『Gehen Wir!』弐拾萬ヒット & 『Lieben Mich』発行記念


素直になって


By:ぜん





今は,2017年の秋。
西暦2015年に起こった,エンジェル・アタックと呼ばれる,あの忌まわしき使徒との戦いも済んで,世界には平和が訪れていた。

チルドレン達も,高校一年生となり,ごく普通の学生生活を送っている。
そして,碇シンジと惣流・アスカ・ラングレー,この二人の関係も相変わらずだった。


『ほらっ,バカシンジッ!!さっさとしないと,置いてくわよっ!』
『ちょっと待ってよ。すぐ行くから。』
『もう,相変わらずボケボケッとしてんだからぁ。』
『何言ってんだよ。僕が遅くなるのは,朝御飯の片づけがなかなか出来ないからじゃないか。それも,アスカが朝っぱらから長々とお風呂に入ってるから・・・』
『ぬわぁんですってぇっっっ!!!』
『うわっ,まっ,待った!ちょ,ちょっとアスカっ・・・』


学校に行くのも一緒,帰ってくる時もほとんど一緒。おまけに,週末に二人で出掛けることも多い。それでいながら,周囲になんと言われようと,二人は自分たちが付き合っているとは,認めようとしないし,事実,想いを打ち明け合ったことはないらしい。
二人っきりで歩いている時も,手も握っていないという話もある。
周りから言わせれば,一体,2年もの間,何をやってたんだ?,ということになる。

全校中の公認の仲でありながら,お互いの関係を言われる度に,

『『アタシ(僕)とシンジ(アスカ)は,別にそんなんじゃない(わ)よっ!』』

と,見事なまでのユニゾンで反論する。それをネタに,また周りに冷やかされて,真っ赤になったままさらに怒鳴り散らす少女と,同じく真っ赤になったままこちらは黙って俯いてしまう少年。そんな感じの二人だった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



玄関先で靴を履き終わったアスカは,見送りに出てきているシンジを振り返って, 人差し指を立てる。

『いい,シンジ。駅前公園の噴水の前,1時よ。アタシはちょっと寄るとこあるから先に出掛けるけど。遅れんじゃないわよ。』

今日の彼女は,レモンイエローのブラウスに赤系のチェックのキュロットスカート,肩に軽く薄手のセーターを羽織っている。
そう,この時期,外は,やや涼しさを感じる程度の気温になっている。日本の気候は,着実に以前の状態に戻って来ており,彼らもようやく,秋という季節を身体で感じることが出来るようになった。
それはさておき,そんなアスカの格好に無意識に見とれているシンジの格好を見ると,まだ部屋着のままだ。話からするに,別々に出掛けて,後で待ち合わせするらしい。

『分かってるよ。でも,どうせなら,その前の用事も付き合おうか?すぐ終わるんだろ。』
『い,いいのよっ,アンタは,余計なこと考えないでっ!!そ,それより,ちゃんとした格好して来なさいよねっ!アタシと一緒に歩くんだからっ!!』

ちょっと早口でまくしたてるアスカの頬が,微かに朱に染まっているのに,シンジは気付かない。いや,顔が赤くなっているのは気付いていたが,その理由を正しく理解していなかった,と言うのが正しいか。アスカは何で怒ってるんだろう,と, 絶対に答えのでない疑問を心に抱きながら,それでも軽く肩をすくめると,分かったよ,と言って,そのまま彼女を見送った。

『じゃ,先行くわねっ。』

プシュッ,とドアの閉まる寸前に掛けられた声に,うん,と聞こえるはずのない返事をすると,シンジはきびすを返した。ダイニングに戻ってくると,ミサトがビールを飲んでいる。

『聞こえたわよ〜ん。今日もアスカとデートなのねぇ。毎日一緒にいるのに,よく飽きないわよねぇ。』
『ち,違いますよっ。見たい映画があるっていうから,その付き合いです。』
『それがデートって言うんでしょ。』
『い,いえ,なんか,洞木さんが用事があるからって。僕はその代役で・・・』
『あら,そうなの?』

毎度お馴染みになりつつある様な言い訳で,ミサトの突っ込みを何とか受け流そうとしているシンジの表情を見て,ミサトは心の中で溜息を吐く。

(まったく,相変わらずだわねぇ,この子達は・・・。一体,いつになったら進展するのかしら?)

『で,アスカは先に出掛けて,シンちゃんとは駅前で待ち合わせ,と。』
『何か用事があるらしくて。どうも,僕が一緒じゃ,ダメな用事みたいだから。』
『ふぅ〜〜ん。』

シンジの言うことに頷いてみせたミサトだが,彼女にはアスカの魂胆は見え見えだった。

(要するに,家から一緒に出掛けるんじゃなくて,たまには普通のカップルがするみたいに,外で待ち合わせ,っていうのがやってみたいのよね。)

しかし,彼女は,それをシンジに教えようとは思わない。二人が,今の関係を自分達で変えようとしないのなら,あまりそれに干渉するのは,躊躇われた。ミサトとしては,二人が抜け出せない迷路にはまり込んだ時以外は,介入すべきではない, と考えている。
代わりに,彼女は心の中でつぶやく。

(近くに居すぎるせいで,安心し切っちゃってるのかしら・・・。何かきっかけがあればねぇ。アスカは素直じゃないし,シンちゃんは鈍感の上に度胸ないし・・・)

手にした缶の残りを,一気にゴクゴクッと飲み込みながら,二人の仲を考える。本当の弟と妹のように思っている子供達。何とかうまく,お互いの気持ちを打ち明けさせる方法はないだろうか。

(でも,下手に薮をつつきたくないしなぁ・・・。)

