相対論効果
特殊相対論効果
静止しているクロックの周波数を
f0 とすると,速度
v で運動しているクロックの周波数
f は次式で与えられる.
f = f0{1 - (v/c)2}1/2 (1)
ここで,
c = 299792458[m/s]
は真空中の光速である.
v <<
c ならば,式(1)は以下の様に近似できる.
f ≈ f0{1 - (v/c)2/2} (1')
従って,特殊相対論効果による周波数シフト
Δfsrは次式で与えられる.
Δfsr/f0 = (f - f0)/f0 = -(v/c)2/2 (2)
一般相対論効果
ジオイドにおけるクロックの周波数を
f0 とすると,重力ポテンシャル
U の位置におけるクロックの周波数
f は次式で与えられる.
f = f0{(1 + 2(U - W0)/c2})1/2 (3)
ここで,
W0 = -6.2637×107[m2/s2]
はジオイドにおける重力ポテンシャルである.
|
U -
W0| <<
c2 ならば,式(3)は以下の様に近似できる.
f ≈ f0{1 + (U - W0)/c2} (3')
従って,一般相対論効果による周波数シフト
Δfgrは次式で与えられる.
Δfgr/f0 = (f - f0)/f0 = (U - W0)/c2 (4)
GPSにおける相対論効果は,上記の式(2)および式(4)を用いて計算する事ができる.
GPS衛星の軌道
GPS衛星の軌道は楕円軌道とみなされ,その動径
R は次式で与えられる.
R = A(1 - e cos E) (5)
ここで,
A:軌道長半径
e:離心率
E:離心近点角
である.
ある時刻
t における
E は以下のケプラー方程式から求められる.
M = M0 + n0(t - toe) = E - e sin E (6)
ここで,
M:時刻 t における平均近点角
M0:時刻 t = toe における平均近点角
n0:平均運動
toe:軌道情報の参照時刻
である.
円軌道近似
相対論効果を計算する第一段階として,GPS衛星の軌道を円軌道(
e = 0)で近似する.
この近似では,動径
R は一定値(半径
A)となる.
GPS衛星は0.5日で地球を周回する.
ただし、この場合の1日は太陽日(86400[s])ではなく恒星日
D である.
D = 86400×365.2422/366.2422 = 86164.09[s]
従って,GPS衛星の周回周期
T と平均運動(角速度)
n0 は,それぞれ以下の値となる.
T = D/2 = 43082.045[s]
n0 = 2π/T = 1.4584×10-4[rad/s]
GPS衛星の質量を
Msv とすると,遠心力
Fc と引力
Fg はそれぞれ次式で与えられる.
Fc = MsvAn02 (7)
Fg = μMsv/A2 (8)
ここで,
μ = GMe = 3.986005×1014[m3/s2]
は地心重力定数である(
G は万有引力定数、
Me は地球の質量).
衛星軌道では遠心力と引力が釣り合う(
Fc =
Fg)ので,
A は以下の様に求められる.
A3 = μ/n02 (9)
A = (μ/n02)1/3 = 2.65617×107[m]
特殊相対論効果
円軌道(半径
A)における速度
v0 は
v0 = An0 = 3.8738×103[m/s]
となるので,式(2)より周波数シフト
Δfsr/
f は以下の様に求められる.
Δfsr/f = -(v0/c)2/2 = -8.3485×10-11
これを1日当りの時間差に換算すると,
Δfsr/f×86400 = -7.21[µs]
となる.
一般相対論効果
円軌道(半径
A)における重力ポテンシャル
U0 は
U0 = -μ/A = -1.5007×107[m2/s2]
となる。
円軌道とジオイドの重力ポテンシャル差は
U0 - W0 = 4.7630×107[m2/s2]
となるので,式(4)より周波数シフト
Δfgr/
f は以下の様に求められる.
Δfgr/f = (U0 - W0)/c2 = 5.2996×10-10
これを1日当りの時間差に換算すると,
Δfgr/f×86400 = +45.79[µs]
となる.
特殊相対論効果+一般相対論効果
以上の特殊相対論効果と一般相対論効果を合わせたトータルの周波数シフト
Δfr/
f は以下の様に求められる.
Δfr/f = Δfsr/f + Δfgr/f = 4.4647×10-10
これを1日当りの時間差に換算すると,
Δfr/f×86400 = +38.58[µs]
となる.
GPS衛星におけるクロック補正
GPS Interface Specification IS-GPS-200, Revision N の
3.3.1.1 Frequency Plan によると,GPS衛星に搭載されるクロック(原子時計)は予め -4.4647×10
-10 だけオフセットさせて,上記の相対論効果による周波数シフトを補正している.
The carrier frequencies for the L1 and L2 signals shall be coherently derived from a common frequency source within the SV.
The nominal frequency of this source -- as it appears to an observer on the ground -- is 10.23 MHz.
