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デレデレ時空不連続面における妹の存在
妹。
由乃さんは中等部のあの子を妹にすると言ってるし。ここは自分が一年の中から見つけないとなぁ。
ふーむ。
祐巳は誰もいない放課後の教室で頬杖をついているのだった。
困ったときはどうするか。
誰か頼りになる人は。
いましたね、一人。ただの友達。でもお世話になっている回数はちょっとこっちが多いかな。最近はそうでもないかな。まぁ、それはつまるところ武嶋蔦子さんな訳ですよ。
そういえば、蔦子さんはもうロザリオを渡して正式なスールになったと言ってたっけ。ちょっと聞いてみようかなぁ。その辺のとこ。祐巳は、かばんを持ち立ち上がるとクラブハウスに向かった。そこには写真部の部室がある。
ノックをすると、蔦子さんの声で「どうぞ」と返事があった。祐巳は体をひねりながら中に入る。相変わらず狭い部屋だ。
「ごきげんよう」蔦子さんが話し掛けてきた。
「そろそろ来るんじゃないかって思ってたとこよ。」
テーブルには乱雑に物が置かれ、平らなスペースはわずかしかない。祐巳はやっと座ると、奥から
「ごきげんよう、祐巳さま」と笙子ちゃんの声がする。
蔦子さんは頬杖をつきながら、
「妹のことでしょ。ズバリ!」
と言い、祐巳の目は丸くなる。
「どうして?」
「時期的にそんなことだろうと思ったのよ。」
「蔦子さんは、「生涯独身」と言っていたじゃない。それが、どうして?」
「簡単に言うと、出会っちゃったものはしょうがないというか、ね。」
「えっ?」
「笙子ちゃんはちょっと変わっててね、撮ってて楽しかった。でも私は撮影者として第三者の立場を取りつづけたかった。だからこの子には近づくのは危ないと思ってた。」
蔦子さんは両腕を頭の後ろに回して、
「でも、そうじゃなかった。私はいつのまにか、笙子ちゃんを通して見える世界も撮るようになってたんだな。」
蔦子さんは、大きく息を吐くと、手を前に持ってきて前かがみになる。
「それどういうこと?」
祐巳が尋ねると、
「まあつまり、頭では危ないと思ってたけど、体のほう、つまり撮影行為のほうが既に笙子ちゃんを必要にしてたってとこかな。」
祐巳はまだ考え込んでいるようなので、蔦子さんはさらに前かがみになり、額を祐巳に軽く押してあててくる。でも目はこちらを見ず、暗室の扉のほうにやっている。
「もっと簡単に言うと、結果的に、ひとめぼれ、ってやつかな。」
「うっひよー」
と奇声を発すると、蔦子さんは上体をおこし、両手で顔を隠す。顔を赤くしているようだ。笙子ちゃんを見ると、蔦子さんと同様に顔を赤くしてうつむいている。一瞬だけこちらを見た。なんだこのデレデレ姉妹は。それにいきなりのろけてくるし。こんな蔦子さん初めて見た。さすがに今回は当てにならないような気がしてならない祐巳だった。
「さて、」
蔦子さんはいつのまにか通常モードに戻っていた。でも、顔はちょっと赤い。
「妹を作るために祐巳さんのすべきことは、人を見ることよ。」
「人を見る?」
「そう。何でもいいの。あ、あの子かわいいなとか、タイが曲がってるなとか、いつもバスのここに乗ってるなとか、髪型がいいな、とか。これは主に外見だけど、きっかけはなんでもいいのよ。祐巳さんの場合、きっかけがないって言ってたでしょ。」
蔦子さんは続ける。
「思い切って朝一年生の曲がったタイを直してあげるのもいいかもね。」
「それは・・・祥子さまの・・・」
「もう2年生なんだから、自分からアクション起こしていいはずよ。いままで祐巳さんは祥子さまに振り回されすぎだったよね。今度は祐巳さんの番。それとも、もう身近に気になる人でもいるの?」
一人、知っている顔が浮かんだけれど、そのことは話さずにおいた。それはきっと蔦子さんもわかっているだろうから。で蔦子さんといえば笙子ちゃんに両腕をまわし、
「この子はダメよ。売約済み。」
笙子ちゃんはいつのまにか蔦子さんの隣に座っていて腕にしがみつき、体重を預けてくる。そしてちょっと蔦子さんと目を合わせると、うつむいてしまう。デレデレだ。デレデレ時空がやってくる。祐巳はなかばあきれながら蔦子さんに尋ねる。祐巳は手を腰に当てて背筋をのばし、
「そろそろまとめて欲しいんだけど」
「ロザリオも別に要らないと思ってて、私はマスター、笙子ちゃんはパダワン。姉妹じゃなくて師弟関係。でも笙子ちゃんが欲しがってね。」
「あのー」
「ごめんごめん。要は、「人を見ろ」、「近くに気になる人がいるなら、突っついてみろ」。この2つに尽きると思うよ。」
「そうかー」
「待ってるだけじゃなくて、アクションは起こしたほうがいいと思うよ。本気で妹作ろうとするなら。」
何時の間にか蔦子さんは、いつもの頼れる蔦子さんに完全に戻っていた。
今日は3人で帰ることになった。手をつないで歩く蔦子さんと笙子ちゃん。その後に祐巳が続く。
祐巳は秋の空を見上げ、まだ見ぬ妹に思いを馳せるのだった。
(おしまい)
あとがき
私は蔦笙なので、「妹オーディション」の展開は悶読しました。それこそ「うひょー」ってな感じで。
このお話は蔦笙がキてますが祐巳の妹にも少し触れてみました。今まで祐巳って振り回されてましたよね。でも祐巳は2年生になったわけですから、今度は自分で動いて決めていいわけですよね。それでこのような内容になりました。
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