保護者の悩みは尽きない・・・。




そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか。先に出掛けたアスカは,時間をつぶすために,ショッピング・モールの中をうろうろしていた。
先程から何軒かデザイナーズ・ブランドの店を廻っているが,あまり真剣に選んでいるようにも見えない。どうも気持ちは別のところにあるようなのが見て取れる。

『まったく,何でわざわざこんな事してんのかしら。』

思わず,そんな言葉がこぼれた。
家を出る時の情景を思い出す。自分の考えに気付きもしなかった,彼の鈍感な表情が浮かんでくる。

(人の気も知らないでさ。ちょっとは考えなさいよね。)

同じ家に住んでいるのに,わざわざ外で待ち合わせしたのは,ミサトが推測した通りである。たまには,普通のカップルのように,想い人が来るのを待つ,というシチュエーションを味わいたかったからだ。
そしてアスカは,自分とシンジとの関係を考える。

お互いに好意を持っていることは間違いない。でも,それを打ち明け合った訳ではない。確かに相手を家族であるとは思っているが,単純にそれだけではない。相手を異性として意識しているのは間違いないのだ。しかし,恋人と呼べる関係かというと,そうでもない。
彼女としては,そんなお互いの関係が不満でありながらも,一方で,あとしばらくはそんなぬるま湯のような関係に浸っているのもいいのではないか,という気持ちもどこかにあるのを自覚していた。

(アタシは・・・・,怖いのかも知れない。)

そう思うこともある。お互いに気持ちを打ち明けることで,急激に二人の関係が変わってしまうのではないか。進展を期待する心と,変化を怖がる心。それが,自分の中で葛藤している。
それと同時に,今更,あらたまって好きだと言うのも恥ずかしいという思いもあるし,自分から気持ちを打ち明けるというのも気に入らないのだ。

(アタシの方から,好きだって告白するのも・・・なんか,ねぇ。でも,アイツは鈍感の上に根性なしだから,向こうから言ってくるのも期待薄だしぃ・・・。)

はぁ・・・。
思わず,天井を見上げて,溜息を吐く。

(なんか,自然に,そういう風になるっていう,うまい方法はないのかしら・・・)


そんなことを,どれぐらいの時間,考えていたのだろうか。ふと我に返った彼女は,最近,そんな自問を繰り返す回数が増えている自分に気付き,ちょっと自己嫌悪する。
気を取り直して,手首の時計に目をやった。ちなみに,シルバーの細工の入ったブレスレット状のその時計は,昨年のクリスマスにシンジからもらったものだ。

『あっ,いっけないっ!』

どうやら,かなり長い間,自分の世界に入っていたようだ。シンジとの待ち合わせ時間まで,あと3分となっていた。
アスカは慌てて,待ち合わせ場所である,駅前公園の噴水に向かう。この場所からだと,急いでも5分ぐらいは遅れそうだ。シンジはきっと時間通りに着いて,自分のことを待っているだろう。

(まっ,いっか。こんな可愛い女の子を待ってるっていう楽しみがあるんだから, 男冥利に尽きるってものよね。)

そう思い直すと,アスカは少し歩を緩めた。そして,頭の中で,待っているシンジに,手を振りながら駆け寄る自分の姿を思い描く。自分ぐらい可愛い子が走り寄って来るのを見れば,周りにいる男共が注目するはず,と思う。その時の,シンジの照れた表情が浮かんでくる。

(そうそう。たまには,こういう刺激がなくっちゃねぇ。)

ニヤニヤ笑いながら早足で歩いている彼女の姿は,傍目にはいかにも怪しかったが,自分では気が付くはずもなかった。
そんな彼女だったから,噴水に向かう途中の道路に出来ていた人だかりに気が付いても,それほど気には留めなかった。どうやら交通事故があったらしく,救急車が止まっており,野次馬の話し声が聞こえる。

『なんか,高校生ぐらいの男の子が、車に轢かれたらしいわよ。』
『こわいわねぇ。』
『ちっちゃな子供が飛び出したらしくて,助けようとしたみたい・・・』

そんな会話がチラホラと聞こえてくる。
いつものアスカだったら,野次馬と一緒になって,覗いたかも知れないが,今はシンジとの待ち合わせがあったから,その話に耳をそばだてながらも,足を止めることはなかった。
ただ,頭の中で仮定の話を考える。

(今時,奇特な奴もいるのね。アタシだったら,どうかしら?見ず知らずの他人のために命を張るなんて,ちょっと無理かな。シンジだったら・・・・,アイツはバカだから,ひょっとしたらやりかねないわね。)

そんな考えも,噴水の姿が見える所まで来た時に,頭の中から抜けていった。その位置で一端,立ち止まる。アスカは,さっきのシミュレーションを再び頭の中に思い描きながら,今では頭半分,自分より背の高くなった少年の姿を視界の中に求めた。しかし,期待していたシンジの姿を見つけることは出来ない。
この二年間で,どんな人混みの中でも,彼のことをすぐ見つ出すことが出来るようになった,と自負している。ということは,その場に彼はいない,ということだ。

『なによぉ,まさか,まだ来てないっていうの?』

そう言って,チラッと時計を見る。時刻は1時8分。そんなに遅れた訳でもない。シンジが先に着いていたなら,帰るほどの遅刻ではないはずだ。
しょうがなく,噴水の前まで近づいていく。

(やっぱり,まだ来てないって事よねぇ・・・。ったく,このアタシを待たせようって気かしら,アイツ。あれほど遅刻するなって言ったのに。)

周囲を見回しながら,ちょっと不機嫌な表情になる。さっきまで,盛り上がっていた気持ちが,ちょっと冷めてしまったのが気に入らない。

(もうっ!これはパフェぐらいおごらせなくっちゃ。)

