伝えること
written by TOMOKI
雀の鳴き声と快晴を予感させる澄み切った青い空。
凄惨な最後の決戦が終わり、平和な日常を取り戻したシンジとアスカ。
二人は、中学を卒業して高校に通うようになっていたが相変わらず葛城家で同居を続けている。
そして今日もいつもと変わらない日常が始まるはずだった。
普段ならシンジが起こしに来るまで寝ているアスカだが、その日に限って自然に目が覚めた。
目覚まし時計を見ると、針はまだ6時を指したばかり。
「・・・まだ6時〜?・・・もう一回寝よ〜。」
再びベッドに寝転がるが、完全に眠気が無くなってしまったらしく、どうにも眠れそうにない。
「む〜、しょうがないわね〜。」
そのままゴロゴロ転がっていたのだが、名案が浮かんだのかアスカの顔がいたずらっ子のそれになる。
「偶に早起きしてアイツを驚かすのもいいかもね♪」
そう呟くとベッドから飛び起き、静かに部屋を後にした。
チュシャ猫のような顔でリビングに向かうアスカ。
(う〜ん、どうやって驚かそうかな?いきなり声をかけるのは普通っぽいし・・・、後ろから抱き着いて・・・って何でアタシがシンジに抱きつかなきゃいけないのよ!?)
微かに頬を染めながら廊下を歩くわずかな時間でも、彼女の頭脳は忙しくフル回転する。
(・・・・・・それにしてもやけに静かね?どうしたのかしら?)
サファイヤブルーの瞳にキッチンの光景が飛び込む。しかし、いつもならすでに起きているはずのシンジの姿が見当たらない。
よくよく見てみると彼の部屋の襖は堅く閉じられており、物音を立てているのは彼女だけ。
「ふぅ、今日はしょうがないわね。・・・さって、シャワーでも浴びよ。」
イタズラが実行できず少々気落ちしながらも、軽い足取りで浴室に向かった。
ところが、シャワーを終えて制服に着替えても、それでもシンジは起きてこなかった。
もうすぐ7時であり、そろそろ起きてこないといくら彼が手馴れていると言っても朝食・お昼のお弁当の準備が間に合わない。
「シンジったら何してんのかしら?このアタシに朝食を抜かせるつもり!?」
先ほどまで機嫌が良かったはずが、いきなり不機嫌になりシンジの部屋に向かう。
勢い良く襖を開け放ち、ずかずかと彼の部屋に入る。
そこにはまだシンジがベッドの中で眠っていた。
(あっきれた。本当に寝てるなんて・・・。でも、シンジの寝顔って結構可愛いかも・・・)
少し機嫌が直り、アスカは微笑みを浮かべて、しばらくシンジの寝顔を見つめていた。
それだけでは飽き足らなくなったのか、それとも悪戯心が刺激されたのか。
人差し指でプニプニと彼の頬を突つき始める。
(なんだか女の子みたい。もっと男の子らしくなりなさいよね!)
「・・・ふがっ・・・」
つい力が入ってしまい、シンジは呻き声をあげる。
その声で我に返ると、すでに時計の針は10分は経過している。
(ヤッバイ!?早くシンジを起さないと!)
