S t u d i o U T A H I M E / K A N S U I G Y O
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A mermaid under water


She came from somewhere in the pacific ocean to an island where has rocket launch station.



 今年もまた、海の季節がやってきた。
 今年も僕はあの海に行く。
 あの娘は会いに来てくれるだろうか。
 忘れてしまってはいないだろうか。
 母親に危険だからと止められてはいないだろうか。

 ・・・大丈夫、きっと会えるよ。
 一年前の約束通りに。



 地上の海、宇宙(そら)の海



 波の音と、風の音が聞こえる。あたりには誰もいない。見回すと港が遠くに見える。
 大きな船が二隻停泊しているが、そのうち一隻は自衛隊の護衛艦だ。そのまわりで
 小さな船が港へ出入りしている。もう少し近くには、背の高いビルと背の低いビル
 と、鉄を組んだ高い塔が見える。これは宇宙への港だ。ここから火を噴く巨大な槍
 のような船で宇宙に行くのだ。

 この島にある設備や機材は技術的には最先端のものだが、宇宙へ行く手段というこ
 とを考えると、僕にはどうも原始的に思えてならない。初期の自動車や飛行機が今
 から見ると非常に不安定で頼りないものに見えるのと同じ理屈だ。もちろん僕は未
 来の宇宙船を見たことがある訳ではないけれども、どうもそんな気がしてならない。

 見上げると、青い空が広がっている。どこまでも青い。去年、青く晴れ渡ったこの
 空をロケットが白い煙を吐きながら上昇して行った時、僕にはそれがまるで魔女の
 ほうきのように見えたのを思い出した。

 ロケット管制設備の仕事で今年もこの島に来たが、去年ここで偶然あの娘に会った。
 今思えばあれは偶然ではなかったのかもしれないが・・・。

 休みの日の夜、ホテルから少し離れた海辺を一人で散歩していると、海で何かが跳
 ねたのに気がついた。このあたりで小型のクジラやイルカを見かけるのは普通だと
 管制施設のスタッフが話していたが、しぶきや音の大きさから考えて多分それなの
 だろう。海に長い間いると、海で出会う哺乳類にはなぜか特に親しみを覚えるもの
 だ。僕は、波打ち際の方へ下りていった。

 その哺乳類が何なのか、僕には良く判らなかった。少し近づいてみると、どうもイ
 ルカやアザラシではなく、人間の女性のようだ。波打ち際に座っている。何故こん
 な時間にこんな場所にいるのだろう。まあ、僕も人のことは言えないけれども。も
 う少し近づくと、月明かりだけでも少しは良く見えるようになる。そのとき、その
 女性がこちらを振り向いた。裸だ、と同時にもうひとつ重要なことに気がついた。
 足が魚だ!

 そのとき僕は不思議なほど落ち着いていて、取り乱すこともなくゆっくりと人魚に
 近づいた。彼女もこちらを見続けてはいるが、逃げ出す気配はない。僕は彼女から
 2メートルぐらいまでのところで立ち止まった。
 「こんばんは」
 声を出してからずいぶんまぬけなことをしたと思ったが、彼女はまだ逃げずにそこ
 にいる。僕は日本語でいろいろ話しかけてみた。ゆっくりと、はっきりやさしく、
 追いつめる感じにならないように。
 「こにちわ」
 彼女が日本語で返事をした。僕は話しかけるのをやめ、彼女にもう少し近寄った。
 しかし彼女は逃げず、僕のことを見ている。

 彼女はカタコトではあるが英語を話した。人魚の話す英語はドイツ人の話す英語の
 ように非常に判りやすいものだったが、それでも時々何語だか判らなくなった。日
 本語と中国語についてはあいさつなど数語を知っているだけだという。この英語は、
 西太平洋で数々の冒険をした彼女の母親が彼女に教えたもので、危険な人間達につ
 いて理解を深めるためのものなのだそうだ。彼女の母親によれば、一人一人の人間
 はそれほど危険ではないが、集まると何をするか判らないということだ。彼女自身、
 母親には人間が集まったり、さらに何かを建設しているような場所には近づくなと
 言われているという。

 彼女はそれから、海の中の様々な出来事を話してくれた。珊瑚礁に躍る魚達、海に
 差し込む朝の光、深海に降る海の雪。

 海について話す彼女はとても可愛らしかった。美しかった。まさに海の妖精だと
 思った。しかし、僕は少し変なことに気づいた。この島は、彼女にとって危険な、
 近づくべきでない場所ではないのか? 人間は集まっているし、何だか妙な建築物
 もある。それなのにどうして、彼女はここにいるんだ?