そんな事を考えたら,これでまた出掛ける場所と名目が増えたことに気付き,ちょっと気を取り直した。それに今度は,自分がシンジが来るのを待つ楽しみがある,という風に思い直す。

(最初は,そういうつもりだったんだし。)

そして,今度は逆に,シンジが自分に向かって手を振りながら駆け寄ってくる姿を思い浮かべ,顔をにやけさせる。

(たまにはねぇ,恋人同士みたいなこともしてみたいな。そうだっ,今日はさりげなく,腕でも組んでみようかしら。)

そんなことを考えもするが,やっぱり,今更恥ずかしいという気持ちが,心のどこかにあった。相反する想いの中で揺れ動く乙女心,といったところか。
またまた自分の世界に入り込んでしまっていたが,一向にシンジは現れなかった。
時間はすでに,1時20分を回っている。
コインローファーの爪先が,彼女の気持ちを表すように,タンタンとせわしなく地面を叩き始める。

『おかしいわねぇ。何してんのかしら,あのバカ。』

思わず,口に出してしまった。その表情が,またしても不機嫌になってきている。にやけていたと思ったら不機嫌になったり,その変わりようが,周りから見てると面白いが,本人は全く気付いていない。

(もうっ,遅いっ!レディを待たせるなんて,ちょっとお仕置きしないとダメね。)

すっかり忘れていたが,そう言えば,携帯があったのを思い出した。急いでバックから取り出し,迷わず,メモリーの1番を押す。
しかし,帰ってきたのは・・・・

『現在,この電話は,電波の届かないところにあるか,電源が・・・』

プチッ
すぐに通話を切ると,自分の携帯をしまって考える。

『おかしいわね。』

きれいな形の眉をわずかにしかめ,口元に手をあてて考え込む。
この街で,電波の届かない場所があるとは,まず考えられない。まめなシンジが,携帯を忘れてきたり,電源を切っているとも思えなかった。
アスカの心の片隅に,かすかな不安がよぎる。
その時,遠くから,救急車のサイレンが聞こえてきた。その音にハッとなる。

(そう言えば,さっき・・・来る途中で交通事故があったって・・・)

その時の,野次馬達の会話を思い出す。

(『高校生ぐらいの男の子が轢かれたって・・・』)

アスカの心の中に湧き出した不安が,急速に拡がってくる。

『まさか・・・ね。そんなこと,ある訳ないじゃん。』

それを打ち消そうと,わざと明るく呟いてはみたものの,不安は晴れなかった。仕方なく,さっきの人だかりがあった場所まで行くことにした。

『たしか,この辺だったわよね。』

野次馬はもう散っていたが,まだそこには,現場検証をしている警官達がいる。その様子を眺めながら,どう彼らに話を切り出そうか迷っていたアスカの視界の隅に,黒っぽいものが映った。
ガードレールの下に転がっていたそれを手に取ったアスカは,息を呑んだ。

(これ・・・シンジの・・・・?)

それは,潰れかけた携帯電話だった。形は,確かにシンジが持っていたのと同じモデルである。ディスプレイの部分にはひびが入っており,事故の衝撃で壊れたものと推測された。

(もしこれが,シンジのなら・・・・・)

手に取ったそれの裏側を見る前に,一瞬,神様に祈った。そして,震える手で,それをひっくり返す。
照れた表情のシンジの首に腕を廻して,ニッコリと微笑む自分。
そこには,3カ月前に二人で一緒に撮ったプリントシールが貼られていた。

(!?)

アスカは目の前が暗くなったような気がして、思わず額に手をあてた。足がガクガクと震え出すのをどうしようも出来なかった。

(まさか・・・そんな・・・)

そんな言葉だけが頭の中をぐるぐるとまわっていて、何も考えられない。
かろうじて、現場検証をしている警官の一人に、シンジが救急車で運ばれた病院を確認することだけは出来た。
アスカは、取るものもとりあえず、病院に向かった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



シンジが運ばれたのは、この街で事故が起こった時は、大抵の患者が運ばれると言う第三新東京メディカルセンターであった。
正面玄関をくぐった彼女は、近くにいた看護婦を捕まえた。

『さっき、交通事故にあったっていう高校生の男の子が、こちらに運ばれたって聞いたんですけど・・・』

不安な気持ちに語尾が震えた。
眼鏡をかけた神経質そうなその看護婦は、ちょっと眉をひそめると、逆に彼女に聞き返す。

『あなた、御家族の方?それとも、別のお知り合い?』

一瞬、迷ったアスカだったが、すぐに答える。

『家族です。』
『そう・・・』

一瞬、ほうっ、と息をついた看護婦は、彼女の手を取ると、早足で病棟の奥の方へ進んでいく。アスカは、その様子から、心の中の不安が、にわかに拡がる黒い雲のように急速に成長していくのを感じていた。
そして、彼女が連れて行かれたのは、両開きのドアにICU(集中治療室)と大きく書かれた部屋の前だった。
息をのむアスカ。

(こ、これって・・・相当重傷な人が入れられるところじゃ・・・)

そう考えたとき、看護婦が声をかけてきた。

『患者さんは、意識不明の重体です。今夜あたりが峠になりそうなの。他の御家族の方にも知らせていただけないかしら。』

しかし、その言葉は、最後までアスカの耳には入らなかった。

(シンジが・・・重体? 今夜が峠って・・・)

アスカの頭は、完全に思考停止に陥っていた。今、聞いた言葉を理解しようとするのを、心が拒んでいるのだ。しかし、現実はゆっくりと彼女の中にしみ込んでくる。アスカは立っていられずに、後ろにあった長椅子に座り込んでしまった。

