始まりは2週間前の月曜日の朝、教室でのこと。
ケンスケが挨拶もそこそこに僕とトウジのところにやって来て、話を切り出した。
「お前ら、文化祭の出し物何にするんだ?」
というケンスケのいきなりの質問に
「文化祭なんていつあるのさ?」
と僕。
「2週間後だよ。なんだ知らなかったのか」
「そうなんだ。知らなかったな。ケンスケは何か考えてるの?」
「ふっふっふ。知りたいか?」
メガネを怪しくかけなおすケンスケ。こういう時のケンスケって絶対何か企んでるんだよなぁ。
もったいぶるケンスケにトウジは
「なんや、はよ言わんかい!」
といらただしく訊く。
「聞いて驚け!俺はこの文化祭、バンドを結成する!!」
「・・・」
教室中の視線がケンスケに集まる。
いきなり何を言い出すんだ、コイツは。
そんな眼で。
僕とトウジもぽかんと口を開けてケンスケを見た。
「さ、さよか」
「で、誰と組むの?」
ちょっと、いやかなり引き気味に尋ねると、ケンスケは僕とトウジの肩にぽんと手を置いて、笑顔で
「というわけで、シンジがボーカル・ギター、トウジはドラムな。んでもって俺がベース。」
「「は!?」」
「だ・か・ら!俺ら3人で組むんだよ」
いや、そんな事いわれても・・・
「せやかて、ワシ、ドラムなんて叩いたこともあらへんで?」
とトウジ。
「そうそう。僕もギターなんか触ったことも無いよ」
と僕が言うと、ケンスケは
「大丈夫だって。練習すれば何とかなるよ。それにギターとチェロって似たようなもんだろ?」
・・・違うと思うんだけど。
ケンスケの計画はこうだ。
1.文化祭までの2週間、放課後に死ぬ気で練習する。
2.歌うのは2,3曲でその内1曲は自分達で作る。
3.モテモテになる
・・・要はモテたいんだね、ケンスケ。
もちろんこんな無謀な計画、僕とトウジは反対したんだけど、
「歌ってるシンジを見たら、きっと惣流、シンジにホレちゃうだろうなぁ」
「え!?」
「委員長も『鈴原ステキ・・・』とか思うんじゃないかなぁ」
「何やて!?」
「でも、二人が嫌なら無理にとは言わないけど」
「何言ってるんだよ、ケンスケ。僕たち親友じゃないか。」
「せや。お前の頼み、断れるわけないやろ」
「おお、そうか。お前らならそう言ってくれると思ってたよ」
あはははは・・・。結局僕ら三人ともモテたいわけで。
やっぱり好きな娘にカッコイイとこ見せたいじゃない。
「じゃあこれで『fools』結成だな」
とケンスケ。
「『fools』?」
と訳がわからない僕は訊き返す。
「バンドの名前だよ。三バカトリオだから『fools』。いい名前だろう?」
そこまで決まってたのか。さすがはケンスケ。準備が早い。
・・・ネーミングセンスもさすがはケンスケ。
「なぁ。その名前何とかならんのかいな?」
「わかんないヤツだなぁ、トウジは。いいか?この名前はだな・・・」
まぁ、そんなこんなで僕たちは『fools』を結成した。
・・・前途多難だなぁ。
それからの僕らはひたすら練習の毎日だった。
当たり前か。
シロウトの僕らにはそれぞれの楽器を演奏することすらままならないんだから。
でも、昨日よりは今日、今日より明日と一歩一歩上手くなっている気がした。
一人でチェロをやっているときはわからなかったんだけど、3人で演奏するのは、
ええっと、何て言えばいいのかな、
・・・とにかく楽しい。
みんなでひとつの事に向かって(理由は不純でも)何かをするってこと。
初めてのことだから。
僕にはそれがむしょうに楽しくて。
そしてもうひとつ、僕らのオリジナルの曲のこと。
ケンスケが「シンジはこういうの得意だろ?」なんて言って、僕が詞を書くことになった。
・・・というわけで、書いてしまった。
アスカへのら、ラブ・ソング。
読み返してみると結構恥ずかしいこと書いちゃってるなぁ、僕。
「シンジ、何してるのよ」
びくぅ!!!
