とりかえはやものかたり
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「アスカ様またその様な事を、お母様に怒られますよ!」
「別に良いじゃん、それ!!ナイ、シュー!!」
侍女の言うことなど無視をして、アスカは今日も元気に庭で自分流にアレンジした蹴鞠(けまり)を楽しむのだった。
「見て見て、今の決まったでしょ!スカッとすんのよコレ。」
そう言って今度はその鞠(まり)でリフティングを始める。
「アスカ。あなた何をしているの?」
「ギクっ!!」
その声にアスカの動きが止まった。さっきまで頭の上で弾んでいた鞠はコロコロと声の主の足元へ転がっていく。
恐る恐るといった言葉を伴ってアスカが振り向くと、予想通りそこには無表情で立っているキョウコがいた。
「マ、ママ・・・、お、おはようございます。」
そのアスカの挨拶に答えずに、キョウコは足元に転がってきた鞠を拾い上げた。
「昨日も、一昨日も、確かその前の日も、私はこうしてこの鞠を拾い上げたような気がするわね。」
「き、きき、気のせいじゃないかしら、最近あったかくなってきたし、ママも結構ボケてきたりとか・・・して・・・たり・・・」
「ふーっ・・・、アスカ!!!」
「ひーーっ、ご、ごめんなさーーーーい!!」
朝から都に大きく二つの大声が惣流家の屋敷から響いていた。
今ではもう聞き慣れた毎朝の光景である。
そう、今は昔、これは櫻咲く平安の御時のお話である。
一方、その隣の屋敷では・・・
「シンジ!またそんな事ばかりして!男の子なんだからもっと男らしい事をしたらどうなの!?」
屋敷の奥の部屋で雛遊びなどと女の子の遊びをしているシンジをユイは叱っていた。
これまた毎日の光景である。
「えぇ〜、やだよ・・・、僕はこっちのほうが好きだもん。」
そう言ってユイの顔も見ずに雛遊びに没頭するシンジ、
ちなみに今日の設定は『思春期の少年と少女の心のすれ違い』である。
「はぁ〜、分かったわシンジ、とりあえず庭を散歩でもしましょ。」
「やだよ、面倒くさいし。」
「シンちゃん。」
「やだって。」
「シンジ。」
「うっさいなぁ、嫌だって言って・・・、ひーーっ!い、いますぐ行きます!!」
後ろを振り向いたシンジはそう言うと、雛人形を布で包んで仕舞うと一目散に庭へ駆け出した。
そこにはユイしかいないはずなのに、一体彼は何を見たのであろう・・・
「ほらシンジ、お父様ご自慢の鯉ですよ、優雅に泳いでいますね。」
「ひっ!そ、そうですね、母上殿。」
「シンジも、もうそろそろ嫁を貰う歳なんですから、少しは男らしくしないと。」
「ひっ!そ、そうですね、母上殿。」
さっきから何故かシンジはおびえた様にどもりながら母の言葉に返事を返していた。
どうやらさっきの悲鳴と関係があるのだろうか、顔色も悪くブルブルと震えている。
絶対にユイの顔を見ようとしないで、自分の足元ばかり見ている。
「ふーっ、あのねシンジ、あまり女の子のすることばかりやっていたら周りの人に変な目で見られるわよ。
あなたはこの碇家の長男なんですから、しっかりとして貰わないと・・・。」
「で、でも僕あんまり男の子のする遊びとか好きじゃないし、それに漢字とかも苦手だし・・・」
「でも、管楽なら得意じゃない。彼方の演奏とても上手いわよ。」
「だって、小さい頃からやらされてたから、別に好きでやってるわけじゃないし。」
「そんなことばかり言っていると、誰も嫁に来てもらえませんよ。」
「いいもん、別に・・・、一人で居たほうが気楽だし。」
「・・・まったくあなたって子は、はぁ〜」
そんな情けないわが子の様子に溜息しかでないユイ、この子は本当にこのままで将来大丈夫なのだろうか・・・
その夜、そんなシンジの様子をゲンドウに報告するユイ。