(シンジが・・・死んじゃうかも知れない・・・?うそよ、そんなの・・・)

頭の中では,同じ言葉だけが,壊れたレコードのように繰り返されるだけだ。しばらくの間,呆然と正面のドアを見つめていたアスカの視界に、シンジの面影が幻のようにわき上がってくる。ちょっと困ったような照れた顔,三バカトリオの連中とはしゃいでる顔,球技大会の時の真剣な表情,そして・・・自分だけに見せてくれる心からの微笑み。
その瞬間、彼女のマリンブルーの瞳から、一筋の滴がこぼれ落ちた。

(アタシ・・・まだ、アイツに好きって言ってないよ・・・)

そして、さっきまで心の中に思い浮かべていた光景を思い出す。

(腕組んで歩いたことだって、数えるほどしかない。キスだって・・・あのつらい思い出しかない・・・)

漠然と思い描いていた、二人の将来の姿。
腕を組んで、キャンバスを歩く二人。
夜の公園で、抱き合って、唇を重ねる二人。
彼の待つところへ、バージンロードを歩いていく自分。
優しく微笑む彼の横で、赤ちゃんを抱いている自分。

今まで,心のどこかで,やがて来るべきものとして思い込んでいたもの。
その全てが、幻のまま消えていこうとしている。
自分の気持ちに素直になって、もっと早く思いを打ち明けていれば・・・。
それは、取り返しのつかない悔恨の情となって、彼女の心を締め付けた。

『うっ・・・ううっ、くっ・・・シ、シンジィ・・・』

下を向いた彼女の瞳から、床に向かってポタポタと滴が落ちる。
そこへ、

『アスカ?どうしたの、こんなところで。』

ハッと顔を上げた彼女の視界の中に、彼女より頭半分ぐらい高い少年らしき、ぼやけた姿が映る。だが、涙でぼやけてしまって,顔がはっきりとは見えない。でも・・・この声はたしかに・・・。

『・・・シンジ?シンジなの・・・?』

慌てて目元をこすった彼女の目に映ったのは、ちょっと驚いた表情で立っている彼だった。信じられないものを見た思いで、ゆっくりと立ち上がるアスカ。

『シンジ・・・・・どうして・・・』

そうつぶやいた彼女だったが、次の瞬間、何も言わずにシンジの胸に飛び込んでいた。そのまま、わあわあと泣き出すアスカ。

『シンジ・・・シンジィ・・・』

突然,自分に抱きついてきて,ただ自分の名前を呼びながら泣き続けるアスカを見て、ちょっと戸惑ったものの、シンジはやがてゆっくりと彼女の頭を撫で始めた。

『アスカ、どうしたの。大丈夫、僕はなんともないよ。ほら、もう泣かないで。』

自分の腕の中で泣いている少女のことを,とても愛おしく感じる。思わず力一杯,抱き締めたくなるのをグッと我慢して,シンジは彼女の頭を撫で続けた。
ゆっくりと自分の頭を撫でる優しい手の感触に、やがて彼女も、少しずつ落ち着きを取り戻し始めた。

『ア、アタシ・・・事故現場でアンタの携帯見つけて・・・』
『それで、看護婦さんに聞いたら・・・ここに連れてこられて・・・』
『重体だって・・・今夜が峠だって言われて、アタシ・・・』

そして、一段と強く、彼にしがみつく。その存在を確かめるように。
自分の胸の中で震えているその少女に胸がときめくのを感じながらも,彼には彼女に掛けてあげるべき適当な言葉が浮かんでこなかった。そして結局,その気持ちを口にすることは出来なかった。代わりに出てきたのは,別の言葉。

『ゴメン。大丈夫って言ったんだけど,警察の人に,無理矢理救急車に乗せられちゃってさ。携帯は,飛び込んだ時の衝撃で壊れちゃってて,連絡できなかったんだ。』

しかし,アスカは何も答えずに,彼にしがみついたままだ。
その沈黙に耐えられずに,シンジは何かしゃべらないと,と焦った。その結果,口から出てきたのは,

『で,でも,看護婦さんも,間違えるなんて,笑っちゃうよね。ハハッ。』

その言葉に,不意に顔を上げたアスカが叫ぶ。

『笑い事じゃないわよっ!!ほんっとに、心配したんだからっ!!!』
『ゴ、ゴメン。』

場を紛らわそうとしてそんな風に言ったつもりだったシンジだが、涙をためた瞳で睨み付けられて、素直に謝った。それと同時に、アスカがこんなにも自分のことを心配してくれていたことを嬉しく感じた。そして、そんな彼女の表情も、とても可愛いと思ってしまう。
ついに我慢できなくなり、自分にしがみついている彼女の身体に手を廻して、抱きしめる手に力を込めた。
二人は,お互いの存在を確かめあうように,しばらく,その感触に浸っていた。

『オホンッ,ンンッ。』

突然,横の方から聞こえた咳払いに,ハッとなった二人は,今,自分達がどんな場所にいるかを思い出して,慌てて離れた。お互いに反対の方を向いて俯いてしまうが,二人とも顔は真っ赤なままだった。

しばらくそのまま,背中合わせの状態が続いたが,そんな状況から,何とか先に声を掛けたのは,アスカの方だ。

『で,でも、よかった。ほんとに、何ともないのね?』
『うん、ちょっと足の先だけね。着地した時に,挫いちゃった。』
『もうっ,最後の最後で,はずすんだから。』

苦笑いしたアスカだったが,視線はその状態を確認するように,素早くシンジの足元に向けられている。よく見れば、シンジはひょこひょこと足を引きづっている。一瞬,表情を曇らせたアスカだったが,大したケガでもないようなので,ほっとしたように表情を緩めた。シンジも,その表情を見て微笑む。ほんとは,完全に車を避けきれなくて,足の先だけ引っ掛けられたのだが,彼女にこれ以上,余計な心配をかけたくなかった。
もう,その話題は終わらせようと,シンジは自分の時計に視線を向ける。

