何時の時代か、何処の世界は判らないが、その世界の何処かに”惣(そう)”と言う国があった。
そして、その国のお城にアスカという名の王女が住んでいた。アスカ姫は王妃であった母親に似て、容姿端麗、頭脳明晰であり、天真爛漫な性格と相まって、その名は世界中に知れ渡っていた。
しかし、人間誰しも欠点と言う物を持っているものである。アスカ姫とて例外ではない。では、姫の欠点とは何か?……彼女は気が強すぎた。有り体に言えば”酷く我が侭”なのだった。
「小さい頃は、素直ですごぶる良い子であられたのに……やはり母君が亡くなられてから……。」
とは、姫が生まれる前から城に仕えている兵士長の言葉である。
この事からも判る様に、アスカ姫の母親である王妃・キョウコは、姫が物心付き始めた頃に、病で他界してしまっていた。
アスカ姫に表情に険が表れるようになったのもこの頃からであったと言われる。そして、父親である王・ラングレー二世が後妻を迎え、その間にレイ姫が誕生すると、両親の関心をレイ姫に盗られたと思い込んだのか、ますます孤立する様に振る舞う様になった。
そして、成長するに従って、他人を魅了する美しさと同時に他人を寄せ付けない気配を漂わせるようになったアスカ姫は、今は14歳。この国の慣習では、婿探しが始まるのである。
……これは、そんな頃のお話……
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今日もアスカは、城内の占い師の元を尋ねていた。この占い師は姫とほぼ同年代でありながら、予言の的中率の高さから、若くしてお抱えの占い師として城内に住んでいた。
ここだけの話であるが、彼女をお抱えにする時に強力に後押ししたのはアスカであった。姫は一度だけこっそりと城を抜け出した事があった。その時に街中で彼女‥‥ヒカリと知り合いになり、『アタシの友達になってっ!』と、半ば強引に城に招き入れてしまった。そして、ヒカリが占いを得意としている事に目をつけた姫は、城内に住めるように父に強引にねじ込んだのであった。
占い師である立場上、ヒカリは王に助言を行わなければならないのだが、その伝達役としてアスカを指名した。これは、城内に入った日の夜、アスカから生い立ちの全てを聞いたヒカリが、少しでも家族との接点を増やそうと考えての事だった。
アスカにとって、ヒカリは城内で唯一心を許せる存在であり、ヒカリも姫の『どうか私とは王女としてではなく、親友として付き合って欲しい』と言う願いを聞き入れて、対等の立場で付き合う様にしている。
今日もこれと言った兆候は見られず、平和そのものだった。こんな日のアスカとヒカリは、友達同士の他愛もないお喋りに花を咲かせるのである。
「ところでさアスカ、昨日の夜にね、面白い物が水晶玉に出たんだけど……。」
「え!?何々??」
「どうもこれは、アスカ絡みみたいなのよ‥‥”東の方へ……されば、求めしもの、与えられん”‥‥てね。」
「う〜ん……やっぱ何も見えないわ、あはははっ!……でもさ、どうしてそれがアタシ絡みになるの?」
「イメージね。赤のイメージ。情熱的だけど消えそうな位か細くなる時もあって……飽く迄も私の主観だから、ハッキリと言い切れないんだけど。」
「ふぅ〜ん……分かった、有り難く頂戴しておくわ。じゃ、早速……。」
「アスカ、あんまり迷惑掛けちゃダメよ。」
「ハイハイ、分かってますって。」
アスカは早速、城の者に命じて、東の方角を探索させた。勿論、王の許しなど得てはいない、姫の我が侭である。
アスカ姫が我が侭を言い通せる理由の一つが、必要最小限の被害(?)で留める様に動く事。さっきも言ったが、アスカは天才だ。城の者の能力についての全てを把握しており、その我が侭を聞いて貰う人間をその都度選んでいた。頼み方もその人に合わせると言う芸の細かさで、言われる方からは『無茶は言うけど無理はさせない』様に写るのである。従って、未だかつて断られた事は無いのであった。
”惣”の国は、山と森の国である。領土はさほど広くはなく、城から東の国境へは、三日もあれば往復出来る。アスカが与えた期限は七日間、じっくり探せる様にとの配慮からであった。しかし、”求めしもの”だけでは、命じた当のアスカ本人でさえ解らないのに、兵士達が解る筈もなく、結局、何も見つける事は出来なかった。
しかし、アスカはヒカリの言葉がどうしても気に掛かる。三日三晩悩んだ揚げ句、アスカは自分で探す事を決意した。
しかし、王女の身分であるアスカが一人で城外に出ると言う事は大変な事である。実際、ヒカリと出会ったあの時、『姫が失踪した!』と城中が大騒ぎになってしまった。それ以来、警護が厳重になってしまい、容易に抜け出せなくなっていた。
