これはいわゆる一つの競作SSです。
これを読む前に関西方麺さんの作品『涙』前編をお読みください。
涙(後編)
by
シン
シンジの部屋
「……知ってる天井だ」
あのアスカのチョークからなんとか現世に帰ってこれたシンジ。
何か川の向こう岸でレイとレイに似た人が手を振っていたが……気のせいだろう。
「たしか……綾波がいっぱいいて、僕が欲しいって言ったらアスカにチョークスリーパーかけられたんだっけ」
結構、記憶はしっかりしているシンジ。
あの出来事を夢とは思わなかったあたり神経が図太いとしか言いようが無い。
ふと傍らにあった時計を見ると夕方の5時を指している。
あの何十人もいたレイを見たのはお昼の2時ごろでだったと記憶している。つまり3時間気を失っていたことになる。
「結構気を失ってたんだな。そういえば、誰がここまで連れてきてくれたんだろ?」
「あら、やっとお目覚め馬鹿シンジ」
シンジが素朴な疑問を呟くと同時にアスカが部屋に入ってきた。
アスカの様子は一言で言うと不機嫌そうである。いきなり馬鹿シンジと言ってるあたりで不機嫌さ丸出しである。
しかし、シンジはアスカが不機嫌なのに気づかない……さすがは鈍感帝王である。
「あっ、どうしたのアスカ?」
「別に! 起きてんならリビングに来なさいよね、リツコが呼んでるわよ!」
訂正、不機嫌そうではなく不機嫌である、さすがにここまであからさまだとシンジも気づく。
「なんかさ……怒ってない?」
「怒ってなんかないわよ! さっさと来なさいよ、わかったわね!」
アスカはシンジの部屋を出ると思いっきりふすまを強く閉める。
シンジは上半身を起こすと、何故アスカがあんなに怒っているのか顎に手を当て考える。
そして一つの結論にいきついた。
「どうしてアスカ怒ってるんだろ……もしかして『あの日』とか」
……ここまできたら鈍感というよりただの馬鹿である。
こんなこと考えてる場合じゃないやと思うと、ベットから下りおそらくミサト達が待つリビングへと向かった。
リビングに行くとリツコとミサト、そして対面にもの凄く不機嫌なアスカがテーブルの前に座っていた。
とりあえず、シンジはアスカの隣に座る事にした……さすがに少し距離を開けるが。
「あの……僕に聞きたいことって何ですか?」
「リツコ……聞きたいことがあるんでしょ?」
シンジの表情そしてミサトの表情も何時になく真剣である。それもそうだ、なにせ人の命に関わる問題なのである。
リツコはミサトの言葉に頷くと話を始めた。
「そうね……シンジ君。ちゃんと答えてね……もし、嘘なんかついたりしたらアナタが後悔するだけよ」
シンジはリツコのその言葉に黙って頷く。
アスカとミサトはリツコの質問内容に予想できていた。
たぶん、あの時言ったシンジの言葉の本当の意味を聞く……それしかない。
だが二人の予想は大はずれで終わってしまう。
「それじゃあ聞くわね……シンジ君は、レイのことをどう思ってるの……」
「ちょ、リツコいきなりなに聞いてるのよ!」
予想外の質問内容にミサトは驚きながら反論するが、リツコはそれを無視し黙ってシンジを見つめている。
「僕は……その……綾波のことは……」
シンジはやはり言いにくいのか中々言えない。
リツコはシンジが言うのを何時まででも待つわと言わんばかりに静かに待っている。
ミサトは質問の意図がよく分からないが、とりあえずシンジはなんて答えるんだろうと思い興味津々である
そして、アスカはそんなシンジを不安そうに見つめている。
そして遂にシンジは綾波に対する自分の気持ちを告白した。
「僕は……綾波のことが好きです!だから助けたかったんです!」
「そう、わかったわ。それじゃ私が三人だけなんとかしてみるわ」
リツコは三人のレイを助ける事を約束すると立ち上がりリビングから出て行こうとする。
その言葉にシンジの顔は自然と笑顔になる。
「あ……ありがとうございます、リツコさん!」
シンジも立ち上がりリツコに頭を下げて礼を言う。
リツコはそんなシンジに「いいわよ、別に」と言うとリビングから出て行ってしまった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよリツコ!」
納得がいかないのかミサトは立ち上がるとリツコを追いかけリビングを出て行った。
「これで、綾波が助かるんだ……あれ、どうしたのアスカ?」
ホッとひと息つくと、隣に座っていたアスカが顔を俯けていることに気づいた。
とりあえず声をかけるがアスカから返事がない。
シンジは「どうしたんだろう」と思い、アスカの様子を見ようとしゃがみ込む。
すると……
パーーーーーーン!!