『ああっ,もう,こんな時間だよ。映画,始まっちゃったね。どうする?夕方からのなら,何とか間に合いそうだけど。』
『足,少しは痛むんでしょ。今日は,もう帰りましょ。』

それほど見たかった映画でもなかった。ただ,彼と一緒に見たかった,と言うだけの話だ。それよりも今は,彼のケガの方が気がかりだった。
アスカは,シンジを支えるように,彼の肩の下に身体を入れて横に付く。普段だったら恥ずかしくて出来ないようなことも,何の抵抗もなく出来る。それも,シンジのことを心配していればこそだ。
そんなさり気ない優しさを示せるようになったのも,この二年間での彼女の成長の証だった。二人は,病院の廊下を出口に向かって歩き出した。



そのまま,家路につく二人。病院を出てからずうっと,アスカはシンジを支えるように寄り添っている。二人の間に交わされた言葉は少なかったが,お互いに触れあっている部分から感じられる温もりに,心も近づいて行くのを,確かに感じていた。

(そういえば,こんなに長い時間,シンジとくっついてるのなんて,初めてね・・・。)

そんな事が,ふと頭の中をよぎる。そう思った瞬間,彼女は自分のしていることが急に恥ずかしくなってきた。

(で,でも,こんな中途半端なところで離れるのも,なんか・・・)

一度,意識してしまうと,そんな事がどんどん頭の中に浮かんできて,彼女は胸の鼓動が急激に加速していくのを感じていた。そして,それをシンジに感づかれているんじゃないかと思い,一層,動悸が激しくなっていく。
そして唐突に,アスカの頭の中に,さっき病院で自分を襲った想いが,甦ってきた。
シンジと心を通い合わせないまま,二度と会えなくなるのでは,と思った時の,胸を引き裂かれそうな感じ。

(今までみたいな関係を続けていて・・・もし,また,今回みたいな事があったら・・・。いつまでも,一緒にいられると決まってる訳じゃない・・・。)

そんな想いが次々と沸き上がってくる。彼女には,もう自分の気持ちを抑え付けることは出来なかった。また,そうしようとも思わなかった。

(アタシはシンジのことが好き。この気持ちを伝えずにいて,さっきみたいな思いをするのは,絶対にイヤ。)

そんな思いに突き動かされたのか,アスカは,何かを決意したかのように瞳を上げた。そして,彼女が思い切って声を掛けようとした時,不意にシンジが口を開いた。

『アスカ,ちょっと寄って行きたい場所があるんだけど。』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



そう言ったシンジに連れて来られたのは,何度か来たことのある高台の公園だった。 その場所から見る夕陽はとても美しく,そこからはこの街の様子が一望の下に見渡せた。そこは二人のお気に入りの場所であり,二人きりで来たこともある。

手摺に掴まって,夕陽に染まる街をじっと見下ろしているシンジの背中を見つめながら,アスカは,訳もなく鼓動が早くなるのを自覚していた。いや,心の中のどこかにある期待が,その原因だということは分かっていた。
シンジがこんな場所に自分を連れてきた理由・・・・。

(まさか・・・でも・・・,ひょっとしたら・・・)

それでもシンジは,しばらくの間,真っ赤な陽光の下に佇むビル群を見つめたままで,じっと動かない。
アスカは,徐々に我慢できなくなってきている自分を感じていた。

(ねぇ,シンジ,なんで,何も言ってくれないの?アタシ,もう我慢できない。シンジが言ってくれないのなら,アタシから・・・)

胸の鼓動が極限まで高まっていく。このままでいたら,どうなってしまうか分からなかった。ついに耐えきれずに,アスカはシンジの背中に向かって呼びかけた。

『シンジ,あのね,アタシ・・・・』

思い切って話し掛けてみたアスカだったが,彼が自分の言葉に反応して振り向いたのを見た瞬間,言葉が止まってしまった。逆光で,その表情ははっきりとは見えなかったが,彼が自分を見つめている,という意識に,頭の中が真っ白になりそうになる。それでも何とか口を動かそうと,努力する。

『さ,さっき,病院でね,しゅ,集中治療室の前に居たでしょ。看護婦さんが間違えたんだけど,そ,その時,重体で今夜が峠ですって言われて・・・・』

自分が何を言っているのか,良く分からなかった。ホントに言いたいことは,そんな事じゃない。でも,なかなかすんなりと口から出てこない。

『その時,ひょ,ひょっとしたら・・・,もうシンジと話,出来ないんじゃないかって・・・。そんなこと考えたら,アタシ・・・・』

その時のことを思い出して,また目元が潤んできてしまうのを感じながら,何とか想いを口にしようとする。

『アタシ・・・自分の気持ちをまだアンタに伝えてないって・・・』

『アスカ,好きだよ。世界中の誰より,君を愛してる。』
          ・
          ・
          ・
          ・
          ・
          ・
『エッ・・・?!』

不意に,耳に飛び込んできたシンジの声。自分の言葉をつむぐのに精一杯だったアスカは,その意味がすぐには分からなかった。しかし,それはやがて,ゆっくりと彼女の心に染み込んでいく。