「ねぇあなた、シンジは今日もあの調子なのですよ、一体どうしたものですかね?」
「ウム、問題無い。」
「あなた・・・、はぁ〜」
・・・しかし今日も、特に何の打開策も見出されなかったようだ。
ユイは縁側に出て、噂に聞く隣のお屋敷に住むシンジと同い年の女の子を思いこう言うのであった。
「あぁ、せめて隣の惣流氏のお嬢さんと性格が取り変わってくれたなら」
「あぁ、せめて隣の碇氏のお坊ちゃんと性格が取り変わってくれたなら」
ところ変わってこっちは惣流家の屋敷の中、キョウコは今晩もアスカの身の振る舞いに悩んでいた。
キョウコも昔は十分お転婆な少女ではあったが、さすがアスカの比ではない。
いや、この時代ではすでにアスカのような振る舞いをする女の子は、もはや女ではないといっても過言では無いだろう。
アスカが大きくなってからというもの、とても人には見せられたものでは無いので、隠し続けてはきたが、
しかし、さすがに毎日毎日ああ大声を張り上げられていては周りの人々にも噂が広まり、いまだに縁談の話のひとつも来ない。
寝ているときはこんなに可愛らしいのにねぇ・・・
そう思いながらキョウコは寝ているアスカの傍らで頭を撫でてあげるのだった。
「むにゃ、へへへ〜、ナイスアシスト・・・すう〜、すう〜」
「・・・はぁ〜」
今宵も眠りについた都に、二つの女性の溜息が響き渡るのだった。
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一晩明けて、都は今日も気持ちの良いほどの快晴。
「桜がきれいだなぁ・・・」
特にすることも無いので、シンジは朝からずっと庭に出て桜をただボーっと眺めていた。
「 花の咲く ものも思はず ・・・ う〜ん、なんかイマイチだな。」
あまりに美しい桜の前に、今の気持ちを和歌に込めようと思うが、なかなかいい歌が出来ない。
シンジは、心を空にして目の前の桜をただ眺めていた、しかし、そんな澄ました表情の横顔に・・・
バッチーーーーーンっ!!
「いったたたたっ・・・な、なんだ??」
何か顔面に強烈な痛みが走った、あまりの痛さにシンジの目から涙がちょちょ切れている。
そして、辺りを見回すと、自分の顔にクリーンヒットしたものと思われる鞠がコロコロと転がっている。
「鞠だ、でもどこから来たんだろう?」
そう言って鞠が飛んできたと思われる方を見てみる。しかし、そこには隣の屋敷とを隔てている塀があるだけだった。
隣の屋敷から飛んできたのかな?それにしても何で鞠があんなスピードで、誰だろ、危ないな・・・
そう思いながらも、もし隣の屋敷から来たとしたら返してあげようと思い、塀のほうへ向かっていくシンジ。
「すみませーん!鞠を飛ばしませんでしたかー!?」
壁の向こうに向かって声を張り上げるシンジ。しかし、壁の向こうからは返事が無い。
「きゃっ!」
「ぐへっ!!!」
その代わりに、自分の上に何か重いものが降って来た。
もちろん、いきなりのことによけられるわけも無く、シンジは無残にも押しつぶされた。
「いたたたっ・・・、ちょっと、あんたそんなところにいたら危ないじゃないの!!」
シンジの上に降って来たのは、どうやら女の子のようだ。
女の子はシンジの上に乗っかったまま、そう言い放った。
「お、重い・・・、ど、どいて・・・」
「ぬぅわんですぅって〜!誰が重いって言うのよ!!」
バッシーーーーーン!!
女の子は、力いっぱい自分の真下にいるシンジの顔に平手を打ち放った。コレは痛い・・・
「・・・っぅ〜!何するんだよ!」
「女の子に無礼なことを言った罰よ、安いもんでしょ。」
「なんだよソレ、それより早くどいてよ、重いって言ってるだろ!」
「なんですって!!」
バッシーーーーーン!!
バッシーーーーーン!!
