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Maria Sama Ga Miteru
マリア様がみてる
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「明日になったら」


「ちわーっ。写真部ですが、ご用はありませんかー?」
蔦子は勢い良くビスケット扉を開け、薔薇の館の二階の会議室に入る。後ろから笙子ちゃんもついて入ってくる。
部屋の中にいるのは制服を着た志摩子さんと見たことのない一年生と思しき生徒が二人。志摩子さんは手にしたクロームのケーキナイフを置いて、蔦子のところまで駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「あれ、志摩子さんだったんだ。てっきり祐巳さんか由乃さんかと」
志摩子さんがここにいるとすると、二年連続で同じ場所のバレンタイン・カードゲームの賞品デートをしていることになる。さすがに二年連続とは思わなかったので驚いたが、志摩子さんも突然蔦子たちが現れたので驚いているようだ。二人の一年生も少し驚いた様子でこちらを見ている。
しかし。
これはカード探しの賞品のデートの筈だから、相手が二人いるのは変だ。蔦子は顔を志摩子さんに近づけ、小声で聞いてみる。
「何かあった?」
「いいえ、別に」
志摩子さんの微笑みはいつもと変わらないけれど、
「大丈夫?」
と蔦子が尋ねると、志摩子さんは一度目を伏せ、また視線を蔦子に戻す。
「少しだけ、ね」
「そう」
どうも訳ありらしいが、志摩子さんが問題視していないようなので蔦子はそれ以上聞かないことにする。
「蔦子さま、何か?」
笙子ちゃんの方を見ると、心配そうな表情を浮かべているが、
「ううん。なんでもない」
と言って蔦子は微笑んでみせる。
「亜実さん、千保さん」
志摩子さんはテーブルに座っている二人の一年生に呼びかけ、
「こちら、写真部の武嶋蔦子さんと内藤笙子さん」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
蔦子は笙子ちゃんと一緒に軽く頭を下げる。
「こちらは、井川亜実さんと江守千保さん。デートの権利は亜実さんが持っていたんだけれど、さっきたまたま忘れ物を取りに来た千保さんと会ったので、一緒にお茶会をすることになったの。亜実さんと千保さんはとても仲良しなんですって」
亜実さんと千保さんは立ち上がり、
「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
と挨拶をする。少し緊張しているように見えなくもない。「白薔薇さまとのお茶会」なのだから、仕方がないことなのかもしれない。
「ところで、蔦子さん」
志摩子さんはこちらを向いて微笑み、
「一緒にケーキをいかが?」



「いや、中庭から窓が開いているのが見えてね。寄ってみたら人の気配がするじゃない。デートだったらお邪魔かとは思ったんだけど、記念写真の一枚も撮って差し上げられるし」
蔦子は切ったチーズケーキをフォークで刺して持ち上げ、
「もちろん新聞部には内密でね」
そう言って片目を閉じる。志摩子さんは微笑み、振り返って窓を閉めながら、
「どうしてお二人は今日学校に?」
「桂さんに頼まれて、テニス部の写真を撮りにきたのよ。なんでもちょっと凝ったアルバムを作って、卒業する先輩に贈るんだって」
志摩子さんがテーブルに戻ってくる。
「それで、他にも活動してるところがあったから、色々回って撮ってたの」
「ちわーっ、って言って」
笙子ちゃんが付け加えると、亜実さんと千保さんの頬が緩む。志摩子さんも笑っている。
「わたしたちも撮ってもらう?」
亜実さんと千保さんは、志摩子さんに尋ねられると大きくうなずく。
「実は、蔦子さまに撮ってもらうの、憧れだったんです」
伏目がちに亜実さんが言う。
「それは光栄な。こちらこそよろしく」
「蔦子さまはかわいい子専門ですからね」
「笙子ちゃん・・・」
亜実さんと千保さんは顔を見合わせて笑う。



椅子を窓際に並べて、志摩子さんを真ん中に亜実さんと千保さんに座ってもらう。
「せっかくなんだから、遠慮しないの。もっとくっついて。そう」
すっかり緊張がほどけたのか、二人の一年生は蔦子に言われたとおりに座りなおし、志摩子さんに体を寄せる。
「はい、じゃ撮りまーす。合言葉は?」
蔦子が問いかけると、千保さんが答える。
「チーズケーキの「チ」」
「チ」のところで、蔦子はシャッターを切る。小気味のよい音が部屋に響く。
「そういえば」
志摩子さんが千保さんに尋ねる。
「千保さん、宝探しのとき、この部屋に一度入ってきたでしょう?」
蔦子は構えたカメラを下ろし、話に聞き入る。
「確か・・・志摩子さまの「し」を見つけたと言って」
「すごい、白薔薇さま、あのゴチャゴチャした状況で、よくそんな人の顔まで覚えていられましたね」
千保さんは明るく笑う。
「あたり?」
柔らかに微笑みながら志摩子さんが尋ねると、千保さんは、
「違います」
と言って首を横に振る。
「正解は、志摩子さまの「ま」です」
「ねえ」
蔦子の声に椅子に座った三人が一斉にこちらを見る。
「「くるまのした」が正解なんだから、「し」も「ま」も「し-ま-こ」とは関係ないんじゃないの?」
「いっいえそう意味ではなくて」
「志摩子さまのカードのヒント、という意味なんです」
なんだか亜実さんと千保さんはあわてている。
「「志摩子さま」って名前で呼びたかったからじゃないんだ?」
「ちっ違いますよ」
「そうですよ」
戸惑っている様子がとても可愛らしい。
「お二人とも、白薔薇さまの大ファンなんですね」
笙子ちゃんがそう言うと、志摩子さんは両手を広げて亜実さんと千保さんの肩に置き、微笑む。
「蔦子さん、もう一枚撮っていただけないかしら」



(おしまい)




あとがき

ごきげんよう。
ここまでお読みいただきありがとうございました。

昔の映画で、こんなのがありました。原作は小説です。

ある小説の熱狂的な愛読者が、たまたま事故にあって動けなくなっていたその小説の作者を助けます。実は愛読者は、その小説の大ファンではありましたが、結末にどうしても納得がいかないことがあって、日々不満に思っていました。しばらくの間作者と一緒に過ごすことになった愛読者は、作者が脚を怪我して動けないことを利用して、その作者に無理やり続編を書かせようとします・・・。

さて(笑)、

このお話は、「マリア様がみてる あなたを探しに」の一部を蔦子さんの視点で再解釈したものです。再解釈と言うか、勝手に改変しているところもあります。ですので、本編を読了していない方にはなんだかよくわからない内容かもしれません。

別項でも書きましたが、私が「あなたを探しに」で不満に思っていることの原因がようやく整理できてきました。それは、今野先生が提示した白薔薇編の物語が私の望みと合わなかった、ということではなく、紅薔薇編も黄薔薇編も良かったのに、不自然に白薔薇編だけ完成度が低い、と感じられてしまうことにあるようです。少し前の原作のあとがきで、予定していた長期的な物語の内容を変更せざるを得なくなった、とありましたから、そのことと関係があるのかもしれません。

それでは、ご意見ご感想をお待ちしています。
ごきげんよう。



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