『い,今・・・何て言ったの・・・?』

彼女は,自分の聞いた言葉が信じられなかった。それは,彼女が待ち焦がれていた言葉であったが,ひょっとしたら自分が聞き間違えたのではないか,というのが怖かった。だから,思わず聞き返してしまった。それに対して,彼は,深い漆黒の瞳でしっかりとこちらを見つめたまま,再び口を開いた。

『僕は,アスカのことが好きなんだ。』

自分に確認するように,ゆっくりとシンジは言った。その時の彼の表情は,いつもの照れたようなものではなく,何かを決意したような凛とした眼差しは,しっかりと彼女の瞳を見つめていた。

(そう,これは,コイツが何かに真剣に打ち込んでいる時に見せる表情だ。)

そんなシンジの顔を,アスカは呆然と見つめていた。シンジは話を続ける。

『さっきの事故の時,夢中で飛び出しちゃったんだけど・・・,実は,完全に避けきれなくて足の先を引っかけられたんだ。大した衝撃じゃなかったんだけど・・・,その時,一瞬,もう駄目かと思った。』

シンジの視線は自分を見つめたままだ。アスカは黙って彼の次の言葉を待つ。

『その時,頭の中にアスカの顔が浮かんだ・・・。僕に向かって,泣き叫びながら手を差し伸べようとしていた・・・』

シンジが一旦,瞳を閉じる。斜め横からあたっている夕陽のせいで,片側半分がシルエットとなっている。そのせいだろうか,いつもは中性的な顔立ちの彼の表情が,引き締まった男らしい顔に見える。

『そして思った。僕は,アスカに自分の想いを打ち明けないでいたけど・・・,何も言わないまま死んでしまうのかって・・・。そう思った瞬間,頭が変になりそうだった。だから,僕は・・・,今,言わなきゃ,後悔するかも知れないって思った。たとえ,これからの僕たちの関係が,今まで通りに行かなくなるとしても・・・。』

次の瞬間,アスカの蒼い瞳から,光る滴が一筋,頬を伝って流れ落ちた。
それを見たシンジが,少し慌てたように彼女に近寄る。

『アスカ?どうしたの?ゴ,ゴメン,自分の気持ちしか考えないで,こんな事言っちゃって・・・。でも,僕は・・・』

『アタシも・・・シンジのことが好きよ。』

『エッ?』

突然,聞こえてきた答えに,慌てて彼女の顔を見つめ直す。そこには,両眼から涙を流しながらも,自分に向かって至極の微笑みを見せる少女がいた。
彼女の目元で膨らみ,そして頬を伝っていく滴は,夕陽を反射して,赤く輝く宝石のようだった。

呆然と,その美しさに見とれたシンジだったが,やがてゆっくりと彼女に歩み寄ると,その華奢な身体に手を廻し,しっかりと抱き締めた。その存在を確かめるように。

『エヘッ,おかしいね。嬉しいのに・・・嬉しくてしょうがないのに,涙がとまんないよ。』
『アスカ・・・』

シンジは,そっと優しく彼女の頬に手を当てて,その滴をすくい取る。
もう,二人の間に言葉はいらなかった。
真っ赤に染まった地面に長く伸びた影は,ひとつになったまま,しばらくの間,離れることはなかった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



マンションのドアの前まで来た時,それまでシンジに寄り添っていたアスカが,シンジからスッと離れる。

『どうしたの,アスカ。』

すでに,寄り添うのが当たり前のことと思ってしまっていたのか,シンジが怪訝な顔をしながらアスカに声を掛けた。

『だ,だって,ミサトの前で・・・,まだ・・・』

彼女の返答は歯切れが悪かったが,シンジには分かった。いくら想いを打ち明け合ったと言っても,いきなり他人の前でそんなことするのは,やはり気恥ずかしい。それが自分たちの保護者の女性の前でとなれば,なおさらだ。
よく見れば,アスカの頬が真っ赤になってる。いつも自分たちの事を冷やかしていたミサトの行動を思い出して,彼も頬が赤くなった
今まで,冷やかされる度に何度も否定してきたのが,その通りになってしまったのだ。これは,当分,素直に話すことなど,出来そうにない。

『ほ,ほら,アスカ。ほっぺたが赤いよ。深呼吸して。』
『なによ,シンジだって!』

そう言い合って,一瞬,見つめ合った後,思わずプッと噴き出してしまう。

『じゃぁ,さりげなく。』
『うん。』

すぅ〜〜はぁ〜〜。
二人で,一緒に深呼吸して,目線で合図を交わす。

『『ただいま〜〜っ。』』

そう言って,二人は,保護者の待つ部屋のドアを開けた。



『おかえり〜〜〜。』

ダイニングに行くと,すでに缶ビールをくわえたミサトが椅子に座っていた。

『あぁ,もう,ミサトさんっ!まだ明るい内から,ビール飲んで!』
『まぁ,いいじゃないの,ねぇ。』

シンジが突っ込むのに対し,ミサトが妙にニヤニヤしているのに,アスカは気付いた。本能的に警戒心がわく。そして,次のミサトの言葉は,その反応が正しかった事を証明した。

『あらっ?!シンちゃんの口元,口紅ついてない?』
『『エッ!?』』

慌てて口元を押さえるシンジ。アスカも思わず,それを確認しようとして覗き込んだ後で,しまった,と思った。ミサトの方をキッと振り返る。
その時のミサトの表情を,アスカはしばらく忘れられないだろう。
勝ち誇ったような,チシャ猫の笑い・・・・。

