・・・・・最低だ。
僕はキョウコちゃんをベッドに運ぼうかとも思ったけど・・・。
やっぱりやめた。
その代わり僕も床で寝よう。
床の上で寝転がりながら僕は考えていた。
ケンスケも知らない制服を着たキョウコちゃんはいったいどこから
来たんだろう。
彼女の記憶は戻るんだろうか・・・。
そして戻ったとき・・・僕は・・・。
どこか分からない白い砂浜。
夕焼けの生なのかオレンジ色に輝く海の波打ち際。
そこにいる僕の目のまでにっこりと微笑んでるキョウコちゃん。
そのキョウコちゃんに手を伸ばそうとしたときに・・・
キョウコちゃんは無数の白い花びらとなって舞い上がった。
「キョウコちゃん!。」
がばっと起きあがると
「おっはよう、どうしたんです?。」
と不思議そうな表情のキョウコちゃんの顔があった。
「あ、夢・・・か。」
「ああ〜、もう、勝手に夢の中に私を出さないでくださいよ。
どんな夢だったんですか?。」
「え、あ・・・あれ?。」
どんな夢だったっけ。
「なんか、あんまりよくない夢だったような気がするけど・・・
忘れちゃった。」
「そーんなこと言って、本当は私とキスしてる夢・・・
とかじゃなかったんですか?。」
キョウコちゃんはいたずらっぽく笑うと
「そ、そんなことは・・・ないよ・・・多分。」
昨日気の迷いでキスしそうになったとは口が裂けてもいえないよ。
「朝ご飯、できてますよ。
顔を洗って来たら朝ご飯にしましょう。」
そういって台所にキョウコちゃんは行ってしまった。
窓の外からスズメのさえずる声と柔らかい太陽の光。
そして台所からスープのいい香りが漂ってくる。
ああ・・・こんな幸せな朝を迎えられるなんて・・・。
テーブルに並んでるのはオムレツとポークウインナー
それにトーストとコーンスープにオレンジジュース。
それが並ぶテーブルを見て僕は考えた。
キョウコちゃんと出会う前まで僕はごく平凡に
世間一般に比べればちょっと暗めに過ごしてきた。
けど、キョウコちゃんに出会ってから僕は変わったと思う。
もちろん明るい方向にだ。
「うん、おいしい。
やっぱりキョウコちゃんって料理上手だよね。
いい、お嫁さんになれるよ、きっと。」
キョウコちゃんは笑って
「じゃあ、シンジさんがもらってくれますか?。
私をお嫁さんに。」
なんて言ってくるもんだから僕は赤くなって
「え、あ、うん、僕でよければ・・・。」
なんて答えちゃったりするんだけど。
「えへへ、約束ですよ。」
そういってキョウコちゃんは窓の外を見て
「桜の花・・・綺麗ですね。」
君の方が綺麗だよ・・・なんていえるほどぼくは
気が利いてるわけでもなく。
「う、うん、本当だね。」
とありきたりなあいずちをうち
桜を眺めてるキョウコちゃんの横顔を見ていた。
「うふふ。」
「どうしたの?。」
「なんでもありません。」
そういってキョウコちゃんは瞳を細めて笑った。
今の自分が幸せな分、不安が大きくなっていく。
キョウコちゃんが全てを思いだしたとき
僕たちは今のままで居られるのか・・・って。
記憶が戻ったときに僕のことを覚えている保証もないし。
「あ、そうだ。
はい、これ。」
僕はキョウコちゃんにこの部屋の鍵を差し出した。
「この部屋の鍵。」
「え、でもそれしゃ。」
「あ、大丈夫、ちゃんとスペアキーは持ってるから。」
そういって僕はもう一個の鍵を見せた。
「ありがとうございます、それじゃ使わせてもらいますね。」
そういってキョウコちゃんが鍵を受け取る。
「あ、今日は学校だから記憶探しにつきあえるのは夕方になっちゃうけど。」
「じゃあ、その間にホテルにおいたままの荷物を取ってきますね。」
「あ、そうしなよ、キョウコちゃんの家がはっきり分かるまで
此処にいていいから。」
「えへへ、ふつつかものですけど、よろしくおねがいしますね。」
そういってキョウコちゃんがぺこっと頭を下げる。
「あ・・・こ、こちらこそ。」