先程までの余裕は吹き飛び、急いでシンジを起こし始める。
「ほら、シンジ朝よ。」
2度3度と呼びかけるが全く反応は無い。ムッとして今度は彼の体を揺すりながら大声で呼びかける。
「こらバカシンジ!、起きろー!!」
アスカは激しく揺さぶりながら何度か繰り返したが、彼は一向に目覚めようとしない。
「シンジったらどうしたのかしら?」
アスカはいぶかしげにシンジを見つめる。今までこれだけの事をして彼が起きなかったことはないのだ。
「・・・・・・呼吸はしてる。それにさっき触った時は暖かかったし、何より声が出たし・・・・・・。」
シンジの寝顔をまじまじと見てみても、普通に寝ている様にしか見えない。
「とりあえず・・・・・・、ミサトを起こした方がいいわね。」
そう呟くと、アスカはミサトの部屋に駆け込み夢の世界に漂っている彼女を手荒く起こそうとする。
「ミサト、起きてよ。シンジの様子が変なの!」
「うーん・・・・・・・・・・・・もっとえびちゅ〜。」
普段寝起きの悪いミサトは今日は特にしぶとい。
「・・・・・・この・・・・・・、さっさと起きろーーー!!!」
「うっぎゃ〜!!!」
あっさり我慢の限界を超えたアスカは、彼女必殺の踵落しをミサトに叩き込んだのだった。
アスカはようやく目覚めたミサトをすぐさまシンジの部屋に連れてきて状況を説明した。
「ふーん・・・、じゃあシンちゃんはリツコに診察してもらうわ。」
言葉通り叩き起こされたミサトは、はっきりと機嫌が悪い。
「それとアスカ、そろそろ出ないと学校に遅れちゃうわよ?」
「・・・・・・今日は休むわ。」
「あら、ダメよん。」
ミサトは何事も無いかのようにきっぱりと言う。
「え?でも・・・シンジが心配だから・・・。」
暗い表情のまま、アスカは眠ったままのシンジを見続ける。
(あらあら、アスカも変わったわねぇ。シンちゃんの事を心配だなんて言うなんて)
「とりあえず学校には行きなさい。」
「・・・・・・判った。・・・・・・」
普段のアスカからは想像できないようなか細い声。
ミサトは、元気なくコンフォートマンションを出て行くアスカを見送った後、ネルフへの直通回線をコールする。
「あ、リツコ?急なんだけどシンジ君の診察をお願いしたいから、その準備と車を手配してくれない?」
「何があったのかしら?遅刻常習犯のミサトがこんな時間に起きているなんて珍しいわね。明日は雪かしら?」
リツコの皮肉を聞き、ミサトは苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。
「茶化さないで。詳しい説明はそっちに行った時にするから準備をお願い。」
「判ったわ。」
「それじゃ。」
ミサトは静かに受話器を置きしばらくそのままで居たが・・・。
「さて、お迎えが来るまでに支度しなくちゃね。とりあえず・・・、ビールビールっと♪」
笑顔で冷蔵庫に向かうミサト。ミサトはやはりミサトであった。
ネルフ付属病院の診察室の前でミサトは椅子に座り、ただ一人たたずんでいた。今リツコが診察を行っており、それが終わるのを待っているのだ。
どのくらい時間が経っただろう。不意に診察室のドアが開き、髪をかきあげながらリツコが出てきた。
「リツコ、シンジ君は?」
「とりあえず、今も眠ったままよ。身体に外傷はなく、少し疲れが溜まっている程度かしら。もっとシンジ君をいたわってあげなきゃだめよ。」
リツコは苦笑しながら、皮肉を口にする。
「ぐっ・・・、結局原因は何だったの?」
「それが・・・、分からないの。」
原因が判らないのがよほど悔しいのか、リツコは俯き視線をさまよわせる。
「ただ気になる部分はあるわ。」
「説明して。」
使徒戦の時と同様に厳しくなるミサトの表情。
「人間の睡眠には深い眠りと浅い眠りの二種類があって、それが一定時間毎に繰り返されるの。そしてごく浅い眠りで夢を見ている状態をレム睡眠と呼んでいるわ。シンジ君は今このレム睡眠状態にあるの。」
「ちょっとまって。それじゃあ・・・。」