「あ、アスカいつからそこに?」
あたふたと、詞を隠す僕。
「今、何隠したの?」
とアスカは疑わしげに訊いてくる。
「ほ、ホラ、文化祭で僕らバンドやるだろ?そ、それで、僕が曲の詞を書くことになって」
「ふぅ〜ん。シンジが作詞した曲なんて誰が聞きに来るのかしらねぇ。」
よし。どうやら僕の作った詞には興味はないらしい。
・・・それはそれで悲しいけど。
「そ、そうだよね。」
「で、シンジ。」
「な、何、アスカ?」
「見せなさい」
「な、何を?」
「決まってるじゃない。アンタが今隠してるモノよ」
ぎくぅ。絶体絶命の大ピンチだ、僕。
いや、待てよ。
ここでアスカにこれを見せたら。
ひょっとして・・・。
かぁ・・・。
真っ赤になる僕とアスカが簡単に想像できた。
ダメだ、恥ずかしすぎて僕には出来ない。
「だ、ダメだよ。」
「いいじゃない、ちょっとくらい。減るもんじゃないし。」
「ダメだって。これは文化祭の日のお楽しみ。」
「ちぇ。ケチぃ。」
かわいく拗ねるアスカ。
アスカは色んな表情を僕にくれる。
笑ったり、怒ったり、泣いたり。
そのひとつひとつが僕の心をくすぐる。
その時、僕は・・・
そんなアスカの表情、仕草を自分だけのものにしたいと思った。
アスカの全部が欲しいと思った。
・・・やっぱり見せておけばよかったかなぁ。
「ねぇ、アスカ。」
「何よ」
「文化祭の日、予定は?」
「まぁこれといってないけど」
「じゃあさ、み、見にきてくれないかな、僕らのライブ」
思い付いたとっておきの作戦。
「えぇ、どうしようかなぁ」
さっきとは比べモノにならないくらい恥ずかしいけど。
「お願いだよ」
きっと音楽が情けない僕を後押ししてくれる。
「しょうがない。どうせ人も集まらないだろうから、行ってあげるわ。
光栄に思いなさいよ。」
そう思ったから。
「本当!?ありがとう、アスカ」
僕は・・・
僕はこの歌をライブで、アスカの前で歌うことにした。
そんなこんなで、あっという間に時間は過ぎて。
いよいよ僕の大勝負。
最後の1曲。
アスカの為だけの唄。
僕は心を落ち着かせる為に静かに目を閉じた。
ライブの前に一応、ケンスケとトウジの二人には僕の恥ずかしすぎる計画について話している
・・・二人とも大爆笑だったけど。
「まあ、がんばりや」とトウジ。「骨は拾ってやるぜ」とこれはケンスケ。
なんだかんだ言っても二人とも僕のことを応援してくれてるみたいだ。
ちょっと勇気が出た。ありがとう、トウジ、ケンスケ。
そして僕は目を開き、ライトの光を眩しく感じながら、マイクに向かった・・・
「えーと、今日は僕らの曲を聞きに来てくれてありがとうございます。
いきなりですが次の曲が最後の曲になります。」
えーという観客の声。
「この曲は・・・、この曲はある一人の人の為に作りました。
ずっとずっと好きだったけど、なかなか言葉じゃ言えなくて。『好きだよ』って」
今アスカはどんな顔しているかな?
「でも、でも今日こそは・・・。僕の大好きの気持ちを伝えたくて」
今アスカは何を考えているかな?
「だから、皆、ごめん。この曲はその人の為だけに。」
・・・アスカの・・・・為・・だけに。」
今アスカはどんな顔しているかな?
今アスカは何を考えているかな?
アスカは僕のことどう思っているのかな?
「聴いて、ください・・・」
「あんた、バカぁ?あの時私にフラれてたらどうしてたのよ?あんた、いい笑いものよ」
あれからいろいろあったけど、今はアスカと二人っきり。
いつもの帰り道をいつもとはちょっとだけ違う僕らが歩いている。
そんな帰り道の途中でアスカに怒鳴られてしまい、僕は
「僕は、アスカを信じてたから。そうじゃなきゃあんなこと出来ないよ。」
と反撃。
あんなことをしたあとだからこのぐらいのこと平気で言える。
ちょっと成長かな?
アスカの前では素直な気持ちを言えるようになったみたい。
「それにしたって状況を考えなさいよね。二人っきりの時とか、いろいろあるでしょ。」
アスカは恥ずかしそうに、でも嬉しそうに言う。
あの曲を歌い終わった後、アスカはステージにいる僕に飛びついて、
「私も・・・シンジがスキ・・」
って目に涙をいっぱい溜めて言ってくれた。
そんなアスカが愛しくて、僕はぎゅっと彼女を抱きしめた。
人の目なんて関係ない。この温もりが僕の腕の中にあるだけでいい。
そう思えた。
だからやっぱりやってよかったなって思う。
でも・・・
でもまだ僕らのライブは終わりじゃない。
「じゃあ、歌うよ。」
「へ?」
「アスカのアンコールに応えてね」
〜あとがき〜
どうもぉ。こんなへなちょこな話を読んでいただいてありがとうございます。
ご都合主義バンザイのwin-dです。
今回はロックなシンちゃんが書きたくて、こんなお話を書いてしまいました。
それもこれも「碇シンジ育成計画」のロックバンドエンディングを見てしまったからです。
まぁ、セガサターンの「2nd Impression」が元ネタですが。
でも、シンちゃんは内気だからなぁとか思いながら書いてました。
原作ではありえないことやっちゃってますが、そこは目をつぶってやってください。
最後に、2週間死ぬ気で練習すれば人を感動させるプレイができるかは分かりません。
win-dは音楽経験ゼロですから。やっぱりそこにも目をつぶってやってください。
というわけで「次はスパロボMXだ!!」と意気込んでいるwin-dでした。