アスカの鋭い平手がシンジの頬にクリティカルヒットする。
「な、何するのさアスカ!」
「うるさい! うるさい! もうアンタの顔なんてみたくないわ! それじゃあね、ファーストとお元気で!!」
アスカは目から涙を流しながら叫ぶと部屋を飛び出しって行った。
しばらく急な展開に頭が混乱してしまうが、シンジには今やるべきことが分かった。
「アスカが泣いてた……追いかけないと!」
シンジもアスカを追いかけるために部屋を飛び出した。
とりあえず街の方に走ってきたシンジはアスカが立ち寄りそうなところを探してみる、しかしどこにもアスカの姿はない。
「どこだ、アスカが他にも行きそうなところ……」
シンジは一度立ち止まると街以外でアスカの行く可能性のある場所を考える。
そして一番可能性がある場所を思い出した。
「そうだ! 洞木さんの家かも……」
そう言うとシンジはアスカの親友であるヒカリの家にダッシュで向かった。
ピンポーン♪ピンポーン♪
「はーーい、誰ですか?……あっ、碇君。どうしたのそんなに汗かいて?」
「ねぇ、アスカは来てないかな?」
「アスカ? 今日は来てないけど……もしかして、アスカになにかあったの!?」
シンジの必死な顔とあきらかに焦っている声を聞いて、親友になにかあったのかと思いヒカリは自然と声を荒げてしまう。
「いや、急に家を飛び出したんだ。だから洞木さんの家かと思って…」
「わかったわ、もし来たら知らせるから」
「ありがとう、洞木さん」
ヒカリに礼を言うとシンジは再びアスカを探し始めた。
それからも色々と探したがアスカの姿はどこにもない。
これ以上時間がかかったらネルフにも協力を要請しなければとシンジは考えた。
でも、できることなら自分の力で見つけたい……アスカを傷つけたのはたぶん自分なのだから。
「一体どこにいるんだよアスカ……そうだあそこかもしれない!」
シンジはアスカを見つけられない自分を情けなく感じていると、一つだけまだ行っていない場所が頭に浮かんだ。
そこにアスカがいることを願いシンジは最後の力を振り絞り走った。
キィー……キィー……
「はぁ、シンジはやっぱしファーストが好きだったのか……」
アスカは夜の電灯に照らされながら一人寂しそうにブランコに座りながら乗っていた。
ここは小さな公園、かつてユニゾンの時にアスカが飛び出したときに来た公園である。
「これからどうし「いた! アスカーーーーー」
これからどうしようかと考えようとしたとき、今もっとも聞きたくない人物の声が聞こえた。
声のした方を見ると予想通りシンジが汗だくになりながらこちらに走ってきている。
逃げようとアスカはブランコから下り反対方向に逃げるがシンジに追いつかれ腕を掴まれる。
「なにすんのよ! 離してよ!」
「なんで逃げるんだよ!」
「アンタはファーストが好きなんでしょ! アタシなんかに構わずにファーストの所にでも行けば良いじゃない!」
アスカは叫ぶと目に涙を溜めながら腕をふりほどこうとする。
シンジはこの言葉で何故アスカがここまで悲しんでいるのか気づくと、さらに強く腕を握りふりほどかれないようにする。
「いい加減離しなさいよ!」
「いやだ! アスカはなにか誤解してるんだ!」
「はぁ?誤解ですって! 一体なにを誤解してるっていうのよ!!」
「いまからそれを話すから、だから逃げないで……お願いだよ」
「……わかったわよ。アンタも腕離してよ」
「あっ、ごめん。」
シンジは謝るとアスカの腕から掴んでいた手を離した。
「で、なにが誤解なのよ」
「うん……僕は確かに綾波は好きだよ、でも恋愛感情の好きじゃない。なんていうか綾波にはお母さんを感じるんだ」
「ふーーーん。で?」
「だから綾波の好きは家族愛っていうのかな?上手くいえないけどとりあえずそんな感じなんだ」
「へーーーっ、それはわかったわ。そういえばなんでシンジはアタシのこと追いかけてきたの」
シンジの説明を聞き、納得したのかニコニコ顔のアスカ。
そんな先ほどとはうってかわって様子の違うアスカを見てちょっと驚くが質問に答える。
「……なんでかな?アスカが泣いて飛び出したってわかると、勝手に体が動いてた」
「……ねぇ、シンジ」
「なに?」
「じゃあさ……アタシのことはどう思ってるの?」
「えっ、どうしたの急に!?」
「いいから、正直に答えなさい!」
うろたえるシンジを見てアスカは両手に腰を当て答えるように言う。