「そう・・・。それが今回気になる部分よ。普通浅く眠っている時に大きな声を出したり身体を揺さぶったりすれば必ず起きるはずなの。それなのにシンジ君は起きなかった・・・。私も試したけどダメだったわ。」
診察時のことを思い出し、リツコは苦渋の色を浮かべた。
「そうなの。じゃあ、シンジ君は?」
「しばらく入院してもらうわ。ここにいた方が、状態の変化にもすぐ対応できるし。最も健康に近い状態だから目が覚めるまででしょうけど。」
「判ったわ。診察ありがとう。」
「いいのよ、それくらい。でも、悔しいわ。これだけ科学や医療が発達してもまだ解明できない事があるなんて・・・。」
重苦しい空気に包まれたまま、沈黙する二人。
そのままどちらともなく二人は病院を後にし、本部へと戻って行った。
一方の子供たちが通っている高校の2−A。
普段は喧騒に包まれているクラスが、今朝は異様に静まり返っていた。
「アスカ、おはよう。」
「・・・・・・。」
ヒカリが挨拶をしてもアスカからの返事は返ってこない。アスカの視線はまっすぐのまま。
「アスカ、どうしたの?ねぇ、アスカったら!」
「・・・え!?ああ、おはよう、ヒカリ。」
はっと我に返り慌てて返事をするアスカ。
「ねぇ、アスカどうしたの?すごく暗いわよ。」
「な、何でもないわよ・・・。」
強がっては見せるものの、誰が見ても『何でもない』状態とは思えない。
「・・・嘘ね。」
アスカが振り向くと、そこにはレイが立っていた。彼女もアスカの様子が普段とあまりにも違うので様子を見に来たのだ。
「もう、嘘付いたってすぐ判っちゃうんだから。」
「・・・そういえば、今日はお兄ちゃんは休み?」
あの決戦の後、レイは正式に碇家の養子となっており、シンジを『お兄ちゃん』と呼ぶようになっていた。
「う、うん、実は・・・。」
アスカが喋ろうとしたその時、今日も黒のジャージを来たトウジが教室に入ってきた。
「おはようさん、何や朝から辛気臭いのう。」
「あ、おはよう、鈴原。あら、相田君は?」
「おお、ケンスケなら港へ行くゆうとったな〜。」
「じゃあ今日はお休みなのね?」
「多分そやろ。ん?惣流はどないしたんや?」
ずっと暗い雰囲気のアスカを見て、トウジがヒカリに尋ねる。
「今から訳を聞く所なの。アスカ話して。」
「・・・今朝ね、アイツが・・・、シンジが起きなかったの・・・。」
「うーん・・・、疲れてたから熟睡してただけじゃないの?」
真剣な表情で親友と話すヒカリ。こう言う所が彼女の美徳のひとつだろう。
「何度も揺すったり、大声で呼んだりしたのによ?・・・・・・今までこんな事は無かったのに・・・・・・。」
今朝の出来事を思い出し、アスカはますます力なく頭を垂れる。
「・・・そう。・・・じゃあお兄ちゃんは家で寝ているの?」
「ううん、ミサトがリツコに診察してもらうって。だから家にはいないと思う・・・。」
「また惣流がシンジに無茶させたんちゃうか?」
「・・・・・・。」
いつもならトウジのこの言葉に怒り出す彼女だが、今日は暗く沈むばかり。
「鈴原〜!!何て事を言うのっ!!アスカに謝りなさい!!」
「済まんな惣流。ちとふざけすぎとった。」
「・・・別に良いわよ。」
ヒカリに怒られ、トウジは神妙な顔つきで素直に謝る。がアスカはにべも無く答えるだけ。
「はぁ、惣流がこないな反応をするとは。こりゃ重症やな。」
「ねぇ、アスカ、病院に行ったんなら大丈夫よ。」
「・・・・・・そうね・・・・・・。」
その時授業開始のベルがなり、担任が入ってきたため急いで自分の席に着く生徒達。
ヒカリはアスカを心配して休み時間毎に励ますのだが、結局彼女の表情が晴れる事はなかった。
「アスカ、帰りましょ?」
放課後になってもまだ席を立とうとしないアスカの所にヒカリ・トウジ・レイが集まる。
「ほら、碇君がもう帰ってきているかもしれないから帰ろ?アスカ。」
「せやせや、早よ帰ろうや。」
「・・・うん・・・。」