The SV carrier frequency and clock rates -- as they would appear to an observer located in the SV -- are offset to compensate for relativistic effects.
The clock rates are offset by Δf/f = -4.4647E-10, equivalent to a change in the P-code chipping rate of 10.23 MHz offset by a Δf = -4.5674E-3 Hz.
This is equal to 10.2299999954326 MHz.
楕円軌道
実際のGPS衛星の軌道は楕円軌道(
e ≠ 0)とみなされるので,動径
R は周期的に変化しており,それに応じて相対論効果も変化している.
従って,GPS受信機ではその円軌道(半径
A)からの差分を計算して補正する必要が有る.
特殊相対論効果
GPS衛星の運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和は一定である(エネルギー保存則).
従って,速度を
v,重力ポテンシャルを
Uとすると,次式が成立する.
Msvv2/2 + MsvU = Msvv02/2 + MsvU0 (10)
式(10)は以下の様に書き替えられる.
v2/2 - v02/2 = -(U - U0) (10')
式(2)より,楕円軌道および円軌道における周波数シフトはそれぞれ次式で与えられる.
Δf'sr/f0 = -(v/c)2/2:楕円軌道(動径 R)
Δfsr/f0 = -(v0/c)2/2:円軌道(半径 A)
周波数シフトの差分
δfsr/
f0 は式(10')より次式で与えられる.
δfsr/f0 = Δf'sr/f0 - Δfsr/f0 = (U - U0)/c2 (11)
一般相対論効果
式(4)より,楕円軌道および円軌道における周波数シフトはそれぞれ次式で与えられる.
Δf'gr/f0 = (U - W0)/c2:楕円軌道(動径 R)
Δfgr/f0 = (U0 - W0)/c2:円軌道(半径 A)
周波数シフトの差分
δfgr/
f0 は次式で与えられる.
δfgr/f0 = Δf'gr/f0 - Δfgr/f0 = (U - U0)/c2 (12)
特殊相対論効果+一般相対論効果
以上の特殊相対論効果と一般相対論効果を合わせたトータルの周波数シフトの差分
δfr/
f0 は次式で与えられる.
δfr/f0 = δfsr/f0 + δfgr/f0 = 2(U - U0)/c2 (13)
重力ポテンシャル
U = -μ/R:楕円軌道(動径 R)
U0 = -μ/A:円軌道(半径 A)
を式(13)に代入すると,
δfr/f0 = -(2μ/c2)(1/R - 1/A) (14)
となる.
式(5)を使うと
1/R - 1/A = (1/A){1/(1 - e cos E) - 1}
となるので,式(14)は以下の様に書き替えられる.
δfr/f0 = -(2μ/c2A){1/(1 - e cos E) - 1} (15)
この
δfr/
f0 を時間で積分する事により,時刻誤差
Δtrが得られる.
Δtr = -(2μ/c2A)∫{1/(1 - e cos E) - 1}dt (16)
ここで式(16)の積分を計算するため,ケプラー方程式(6)を時間で微分する.
M' = n0 = E'(1 - e cos E) (17)
式(17)は以下の様に変形できる.
E'/M' = E'/n0 = 1/(1 - e cos E) (17')
式(17')を式(16)に代入する.
Δtr = -(2μ/c2An0)∫(E' - M')dt = -(2μ/c2An0)(E - M) (18)
式(18)にケプラー方程式(6)を代入すると、以下の式が求められる.
Δtr = -(2μe/c2An0) sin E (19)
GPS受信機におけるクロック補正
GPS Interface Specification IS-GPS-200, Revision N の
20.3.3.3.3.1 User Algorithm for SV Clock Correction によると,GPS受信機ではGPS衛星から信号が送信された時刻
tsv に対し,以下の様にクロック補正を行う.
t = tsv - Δtsv (20)
Δtsv = a0 + a1(t - toc) + a2(t - toc)2 + Δtr (21)
ここで,
a0:クロックの時刻オフセット
a1:クロックの周波数オフセット
a2:クロックの周波数ドリフト率の1/2
toc:クロックの参照時刻
である.
式(21)の右辺第1項〜第3項は相対論とは無関係なクロック(原子時計)自体の誤差で,各パラメータは航法メッセージのサブフレーム1から取得できる.
最後の
Δtr は式(19)で示した相対論効果によるクロック誤差で,式(9)より
1/n0 = A3/2/μ1/2
であるから,以下の様に表す事ができる.
Δtr = FeA1/2 sin E (19')
ここで,
F は以下の様に定義された定数である.
F = -2μ1/2/c2 = -4.442807633×10-10[s/m1/2]
e および
A1/2 は航法メッセージのサブフレーム2から取得できる.
GPS衛星の軌道の離心率
e を最大0.01,
A1/2 ≈ 5.15×10
3[m
1/2] とすると,相対論効果によるクロック誤差の最大値は
|FeA1/2| = 23 [ns]
となる.