アスカ誕生日記念
Happy Make
By:やった
「う〜っ、何でよりによってこんな日にいないのよぉ!!」
ここはネルフにあるとある一室、二つのベットと必要最小限の設備しかないその
部屋では、先程から落ち着きなくうろうろと歩き回る少女がいた。彼女は、時折
机の上に置かれた端末を覗き込んでは、ため息を吐いていた。
「あぁ、もう・・・シンジのヤツどこ行ってるんだろ・・・・。」
ベットに体を投げ出したアスカは、天井を見上げたままそう呟いた。
数日前・・・・
「アスカ、明後日からの3日間、待機任務お願いね」
朝食を終えた後、ミサトはバタバタと登校準備をしていたアスカを呼び止めると、
そう言った。
「えぇっ!!なんで、アタシなのよ!!」
アスカは、突然のミサトのこの通達に不満の声を上げた。
「しょうがないじゃないの、明後日からレイは精密検査があるのよ。」
ミサトは残ったビールを飲み干すと、続けざまにコーヒーを一気にあおった。
「だったら、シンジが・・・・・」
キッチンでお弁当を包んでるシンジを横目で見ながらそう言いかけたアスカに、
ミサトは2杯目のコーヒーを注ぎながら
「シンジ君は、今週ずっと待機してたじゃないの。3人しかいないんだから、無理
言わないの。いいわねアスカ、明後日からお願いね。」
有無を言わさぬ口調でそう言うと、再びそれを一気にあおった。
そんなこんなで、この部屋の中で、アスカはただひたすら『待機』しているのである
。
待機といってもおいそれと何か起きるはずもなく、結局は退屈な時間となる。
アスカは、おもむろに体を起こすと、もう一度端末を覗き込みシンジが今だにオフ
ラインである事を確認し、もう一度ため息を吐いた。
「・・・・・。ゴハン、食べに行こ・・・・・」
パタンと端末を閉じたアスカはさっと立ち上がると、そのまま扉に向かい部屋を後
にした。
『はぁっ・・・・。食欲なんて、あるわけないじゃない・・・・』
食堂にポツンと座ったアスカは、テーブルの上に投げ出した自分のIDカードを
見つめたまま、再び小さくため息を吐いた。
「な〜んか旨くないわ・・・・」
テーブルに突っ伏したアスカはそう呟くと、何とはなしにIDカードに写る自分の
顔を睨み付けていた。すると、そんなアスカの目の前に急に何か赤いものが差し
出され、視界が遮られた。顔を上げると、そこにはシンジが立っていた。
「何しに来たのよ。」
アスカは、少しふて腐れたようにシンジを睨み付けると、そのままプイと顔を
背けてしまった。
「あ、あの、これ・・・・お弁当・・・・」
シンジは、見るからに機嫌の悪いアスカに少したじろいだが、できるだけさり気なく
彼女の前にその赤いお弁当箱を差し出した。
「だから、何でそんなもの持ってるのかって聞いてるのよ。」
アスカは、相変わらず歯切れの悪いシンジの態度に苛立ちながらも、それでもできる
だけ素っ気なく、シンジの出方を待った。本当のところ、シンジの顔を見た時アスカ
は笑顔でそれに答えたかった。だが、ここで素直に喜ぶのはまるで彼が来るのを待っ
ていたようで、自分に納得が行かなかったのである。それでも、良く見ればその口元
は、幾分緩んでしまっており、シンジでなければすぐに気付いたであろう。
それでも、彼は慎重に言葉を選びながら彼女に
「今日ってさ、ミサトさんもアスカも居ないから家には僕一人でしょう?だから、
お弁当持っていけば一緒に食べられると思って、それで・・・・」
と、答えた。すでに、シンジの話もあまり耳に入らないアスカは、
「そう・・・・ま、まぁとにかく、そんなトコに突っ立ってないで座りなさいよ」
と、自分の前のイスを指差した。その口元は、さらに緩んでしまっており、俯く事
でかろうじて彼には気付かれずにいた。
「あ、それじゃ僕、ちょっとお茶を入れてくるよ。」
シンジは、彼女に言われるままに座ろうとしたが、そう言うとすぐに席を離れた。
アスカは、そんな彼の背中を少しの間見つめていたが、すぐに視線をお弁当箱の方
に移すと、ニンマリと笑って見せた。たった一つのお弁当で、こんなの気分が晴れ
やかになる。アスカはニコニコと笑ったまま、なかなかお弁当には手を付けようと
はしなかった。そうして、彼が戻ってこないかとふと彼の席を見ると、見なれぬ小