『ミサトッ!!!』
『アハハハッッッッ,ちょっとカマかけてみたんだけど,こんな見事に引っ掛かると はねぇ。』
『ずるいわよっっっっ!!!』

真っ赤になって怒ってるアスカの横で,腹を抱えたまま笑い転げるミサトを見て,ようやくシンジは状況を悟った。

『ず,ずるいよっ,ミサトさんっ!!』
『ゴメンゴメン。』

シンジにも詰め寄られて,ミサトは両手を顔の前で合わせてウインクする。

『もうっ,シンジもっ!何であんな下らない手に引っ掛かるのよっ!』
『そんなこと言ったって!!アスカだって,最初は反応してたじゃないか。』
『まぁまぁまぁ,アスカも,そのぐらいにしといてあげなさいよ。』

シンジにも詰め寄ろうとするアスカを,ミサトが慌てて止めようとする。

『『元はと言えば,アンタ(ミサトさん)が悪いのよっ(んでしょ)!!!』』

しかし,逆にユニゾンで怒られてしまった。
形勢不利と見たミサトは,話を変えることで,戦局の打開を試みる。

『だってねぇ,風が気持ち良かったから,ちょ〜っとベランダでビールを飲んでたら,何だか寄り添う影が目に入っちゃってねぇ。』

その言葉を聞いた二人の身体がぴくっと反応する。ドアの前に来るまでに,すでにさっきのシーンを見られていたのだ。
アスカの顔が,一段と真っ赤に染まった。さっきまでは,怒り半分,恥ずかしさ半分といったところだったが,今では後者がほとんどになってしまったようだ。

『もう,知らないっ!!』
『あっ,アスカ,待って!』

踵を返して,部屋に戻ろうとしたアスカを,シンジよりも早く,ミサトが捕まえる。そのまま彼女の手を引いて引き寄せると,シンジのことも抱き寄せた。ミサトは,左右にシンジとアスカを抱き締め,二人の頭の間に顔をうずめた格好になる。

『ちょ,ちょっとミサトッ?!』
『ミサトさんっ?!』

戸惑う少年と少女をしっかりと抱き締めると,ミサトはゆっくりと口を開いた。

『ゴメンね。でも,嬉しかったの。やっと,シンジ君とアスカが,お互いに心を通じ 合わせることが出来たのが。』

そういう彼女の瞳に,微かに光るものが混じっているのを二人は見た。

『ミサトさん・・・』
『ミサト・・・』

三人は,そのまましばらく抱き合っていた。二人は,自分のことを心から気にしてくれている家族に感謝を込めて。一人は,愛する家族のこれからの幸せを,心から願って。



『さて,じゃぁ,今日はごちそうにしようか?』

瞬時に,元の明るさを取り戻して,年長者が声を掛ける。

『そうね,そうしましょ。』
『いいですね。』

若い二人も,素直に同意する。そして女性陣は,見事なユニゾンで言い放った。

『『じゃぁシンジ(君),よろしくねっ。』』
『うん,って・・・,結局,そうなるの・・・』

ミサトが提案した時に頭の隅に浮かんだ予想が,現実のものとなって,シンジはちょっとガクッとした。女性が二人もいるんだから,いい加減,料理の一つも覚えて欲しいよなぁ,と,決して口に出来ない思いを胸に,渋々とキッチンに向かう。
そんな彼の背中に声が掛かる。

『シンジッ,アタシも手伝うからぁ,とびっきりのごちそう作ろうね。(はぁと)』

その一言で,一瞬にして彼は炎の料理人と化した・・・。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



翌朝。

『ホラッ,アスカッ!!さっさとしないと,置いてくよ。』
『ちょっと待ちなさいよっ!!すぐすむからっ!!!』
『もう,学校行くだけなのに,なにを時間掛かってるんだ?』

時計を気にしながら待つシンジのところに,ようやくアスカがやって来る。

『何してたの。』
『女の子には,いろいろと準備があるのよっ!』
『別に,なにしたって変わんないよ。』
『ぬわぁんですってぇっっっ!!!』
『うわっ,まっ,待った!ちょ,ちょっとアスカっ・・・』

カバンを振りかざしたアスカに,慌てて謝り始めるシンジ。
そんな昨日までと全然変わらない光景を,ミサトは苦笑いしながら見つめている。

『もう,二人とも,何も変わってないじゃない・・・』

と思った瞬間,アスカがスッとカバンを降ろし,するっとシンジの腕を取った。

『なーーーんちゃってね。ほらっ,こんなことしてる場合じゃないわ。シンジ,行くわよっ!』
『う,うん。』

ニッコリ微笑むアスカの顔にちょっとどぎまぎしながら,シンジも素直に腕を引かれて出ていく。

(あらあら・・・,そう来たか。)

そんなところに出てきた二人の変化を観察しながら,ミサトは子供達を見送る。

『『じゃぁ,いってきま〜〜〜っす!!』』
『いってらっさ〜〜い。』

出掛けていく二人の背中に声を掛けながら,ミサトはひとりでそっと微笑んだ。




マンションを出たところで,アスカは手を離して,二,三歩先に出る。

『ほ,ほらっ,誰かに見られたら大変だから・・・』

頬がわずかに赤くなっている。少なくとも,同じ学校の奴等には,未だ感づかれないようにしようと,昨晩,話した。

『でも,不思議。アタシ達って,あんまり前と変わってないよね。それまでは,シンジに気持ちを打ち明けることで,二人の関係が急激に変わっちゃうんじゃないかって,怖かったけど・・・。今思うと,余計な心配だったみたい。』
『そういう場合もあるんだろうけど・・・。でも,これで良かったと思う。そんな急に変わる必要はないと思うよ。』
『そうよね。ゆっくりでいいわ。どうせ,ずっと一緒にいるつもりだし・・・。』
『えっ?』

