鳥海山大物忌神社 山形県飽海郡遊佐町吹浦字西楯(本社)
山形県飽海郡遊佐町吹浦字布倉(吹浦口ノ宮)
山形県飽海郡遊佐町上蕨岡(蕨岡口ノ宮)
式内社(出羽国飽海郡 大物忌神社[名神大])
出羽国一宮
旧・国幣中社
現在の祭神
本社大物忌大神
吹浦口ノ宮[東殿] 大物忌大神
[西殿] 月山神
蕨岡口ノ宮本殿大物忌大神
摂社・風神社志那津彦命・志那津姫命
本地
鳥海山権現薬師如来
月山権現阿弥陀如来
一之王子十一面観音

「出羽国一宮鳥海山略縁起」

出羽国飽海郡鳥海山ハ祭神大物忌神社なり。 最もかきこし両柱尊飢し時、生給へる児を倉稲魂命と号す。 五穀衣服の守護にて、此神の眉より蚕葉を生じ、口より魚類を吐出し、腹より五穀生る事、日本記に詳なり。 羽陽は日本の東垂なれば五行春なり。 木徳衆方の上首にして生育を主とする故に、五穀の神此国に在す。 然ば神代の鎮座にして、仁王十二代景行天皇の朝、人始て尊信すといへども、嶮岨の高山にて攀登もの稀なり。 時に仁皇四十代天武天皇白鳳年中、役小角此所に来り、麓松ヶ岳に住(今の峯中是なり)。 山上に往詣し、魑魅魍魎を退治し、岩石を切開き、参詣の通路を安からしむ。 麓より山上まで、神の眷属三十六王子を所々に安置し、山の守護神とす。 役君自ら岩を彫り、像及従者の姿を後代に残し給ふ。
[中略]
坎に荒神嶽あり、爰に社一宇、長床二ヵ所在。 これ即ち一宮大物忌神社なり。 御本地ハ東方の上首薬師如来にて日光、月光、十二神将を安置し、鳥海山大権現と称す。 尊像は元正天皇養老年中瑠璃壺より出現し給ふ。

「出羽国風土記」巻五

大物忌神社 月山神社[LINK]

大物忌神社は吹浦村に鎮座す(境内一万四千三百十五坪) 本社は鳥海山山上に鎮座せるを五十二代平城天皇大同元年丙戌に月山神社と共に同村に遷座せる由を縁起に記せとも其事歴詳明ならす 貞観年中より勲位を授与し及び延喜式神名帳に載る所は皆此両社に当れり 故に両所宮と称す 其後出羽国一宮に定められ神宮寺を置き薬師如来を当社の本地仏として仏祭を交へたれとも物忌の式は往古に替るとなし明治維新の際に仏像を廃し神宮寺は復飾して神職となり 是よりして純乎たる神祭となれり 明治十四年当社を鳥海山大物忌神社の口宮に定められ境内に社務処を置き春秋二季の官祭は吹浦と蕨岡と隔季に執行ふ事となり 奉幣勅使として県庁より長官或は次官の参拝ありて幣帛を捧けらるゝなり
月山神社は大物忌神社の境内に在り 貞観以後の勲位延喜式の記載等皆大物忌神社と併立て官幣大社なり 故に両所宮と称せり 中古以来阿弥陀如来を以て当社の本地仏とし仏祭を交へたりしか明治維新の際旧に復したるを後延喜貞観の前に遡るとして本社を田川郡月山に祭り国幣中社に列するを以て当社は大物忌神社の摂社となれり
[中略]
講堂(薬師堂又本地堂とも云)  本尊は薬師弥陀なり 左右の壇に二十二天の画像を懸け中央に護摩壇を設く 神宮寺衆徒修法の道場なり 神宮寺草創の時大物忌神社本地薬師如来月山神社阿弥陀如来と習合する所なり

国幣中社大物忌神社[LINK]

祭神保食神にして伊勢外宮豊受毘売命なり 鳥海山山上に鎮座す 延喜式神名帳に載する所の名神大社なり 其開創年歴詳ならすと雖も景行天皇の御宇武内宿禰北陸道巡視の際に始て官籍に載らるゝを以て其久きを知るへし 爾後夷賊反乱外国征討等の事あれは必す勅宣ありて臨時戦捷の祈願あり 貞観四年官幣大社に列し春秋例祭には神祇官下向す 又漸次加級ありて勲三等二位まて進らる 後出羽一宮に定められ神宮寺を置き薬師如来を本地仏とす 此より神仏混淆して神威稍哀びたり 明治三年仏像を廃し同五年国幣中社に列せられ旧観に復す 祭日は四月八日なり