のろのろとカバンを持って歩き出すアスカを追って、3人は教室を出て行った。
「「「「・・・・・・。」」」」
すでに道程の半分も過ぎたのに、4人の間には沈黙が支配していた。
ヒカリもすでにかけるべき言葉が無く、アスカを見ながら歩くだけ。
「じゃあ、アスカ。また明日。元気出してね。」
「せや。はよ元気だしいや。」
「・・・さよなら。」
「・・・うん、じゃあね。」
結局ほとんど話さないまま帰宅する4人であった。
「ただいま。」
オートロックのドアを開け、シンジがいることを期待していたアスカだが、彼からの返事は返ってこなかった。
「アイツ・・・、まだ病院なのかな。」
葛城家を包む不気味なほどの静寂。
「・・・着替えよう。」
部屋に入り、制服を脱いでジーパンとトレーナーに着替える。
リビングに戻ってきても、頭の中をよぎるのはシンジの事ばかりで何もする気が起きない。
(アタシ一人だとなんだか怖いな)
ピリリリ、ピリリリ
「!!」
不意に電話が鳴りだし、急いで受話器を取る。
「もしもし、シンジ!?」
「ちょっとアスカ、落ち着きなさいよ。」
「な〜んだ、ミサトか。」
期待していた声が聞けず、アスカはがっくりと肩を落す。
「なんだとはご挨拶ね。シンジ君なんだけどね、まだ目を覚まさないからしばらく入院することになったわ。」
「・・・そう・・・なんだ、・・・判った。」
アスカの声を聞いて、ミサトは彼女の状態を把握したようだ。伊達に保護者はやってないということか。
「まだ面会時間があるから、こっちに来る?」
「うん!今すぐ行くからっ!!!」
「気をつけて・・・。」
ミサトの言葉を最後まで聞かず、アスカは受話器を置くとすぐさま部屋に駆け戻った。
テキパキとものの数分で準備を済ませ、すぐさま病院へと向かう。
いつも通りなれているはずの道は、とても長いように感じられた。
受付でシンジの病室を聞き出し病室のドアを開けると、ベッドに寝ているシンジと彼の傍で椅子に座っているミサトが居た。
「あ、来たわね。」
「シンジは!?」
アスカの問い掛けに、ミサトはベッドに居る彼を見る事で答える。
「リツコによるとただ眠っているだけなんですって。・・・・・・尤もただの眠りじゃないらしいけどね・・・・・・。」
「ただの眠りじゃない?」
ミサトの顔の複雑な色をを見て、アスカのそれも険しくなる。
「そうよ。どうも夢を見ているらしいの。まぁそれ以上判らないとも言ってたけどね。」
「・・・そう。」
アスカは少し表情を緩めて、ミサトから視線をずらす。その先にはいつもと変わらないシンジの可愛い寝顔。
「大丈夫よ、アスカ。愛しのアスカが愛情を込めて看病すれば、シンちゃんはすぐに目を覚ますわよん。」
「っ!!ちょ、ミサト、こんな時に何を言ってんのよ!!」
瞬間的に頬が熱くなりアスカはキッとミサトを睨む。と、彼女は優しく微笑んでいた。
「ちょっとは気が楽になったでしょ?シンちゃんの事が心配なのは判るけど、あんまり気を張り詰めすぎていると今度はアスカが参っちゃうわよ。」
「・・・うん、そうよね。」
まだ顔を火照らせたまま、アスカはシンジの顔をもう一度見つめる。
そんな彼女をミサトは姉として、そして保護者としての面持ちで見つめていた。
しばらくそのままでいた二人だが、面会終了のベルが鳴り響く。
「・・・じゃあ、今日はもう帰りましょうか。」
「・・・うん。また、明日も来るからね、バカシンジ。」
後ろ髪を引かれる思いで、二人は静かに病室を後にした。
翌日。
今日は土曜で学校が休みのため、アスカは朝からシンジの病室に来ていた。
花瓶に花を生けたり、シンジの顔を眺めたりしていると、ヒカリ・レイ・トウジ・ケンスケが見舞いにやって来た。
「おはよう、アスカ。碇君の様子はどう?」
「うん、まだ眠ったままなの。全くいつまで寝ているつもりかしらね。」
アスカの表情が昨日に比べるとずいぶん明るくなっていたため、皆も安心する。
「惣流、シンジはどこが悪いんや?」
「どこも悪くないわ。ただ眠っているだけなんだって。」