更に往復ビンタをお見舞いする少女。
いらない一言をまた言ってしまい、シンジは更に痛い目にあうのだった。
「もう、わかったよ、重くないから早くどいてよ・・・」
「わかったんならいいわよ、よっと。」
すでに半ベソで懇願するシンジ。それを聞いて少女はようやく降りてくれた。
「それよりアンタ、こっちに鞠が転がってこなかった?」
「あぁ、これでしょ、さっき僕の顔に当たったよ。」
そう言って、持っていた鞠を少女の前に差し出した。
「ふ〜ん、あっそ。それより早く返してよ。」
何だよその態度、ちょっとくらい謝ってくれてもいいじゃないか・・・
すこし皮肉を込めた物言いだったのだが、少女は全く意に介した様子が無い。
シンジはブスーッとした表情でその鞠を少女に渡すのだった。
「さてと・・・、アンタ、戻るんだからちょっと肩貸しなさいよ。」
「え、なんで?」
「そんなの、踏み台にするからに決まってるでしょ?」
「えー!やだよ!男なのに女の子に踏まれるなんて情け無いこと出来ないよ!!」
周りの人間から見ればすでに十分情け無いのだが、一応シンジにも爪の垢ほどだが男のプライドがある。
「え、男?もしかしてアンタ男だったの!!?」
「そうだよ、どッから見てもそうじゃないか。」
そう言われてシンジを見渡す少女、あまりに情け無い奴だったのでシンジが男だと気づかなかったようだ。
烏帽子に狩衣に指貫・・・。たしかによく見てみれば、どこをどう見ても、男の服装だった。
「え?・・・あっ・・・」
お天道様もしっかり頭の上にあり、アスカの顔はシンジにしっかりと見られている。
この時代、女性は結婚するまでは男性に顔を見せてはいけない、
というか顔を見られることは、裸を見られるくらい恥ずかしいことなのだ。
「ア、アンタ本当に男なの・・・?」
「あ、当たり前じゃないか!」
何度も確認され、またちょっとムッとするシンジ。
一方、少女のほうは段々と現状を飲み込んでゆき・・・
「ひっく、ひっく、あ〜〜〜〜〜ん!男の人に顔を見られた〜〜!!わ〜〜〜〜〜ん!!!」
「え!?ちょ、ちょと待ってよ!!いきなりどうしたんだよ!?お願いだからなきやんでよ!!」
そう言って、一生懸命少女を泣き止むようあやすシンジ、
こんな姿を見られた暁には100%シンジが少女に何かした様にしか見えない。
平安貴族の名にかけて、何としてもそんな誤解だけは避けなければならない。
「わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」
しかし、そんなシンジの思いとは裏腹に、少女は泣き続けるのであった。
「ねえ、僕なら気にして無いからさ、お願いだよ、泣きやんでよぉ。」
「わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!」
こっちが泣きたい位だと思いながら、どうして良いのかわからずおろおろするだけのシンジ。
そんな時、なんとも絶妙なタイミングで・・・
「シンジ、誰か来ているの?」
ドッキーーん!!
