笑顔で明日を迎えるために

 

〜昨日にさよならを:Intermission〜

 

 

  ○月×日  雨のち虹

 

  一週間前、猫を拾った。

  公園で拾った、猫。

  前のあの子は、もういないけど、見間違えるほど似ている。

  っていうより、雰囲気が似てるって言う方が正しいかしら?

  でも、毎日楽しみなのよね・・・

 

 

 

  と、こんなことを自室で日記に書いている私。

  NERV本部にE計画担当博士としての私にあてがわれて部屋。

  日記は・・・何故かアナログに、手帳に書いている。

  和紙で作られた少々上質な紙面に万年筆のすべりが心地良い。

  私はNERVマークの入ったマグカップを手に取り、コーヒーを飲もうとして・・・やめた。

  冷えたコーヒーほどまずいものもないわ。

 

  ふぅ・・・

  時計を見ると既に2時をまわっていた。

  「そっか・・・最近化粧ののりが悪いと思ったら生活が不規則なせいかしら・・・」

  気がついてみれば連日このくらいの時間に仕事を終えるようになっていたから。

  流石にこんな生活じゃあ猫の世話も出来ないからこの部屋の隅にスペースを作って飼っている。

  何?臭いや毛はどうするのか、ですって?

  NERVの技術開発部の実力を甘く見ないで欲しいわね。

  彼らにかかればこんなのすぐよ。

  でもね・・・ほら、私の生活が不規則だからこの子も夜更かしの癖ついちゃってね。困ったわ。朝早く起きられなくなっちゃって教育にも悪いし・・・

 

  かしゅっ

  「リツコー、いるー?」

  ミサトね。

  「ミサト、あなた入ってからそれはないでしょう?私がいたから良かったものの・・・

  それに言ったでしょ?ウチの子がおきちゃうから静かにって」

  ミサトは頭をかきながら、そうだったっけ・・・とかボヤいてる。もうボケてるのかしら、まったくブザマね。

  「んにゃ〜?」

  あ〜あ、結局メロウおきちゃったじゃないの。

  私はミサトをひと睨みしてから部屋の隅へと歩み寄る。

  「ほら、まだお休みの時間よ、メロウ」

  この子もおきたらなかなか寝付かないのに・・・

  しかたなく・・・でもどこか優しい感じに浸りながらメロウを抱き上げて椅子に座り、ひざの上に載せる。

  白と黒の混じったアメリカン、ショートヘアー。そのちょっと蒼い瞳が私を魅了するのよ。

  ひざに載せたままゆっくりと背中をなで、それかな時々のど元をくすぐる。

  「ねえ、リツコ」

  側で見ていたミサトが言った。

  「なに?」

  「私もなでてみて良い?