さな白い箱が残されている事に気が付いた。
「何、これ・・・・」
アスカが、箱に手を掛けようとした丁度その時、
「あれ?先に食べてても良かったのに」
と、お茶を持ったシンジが戻ってきた。そうして、アスカの伸ばした手の先に気が
付くとすぐに、その箱をアスカの目の前に差し出した。アスカはそれを受け取ると、
開けて中を覗き込んだ。
「ど、どうしたのよ、ケーキなんて・・・・」
箱の中には、苺のショートケーキが一つだけ入っていた。
「今日、アスカの誕生日なんでしょ?さっきミサトさんに聞いて、慌てて買いに行っ
たんだ。だけどさ、時間が時間だからどこも置いてなくって、結局普通のショート
ケーキになっちゃって・・・・」
シンジは、ジッとケーキを見つめるアスカに、申し訳なさそうにそう言った。
「そう・・・・」
そんなシンジに、アスカはただそう答えただけだった。
「あの、もっと早く知ってれば良かったんだけど・・・・」
あまり反応のないアスカに、少し心配になったシンジはそう言いかけたが、アスカは
「良いわよ、何だって。ケーキには変わりないんだし・・・・と、とにかくありが
と・・・・」
と、素直に笑顔を見せた。その笑顔に、シンジはホッと胸を撫で下ろすと、再び蓋を
閉じようとするアスカに、
「あ、ちょっと待って。これ、一応やらないと・・・・」
と言って、ポケットから一本の小さなロウソクを取り出した。
「ここって、火気厳禁だったよね?火つけるから、一瞬で吹き消してよ・・・・」
そうして、小声でそう囁くと、周りに見えないようにそっとロウソクに火を灯した。
小さく揺れる炎をぼんやりと見つめたアスカは、なかなか吹き消そうとはせず、その
ままジッと動かずにいた。不審に思ったシンジは、そっと彼女の顔を覗き込んだ。
すると・・・・
「どうしたの?早く消さないと、怒られちゃう・・・・ちょ、ちょっと、アスカ?
どうして涙なんか・・・・」
俯いたアスカの目には、大粒の涙が今にも溢れ落ちそうになっていた。今まで必死に
堪えてきたものが、目の前で揺れるロウソクの炎によって一気に溢れてしまった。
「な、なんでもない・・・・・なんでもない・・・・・」
必死にそれを隠そうとするアスカだったが、炎がぼやけてしまってなかなかうまく消
す事が出来ない。そしてようやく炎を吹き消した時、シンジの
「おめでとう、アスカ。」
という言葉とその優しい笑顔によって、すべてが白く包まれていった。
「もう・・・・このバカ、シンジ・・・・・」
それからはもう、何がなんだか分からなかった。アスカは、これまで人前で涙を見せ
る様な事は一度もなかった。だが、たった一人の少年のこのささやかな優しさにより
それまで触れずにいた場所が急に溶け出した感じであった。慌てふためく彼をよそに
アスカは、ただただ泣きじゃくった。
「シンジはやっぱり卑怯よ・・・・」
ようやく落ち着きを取り戻したアスカは、自分を見つめるシンジにそう言った。
「どうして?」
不思議そうにそう聞き返す彼に、
「タイミングってのがあるじゃないの。こんな日に急に優しくされたら、いくらアタ
シだって持たないわよ・・・・。」
受け取ったハンカチで涙を拭いながらそう答える。しかし、彼はまだ良く分からない
といった表情で彼女を見つめていた。
「そうね、ツボに入るってヤツかな・・・・。とにかく、アタシにとっては今日は不
覚を取ったわ・・・・。」
大きく息を吐き呼吸を整えたアスカは、そういってシンジを軽く睨み付けると、よう
やく笑顔を見せた。
「今度は、三人でやろうよ。アスカの誕生パーティ・・・・」
お弁当を食べながら、シンジはアスカにそう言った。泣き止んだばかりで、お弁当が
なかなかノドを通らないアスカは、シンジの言葉にただ頷いてみせた。急にしおらし
くなってしまったアスカに、シンジは困った様に笑うと、再びお弁当を食べ始めた。
お弁当を食べ終えたアスカは、再び消えたロウソクの乗ったケーキと対面していた。
「あら?そういえば、アンタの分は?」
フォーク片手に、早速ケーキに手を付けようとしたアスカは、シンジが何もせずただ
ジッと自分の方を見つめているのに気が付いた。
