蟻通神社 和歌山県田辺市湊 旧・村社
現在の祭神 天児屋根命
本地 深沙大王

「神道集」巻第七

蟻通明神事

そもそも蟻通明神とは、欽明天王の御時、大唐より神璽と云ふ玉を、大般若に副へて、渡されたり。 本この玉と申すは、天照太神の天下り給ひし時、第六天の魔王に乞て、国をおさめ給ほし財なり。 人王の代と成て後にも、代々の帝の守としたまひけるを、孝照天王の御時、天朔女が計として、この玉を盗み取りつつ、天に上りて失せしかを、大般若を渡さんが為に、玄奘三蔵天竺の仏生国に渡り給ひしに、大般若守護の十六善神の内に、秦奢大王の御手より賜ひたりしを、人王第十代の帝、崇神天王の御時渡されたりしかども、御披露も無かりしに、大般若も渡されて後、玄奘三蔵記文に依りて、この時始めて御披露有り。
[中略]
秦奢大王は三蔵に語りて云く、この玉をは則ち汝に与へるなり。 終には仏法東漸の理にて、大般若も心経も日本国へ渡るべし。 この玉はもとよりかの国の財なり。 孝照天王の時、天裂女の取りて天へ上りしを奪ひ取りたる玉なり。 日本国へ返さんと思ふなり。 般若心経を副へて渡すべし。 般若守護十六善神の中には、自所持の玉なり。 我また先立て日本国へ行きつつ、神と顕れて、般若部の守護神と成るべしとて誓ひ給へり。
その詞を違へんとて、欽明天王の御時、経をも玉をも渡されき。 この玉は代々の帝の御誕生の時に恵那に副へられ申したり、神代より伝へたる三種の重宝なり。
[中略]
さて約束の如くに、秦奢大王は、先立て日本国へ超へつつ、神と顕れたまひて後、紀伊国田那辺と云ふ処に、蟻通明神とて御在すは即ちこれなり。