不意に後ろから声がかけられた、振り返ってみるとそこにはユイの姿が。
「は、母上殿・・・」
「あらあら、この娘は?」
「あ、それが母さん、この娘が隣の屋敷の壁を越えてきたかと思ったら、いきなり泣き出して・・・」
自分に関わる所を省略し、しっかり自分に非が無いように説明するシンジ。
まぁ、実際彼には何の非も無いのだが。
「そう、・・・じゃあ、この娘があの惣流氏の娘なのね。あなた、どうして泣いているのですか?」
未だ泣き続けている少女にユイは尋ねた。
「ひっく、ひっく・・・、殿方にお顔を見られてしまって、・・・あたし、もうお嫁にいけません・・・ひっく、ひっく・・・」
「そう・・・」
これは『チャ〜ンス』とばかりに、ユイの心の中の顔が不敵な笑みを漏らす。
どうやらこれを気に、シンジを少女の元へ婿入りさせようと思いついたらしい。
「ひっく、ひっく・・・うぇ〜ん。」
「ごめんなさいねぇ、・・・でもせめてものお詫びに、うちのシンジををお婿にあげるから、それで許してもらえないかしら?」
心の中とは裏腹に、神妙な面持ちを作りアスカに詫びる。
「ひっく、ひっく、・・・え?」
その言葉に思わず驚く少女。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?!!?!!?」
同じく、その言葉に思わず驚くシンジ。
そのいきなりの展開に目玉が飛び出るのではないかというくらい驚いている。
「では、そういうことで許してくださいね。ちゃんと仲良くするのよシンジ。」
そんなシンジを尻目に、軽くそう言って屋敷へ戻って行くユイ。
「ちょ、ちょっと母さん待ってよ!」
だが、ユイはそんなシンジの声に振り返ることも無く屋敷の奥へ消えていった。
コイツがあたしの夫になるのかぁ、
うーむ、ちょっと頼りなさそうだけど、・・・まぁいいか。
その言葉を聞き、もう既に泣き止んでいる。
結構あっさり少女は納得したようだ。
「ねぇ、ちょっとアンタ。」
「母さん・・・、酷いよ、母さん・・・」
「アンタってば!」
「いきなり結婚なんて・・・しかもよりによって、こんな娘となんて・・・」
「アン・・・なんですって!!!」
バッシーーーーーン!!
「いった〜〜い!もう、なんでそうバンバンバンバンすぐ叩くんだよ!!」
「アンタが失礼な事ばかり言うからでしょ!それよりアンタ、シンジって言うの?」
「そうだよ、君は?」
「あたしアスカ、惣流アスカよ、仲良くしましょ夫婦になるんだから。」
「夫婦って、君はそれで満足なの?」
「まぁね〜、この絶世の美女のあたしが、こんな小芋の妻なんて本当は不本意なんだけど、
あんたには乙女の純潔を汚した責任を取ってもらわないとね、あ〜ぁ、ヤダヤダ。」
言葉とは裏腹にアスカの顔はほんのりと赤くなっていた、意外とまんざらでもないのであろう。
「・・・何だよそれ、ただ顔を見ただけじゃないか・・・」ボソッ。
「何か言った?」
「な、なんにも。」
「よろし。じゃあ今晩あたしの部屋に来てね、待ってるから。じゃ!」
そう言ってアスカは正面の門から颯爽と走って出て行ったのだった。
「・・・なんか、凄い娘だったな。それにしても、結婚なんて嫌だな・・・」
この先のことを思い、かなり不安げなシンジだけがその場に取り残された。
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そして、その夜。
正式な結婚の前に、何日間か夜だけ男性は女性の部屋に通うものだと、教育係の加持に教えられてはいたし、
何よりアスカ本人に来るように指定されているので、シンジは嫌々ながらアスカの部屋を訪れていた。
やっぱ嫌だなぁ、なんか凄い恐い娘みたいだったし、帰りたいなぁ・・・
人一倍に人見知りが激しいシンジには、昼間の少女は強烈過ぎた。
あんな口の利き方をする女の人も、ましてや自分を殴る女の人なんて今まで見たことも聞いたこともなかったのである。
屋敷を出るときに一度は覚悟を決めたとはいえ、この先起こることを考えるとかなりの不安が圧し掛かってくる。
僕はその、何て言うか・・・そういうことは初めてだし・・・、アスカ、優しくしてくれるかな・・・
この先のわが身を心配していたら、いつの間にかアスカの部屋と思われるところに到着した。
たしかここで恋の和歌を詠んで入って良いか聞くんだったけ、・・・よし。」
「 ♪〜春の夜も 見る我からの 月なれば 明日か明日かと ただ待ちわびぬ 」
(明るい春の夜ではありますけれども、(例え今日会えずともあなたに)明日こそは会えるのかと待ちわびております。)
間髪おかずにそのシンジの歌に対するアスカの返事が帰ってきた。
「 ♪〜おそいわよ グズグズするな バカシンジ 暇なんだから とっとと来なさい!! 」
(あなたがあまりにも遅いので暇を持て遊んでおりました。どうか早くお越しになってください。)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
い、今のはお許しを貰ったと考えていいのかな・・・。うーん、良いんだろうな、多分。
いっそのこと寝ててくれれば良かったのに・・・。でも、この次はどうするんだろう、もう入っていいのかな?
