おもっきし時期はずれですがお気になさんな企画。
おめでとうと言う理由。
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2001年。
21世紀の初めの年。
その年に、彼は産まれた。
ほんの少しだけ昼の時間が長い
6月初めの晴れの日に。
そしてその約半年後、
彼の産まれた日の青空のような瞳を持って
彼女は産まれた。
そしてそれから16年後、
同じ青空の下で二人は並んで歩いている。
「早いもんね、あんたがもう16歳なんてさ」
「なんかアスカに言われると変な感じだな」
2017年6月5日。
真綿のような雲が、気の遠くなるほど高いところに浮いている。
隙間からのぞく青い空。それを映すアスカの瞳も、透き通る青。
まぶしさに、ふと目を細める。
隣り合って歩く二人の背は、いつのまにか順位が逆転していた。
そしていつのまにか、それが当たり前になってしまっていた。
並んで歩くことも。
「……学校が休みなら良かったのに」
「え?」
「なんでもない」
かつての同居人は3ヶ月前に真っ白なドレスを身に纏い、
愛してやまない男との人生を歩み始めていた。
あの日も、こんな青空だったわ。
アスカはミサトの至福の表情を思い出す。
あんなにミサトの事を美しいと思ったことはなかった。
高く結い上げられた黒髪。それを彩る透かし模様のヴェール。
すらりとした肢体を包む、つややかな素材で作られた衣装。
だけどそんな花嫁装束などなくたって、
あの日の彼女はきっと誰もが見惚れるほど、
そして、アスカ自身も見惚れるほどに美しく。
自分もいつか、彼女と同じ美しさを手に入れられるのだろうか。
そしてそのとき、我が右を寄り添い歩くは。
シンジを見つめる。
ぼんやりと顔を左に向け、アスカの横顔を眺めていたシンジを。
「……何考えてた?」
「……多分、アスカと同じ事」
「ふぅん」
ほんとかしら。
照れたのかそっぽを向いてしまったシンジの、紅くなった耳を見て思う。
多分、本当ね。
ささやかな誕生会の買い物を済ませ、二人は家路を歩く。
午後4時29分。
同じマンションの隣り合わせた部屋で、二人はそれぞれ暮らしている。
だけど隣人と言うより同居人、そう呼べるほど二人は必ずのように
どちらかの部屋で一緒に過ごしている。
だって、二人は恋人だから。
二人とも自分の誕生会の経験などない。
14歳まではしようという考えも無かった。15歳のときは誕生日どころではなかった。
今年からはお祝いしようね、言い出したのはアスカだった。
お祝いったって、何するんだろう。
シンジは戸惑う。だって、知らない、誕生日を祝うということ。
何かの映画で見たような気がする。
コンセプトのわからない飾り付けの部屋、
うるさいだけのクラッカー、拍手喝采、歓声、嬌声、
何故特別なのか、甘ったるそうなケーキに、
蝋燭を年の数だけ立てて一気に消せたら願いが叶うのよ、
願い、願い、僕の願い。
「シンジの誕生日イヴに、乾杯。」
アスカは何を願うの?