  何かリツコ見てるとすっごく幸せそうなんだもん」

  私は目の前でしゃがんでいるミサトにメロウを渡した。

  猫って結構水が嫌いなのが多いんだけど、ウチのメロウはそんなことないのよ。これも私の教育のおかげね。

  「わー、ふさふさ・・・」

  「その子ね、背中よりも首の後ろをなでてもらった方が喜ぶわ。

  あと、鼻に手を近づけないで。あなたの手に塗ったマニキュア、この子には強い刺激になるから」

  「ふ〜ん・・・あ、リツコ。あくびしてる・・・可愛〜い」

  ミサトは子供のように笑ってた。まったく、精神年齢ではきっとシンジ君の方が上かもしれないわ。

  私はミサトから再びメロウを受け取ると胸に抱いた。

  「あ、こら、メロウ・・・くすぐったいわ・・・」

  メロウが私の頬をぺろぺろなめている。

  こんなこともあろうかと化粧を落としておいて良かったわ。

  ふと、ミサトに聞いた。

  「ミサト、あなた何しにここへ来たの?」

  ミサトはメロウののど元をくすぐりながら言った。

  「うん。疲れたからコーヒー飲みに来たの」

  と言って冷えたコーヒーの入った私のマグカップに手を伸ばす。

  私はミサトが飲み始めたのを確認してから言った。

  「それ、冷めてるわよ」

  「うっ・・・先に言いなさいね、それ」

  そう言いながらも結局飲んでしまった。

  「ふう、なんか落ち着いたわ。・・・さんきゅ、リツコ」

  「どういたしまして。こっちこそ捨てようかと思ってたコーヒーを処理してくれて嬉しいわ」

  「・・・良いわよ、もう」

  ミサトがすねてる。

  「ふふふ・・・ブザマね。

  ところでシンジ君たちと箱根山に行ったんですって?諜報部が困ってたわよ。どうしたらシンジ君たちに見つからないように監視できるかって、私に泣きついてきたもの」

  「結局シンちゃんにもアスカにもわかっちゃったみたいなんだけどね。

  5人でしょ?ガードについてたの」

  「あら、1人抜けてるわよ。

  いとしのだんな様が」

  そうよ。この女は私を差し置いて先に結婚したんだから。

  「え?加持君が?」

  ミサトもね・・・“加持”ミサトになっちゃったくせに相変わらず彼のこと“加持君”って呼ぶのよね。

  まあ・・・私も旧姓で呼んじゃうから大した差はないんだけど。

  ああ、そう言えばオペレータの1人は結婚式のときに号泣してたわね。

  「そうよ。

  彼なんか出張先でそれを聞いて慌てて仕事を終わらせて飛んできたんだから。

  感謝しておきなさいね。

  今ごろ・・・家で寂しく寝てるんじゃないかしら?」

  「はいはい、じゃあ、帰るわ。

  コーヒーご馳走様」

  「分かったからさっさと帰りなさい」

  「じゃ〜ね〜、体には気をつけなさいよ」

  「はいはい、ミサトもね。

  生活が不規則だと赤ちゃんできないわよ」

  ミサトは手を振りながら帰っていった。

  メロウも、気づいたら夢の中。

  私はそっとメロウを毛布の中に寝かせてやると、部屋の明かりを消した。

  どうせ私は毎日この部屋に来ているわけだし、万一こないときにはマヤか誰かに世話を頼んでも良いしね。

  「おやすみなさい、メロウ」

 

 

 

  「あ、先輩。おはようございます」

  発令所に行くと私に気づいたマヤが笑顔を向けた。

  「おはようマヤ。

  って言ってももう10時なんだけどね。

  それは良いけど、どう、調子の方は?」

  私はマヤに現在調査中の仕事の事を聞いた。

  「はい、現在予定よりも0.9%速く進行しているので・・・そうですね。

  早ければ2時ころには解析結果が出ると思います」

  「そう。

  青葉君。過去のデータ洗えた?」

  「はい、博士。

  現在ヨーロッパを中心に世界180カ国中92カ国よりデータの提供に関して了解を得られました。残りの各国に関しても半年以内には交渉が成立する見込みです」

  「分かったわ。

  じゃあマヤ、私は部屋にいったん戻るから、何かあったら教えて」

  私はオペレータに言い残して部屋へ向かう。

  「あ、先輩。

  メロウに朝ご飯上げておきましたので」

  マヤの言葉にお礼を言って、部屋へ行った。

 

 

  私が部屋に入ると朝ご飯を終えたメロウが顔を洗っている。

  明日は雨かしら・・・?ジオフロントには関係ないんだけどね。

  「おはよう、メロウ」

  その声に反応してメロウが私の足に体を摺り付ける。う〜ん・・・この感触と上目遣いの瞳が可愛いから猫って良いのよね・・・まったく、この良さが分からないだなんて犬派の人の考えることは分からないわ。もっとも・・・人間って言うのはロジックじゃ説明できないのも確かなんだけど。

  私はしゃがみこんでメロウののど元をくすぐった。ふふ・・・幸せそうな顔。

  そのときカシュッと圧縮空気の抜ける音がして・・・あら、こんな時間に誰かしら?

  「おはようございます、リツコさん」

  「おはよう、リツコ」

  ああ、シンジ君とアスカね。

  この二人はいつも一緒なんだから。たまには独り身の辛さも分かってほしいわね。

  「おはよう、シンジ君、アスカ。でもどうして朝からNERVにいるの?学校は?」

  二人の格好を見ても・・・シンジ君はいつもの制服だけどアスカは私服を着ているし・・・それにしてもこの子はどれだけ服を持ってるのかしら?ま、私だって機会がないだけでそれなりに持ってることは持ってるんだけど。

  「リツコさん、今日は日曜日ですよ」

  「そうそう、たまには休めば良いのに。それにひきかえウチのミサトなんか・・・ね、シンジ?」

  「うん・・・って、アスカ、そう言う言い方は良くないよ。

  でも、とにかくちょっとはお休み入れた方が良いですよ。

  あ、それでミサトさんから預かったものがあるんです」

  「え?ミサトがこんな朝早くから起きてるの?」

  昨夜だってかなり遅い時間に帰ったし、だいたい万年遅刻常習犯のミサトがそんなことって・・・

  そう思ったらシンジ君が苦笑しながらファイルを取り出していった。

  「ははは、違いますよ。

  早起きしたんじゃなくて徹夜で飲んでて僕と入れ違いに寝たんです。

  ビールの缶の山に埋もれるようにして飲んでたんですから」

  「あら、ミサトは1日に5本までって決めたんじゃなかったの?」

  「リツコ、甘いわ、その考え方。

  加持さんが“たまには良いだろ”って言ったらしくてあの始末よ。

  まったくどうやったら加持さんがウィスキーをボトル四分の一飲む間にビールをダース単位で飲めるのかしら?