しばらく部屋の前で考え込んでいるシンジだったが
突然部屋から出てきたアスカの手に、むんずと襟をつかまれ引きずり込まれて行った。
「まったく遅いじゃないの、何チンタラしてんのよ!」
「ご、ごめん。」
「まぁいいわ。じゃ、早速始めましょう。」
「え〜!そ、そんないきなりだなんて、まだ心の準備が・・・その・・・あの・・・」
「はぁ?何モジモジしてんのよ、気持ち悪いわね。それよりどれで遊ぶ?遊び道具なら色々あんのよ。」
そう言って布団の上にバラバラと遊び道具を広げるアスカ。
夜なので明かりこそつけられないが、薄っすらと月明かりが入ってきて別に視界に不自由はしないようだ。
「え、・・・あ!なんだ、そういう事なの。」
自分がとんでもない思い違いをしていたことに気付き、シンジは顔を真っ赤にしていた。
・・・そうだよな、やっぱりそういう事はちゃんと結婚してからだよね。うんうん。
もちろん一般的にはシンジの考え、というより加持の教えのほうが正しかったのだが、
相手はなんと言ってもアスカである。そう、常識が簡単に通用するわけではない。
「ねぇ何して遊ぶ?やっぱり二人でやるなら雛遊びかな?」
「あ、それなら僕得意だよ、じゃあ『素直じゃない女の子と気弱な男の子』なんてテーマでどう?」
「えー、何それつまんなーい。やっぱ怪獣と正義の味方よ!もちろん、アンタ怪獣よ。」
「えー、それじゃ雛遊びじゃ無いじゃないか・・・」
ギロリ!
「は、はい、判りました、怪獣やらさせていただきます。」
最初はおっかなびっくりアスカと遊ぶシンジではあったが、次第に白熱し結局朝まで二人は遊び続けるのだった。
今まで女の子と遊ぶことなんてなかったけど、こんなに楽しいことだなんて夢にも思わなかったな。
部屋に入ったときの不安なんかどこ吹く風で、シンジはアスカと遊んだりお喋りをして時間をすごしていった。
そして、そんな楽しい時間はすぐ過ぎて行き・・・
ちゅん、ちゅん、
外からスズメの鳴き声が聞こえてきた。
「あ、もう夜が明けちゃうや、そろそろ僕帰るね。ふぁ〜ぁ。」
「あらもうそんな時間?ふぁ〜ぁ、楽しかったわ、また今夜も来てね!」
結局夜通し遊んでしまったシンジとアスカ。眠そうな足取りで部屋から出てくる。
「うん、また来るよ、じゃお休み。」
「あ、シンジちょっと待って。」
「ん、なに?」
部屋を出ようとしたシンジにアスカが走りよってきた。
チュっ・・・
「え?」
頬に感じた柔らかい感触にシンジは最初何が起きたのか理解できなかったが、
状況が飲み込めてくるうちに段々とその顔が赤くなってくる。
「じゃ、お休み。」
アスカは顔を隠してそのまま部屋にかけ戻ってしまった。
「・・・アスカ。」
最初驚いたようにアスカの部屋を見つめるシンジの目は、だんだんと優しいものになっていた。
・・・あの娘となら、きっと仲良くやっていけるかな。
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シンジがアスカの部屋に通いだしてから数週間が過ぎた。
はじめは純粋にアスカと遊んだり、お喋りをすることが楽しかったシンジだが、
最近はアスカと一緒にいるだけで言いようの無い幸福感を感じるようになっていた。
昨日の月明かりに浮かぶアスカの顔、綺麗だったなぁ・・・
今まで普通の人とは違うという意識がありなかなか異性に接する機会がなかったシンジだけに、
アスカとの夜の密会はとても楽しみなものであった。
今夜もシンジ、来てくれるかなぁ・・・
もちろんそれはアスカの方も同である。毎晩シンジが来るのを自分の部屋で首を長くして待っているのだった。
ところかわって碇家の朝食風景。
「むっ、シンジはどうした?」
「それが今日もお寝坊してますのよ。」
「ウム、そうか。」
「でもここのところ毎日よ、どうしたのかしらね?」
「・・・フッ、問題無い。」
「やっぱりお隣の惣流さんのお屋敷にお邪魔しているのかしらねぇ、やっぱり男の子ですね。
最近、少しずつだけれど逞しくなって来てるんですのよ、あの子。」
「あぁ、予定通りだ。」
・・・本当かしら?