 僕がそのことを尋ねると、
 「海の上に、空があるのは知っているの。空のことはいろいろ知っているけれど、
 でも、空の上には何があるのかしら? お日さまやお月さまやお星さまのいるこの
 空の上には? わたし、それが知りたくてしかたがなかったの。」
 彼女は星空を見上げて、
 「この島から、何かが空をのぼっていくのを見たのよ。あれは何? どこへ行くの?
 あれは人間の作ったものでしょう?」
 彼女はこの疑問の答を手に入れようとしてこの島に近づいたのだ。

 「あれはロケットといって、宇宙へ行く船なんだ。」
 「うちゅう?」
 「まあ、空のずっと高いところのことかな。全ての海がつながっているように、空
 も全てつながっているんだ。そして、空は宇宙につながっているんだよ。」
 「空の上には宇宙があるの?」
 「まあそんな感じかな・・・」
 僕も星空に目をやりながら、
 「宇宙っていうのは海なんだ。その海に、この地上や、月や、太陽や、星が島のよ
 うに浮かんでいて、宇宙のうち地上に近いところを空というんだ。」
 こんな説明で彼女は判ってくれるのだろうか?
 「空・・・宇宙・・・海・・・・・。」
 彼女はいつのまにか地上の海を見つめている。

 少し間を置いてから、彼女は僕の方に向き直り、
 「あのロケットはどこに行ったの?」
 と尋ねる。
 「僕たちのロケットはちょうど空と宇宙の境目あたりまで行って、地上の周りをぐ
 るぐるまわってる。地上の様子を調べるための船なんだ。無人だけど。」
 僕は月を指さして、
 「ロケットには人が乗れるほど大きいやつもある。それに乗って、何人もあの月ま
 で行ったんだ。」
 「お月さまに、行ったの!?」
 「そうだよ。」
 「信じられない!」
 これは確かに事実だが、夜空に浮かぶ月を見ていると僕も信じられない気持ちに
 なってくる。あそこまで38万kmもあるのだ。人間の想像力の範囲を越えてい
 る。夜明けの月など、トレーシングペーパーを丸く切って空に貼りつけたように
 しか見えない。とても直径が3000kmもある丸い岩の塊だとは思えない。

 僕は再び夜空を見上げる。
 「いまちょうど星を見ているけど、これは空を通して宇宙が見えているんだよ。」
 「これが宇宙なの?」
 「そう。でも、ここで見えているのはほんの一部で、宇宙はもっとずっとずっと大
 きいんだ。」
 「宇宙の向こうには何があるの?」
 この質問にはちょっと困ってしまった。現時点ではこの質問に対する答えはない。
 「うーん・・・・残念ながらそれはわからない。別の宇宙があるかもしれないし、
 向こう側そのものが存在しないかもしれない。」
 「海の向こう側も海だし、向こう側の海はこちらの海とつながっているのと同じな
 のかしら・・・。」
 「そういうことなのかもしれないなぁ。とにかく宇宙は広すぎて良く判っていない
 ことが多いんだ。」
 「そうなの・・・・」
 「残念だけど僕たちの存在と比べて、宇宙が広すぎるんだ。でも、僕も子供のころ
 は星空を見て、いつか宇宙へ行きたいと思ったものだよ。もちろん今でも行きたい
 けどね。」
 彼女が突然僕の方を見た。彼女も星空を見て、そこに行きたいと思っていたのだろ
 うか?
 「あなたはロケットに乗れるの?」
 「今すぐには無理だよ。しばらくの間はね。まだまだお金もかかるし、普通の人が
 気軽に行けるほど簡単なことじゃない。でも、僕の生きている間にはなんとかなる
 かもしれないなぁ。」
 「それなら、わたしも行けるかもしれないのね。」
 彼女はそう言うと再び空を見上げた。そして無言で星空を見つめている。

 彼女は時々、海から空を見上げていたのだろうか?
 流れる雲や輝く星空を見て、はるかかなたへ想いをはせていたのだろうか?
 きっとそうだ。そうに違いない。
 同じ地上に住むものとして、「そら」を想う気持ちは同じなのだ。
 そのことが、僕にはとてもうれしかった。

 しばらくの間、二人とも無言で星空を見あげていた。やがて彼女は静かに言った。
 「ここにも海があるけれど、空の上にも海があるのね。」
 僕は彼女の方を見た。
 彼女は何だかとてもうれしそうだった。

 僕は彼女と一年後に再びここで会う約束をして別れた。彼女はもうすぐこのあたり
 の海からは移動してしまうのだそうだ。僕もここにはなかなか来られる訳ではない。
 それで一年後という訳である。今度会うときは、彼女はもっとの海ことを教えてく
 れると言った。僕は色々な星の写真を見せると約束した。

 彼女の帰っていった地上の海を、僕はずっと眺めていた。気がつくともう夜は白み
 始めていて、月は丸く切ったトレーシングペーパーのようになって空に貼りついて
 いた。

 そして今日、約束の日。まだ昼間だが、この場所に来てしまった。彼女とは夜に会
 うことになっているので、今来ても仕方がないのだが。

 波間で何かが跳ねた。そしてもう一度跳ねた。僕は見た。間違いない、人魚の「足」
 だ。彼女が約束通り来てくれたのだ。今はまだ明るいので公然と会う訳にはいかな
 いが、夜になれば必ず会えるだろう。僕は海に向かって大きく手を振った。すると
 彼女は、今度は大きく跳ねて全身を空中に躍らせた。彼女のまわりに舞ったしぶき
 が太陽の光を受けてきらめき、まるで星空を泳ぐ人魚のようだった。



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