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Maria Sama Ga Miteru
マリア様がみてる
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ストロボ


自分のカメラなのにセルフタイマーの使い方が分からず、蔦子さまが笑いながらやって来てくれて、代わりに設定をしてくれた。
二人で手を繋ぎ、みんなの待つ場所まで戻った。

写真に写るのが怖かった、はずなのに、私はそのとき、何も怖くは無かった。
写真に写る為に列に戻る。写真に写る為に急ぎ足で戻る。
あの時、私は、何も怖くは無かったのだ。

「笙子ちゃん、あと何秒なの?」
と、黄薔薇のつぼみ・島津由乃さまが尋ねて、私は「わかりません」と答えた。
何故なら、セルフタイマーを使ったのは初めてだったのだ。
設定をしてくれたのは蔦子さまだったので、笙子が行ったのはファインダーの構図を確かめたことだけ。
三脚は、窓の外からの光の差し具合を見て割り出したベストポジションに置かれていた。もちろん、置いたのは蔦子さまだ。

 由乃の問いへの笙子の答え、自分のカメラなにの“わかりません”、が列に並んだ山百合会メンバー・新聞部姉妹・1年生助っ人軍団・そして私たち、に笑いをもたらし、そして、私のカメラは光を放った。

 ストロボ。



 放たれた光を見て、笙子は思った。あ、今、私は写真に収められているんだ、と。

 そして何故だろう、とても、嬉しいと思った。
 この列に、いること。
 彼女たちと一緒にいる、ということ。





「笙子ちゃん、バレンタインの写真できた?」
 翌々日、クラブハウスに出向くと、蔦子さまが開口一番にそう聞いてきた。
「・・・・・出来ました」
 笙子は答えた。
「なぁに、何でそんなに暗いの?」
 蔦子さまは何故かにやにやしながら聞いてくる。
「はい、コレ」
 笙子はバレンタインの写真の束を蔦子に差し出す。一番の上の一枚だけ、ちょっとした抵抗とばかりに裏向けにしている。
 写真を受け取った蔦子は、相変わらずにやにやと笑いながら、その一番上の一枚を手に持つ。
「あははははは」
 そして弾かれたように笑った。

 その一枚は、記念の一枚だ。
 大好きなみんなと一緒に写る、大好きな記念すべき青春の一枚。
 ・・・・・・に、なるはずのものだった。
 私が撮った、私と私の好きなみんなとの、記念すべき一枚。

「笙子ちゃん、おっかしー」
「もうっ そんなに笑わないでくださいよっ」


 写真の中の笙子は、固く目を閉じていた。
 それはもう、眉間にシワを寄せるほどに。
 笙子自身、その写真を見たとき、がっかりした。


「写真慣れしてないって怖いね〜」
 蔦子さんがポンポンと慰めのつもりか肩を叩く。
 が、笑っている。
「ちゃんと目を開けてるつもりだったのに」
「しっかり目を閉じてるわね」

 どうやらあのストロボの光を受けて、目を閉じたものらしい。
 カメラがシャッターを切る瞬間を、無意識に感じ取っていたのかもしれない。
 写真恐怖症はとてもとても根深いのかもしれない。

「でも良い写真じゃないの?」
「そうかなぁ・・・」
「笙子ちゃんは目を閉じてるけど、他のみんなも、それぞれ面白い表情してるわよ」
 そう云われて改めて写真に目を向ける。
 現像したときは、もう自分が目を閉じている一点に気持ちが集中してしまっていて周りまで見えていなかった。
「祐巳さんは、なんか驚いた顔してるし、由乃さんは菜々ちゃんの方見てるし、黄薔薇さまは由乃さん見てるし、って面白くない?」
 シャッターが切られるまでの秒数が分からず、緊張が緩んだ表情をみんなが浮かべていた。
「志摩子さんと乃梨子ちゃん、なんだか同じ笑顔ね」
 云われて見てみると、確かにそっくりな笑顔だった。
 くすくす、と二人寄り沿うような笑い方だった。


「写真部エースの座、笙子ちゃんに取られちゃいそう」
 蔦子はため息をついて、そう云った。
「そんな、とんでもありませんよ」
 すかさず笙子はそう答え。
「当たり前よ。そんな簡単にあげるもんですか」
 するとそう返される。

「写真、楽しい?」

 それは、今更と云うような、質問だった。
「楽しいです」
 笙子は答えた。

「写真、好き?」

 もう一つ、蔦子が聞く。
「好きです」
 笙子はこちらも、即答した。



 写真、お嫌い?


 それは笙子に、蔦子が最初にかけた言葉だった。
 はっきりと答えはしなかったけれど、「嫌い」というニュアンスの答えを笙子は返した。


 写真、好き?



 撮るのが、とか、撮られるのが、とか関係なくて。
 ・・・・・・写真は、好き。


 だって楽しいから!
 みんなの表情が素敵で、可笑しくて、見ているだけでいろいろ想像が出来る。
 思い出せる。



 この瞬間が、すごく好き。
 あの瞬間が、すごく好き。
 ここでみんなに逢えたこと、みんなをずっとずっと好きなままで残しておける。
 思い出は色褪せない。
 ただ、思い出さないかもしれない。
 だから、思い出せるように大切な瞬間瞬間にシャッターを切りたい。

 時々、自分が写るのも良いかもしれない。
 あなたが撮ってくれるなら、もっと素敵。


 大好き。
 瞬間瞬間が、大好き。
 今この瞬間が、大好き。
 きっと何度も、思い出す。この写真を見るたびに。

 ありがとう。大好きな瞬間を、ありがとう。



 眩しいストロボの光の中で、私は確かに、幸せを感じていた。






 「写真、お嫌い?」


 いいえ、蔦子さま。
 私は写真が、とてとても、大好きです。







このお話は、最後の笙子祭に「聖なる愛の日」を寄稿したお礼として、笙子同盟さまの管理人のヒナキさまからいただいたものです。「聖なる愛の日」の後日談になっています。

その後、

「みんなで写真に写る、っていうラストシーンだったのに、笙子ちゃん目をつぶっちゃったのかぁ」
「だって笙子ちゃんがかわいく写ったら問題解決しちゃうでしょう?」
「いや全くそのとおりです」

というやりとりがありました。いや全くそのとおりでなのでございますよ。「写真、お嫌い?」といい、笙子ちゃんに関してはヒナキさまはやはりちゃんとつかんでいるわけです。さすがです。

ヒナキさま、同盟運営お疲れ様でした。そして楽しいお話ありがとうございました。またお会いしましょう。
ごきげんよう!



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