  これに懲りて無茶しないと思うけど・・・」

  アスカがうれしそうにしている。

  ミサトも幸せ者ね。こんなに子供たちに思ってもらってるんだから。

 

 

  「あ、そうだ。僕はちょっと父さんに用事があるから、今日は失礼します、リツコさん」

  しばらくコーヒーを飲みながらミサトのことをさんざん言って笑っていたアスカの声が途切れたときにシンジ君が言った。

  「アスカは・・・どうする?」

  シンジ君が司令に・・・ねえ。気になるけど後で盗聴機を確認すれば良いわね。

  「あたしは・・・もう少しここにいるわ。

  良い、リツコ?」

  あれ、アスカはここにいるの?てっきりシンジ君と一緒に行くかと思ったのに。

  「ええ、良いわよ」

  「そう?じゃあもう一回後で来ますね」

  そう言い残して彼は部屋を出ていった。

  「ふう、アスカ。コーヒーもう一杯どうかしら?」

  「ありがとう、いただくわ」

  私はポットからロイヤルテイストをマグカップに注ぐとアスカに手渡した。

  「良い香りね・・・どの豆?」

  「ロイヤルテイストよ。口に合うかしら?」

  「うん、大丈夫。

  おいしい・・・」

  「そう言ってもらえると嬉しいわ。

  ミサトに言ってもらうのとでは大違いね」

  アスカの感想を聞いてから安心して私も香りと味を存分に楽しむ。

  「アスカ、何か言いたいことがあったんじゃないの?」

  メロウがアスカのひざの上に乗って気持ちよさそうにしていた。

  「・・・うん」

  アスカはマグカップを見つめたまま言った。

  「あの、ね、リツコ。

  もし・・・もしもの話なんだけど・・・

  あたしに好きな人がいて、その想いを伝えたいなって思ったら、どうしたら良いのかなって・・・思って・・・」

  「素直に言えば良いんじゃない?」

  私は空になったカップにコーヒーを注ぎ足した。

  「でも・・・あたしのこと、どう思ってるのかわかんないもん・・・」

  シンジ君のことかしら?

  そっか・・・

  いかにもアスカらしいことね。

  ずっと他人に好かれることしか知らなくて、好かれることが当たり前だったから逆に自発的に好かれることに不安なのね。

  たとえ相手が自分のこと好きだって知ってても今度は自分が突っぱねられるんじゃないかって。

  「アスカ、

  そう言うときにはね、とにかく言いたいことを言ってしまいなさい。

  そのときに自分が傷つくことを恐れてはだめよ。怖がっているうちは何も変わらないわ。

 

  アスカも大変ね・・・

  でも大丈夫。シンジ君はいざとなったらすることはするタイプだからそんなにも長く待つことはないと思うけど」

  アスカを見る。

  「うん・・・って、あ!あたしシンジのことだなんて一言も・・・!」

  「ばればれよ。

  ほんと、あなたたち分かりやすいわね」

  アスカの顔は真っ赤。

  カシュッと音を立ててまたドアが開いた。

  「アスカ、用事済んだけど・・・あれ、どうかしたの?顔赤いけど・・・」

  シンジ君は不思議そうな顔をしていた。

  「やっぱり・・・アスカ、あなた苦労するわね」

  そういってウィンクしてみるけど、シンジ君は相変わらず内容がつかめないでいる。

  本当に鈍いのかしら?

 

 

  「そうか」

  ここは司令室。碇司令がいつものポーズで私の報告にうなずいた。

  「実験に移りたいのですが・・・」

  「分かった。許可を出そう。レイを使い給え。

  ほかのチルドレンの同席も許可する」

  「はい、ありがとうございます。もうひとり、オペレータも同席させたいのですが」

  「よかろう。

  以後その件に関しては君に全権をゆだねる。君が判断したまえ」

  司令は立ち上がって窓の外を見た。

  「・・・フッ」

  隠れて笑ったつもりかもしれないけど、窓に映ってることに気がついていないのかしら?

 

 

  「さあ、出来たわ」

  「せ・・・先輩?」

  マヤが私とレイの顔を交互に見る。

  「・・・」

  レイは何も言わない。

  「リツコ、さん?」

  「・・・リツコ・・・あんたねえ・・・」

  シンジ君とアスカは絶句していた。・・・それにしてもこんなところまで来てくっついてなくたって良いのに。

  ここはNERVからあてがわれた本部内の私の自室。

  マヤと、シンジ君にアスカが集まった時点でレイを呼んだの。

  なぜみんな絶句してたかって?

  分からない?