「飽海郡誌」巻二
(第六編 山川)

大物忌神社[LINK]

享和嶽ニアリ 大物忌神ヲ祭ル 其何神ナルヲ詳ニセス 旧記ニ倉稲魂命ナリト(此伝及一宮和漢三才図会) 近世国学者流ノ考証ニハ大和国広瀬大忌神ト御同体ニシテ若宇賀能売神ナリト云フ 是非ヲ知ラス
創祀ノ年代亦数説アリ 就中稍々據ナルモノ二説ニ過キス 一ハ景行帝ノ御宇ニ係ケ(吹浦社家旧記) 一ハ欽明帝ノ御宇ナリト(同上ノ一説及羽黒山在庁年代記) 其ノ孰レカ是ナルヲ知ラス 本朝世記(天慶二年四月十九日)ニ鎮守正仁位勲三等大物忌大明神ト見エ出羽国鎮守ニマシマシテ即チ一之宮タリ 故ニ暦朝ノ崇敬特ニ厚ク神位勲等ノ高キ神封ノ多キ奥羽ノ諸神社其右ニ出ヅルニナシ事国史及当社明細書上帳等ニ詳カナレハ之ニ省略ス
当社ノ位置ハ名ニシ負フ高山ノ絶頂ニ在リテ四時ノ祭祀臨時ノ奉幣等容易ナラサルヲ以テ年代不詳大物忌大明神トシテハ吹浦ニ祭ラレ本地薬師瑠璃光如来十二神将ヲ本殿ニ安置シ更ニ鳥海山大権現ト称ス(○峰中秘書灌頂誓文) 元徳三年(即チ元弘元年)六月源正光滋野行光大旦那トナリ由利郡津雲出郷(今ノ矢島本境地方)ニ於テ薬師十二神将ヲ鋳造シ山上ニ安置ス時ノ簡銘蕨岡ニ伝ハリ衆徒北之坊ノ所有タリシヲ今其所在ヲ失ヘリ
[中略]
本地薬師仏ニ係ル文字ノ今日ニ伝ハルモノ未タ之レヨリ古キヲ見ス 当時既ニ逆峰ノ矢島ヨリ之ヲ鋳造シ山上ニ安置セシモノトレレハ是レヨリ順峰ナル蕨岡ヨリモ鋳造安置セラレシハ事実ナルモ数回ノ火災其他ノ源因ヨリシテ既ニ烏有ニ属セリ

巻九
(第八編 村里 第五章)

大物忌神社蕨岡口之宮[LINK]

字松岳山ノ頂ニアリ 大物忌神ヲ祭ル 当社ハ国幣中社大物忌神社ノ口之宮タルヲ以テ由緒及ヒ建物宝物等ハ明細帳ノアルアリテ記シ得テ詳カナリ 宜ク本帳ニ就テ之レニ漏レタルモノ若クハ重要ノ事歴ノミヲ掲載セリ 読者之レヲ諒セヨ

由緒  草創詳カナラズ本ト一山ハ鳥海山大物忌神ノ本地薬師如来ニ属セシヲ以テ古来蕨岡ニ其祠堂ヲ設ズ 鳥海山一之王子堂ヲ松岳山ノ半腹ニ建立シ之レヲ大堂ト称シ 本地仏十一面観音ヲ安置シ衆徒勤行の道場トナセリ
(鳥海山古図書入) 当山大堂を一之王子権現堂と号し奉り祭神は級長戸辺命級長津彦命を祭る霊神也 山上に五穀の神座ます故に風神を祭るの謂也 御本地十一面観音脇士不動毘沙門の三尊者往昔慈覚大師の御自作にて御長五尺五寸の霊像也
[中略]
文政造替ノ大堂ハ安政二年十二月八日炎上シ纔ニ本尊ノミ火中ヨリ出スヲ得 爾後一山建築ヲ計画シ有志寄附金ヲ募集シツゝアリシカ 会々明治維新神仏分離トナリ本地仏ヲ旧学頭龍頭寺ニ下シ更ニ大物忌神社ト称ス 明治十四年国幣中社大物忌神社ノ本殿ヲ鳥海山上ニ定メ後来ノ建物ヲ口ノ宮ト称セラルゝニ及ヒ 其設計ヲ変更シ地ヲ松岳山ニ卜シ一大土功ヲ起シ 明治二十九年五月十二日竣功シ同日遷宮式ヲ挙行セリ
[中略]
末社
風神社  級長津彦級長津姫ノ二神ヲ祭ル 本ト鳥海山一之王子ト称シ十一面観世音ハ実ニ之レガ本地仏タリ 安政二年十二月大堂炎上後本地仏ト共ニ仮殿ニ安置セラレ 神仏分離ノ際本地仏ヲ撤却シ更ニ大物忌神ヲ奉斎スルニ及ヒコゝニ合祀セラレシガ 明治二十九年五月大物忌神ハ新築ノ社殿ニ遷坐シ風神ハ旧ニ仍リ仮殿ニ奉祀セラレ以テ今日ニ至レリ