強気そうにしそうにしているが顔は真っ赤である。
「えっと……その…僕は…あの…」
レイの時より中々言わないシンジ。
しかし、今回は聞いてるのはリツコではなくアスカである。
元々そんなに気が長い方ではない。
「もう!早く答えてよね!」
「……わかったよ。」
アスカの一言で覚悟を決めたのか、シンジは真剣な顔つきになるとアスカの顔をジッと見る。
シンジに真剣な顔で見られているせいかアスカの顔は真っ赤となっている。
そして、とうとうシンジの口が開いた。
「僕は…アスカのことが好きだ…綾波との時とは違う……一人の女の子として!」
「……ホントに。」
「うん……」
シンジは顔を赤くしながら真剣な表情で頷く。
心臓がまるで全力疾走した時みたいにドキドキしているのが分かる、そして顔が火照っているのも分かる。
今、体温を計れば絶対に平熱を軽く超える熱がでることであろう。
「(や、やっぱし駄目だよね、こんなさえない男……アスカが好きになるわけないよね)」
思わずそう考えてしまう自分が嫌になる、だがとてもじゃないが好かれてるようには思えない。
そしてシンジのマイナス思考はさらに続く。
「(もしフラれたら……家を出てネルフの宿舎で暮らそう……学校でもアスカには話しかけないようにしなきゃ……)」
シンジがそんなフラれた時のことばかり考えていると今まで黙っていたアスカの口が開いた。
「……目、閉じて」
「えっ……な、なんで?」
アスカのその言葉の意図がよく分からない、何故返事をしてもらえるはずなのに目を閉じなければならないのだろうかと思う。
「いいから早くしなさい!」
「わ、わかったよ」
シンジはアスカの言われたとおりに目を閉じる。
「(何で目なんか閉じなきゃならないんだろ……もしかするとおもいっきり殴られるのかも……それじゃあ歯を食いしばっといた方が良いかも……」
シンジは勝手な予想をすると歯を食いしばり予想される攻撃に備える。
しかし、アスカが一歩踏み込んで何かしたかと思えば、予想とは違い何故か唇になにやら暖かいものが当たる。
「(あれっ? アスカ……一体何したんだろ……えっ!?)
シンジは驚いて目を開けるとそこには頬を赤く染め、目を閉じたアスカの顔のアップ。
キスしているということに気づくとシンジは顔をタコのように真っ赤にしそのまま完全に硬直してしまう。
結局キスは、アスカから離れるまでずっと続いた。
「(あれっ……何でアスカの顔がすぐ前にあるんだろ? それに後頭部にやわらかい感触が……って、これって…もしかして……)」
シンジは背中に感じる木の感触からどうやらベンチに仰向けに寝ている体勢になっているのがわかる、どうやらアスカがしてくれたようだ。
ただ寝かせてくれているなら問題はない。しかし、シンジはあることに気づいてしまった。
そう、自分は……アスカに膝枕してもらっているということに。
「あっ、なーーんだ、起きちゃったの」
シンジの寝顔をずっと見ていたのかシンジが気づいたことを瞬時にアスカは気づき残念そうな声を上げる。
「あっ……そ、その、ごめんね膝枕なんかしてもらっちゃって……それじゃあ、すぐにどけるよ!」
シンジは頭を起こそうとするがアスカの手によって頭を押さえられてしまい起こすことができない。
押さえられてしまったことによって、アスカのやわらかい膝の感触をさらに感じてしまい動きが止まってしまう。
「駄目よ……アタシが許可するまでその体勢でいなさい! そんなことより、聞きたいことがあるんだけど……」
「な、なに……僕が答えられる範囲だったら何でも答えてあげるよ」
「じゃあ、聞くわね……何時からアタシのこと好きだったの?」
そのアスカの質問に驚いてしまうが、答えられる範囲だったら何でも答えるといった以上答えないわけにはいかない。
シンジはアスカに会ったときからの事をずっと思い出してみるが、全然思い浮かばない。
「え、えっと……何時の間にか好きになってた…じゃあ、駄目?」
「何よそれーーー。」
シンジの答えに頬をふくらませるアスカ。
シンジはこんなアスカも可愛いなと思ってしまう。
「それじゃあ、アスカは何時からなの?」
「アタシはね……たぶんマグマからアタシを救ってくれたときからだと思うわ」
「たぶんって何だよ」
シンジはたぶんという言葉を聞き、思わず苦笑してしまう。
「もっと前からだったかもしれないじゃない、とにかく決定的だったのはその時だったのよ」