一転してアスカの顔に翳りが浮かぶ。
「ただ眠っているだけって・・・。そんなことがありえるのか?」
アスカの言葉に、4人は驚きを隠せないようだ。
「そんな事分かんないわよ。でも現にシンジは眠ったままだし・・・。」
アスカがシンジの方を見ると、皆の視線も一緒にシンジに移す。彼はやはり普通に眠っているようにしか見えない。
「・・・大丈夫。お兄ちゃんならきっと目を覚ますわ。」
凛とした声でレイが沈黙を破る。
「・・・あんなに苦しいことも乗り越えたんだから。・・・絶対に大丈夫。」
彼女はまるで自分に言い聞かせるように呟く。
「そう・・ね。・・・シンジなら大丈夫よね。」
再び皆の視線がシンジに集まると同時に、彼らは願っていた。
シンジが一日も早く戻ってくることを・・・。
「さてあまり長居してもお邪魔だから、そろそろ帰ろうか。」
「なんやもうかいな。まだおってもええやろ。」
トウジらしい脳天気な声。彼の辞書には遠慮という文字がないようだ。
「そうよ。それに何かのきっかけでシンジが目覚めるかもしれないじゃない?アタシ達はいつも一緒に居るんだし・・・。」
「・・・そうね。」
「アスカがそう言うならもうちょっとだけね。」
そのまま彼らは普段の日常のように雑談を交わすのだった。
午後になり、爽やかな風が病室に舞い込んでくる中、アスカはただ一人看病を続けていた。
彼らはお昼には帰ってしまい、喧騒に満ちていた病室に静けさが戻っていた。
静かに本を読んでいたアスカは、何気なくシンジの顔を見つめる。
時間が経つにつれ、彼女の心を蝕んで行く心配と不安。
「ねぇ、シンジ・・・、いつになったら目が覚めるの?いつになったらアタシの名前を呼んでくれるの?」
シンジの柔らかい頬を触りながら呟く。
「アタシは今までずっと走ってきたわ。
大学を卒業して・・・、エヴァに乗って他人に認められようとして・・・。
・・・・・・今まではそれで良かった・・・・・・。
・・・でも、アタシが自分を壊した時、そのまま走る事も・・・・・・止めてしまった・・・・・・。
そして、・・・エヴァが無くなって、アタシには何もない、誰も見てくれないと思っていたのに、傍にシンジがいてくれた・・・。
シンジがいつも見ていてくれてた・・・。シンジがいたから、アタシはまた歩き出すことができるようになったの。」
独白を続けるアスカの蒼い瞳から一粒の雫が流れ落ち、その数は徐々に増えていく。
「シンジがいたから毎日が楽しかった。一緒にいたいと思った。
もし、シンジが・・・・・・居なくなっちゃったら、今度こそアタシには何も無くなっちゃうよ。
何にも・・・・・・、無くなっちゃうんだよ・・・・・・。」
シンジの手を握り締め、自分の頬に当てて彼の体温を感じ取る。
「だからシンジ起きてよ!起きてアタシの名前を呼んでよっ!!アタシと一緒にいてよぉ・・・・・・。」
「・・・・・・・うぅ・・・・・・ぐす・・・・・・・」
シーツに顔を埋め、静かな嗚咽が病室に響き渡る。
アスカはそのまま泣きつづけ、ミサトが迎えに来た時には、泣き疲れて眠っていた。
シンジが入院して三日目、今日も朝からアスカは彼の看病のため病室に訪れていた。
「もう三日目なのよね。なんだか長い間シンジの声を聞いていないような気がするなぁ〜。」
そう言って、シンジの顔を覗きこむ。
「こらバカシンジ、そろそろ起きなさいよ!」
するといきなりシンジの両目が開き、彼の黒曜石のような瞳が現れた。
「・・・・え?えっ!!??」
「おはよう、アスカ。何をしているの?」
シンジは事も無げに起きあがってアスカの顔を見る。
が、彼女は突然のことでパニックに陥っており、信じられないといったような顔をしていた。
「どうしたの、アスカ?僕の顔に何かついてるの?」
アスカの表情を見て、全く状況が理解できていないシンジ。
(シンジの両目が開いて・・・、・・・起きあがって・・・、アタシの名前を呼んでくれた!?シンジが起きた!!!???)