  実は、レイの格好なのよ。

  ふふふ・・・実はNERV公認ネコ耳グッズの試作零号(赤木リツコ監修)をレイに試着してもらってるところなのよ。

  お見せできないのが残念ね。

  実物を見るのが一番なんだけど、あえて説明するなら・・・レイ用にアメリカンショートヘアーの白×薄黒の耳としっぽをつけてもらったわ。もちろん両方ともNERVのクローン技術を使えば簡単なことなんだけどね。

  贅沢を言うなら・・・レイにはビキニの水着(もちろん耳と同じ模様のね)を着てほしいところだけど、それを見るとアスカが機嫌悪くなるのは分かってるからシンジ君のためにもやめておいたわ。

  う〜ん・・・それでも制服にネコ耳っていうのも意外に似合うわね。

  「どう、シンジ君、アスカ?」

  「え、どうって・・・リツコさん?」

  「レイを見ての感想よ」

  「碇君、・・・私・・・似合わない?」

  レイが残念そうな顔でシンジ君の方を見てるわ。統計学的に言って彼が“可愛い”って言う確立は99.89%ね。

  「え!?そ・・・そんなことないよ。

  う、うん、綾波、可愛いよ」

  「ありがとう、碇君・・・」

  シンジ君の顔も赤いけどレイなんか耳まで赤くなっちゃって・・・しかもネコ耳まで赤くなるのは流石私の作っただけあるわね。

  「リツコ!」

  そう、私はこれを待ってたのよ。

  「なにかしら、アスカ?」

  努めて表情をアスカに悟られないように・・・難しいわね。いつものレイの真似をするだけかと思ってたのに。

  「なんでレイなのよ!?」

  「あら、アスカも協力してくれるの?」

  私はアスカの方に歩いていくと耳元でささやいた。

  「だいじょうぶ、あなたのぶんもあるわ。

  それはまたシンジ君と二人っきりのときにでも見てもらいなさい」

  アスカは真っ赤になってうなずいた。

  「あ・・・ありがとう」

  本当の目的はそれでお金を稼ぐところにあるからモデルは多い方が良いし・・・でもアスカはシンジ君以外には見せたがらないかしら?

  ふふふ・・・とにかくそれでメロウにも他の可哀想な捨てネコもジオフロントの一角でまとめて育ててあげられるわっ

  まあ・・・アスカには今度こそ水着でやってもらうからシンジ君が落ちるのは時間の問題ね。

 

  せめて・・・今まで辛い思いをしたぶん、若いうちにいろんな思い出を作ってほしいわ。

  私も・・・ミサトと一緒でその手伝いをさせてもらうから。

 

 

 

 

  今日、アスカにもネコ耳になってもらった。

  本人の希望でシンジ君しか見てないわ。アスカに免じて監視カメラのスイッチは切ってあったけど部屋から出てきた二人が真っ赤だったから何があったか大体想像できるわね。

  あ〜、私も誰か素敵なひとが出来ないかな〜!!??

  

 

 

 

   あとがき

 

  こんばんは、みなさま。てらだです。

  今回はちょこっと方向を変えてリツコねーちゃんでお送りしました。結構リツコねーちゃんも台詞が勝手に出てくるタイプのようで好きです。男オペレータはたぶん無理でしょう。

  あくまでインターミッションなのでLAS度は低くしようかな・・・とも思ったけどもともと僕のSSはLAS度が高くないのでソースにおまけとして入れておきます。それで勘弁してください。

  ついでに、ネコは良いです(断言)ネコ耳万歳!!!(爆)

  でわでわ、苦情などは以下のメールアドレスまでお寄せください。

                 terada@hm.aitai.ne.jp

                                 てらだたかし



てらだたかしさんの連載SS「昨日にさよならを」のサイドストーリー(インターミッション)作品、「笑顔で明日を迎えるために」でしたっ!
てらださんどうもありがとうございます〜(^o^

おお、このお話はリツコがメインですね。Gehenには何気にリツコさん好きの人が多いから、大喜びしてる人多数でしょうね(笑)
リツコの視線で語られる物語。愛猫はメロウですか。いやーリツコの魅力を引き出して奇麗にまとめてますね(^o^
それに「LAS」やミサトも絡めた「幸せ」、そして本編への伏線もさり気なく盛り込んでありますしね。上手いっ!
しかしラストは猫耳と尻尾ですか(^^; アスカのもちゃんと作ってあるし。
「いやーん、流石はリツコ」って感じですね(笑)

作者のてらだたかしさんに作品のご感想をっ!
上記まで是非お願い致します(^o^

てらださんの後書きにもありますがソース必見です。猫耳と尻尾、そして水着に着替えたアスカがシンジに……っと、ここからは実際にソースを読んでお楽しみください(笑)
本編の続きも期待してますよー、てらださん!(^o^



第壱中学校資料館に戻る