そんな前から自分のことを想っていてくれたのに気づけなかった自分に思わず自己嫌悪してしまう。
考えてみると、アスカは加持と話していても自分を見つければ自分の所に来てくれていた。
最初のキスだってそうだ、アスカが暇つぶしなんかでキスをするわけないのに……。
考えれば考えるほど、自分がいかに鈍感だったかが分かってしまう。
「……ごめんね。僕、今の今までアスカの気持ちに気づけなくて……ホント、馬鹿シンジだよ」
「ホントよ、大体アタシが暇つぶしでキスするわけないじゃない」
「うん……これからは僕も人の気持ちに気づけるよう努力していくよ」
「その必要はないわ……」
「えっ、なんで?」
アスカの予想外の言葉に疑問を持つシンジ。
「なんで鈍感のままでいいのだろう?」と。
しかし答えは次のアスカの言葉でわかった。
「だって……他の女の子のことに関しても色々気づかれると困るもの」
恥ずかしいのか頬を染めるとアスカはそっぽを向く。
シンジはそんなアスカがたまらなく愛しく思い、上半身を起こし抱きしめてしまう。
アスカはいきなり抱きしめられたことに驚くが心地が良いのかそのまま身をゆだねる。
「大丈夫だよ、僕が好きになる女の子はアスカだけだよ」
シンジが耳元でそう囁く。
アスカは顔を赤くしてしまうが、シンジのその似合わない行動に思わず笑ってしまう。
「クスッ、バ〜〜カ、似合わないわよ」
「そうかもね……じゃ、そろそろ帰ろっか。夕ご飯なにが良い?」
「アタシ、ハンバーグがいいな〜〜。」
「うん、わかったよ。頑張っておいしいの作るよ……はい」
シンジはアスカから離れると先に立ち上がり、アスカの前で手を差し出す。
アスカは笑顔でシンジの手を掴み立ち上がると、そのまま差し出した手の腕を抱きしめてしまう。
「ちょ、ちょっと……恥ずかしいんだけど」
「アンタもさっきいきなりアタシを抱きしめたでしょ、これでおあいこよ♪」
シンジはそれを言われると何とも言えない、そのまま腕を抱きしめられたまま一緒に家へと帰って行った。
その帰り道の二人の顔は今まで見たことのないような笑顔だった。
<終わり>
PONさんの感想
どうもPONです。
涙(後編)のシンさんVerですが、一瞬ドキリとしました。
「・・・僕は綾波の事が好きです・・・」
えーっ!そんなのアリなんだろうか?(笑)と思いましたがちゃんと正統派のLASでし
たね。
シンジとアスカの2人の公園のシーンには忘れかけてた思いがありました(笑)
さすがと思わせる作品だと思います。
3人とも同じ前編から違った作品になるのは面白かったです。
シンさんご苦労様でした。
では〜
関西さんとアスカ嬢の感想
うわわわわ〜!! ゴロゴロゴロ…
「ちょっとシンさん!アンタえらいもの送ってくれたわね!
関西の奴、アンタのSS読んだ後から、さっきから右や左に転がりっぱなしよ!」
ぜぇ…ぜぇ…、えらい殺傷能力…。
私の様な薄汚れたオッサンには到底思いつかないピュアな話だ…。
「はぁ、シンジはやっぱしファーストが好きだったのか・・・・・。」
って所はとくにイイ!!そうだよ、アスカ嬢にはヤキモチを焼かせてナンボ!
ヤキモチの焼かせ方と、その後の告白との対比がカタルシスを…。
「ハイハイ、アンタの頭で難しい事考えないの。知恵熱出るわよ」
ま、またこのような事をするかもしれませんので、その時は宜しくお願い
しますねシンさん。
「シンさんも忙しいんだから、そうそう受けてくれないわよ…」
<後書き>
作「よーーーし、書けた!」
シ「なんか最後のシーンだけ、関西さんやPONさんに送ったやつと全然違うぞ?」
作「ふっふっ、他にもいっぱい変えている部分があるぞ」
シ「確かに……微妙に変わってるな」
作「いやー、それにしても気づいたら2004年になちゃってるし……時の流れって早いね」
シ「いーーや、お前が書くのが遅いだけだ。大体、秋にこの企画が始まったのに書き終わったのが春ってどういう遅さしてんだ」
作「もし、リレー小説とかだったら絶対迷惑なタイプだよねーー」
シ「コイツ……反省してないな」
作「とりあえず、このような企画に参加させていただきホントにありがとうございました関西さん。
PONさんもホントにお疲れ様でした、これからも頑張っていきましょうね
それと感想くれた一読者Aこと我が後輩……感想ありがとう!」