「ぐー、ぐー、むにゃ、あすかぁ〜」
そんな両親の会話など知らずシンジは今日も日が傾くまで寝続けているのだった。
「アスカちゃん、最近良く寝てるわね、寝る子は育つとは言うけれど・・・」
「すー、すー、しんじぃ〜むにゃむにゃ・・・」
どうやら惣流家でも同じ事が起きているようである。
そして更に数日たったある日。
「コホン、・・・う〜ん、 ♪〜これやさは・・・ぐえっ!」
部屋の前で和歌を読み始めようとしたシンジだが、
いつもどおり途中でアスカの手に襟元を掴まれ部屋に引きづり込まれる。
「ゴホゴホっ、アスカも毎日ヒドいよ、もうちょっと優しく部屋に招いてくれても良いじゃんか。」
「あんたが毎回毎回くだらないお経みたいなの部屋の前で唱えてるから、まどろっこしいのよ!」
「お経って・・・、和歌は日本人の心じゃないか。」
「生憎そんな日本の心なんかじゃクウォーターのあたしじゃ四分の一しか伝わらないもの。
・・・ねぇ、もっとあたしにも伝わる方法でシンジの愛を教えてよ・・・」
ドキッ!
最近段々と女の子らしく、いや女らしく艶やかになってきたアスカのその物言いに
シンジはただただ、ドキドキするだけなのであった。
「そ、そんなのいきなり言われても、分からないよ!」
「アタシのこと嫌い?」
「そんなわけ・・・」
「じゃあ好き?」
「う、僕は・・・」
シンジにじりじりと迫り寄るアスカ、シンジはどうしていいのか分からず戸惑ってしまう。
『盗人じゃー!!』
『忍びの者じゃー!!皆の者であえー!!』
その時、突然外が騒がしくなった。
「な、なに!?」
「なんだろう?」
『向こうに行ったぞ!!』
『ええい、取り逃がすなよ!』
外では引っ切り無しに屋敷を警備している番人の声が行きかっている。
「どうやら盗人が入ったみたいだね。」
「そんな、シンジ、恐い・・・」
「大丈夫だよ、僕がついてる。」
おびえるアスカをそっと抱きしめるシンジ。
しばらく震えている方に手を回していると、少し震えが収まってきたようだ。
「アスカもやっぱり女の子なんだね。」
「うー、なによ、あたしが恐がったら変だって言うの!?」
「ううん、ただ可愛いなって思ってさ。」
「え・・・あ・・・ば、ばか・・・」
さっきまでとは反対に今度はシンジが優勢に成ったようだ。
そのまま段々と良い雰囲気になっていく二人・・・
そこに。
ガタン!
「せっかくのところ邪魔しちゃって悪いが、そちらのお嬢さんを渡してもらおうか。」
部屋の襖を開けて誰かが入ってきた。
全身黒ずくめの格好、まさしく忍者。
「きゃーーーー!!」
「だ、だ、だ、誰だ、き、貴様は!?」
悲鳴を上げるアスカを抱きしめながら、盗人と思われる忍者を、引きつった顔ながらも威嚇するシンジ。
「名乗る名は無いが大人しくそっちの女を人質として渡せば、お前の命は見逃してやろう、さぁ。」
「だ、誰が貴様などにアスカを、ア、アスカは僕が守ってみせる!」
腰が引けながらもアスカの前に立ちはだかり、両手を広げアスカを守るシンジ。
その毅然としているとは言えないが、アスカを庇うシンジの姿には今までには無い逞しさがあった。
「威勢がいいのは結構だがこっちも急いでいるんだ。致し方ない、恨むなら前世の因縁を恨むのだな。フンッ!」
グサッ!