「うん・・・・閉店間際だったから、一つしかなかったんだよね・・・・」
シンジは、そう言うと少し残念そうに肩をすくめてみせた。
「それじゃ、一口だけあげるわ。良い?特別なんだからね、よ〜く味わって食べる
のよ!!ほら、口開けて!!」
そうして、アスカはケーキを一口大に切り取ると、シンジの口元に差し出した。
「え?!あぁ、それじゃぁ・・・・。」
一瞬、このまま食べさせて貰うべきか躊躇したシンジだったが、そのまま素直に口
を開けるとそれを受け取った。
「うん、お、美味しいね・・・・」
どう言って良いのか分からず、こんな答えを返してきたシンジに、アスカは
「何言ってんのよ。ただのショートケーキじゃない。」
と、クスクスとおかしそうに笑った。
ささやかな誕生パーティーを終えた二人は、とりあえず自分の部屋へと向かおうと、
アスカを先頭に歩き出した。だが、
「あ、そうだ!!はい、これ」
食堂を出てすぐに、シンジは急に何かを思い出すとポケットから真っ赤なリボンを
取り出しアスカへ差し出した。
「何、これ・・・・。」
シンジが差し出したものを見て、アスカは何の事だか分からずただ見つめる。
「えっと・・・ケーキ買った時にお店の人が良かったらどうぞって・・・・。」
リボンを手渡したシンジは、そう言って照れくさそうに笑った。
ジッとリボンを見つめるアスカに、
「あ、ちゃんとしたプレゼントとか買ってなかったし、せっかく貰ったものだから
どうかなって思っただけで、その・・・・後で・・・・」
と言い訳して見せたが、アスカは片手でそれを制すると
「ちょっと、ここで待ってなさいよ」
と言ってすぐに側にあったトイレに駆け込むと、何やらゴソゴソとした後、再び彼
の元へと戻ってきた。
「あ、なかなか似合うね・・・・」
赤いリボンを結んで現れたアスカに、シンジは素直にそう言った。
アスカも、その言葉に少し照れくさそうに笑うと、そのまま歩き始めた。
「ねぇ、これから帰ったって誰も居ないんでしょう?」
部屋の前まで来たアスカは、後ろにいるシンジにそう尋ねた。
「え?あぁ、うん。そうだね・・・・」
こんなところまで付いてきてしまいどうしようかと考えていたシンジは、アスカ
の言葉に曖昧な返事を返した。
「だったら、ちょっと付合いなさいよ。アタシも丁度退屈してたところだし、学校
だって明日は休みだし問題ないでしょう?」
ドアを開けたアスカは、シンジに向き直りそう言うと部屋の中を指差した。
「あぁ・・・・う〜ん、それじゃぁ、どうしようか・・・・」
「ほら、入んなさいよ」
躊躇するシンジに、アスカはその手を引いてそのまま部屋に入れてしまった。
そうして、呆然と立ち尽くすシンジをよそに、自分はベットに倒れ込んだ。
「誰かに誕生日のお祝いされるなんて、ひさしぶりなんだ・・・・」
しばらく天井を見上げていたアスカは、そう呟いた。
「え?」
「プレゼントはよく貰うのよ。でも、それだけ・・・・別にアタシの誕生日を祝って
くれてる訳じゃないのよね。アタシという存在がそこに在ったから、くれてただけ
なのよ・・・・」
目を閉じて、まるで自分に言い聞かせるように呟くアスカを、シンジはただジッと見
つめていた。そして、ゆっくりとアスカの隣のベットに腰掛けると、
「僕は・・・・人からプレゼントされたのは、小さい時に父さんから貰ったチェロ
だけだよ・・・・。」
と静かに口を開いた。
「僕も、誰かを祝うのは初めてだったんだ・・・・。だから、いざプレゼントって言
われても何も思い付かなくって・・・・」
ジッと自分の手を見つめながらそう言うと、小さく肩をすくめてみせた。
すると、アスカはいきなりガバッと起き上がったかと思うと、
「そうだ!!ねぇ、シンジ!!帰ったら、チェロ聞かせてくれない?」
と言い出した。
「え?!いや・・・・でも、聞かせるほどの事は・・・・・」
急な提案に、シンジは少し困ったようにそう答えた。
「良いの!!アタシが聞きたいって言ってるんだから。約束よ!!」
アスカは、ベットの上に座り直すとシンジに小指を差し出した。
「別に良いけど、どうして急に・・・・・」
指切りをしながら、シンジはアスカにそう尋ねた。
「だってシンジ、あれから全然アタシの前でチェロ弾かないじゃない。こういう