宅配ピザが届いた。
午後6時13分。
「明日ね、学校終わったらヒカリ達も来てくれるんだって」
「え? 今日呼べば良かったのに」
「馬鹿。今日は……」
「今日は、あたしがあんたを祝いたかったのよ」
「……そっか、ありがとう」
最近、シンジは『ごめん』のかわりに『ありがとう』と言うようになった。
そのほうがアスカが喜ぶから。
そのことに気付いたから。
シャンパンはシンジには少し甘すぎる。
前にミサトが来た時置いていったジンを開けようとして、やめた。
どうせ明日も人がくるのなら、今日は飲みすぎないほうがいいか。
誰に似たのか、意外にもシンジは酒に強い。
高校に入った頃からたまに口にするようになった。
だけど絶対ひとりでは飲まない。
『もうひとりで飲むのはまっぴらよ』
結婚直前に、ミサトが加持に囁いていた言葉。
二人掛けのソファを窓の方に向け、腰掛ける。
その色はカーテンと同じ、目に優しく深い青。
夕暮れどきにわざと東の空を見た時の、一番夜に近い色。
シンジが青を好きな理由は、その空の色が好きだからだった。
今は、もうひとつ理由が出来てしまったけど。
シャンパンだけでほんのり頬を染めたアスカは、
シンジに肩を寄せたまままどろみ始めている。
シンジはアスカを起こさないように、それでもその肩をそっと抱く。
大好きな青い色は、今は柔らかく閉じた瞼に隠されている。
夕焼け色はもう夜の色に変わっていた。
午後7時50分。
「やだ、寝ちゃってたんだ。起こしてくれればいいのに」
「あんまり気持ち良さそうだったからさ、起こせなかったよ」
「馬鹿ね、あんたが気を使う日じゃあないでしょ」
「まだ誕生日じゃないから」
「そういう問題じゃなくって」
まだなんとなくぼんやりする頭をもたげて、アスカはシンジを見る。
アスカが寝ているうちに、シンジはお風呂に入ってきたようで、石鹸の匂いがする。
寝巻き代わりのTシャツから伸びる首筋に、目立つようになってきた喉仏。
こんなところも大人になってきたのね、
そう思うと不意に寂しくなる。
「今、何時?」
「んと…… 9時15分」
「!!! 今日月曜日よね!?」
「そうだけど?」
「やだぁ! 毎週見てるドラマがあるのに!」
「知ってるよ、さっきビデオセットしといたから」
「……やけに準備いいじゃない」
「? なんの準備?」
ポスッ、とクッションをシンジにぶつけて、
アスカはソファから立ち上がる。
「シンジ、お風呂借りるわよ」
「ん」
「タオルどこだっけ」
「あれ? 教えなかった?」
「いつもあんたが出してくれてるでしょ」
「そっか、ええと、……出すから待ってて」
アスカはたまに、シンジの部屋でお風呂に入っている。
自分の部屋の風呂掃除をしたくない、ただそれだけの理由と本人は主張する。
朝風呂はシャワーだけにするようになった。
どうせ朝ご飯はシンジの部屋で食べるのだから、朝風呂も用意してもらえば
いいのかもしれないが、そこは恋する少女、寝起きの顔を見られたくなんかない。
今までの醜態を考えればそんなのはたいした問題でもないのに。
「……ねえ、このお湯シンジが入った後?」
「違うよ、多分アスカが入ると思って入れといた。
飲んですぐだから、僕はシャワーしか浴びてないよ」
「………なんだ」
「え?」
「な、なんでもない!」
「なんだよ」
「もう! いいから早く出てって!」
「はいはい」
アスカが風呂に入った後、
「16歳か」
ひとり、シンジは呟く。
誕生日と言われても、特に感慨はないのが本当だ。
あと3時間足らずで来るその日になった途端、自分の体に劇的な変化が
現れるわけでもない。
年と言うのは毎日少しずつ取っていくもので、誕生日なんていわゆる
チェックポイントみたいなものだ、シンジはそう思っている。
なら、なぜ祝うの?
シンジは知らない。
自分の生まれた日に、その誕生を喜んでくれた人々の笑顔を。
その中に自分がかつて憎んだ、父親の姿があったことを。
アスカが少し長めの風呂から上がった。
午後10時4分。
「ねえアスカ、バスタオルでうろつくのはやめてって言ったじゃないか」
「だって着替え持ってきてないんだもん」
「しょうがないなあ……
ほら、これでも着ててよ、ちゃんと洗ってあるから」
「ん、danke」
シンジの男物のパジャマ。
夏用だけど長袖で、アスカにはぶかぶか過ぎる。
袖口から自分の手が出ないのに、アスカはすこし驚く。
前にシンジが着てるのを見た時、シンジの手は手首までちゃんと出ていた。
肩幅が違うのと、手の長さが違うのと。