こうして僕とキョウコちゃんの奇妙な共同生活が始まった。
家族でも恋人でもなくつい数日前まで見知らぬ他人でしかなかった
僕たちだけど・・何故か僕にはごく自然に受け入れられていた。
キョウコちゃんも特に違和感などは感じていないみたいだし・・・。
「んじゃ、言ってきます。」
「いってらっしゃい。」
キョウコちゃんに見送られて僕は学校に向かった。
”・・・・・・・・・・・・”
古文の授業、先生の日本語とは思えない文章を読む声が
延々と流れている。
うぐ・・・眠い・・・
昨日はずっと歩き回ってその疲れがどっと出たのか
死ぬほど眠い・・・。
「眠い・・・。」
「まったく、そんな調子だからこういうことになるのよ?。」
僕はかなり派手に眠ってたらしくて先生に図書室へ資料を
持っていくようにいわれたんだけど・・・。
そういうわけで僕は重い資料を抱えて廊下を歩いていた。
それを見たマナが手伝ってくれてるんだけど・・・。
「昨日はおもしろかったのよ。
ほら例の記事のの喫察点、星占いの記事を見た人が一杯来てて
私なんか8人に声かけられちゃった。」
「ふーん。」
「ちょっとぉ、心配じゃないの?。
恋人がナンパされたって言うのに。」
いや、だって・・・。
「あ、そこ階段だから気を付けて。」
え?
「あ、うわぁっ!。」
僕は階段を転げ落ちた・・・。
”ゴン”
意識が薄れていく中で・・・泣きそうなマナの顔が
視界に写った・・・。
僕が目を覚ましたときそこは白い見たことのない天井だった。
「・・・知らない天井だ・・・。」
心配そうな顔のマナが僕を見てる
「ここは?。」
「病院よ。」
「病院?。」
「そ、シンジが急に倒れて階段落ちてそのまま意識が戻らないから
救急車を呼んだの、大変だったよ。
まったくしかもただの寝不足でしょ。
救急車の中でいびきかくんだもんな。
すっごくはずかしかったよ。」
「ご、ごめん。」
「お医者さんが脳卒中の可能性があるからって念のため
検査したけどどこにも異常ないって。」
「そ、そうだったんだ。
ごめんね、マナ。」
そのまま僕たちは病室を出た。
「それじゃ、ちょっと手続きとかがあるからここで待ってて。」
「あ、うん、ありがと、マナ。」
なんだかマナには迷惑をかけてばかりで悪いと思うけど
この場はマナに任せよう。
待合室に座ってると看護婦さんの話してる声が聞こえてきた。
「あのこ、4月10日に来た女の子まだ意識が戻らないの?。」
「ええ、めだった外傷はないんだけど・・・。」
「脳波の方は?。」
「それが時々・・・普通に生活をしてるような・・・
そういう脳波が出てる時があって・・・。」
「それって?。」
”ピーポーピーポー”
急患が来たらしく看護婦さんは驚いたように走って行ってしまった。
「お待たせ、まったくシンジのせいでもう夕方じゃない。」
「え?。」
壁に掛かってる時計を見るとたしかにもう5時だ。
「あ、ごめん。僕用事があるんで。」
僕は急いで家に戻った。
あとがき
ということで同居生活編です(笑)。
TV本編に比べると多少は大人になったシンジ君。
ちょっとしたことでどきどきしてしまうのが
男の子の悲しい性と言うところでしょう。
水源さんに連載していただいてます「本当の私を・・・」の第四話、奇妙な共同生活、
でした〜。
どうもありがとうございます&執筆お疲れさまでした、水源さん!
いやー今回のお話は二つの見所部分がありました。
まず一つ目はシンジとキョウコの共同生活部分。
うれしはずかし擬似新婚生活といいますか、なんつーかもう堪らんって感じですよね(w
そしてもう一点が終盤シンジが病院に運ばれた時の看護婦さん達の会話部分。
「意識が戻らない女の子」。これは今後への大きな複線になっていくかと思われます。
次話の展開がとても楽しみですね!
作者の水源さんに是非是非感想の
メールを!!
宜しくお願いします!
続きの完成を楽しみに待っております。
頑張ってくださいね、水源さん!
|