時くらいは聞かせてくれたっていいじゃない」
再びバタリと仰向けに倒れ込んだアスカは、顔だけシンジの方を向けると頬を
膨らませてみせた。
「分かったよ・・・・。あまり自信はないけど。」
シンジはそう答えると、自分もベットに倒れこんだ。
「さてと・・・・問題はこれからどうするかよねぇ・・・・」
腕時計にちらり目をやったアスカは、隣のベットのシンジにそう言った。
「え?何か考えがあったんじゃないの?」
アスカのこの言葉に、シンジは急に体を起こすと彼女の方を見た。
するとアスカは、
「そんなの、ある訳ないじゃないの。アンタが考えなさい。」
と、さっさと自分の考えを放棄してしまう。
「え?!急にそんな事言われたって・・・・」
弱り果てたシンジは、あれこれ部屋の中を見回し何やら思案し始めた。
「何よ、男のクセにだらしないわね。さっきみたいにもっと機転を利かせなさい
よ!!まったく、たまにカッコイイとこ見せるくせに・・・・」
そんな彼の顔を見つめていたアスカは、マクラを抱えたまま呟いた。
「え?何?」
「何でもないわよ!!この、バカシンジ!!」
そう言って、アスカは持っていたマクラをシンジに向かって放り投げた。
数時間後・・・・
赤い制服に身を包んだ女性が、二人のいる部屋へと入ってきた。
「アスカ、お誕生日おめでとう!!ケーキ買ってきてあ・・・・あら?寝ちゃった
の?それに、シンジ君まで・・・・」
部屋に入ったミサトは、ベットの上で仲良く並んで眠る二人を見つけると、そっと
側にいき二人の顔を覗き込んだ。よく見ると、アスカの頭には真っ赤なリボンが結
ばれているのに気が付いた。
「そう・・・・よかったわねアスカ・・・・。」
隣で眠るシンジとそのリボンとを見比べていたミサトは、そう言うと二人に布団を
かけてやり、ベットのわきに買ってきたケーキを置くとそっとベットから離れた。
そして・・・・
「ハッピーバースデー・・・アスカ。それに、ありがとうシンジ君・・・・」
と小さく呟き部屋を後にした・・・・。
〜Fin〜
<あとがき>
久しぶりに書きました。ピンチヒッター的に書いたので、あまり良いものではあり
ません(プレゼントもリボンという全くヒネリなし)まぁ、私的にはこんなもので
しょう。ただ、ケーキの場面が書きたかっただけです。しょせん間に合わせなので
出来は悪いですが、読んでいただけたら光栄です。
やった
アスカ誕生日記念用に投稿してくれた、やったさんの「Happy Make」でしたっ!
「何とか誕生日記念SS書いて〜」って急遽泣き付いた(^^;、えびの我侭に応えてくれて本当にありがと〜(^o^
やったさんも「ピンチヒッター的に書いた」って言ってますが、はっきり言って「どこが急遽書いたSSなの?」ってな感じの仕上がりですね…。完成度凄く高いっすよ、いや本当に。
今回の作風はいつものほのぼのとしたやったワールドとは違い、本編中でのサイドストーリーに位置するようなものですね。
口では強がり言っちゃうけど、ホントは寂しがり屋で……ってーゆーんでしょうか、とにかくくぅぅ堪らんス!ってな感じです(笑)
ケーキを前にアスカが思わず涙を流してしまうシーンがありますが、えびもここはジーンとしてしまいました。思わずホロっと……会社だってのに(^^;(会社でコメント付けるなよ)
プレゼントが赤いリボンってのもいいですね。しかもそれをちゃんと髪に付けちゃうなんて、ああもう勘弁って感じっす。
「あ、なかなか似合うね・・・・」だって。むがー萌え萌え(バカ)
最後のミサトもいいっすね。いかにもやったさんらしい暖かなまとめ方です(^o^
ほのぼのLAS作家やったさん是非ご感想を!!
感想はSS書きの明日への活力! 是非お願いします!
我侭聞いてもらって忙しいのにごめんね(^^;>やったさん
でもこうしていつもと雰囲気の違う記念SSを読めたから、我侭言って大正解だったなーとか思ったり(^^;(^^;
やったさんはGehen初期からいる大事な常連さんなんだからね。デーンと構えて今後もまたえびをいろいろフォローしてください(笑)
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