「ん、足の長さはそんなに変わらないわね」
「ほっといてよ、大体人種が違うじゃないか」
「あーっ、それは人種差別かしら??」
「人聞きの悪いこと言うなよ」
この頃シンジの喋り方が男らしくなってきたと、アスカは感じている。
声変わりしたせいか、昔のような喋り方が似合わなくなってきたのか。
でも自分のことを『僕』と言うところは変わっていないから、
それさえ変わらないでくれれば、構わないとアスカは思う。
大事なところは変わらないでいて。
いつもあたしを置いて、先にひとつ年を取っていってしまうんだからせめて。
ささやかな、アスカの願い。
少しずつ、夜は更けていく。
「ねえ、アスカ」
「なに?」
「誕生日って、何で祝って貰えるのかな?」
「……え?」
「…何が嬉しくて、みんなおめでとうって言うのかな?」
アスカは少し黙り込む。
伏目がちになったシンジの黒い瞳を、見つめたままで。
アスカだって知らない。
なぜ、自分じゃない人間が自分の誕生日を祝うのか。
だから、考える。
なぜ、自分がシンジの誕生日を祝おうと思ったのか、その理由を。
それは、多分。
「シンジが産まれなかったら、あたしシンジに出会えてないもの」
「シンジが産まれた記念日なの。
あたし達が出会える運命が生まれた、記念日なのよ、シンジ。
あたしが貴方を…… 愛していけるのは、この日があったからなのよ」
今度はシンジがアスカを見つめる。
アスカの言うことはわからなくはない。
アスカだって自分と同じ悲しみを抱えているって事も知ってる。
だけど、……だけど、自分は。
「……僕は、アスカに愛される資格があるのかな?」
「資格?」
「僕、アスカを愛していけるのか……愛しているのか、自信がないんだ」
「……シンジ」
「愛された覚えが、無いんだ。誰からも……
母さんは記憶に残ってないし、父さんは…… 今でもわからない。
だから、愛されるということが、どんなものかわからない」
「アスカ、僕は………
愛なんて、本当はよくわからない」
「……子どもの頃愛されたことが無いと、子どもを愛せない親になるって聞いた」
「そんな僕達が、お互いのこと、本当に……愛していけるのかな?」
アスカはじっと、シンジの言葉を聞いていた。
視線をそらさず、一言も聞き逃さないように。
ぽつりぽつりと独白のように、
吐き捨てるように、搾り出すようにシンジの口から紡ぎ出される言葉を。
アスカにはシンジの気持ちが痛いくらいわかる。
自分だってそう思った時期もあった。
今だって、本当は不安になったりする。
この愛は本当なのか。……愛ってなんなのか。
でも、この愛は本物だと信じたい。
そう。信じることから始めればいいと思うから。
自分たちは不器用で、だからこそお互いが必要なんだって思うから。
「……そんなの、やって見なきゃわかんないでしょ?……」
その言葉は笑顔で言ったはずだった。
笑い飛ばしてあげなきゃ。そう思ったはずだったのに。
口元に微笑を湛えたまま、アスカは一筋の涙を流していた。
その涙は、多分、アスカの中の母性が流した涙。
自分でも気付いてなかった、無償の愛の感情。
……かわいいひと。あたしのひと。
大丈夫よ。あたしが抱き締めてあげる……
そんな言葉を代弁した……
二人はどちらともなく唇を重ねていた。
確認の言葉なんて必要なかった。
その口付けだけで、充分。
二人はこの夜、初めて体を重ねた。
ぎこちなく、でもとても自然に。
痛みさえも喜びに感じることがあるとは、アスカは知らなかった。
その体を貫く痛みも、掛かる重さも、すべてがいとおしかった。
まだ骨ばった、でも逞しく成長したシンジの背中を抱きしめて、
もうこの人を一生離しはしないとアスカは思う。
アスカの瞳から零れ落ちる涙は、痛みのためか嬉しさのためか。
多分両方なのだとシンジは悟る。
その美しい涙と、紅い彼女の純潔であった証に誓う。
もうこの人を一生離したりはしないと。
ふたりはそれが、愛だと気付く。
「……シンジ、」
「……なに?」
「誕生日、おめでとう………」
午前0時。
2017年、6月6日の訪れ。
終わり
後書き&言い訳
まーまーなんざます、いちゃいちゃしちゃって今の若い子は!(今じゃないけど)
なんて自分突っ込みはさておき、お久しぶりのなおです。
世はバレンタインも過ぎ雪まで降ってると言うのに、あいたたたな誕生日物。
こんな時期に出すんじゃない!なんて、いわないでぇ〜(色仕掛け)
う!引っ掛からん!くそっ。
かくなる上は脱兎のごとく逃走じゃ。ドロン。(古)