「・・・し・・・、シンジ?」
「何?アスカ。」
「うぁーーーーーーん、シンジーーーー!!!」
アスカは大粒の涙を流し、力いっぱいシンジに抱きつく。
シンジはいきなりの事で顔を真っ赤にしながらも、優しく彼女を抱きしめる。
「シンジ、シンジ、シンジーーー。」
アスカは泣きじゃくりながら何度も名前を呼ぶ。シンジもゆっくり髪をすいて、彼女を落ち着かせようとしていた。
「ううっ・・・、ひっく、・・・・・・ぐす・・・・・・。」
アスカが落ち着いてきたのを見計らって、シンジが尋ねる。
「アスカ、どうしたの?ここは病院だよね。どうして僕が病院にいるの?」
「アンタがずっと起きなかったからじゃない!!すっごく心配したんだからねっ!!」
相変わらずのほほんとしている彼を、アスカは赤くした目で睨む。
「心配かけてごめん。僕はずっと夢を見ていたんだ。」
「夢?・・・どんな夢だったの?」
「うん、母さんがね、夢の中で僕に語りかけてきたんだ。」
「シンジのママが?」
ようやくアスカは泣き止んだのだが、まだシンジにしっかりとしがみついている。
シンジは側にいる彼女の温もりを感じながら夢の事を語り始める。
「うん、僕は周りが真っ白な中に一人で浮かんでいるんだ。それでね、誰か居ないかと思って辺りを見まわしていると、いきなり母さんが現れたんだ。」
アスカは不思議そうにシンジを見つめる。
「それでね、僕にこう言ったんだ。
『シンジ、あなたは護りたい、そして支えてあげたいと思っている娘がいるんでしょう。今までは側にいたかもしれない。でもこれからも側にいて欲しいならちゃんと伝えなきゃだめですよ。
言葉にしないと伝わるものも伝わらないのよ。勇気を持ってあなたが思っている事を言ってあげなさい』ってね。」
シンジが優しい笑顔を見せると、彼女の顔が瞬間に真っ赤に染まる。
「だから、今ここで言うよ。僕はアスカが大好きだ。これからもアスカを支えていきたい、護って行きたいと思っているんだ。だめかな?」
シンジの言葉を聞いて、アスカの蒼い瞳から先ほどとは違う熱い涙が、キラキラと輝きながら幾つもあふれ出す。
「・・・ダメなわけないじゃない。ありがとう、シンジ。アタシもシンジのこと大好きよ。でも、支えられているだけじゃ嫌なの。アタシもシンジのことを支えていきたい。」
「そうだね。お互いに支えあっていこうよ。」
「うん!シンジ大好き!」
二人はお互いにギュッと抱きしめあう。
そしてどちらともなく顔を近づけ唇を重ねたのだった。
その後というと・・・
「アスカ、塩を取ってくれる?」
「はい。野菜はみじん切りでいいの?」
「うん、いいよ。」
葛城家のキッチンでは、おそろいのエプロンをしたシンジとアスカが仲睦まじく料理をしていた。
大好きな人と同じ時間を共有する事がいかに幸せなのかを知ったアスカは、何でも自分からシンジの手伝いをするようになっていた。
「アスカ、これを味見してくれる?」
「うん、美味しい♪」
「よかった!」
二人は以前にも増して一緒にいる事が多くなっていったのだった。
そんな中、リビングでエビチュを飲みながらいじけている人物が一人。そうこの家の主のミサトである。
(何よ何よ。二人して見せつけてくれちゃってさ。全くまだ高校生のくせにそんなにイチャイチャするんじゃないわよ!!・・・お姉さん悲しいわ・・・)
ミサトは家にいると四六時中二人に当てられるため、加持の所に転がり込む回数が増え、そのままゴールインしたと言うのはまた別のお話。
シンジとアスカなら、この先何が起きようともきっと支えあっていけるだろう。
そんな二人に多くの幸せが降り注ぎますように・・・。
Fin
初めましての方は、初めまして。そうでない方はこん○○は。作者のTOMOKIです。
この作品はもきゅうさんのHP『太(いぬ?)』に掲載されていましたが、閉鎖に伴い改訂して日頃お世話になっているえびさんにお願いして掲載して頂きました。
ここ一年間作品を書いていなかった事もあって、改訂にかなり時間がかかってしまいました。リハビリしないとだめだなぁ(苦笑)。
さて今後ですが、予定は一切未定です(というか待ってくれている人がいるとは思えない・・・)が、そのうちひょっとしたら何時の間にか投稿してるかも!?
とちょっとだけ宣伝(?)しておいて、今回はここでお別れです(笑)。
それでは〜。
P.S 最後になって申し訳ありませんが、僕のお願いを快く聞いて下さった管理人のえびさんには本当に感謝しきりです。ありがとうございました。