そこでアスカは、ヒカリに相談を持ちかけた。
「……どうにかって言われてもね……。」
「お願いっ!頼りになるのはヒカリだけなのよ。」
「う〜ん……あの話は本当に漠然としたものなのよ。こう言う場合の占いは99%外れなの。だからあまり真剣になって貰っても困るのよ。」
「それは解ってるわ。でも、これは何か引っ掛かるのよ、スッキリしないの……どうしても諦めきれないのよ。」
「……ふぅ……分かったわ、ちょっと待っててね。」
そう言うと、ヒカリは水晶玉に手をかざして、一心に呪文を唱え始めた。ヒカリが呪文の詠唱を声に出す時は、それだけ真剣になっていると言う証拠で、滅多に見られるものではなかった。
その内、水晶玉がボウッと光った様に見えたが、それも直ぐに収まった。それと殆ど間を置かずして、ヒカリはアスカの方に向き直り、結果を語り始めた。
「……アスカ、本当に探したいのね。」
「う、うん……どうしたの?そんな怖い顔して……。」
「結論から言って……有るわ。アスカの勘の方が正解だったって事。」
「そう、やっぱりね。残り1%がヒットしたって事よねっ!」
結果を聞いて、得意満面になるアスカ。
しかし、ヒカリは表情を崩さぬまま、言葉を継いだ。
「でもね、これを探しだすと言うのなら、かなりの覚悟が要るわ。」
「え?も、もしかして、お城を抜け出した事がばれて連れ戻されると、きつ〜いお仕置きが待ってるとか?あ、もしかして、勝手に縁談が進んじゃって、とんでもない奴と結婚させられるとか言うんじゃ……。」
「ううん、違うわ。」
「じゃあ、一体何があるっていうのよ!?」
「……”全てを失う”と言う事よ、アスカ。」
「”全て”?」
「そう、”全て”よ……今迄アスカが必要としてきたもの、アスカを守ってきてくれたもの、アスカが守ってきたもの……アスカが今のアスカである為のもの、それら全てよ。」
「……。」
「これは、アスカが”求めしもの”を見つけようと見つけまいと、行動を起こせば、必ず起こる事よ。」
「……失うと、どうなるの?」
「判らないわ。実際に起こってみないと判らない。でも、かなり辛い事に……いえ、もしかしたら、『死んだほうが増しだ』って思う程かも知れないわ。」
「……そう、分かったわ。」
ヒカリの言葉に表情をやや蒼くしたアスカは、ポツリとそう答えると、そのまま俯いてしまった。そんなアスカを、ヒカリは只じっと見守るだけだった。
やがて、アスカはゆっくりと顔を上げた。只、その表情は何かを決心したらしく、晴れやかな笑顔だった。
「ヒカリ、アタシ……アタシ、やっぱり行くわ。」
「アスカ……。」
「そんな事が起こるって言うんだから、探し物はそれに見あったものだと思うの。それに、ここで『はいそうですか』って引き下がるなんて事、そんな事許せる訳ないし、それに……どうせ後悔するなら、やってから後悔したいわ。何もしないでダラダラと居るよりはずっと増しよ。」
「……そう、そこまで決心したのなら、もう止めないわ。行ってらっしゃいよ。夜明け前なら簡単にお城から抜け出せるから……くれぐれも寝坊しないでよ。」
「うん、有り難う、ヒカリ。」
「それから……。」
ヒカリはアスカの手を包み込む様に握って言葉を続けた。
「アスカ、喩え何が起こっても、決して諦めないで。喩え何が起こっても、信じる事を止めないで。自分の決めた道を信じて進むのよ。」
「ヒカリ……うん、分かったわ。」
「最後にもう一つ。今晩は出て行くのは止めなさいよ。今晩はじっくり寝て、行くのは明日の朝にしなさい。良いわね?」
「はいはい、分かりました。じゃあね!」
「うん、また明日。」
元気にそう言って部屋を後にするアスカ。それをヒラヒラと手を振って笑顔で見送るヒカリ。
しかし、アスカが姿を消すとヒカリの目はたちまち悲しみに満ちるのだった。
「……今迄有り難う……さようなら……アスカ……。」
やがて、夜の帳が辺りを覆い尽くす。そして、それを取り払うべき役目を持つものが現れる直前に、一人の人影がお城から足早に遠ざかっていった。
<後書き>
掲示板をよくいらっしゃる方はお久し振りです。でも、殆どの人は初めまして、ですね。跡見(とみ)と言うアカンたれです。
何時も素晴らしいSSや同人誌でゴロゴロと転がせて貰ってます。何時も感謝感激、有り難く思ってます。で、これはその細やかなお礼です。
全部で三本位になるかと思いますが、次は何時になるかは判りません。最近は筆が遅くなってますので……(^^;)
『梅の花が咲く頃に……』って言ってた筈なんですけどねぇ……今は何の花が咲いてるんやろ?
それにしても、夏コミ、また御会い出来なかったのは残念至極でありました……(ToT)
それでは、これにて……。