「グッ・・・ガハッ!!」
「シ、シンジ・・・イヤーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
忍者の突き刺した刀がシンジの腹部に突き刺さる。
『ん!?アスカ様!!如何なさいましたかー!?』
『アスカ様の部屋からじゃー!!皆の者、急げー!!』
アスカの悲鳴を聞きつけ番人たちがアスカの部屋に駆け集まってくる。
「むっ、いかん!」
その声を聞いた忍者は、そう言い残してあわててアスカの部屋から逃げ出していった。
『いたぞ!こっちだー!!』
忍者も番人たちも嵐のように去っていって、
アスカの部屋にはアスカとぐったりとしたシンジの二人だけが取り残されていた。
「シ、シンジ・・・ねぇ、聞こえる?大丈夫?ねぇ、シンジ!」
「はぁ・・・はぁ・・・ぐっ、・・・はぁ・・・はぁ・・・」
ぐったりしたシンジを抱き寄せ呼びかけるアスカ、段々と涙が流れだしシンジの頬を濡らしていく。
しかし、シンジからの返事はなかった。ただ、荒々しい呼吸だけが彼が生きていることを証明していた。
「アスカちゃん大丈夫だった!?」
そのときアスカの元にキョウコが駆けつけた。
「マ、ママ〜、シンジが!シンジが!・・・ぐずっ・・・アタシを庇って・・・ぐずっ・・・わ〜〜〜ん!!」
キョウコを見て一気に緊張の糸が切れたアスカは、その場に泣き崩れてしまう。
「落ち着いてアスカちゃん!それより早くその子の手当てをしないと!今お父さんを呼んで来るから少し待っててね!!」
「ひっく、ひっく、シンジぃ〜、もう少しだからね!絶対死なないでね!!」
「はぁ・・・はぁ・・・あ・・・あす・・・か・・・」
シンジを胸に抱き、ひたすらシンジの無事を祈り続けるアスカであった。
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その後、多少の医学の心得のあるアスカの父に診てもらい一命を取り留め、その後も順調に回復していったシンジ。
幸いにも傷が浅かったおかげでもあったが、なによりもアスカの祈りと献身的な介護の賜物であろう。
「だいぶ良くなったわね、シンジ。」
「ありがとう、アスカのおかげだよ。」
「いいのよ、これくらい。それよりさ・・・」
シンジの寝ている布団の横でモジモジして言いにくそうにしているアスカ。
「どうしたの?」
「あのね、パパとママがシンジに結婚する意志があるのかどうか聞きなさいって・・・それで、その・・・」
「あっ、・・・そうか、そうだね。」
よくよく考えれば、手当てをしてもらった挙句、
数日間もアスカのお屋敷に泊まっていた事に今更ながらシンジは気付いた。
確かに、毎晩アスカの部屋に通っていたわけだし、周りの人はやっぱりそういう関係だって思うよな。それに・・・
「アタシじゃ、ダメかな・・・」
「ううん、そんなこと無いよ!、それよりアスカこそ僕なんかでいいの?」
「うん!」
「そっか、じゃ、結婚しようか。ううん、アスカ、僕と結婚してください。」
「うん!シンジ、大好き!!」
ガバッ
言うが早いか、アスカは布団から起き上がり掛けていたシンジに抱きついた。
いてててっ・・・
アスカがいきなり抱きついてきたのでまだ完治していない傷が少し疼いたが、
そんな様子はおくびにも出さず、アスカを優しく抱きしめた。
「僕も、アスカのこと大好きだよ。」
「うれしい・・・」
今までは皆に女の子っぽいだのと言われ続けたシンジだったが、
アスカを抱きしめるその姿は、とてもそんなことを感じさない堂々としたものだった。
こうして、数日後には傷も癒えたシンジは、約束どおりアスカと結婚し、無事夫婦になったのである。
さらに、それから数日後・・・
「それっ、シンジ行くわよ!シューーーート!!」
バッチーーーーーンっ!!