アスカの最後の一言に,シンジは彼女の表情を伺おうとしたが,向こう側を向いていたため,見れなかった。
その彼女が,クルッとこちらに振り向く。

『ということで,これからもよろしくねっ,シンジッ!』

太陽のような笑顔。シンジは,人生の中で最高の宝物を手に入れたことを感じていた。そして,その笑顔を眩しそうに見つめながら,シンジもとびっきりの笑顔でそれに答えた。

『うん,これからもよろしくね,アスカ。』






終わり






【おまけ】

『おはよーーーっ!』

教室のドアを開けながら,クラスメートに元気な声を掛けたアスカだったが,いつもならすぐに返ってくる友人達からの反応がない。
親友の洞木ヒカリを中心に,みんなして,呆然とアスカの顔を見つめている。

『んんーーーっ?どうしたの?みんな。アタシの顔に,なんかついてる?』

一瞬,みんなで視線を交わし合った後,ようやくヒカリがアスカに声を掛けてきた。彼女の表情が,妙にニコニコしている。

『ねぇ,アスカ。アスカって碇君と付き合ってるのよね?』
『ええっ!?あ,朝っぱらから,何言ってんのよっ!アタシとシンジはそんなんじゃないって,いつも言って・・・・』
『じゃぁ,あれは?』

アスカの言葉を途中で遮ったヒカリが,黒板の方を指さしている。
振り返ったアスカが見たのものは・・・・・

夕陽をバックに,しっかりと唇を密着させている二人のシルエット写真が,黒板に貼り付けられていた。御丁寧に,その周りには,『超スクープ!!』『噂の二人の現場写真を遂に激写!!』などという大きな文字が踊っている。

『なっ,なによぉこれぇ〜〜っ!!!』

アスカの素っ頓狂な声に,廊下でトウジ達と話していたシンジも,慌てて教室に入ってきた。

『アスカ,どうしたの? って・・・,こ,これはっ!?』

シンジが慌てて教室内を見回すと,後ろのドアの所で,眼鏡を掛けたクセっ毛の少年が,ピースサインを出しているのが眼に映った。すでに逃走態勢に入っている。

『ケ,ケンスケッ!!』
『おおっ!!な,なんやこの写真はっ!?シンジ,こりゃ一体,誰や?』

ニヤニヤした顔で,あまりに白々しいセリフを喋るトウジに,げんなりとしながら,シンジは頭を抱えた。隣では,真っ赤になったアスカが,ヒカリ以下数名の女子生徒に詰め寄られている。

『ねぇねぇ,アスカと碇君って,やっぱり付き合ってるんでしょ。』
『いつも,違うって言ってるけど,もう言い逃れできないわよ。』
『ほらっ,アスカ。正直に白状しちゃいな。』

一瞬,助けを求めるように,シンジの方に視線をやった彼女だったが,シンジも同じ様な状況に陥っているのを見て,諦めた。真っ赤な顔のまま,足元に視線を落とす。

『『『『ア・ス・カ・ッ。』』』』

一斉攻撃の後,その反応を待つかのように,教室中がしーーんと静まり返る。シンジもこっちを見ているのが分かった。そんな中,彼女はコクッと首を頷かせると,聞こえるか聞こえないかの大きさで言った。

『うん・・・』

その瞬間,

おおおおおおっっっっっっ!!!
ヒューーヒューーーッ!!!
やったねっ,アスカっ!!!!
おおっ,シンジ,ついにか!!
おめでとうっ!!!!

クラス中からの祝福の歓声が沸き上がった。そんな仲間達の言葉に,シンジとアスカは真っ赤になりながらも,確かな幸せを噛みしめていた。

こうして二人は,ついに自他ともに認める全校中の公認の仲になったのであった。







《あとがき》
 またまた,長いこと御無沙汰してました。最近はもう,ほとんど活動停止状態で,
この作品も,書き始めてから二ヶ月以上かかってしまいました。おまけに不必要にだ
らだらと長いし・・・・。
 などと,他愛のないことを言いながら,この辺でフェードアウト・・・。
 それでは,また,機会がありましたら。




当ページ20万ヒット&同人誌発行記念に贈っていただいた、ぜんさんの「素直になって」でしたっ!!
久々のぜんさんの純粋LAS作品ですね。うう、相変わらず上手いなぁ。最高!(><)

普通の高校生として暮らすシンジとアスカ。
お互い好き合ってるんだけど、相変わらずなやり取りを続けている2人。
でもちょっとした切っ掛けを経て、素直になれば心は通じ合う……くぅぅ、いいっすねぇ〜(^o^

途中のシンジが交通事故に巻き込まれた事を知ったアスカが病院で心配するくだりは本気でドキドキしてしまいました。事故現場に残された壊れた携帯電話の裏に貼ってあるプリクラシールがミソですね(^^;
いやー今回は全編を通じてアスカの心の動きが非常に可愛かったです。
『そうよね。ゆっくりでいいわ。どうせ,ずっと一緒にいるつもりだし・・・。』……うぉぉ、萌え萌え(爆) これからもずっとずっと続いていく2人の日々に幸あれ!!

作者であるぜんさんに是非ご感想を!
感想はどんな事でも励みとなります、掲示板でもOKです。ぜひぜひお願いします!!


ぜんさんがウチに初投稿してくだったのは3万ヒットの時でしたよね。
それが今では20万ですよ、信じられないですね。でもこれもぜんさん達の素晴らしい投稿作品があったからこそなんです、今後も末永くヨロシクお願いします!
シンジ、アスカ、レイの親子3人の幸せ全開な「明るい未来」の新作も待ってますよ!(^o^
あ、同人誌に掲載されているぜんさんの作品も、もちろん最高っすよ。必見です!



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