アスカの蹴り放った鞠がシンジの顔面にクリーンヒットした。
「いった〜!アスカぁ、少しは手加減してよ・・・」
「男のクセにだらしないわね!蹴鞠の一つくらい早く出来る様になりなさいよ。」
「こんなの蹴鞠じゃないよ・・・、はぁ〜」
もともと外で遊ぶことがあまり得意で無いシンジだが、
毎日アスカに連れ出されサッカー・・・もといアスカ流の蹴鞠に興じるのだった。
「アスカ〜ぁ、お願いだから少しは女の子らしくしてよ〜!」
この前までの逞しさはどこへやら、すっかりいつもどおりのシンジであった。
そんな情け無いことを言うシンジにアスカは容赦なく鞠を蹴りつける。
「うりゃ!!」
バッチーーーーーンっ!!
「がはっ・・・」
パタン。ピクピクピク・・・
シンジ、失神。
「ふんっ、シンジこそもうちょっと男らしくシャキっとしてよね。」
もちろん、その言葉は気を失っているシンジには届くことはなかったのだが。
「あらあら、シンちゃんも情け無いわねぇ・・・」
縁側でシンジとアスカを見ていたユイは、自分の息子の情けない姿を見て嘆くのであった。
そんなシンジにアスカは近づいて行き顔を覗き込んでこう言うのであった。
「しっかりしてよシンジ〜、アタシがピンチの時にはまた助けてもらうんだからね。」
「・・・う〜ん・・・」
周りの人からは依然情け無い男と思われているシンジだが、
それでもアスカにとっては誰よりも頼りになる王子様なのである。
その証拠に今のアスカのシンジを見つめる目には、信頼と愛情が溢れんばかりに湛えているのであった。
きっとこの先二人にどんなな困難が降りかかってきたとしても、シンジはその度にアスカを助けていくことであろう。
そしてまたアスカも、そんなシンジをしっかりと支えていくことであろう。
二人のこの先に、幸多からん事を。
めでたし、めでたし。
(Written by 涼)
あとがき。
どうも、お久しぶりです皆さん、涼です。
今回は『結婚』をテーマにしてみたのですが、どうだったでしょうか?
ちなみに設定に関してはあまり突っ込まないでください、と言うか笑って許してください。
あ、ちなみにタイトルは『とりかえばや物語』と読みます。
実際に平安時代に書かれた物語のタイトルから拝借しましたが、もちろん内容は全くの別物です。
平安時代にはひらがなの文章は全てひらがなで書かれ、さらに濁点等無かったらしいのです、はい。
さすがに本文全部ひらがなにしたら誰も読んでくれなさそうなので、タイトルだけそうしてみました。
しかし、私の書くシンジ君はなぜかいつも情けなくなってしまいますね・・・
こんな拙い作品ですが感想貰えたら嬉しいです。
それでは皆さん、今日はこのへんで。
涼さんに初投稿していただいた「とりかえはやものかたり」でした〜。
投稿どうもありがとうございます&執筆お疲れさまでした、涼さん!
前回投稿していただいた「二人のアスカ」も面白かったですが、いやー今回のお話も面白かった。
平安時代を背景にしているという発想がまずナイスすぎ。。
エヴァFFの異世界ものは多々あれど、平安時代の設定を用いたのは初めてではないでしょう。
でもその世界観の中にシンジとアスカ、それにユイとキョウコのママズもしっかり溶け込んでいるからお見事です。
「結婚」をテーマとした今回のこの作品、平安時代という面白い設定も相成って大変楽しませていただきました。
しかしシンジがアスカの部屋を訪ねた時の和歌の部分は笑わせて貰いました。
アスカの返事が面白すぎ(w
作者の涼さんに作品のご感想をっ!
感想は作家の元気の源、是非お願い致します。
今回もすっごく楽しませていただきました。
次回作も楽しみに待っております!
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