磯前神社  本ト下居堂ト称シ薬師仏を安置シ衆徒松尾坊(今ノ松本氏)之レニ奉仕ス 故ニ慶長十六年鳥海山神領検地帳ニハ松尾坊ヲ下居堂ト記セリ 即チ下居堂坊ノ義ナリ 神仏分離ノ際常陸ノ大洗磯前薬師ニ因ミ大己貴少彦名ノ二神ヲ祭リ磯前神社ト改称ス
因ミニ云フ諸社ニ下居宮アリ 山上ノ神霊麓ニ下居給フ処ト称シ所謂御旅所ヲ意味ス
[中略]
鳥海山ノ本地仏薬師如来ヲ安置シ古来五月朔日先途坊等大宿ヨリ出成ノ際コゝニ参向シ 勤行ノ後チ松尾坊ノ饗応ヲ受ケ柴燈場ニ出仕スルヲ例トナセリ 是亦山上ノ神霊コゝニ下居給フ処ヲ以テナリ サレハ均シク薬師仏ヲ安置スト雖モ大洗磯前神トハ全然縁故ヲ異ニセリ 宜ク大物忌神ヲ祭リ下居神社ト称スヘキナリ

龍頭寺[LINK]

同処ニアリ 真言宗醍醐三宝院末ニシテ薬師如来ヲ本尊トナス 寺伝ニ慈照上人ヲ開基トスルモ文書ノ徴スヘキナシ 本ト松岳山観音寺光岩院ト称シ鳥海山順峰蕨岡一山ノ学頭タリ 故ニ鳥海山龍頭寺ノ名称ヲ襲用ス 宝永三年本山常法談林所寺格トナル 明治三年鳥海山ヨリ分離シ真言ノ法燈ヲ継続セリ

観音堂  境内ニアリ 本尊十一面観音脇士不動毘沙門ハ本ト鳥海山一之王子ノ本地仏ニシテ荘内札所観音ノ第十八番タリ 神仏分離ノ際当寺ニ撤却セラレ明治 年別ニ一宇ヲ建立シテ之レニ安置ス

巻十
(第八編 村里 第六章)

大物忌神社[LINK]

国幣中社大物忌神社ノ口之宮ニシテ大物忌神ヲ祭ル 事歴進藤重記風土記略大社考及ヒ当社明細書上帳ニ詳ナレバ 本誌は就中重要ノ事項ト認ムルモノ編者カ新ニ採集ノ材料ニ依リ発見シタルモノゝ外一ニ省略ニ従ヘリ

由緒  社ノ西傍ニ月山神社アリ 故ニ両所大明神ト汎称ス 共ニ創祀詳カナラス 社伝ニ欽明帝ノ御宇大物忌神飽海郡ニ鎮座シ給ヒ大同年中之レヲ吹浦ニ遷シ祀ルト云ヒ 一説ニ大物忌ハ同山ヨリ月山神ハ田川郡月山(現今官幣中社月山神社)ヨリ勧請セシモノナリト云フ 孰レカ是ナルヲ知ラス 遷座ト勧請ノ事歴ハ姑ク措キ古来延喜式内出羽国一之宮ト称シ一ニ飽海神社トモ号セリ
[中略]
暦応元年三月本地仏薬師阿弥陀如来ノ造替アリ
古来大物忌神ノ本地仏として薬師、月山神ノ本地阿弥陀ノ二体ヲ講堂ニ安置シ社僧勤行ノ本尊トナセシヲ 明治三年神仏分離ノ際学頭神宮寺末女島鹿村松葉寺ニ撤却セラル 此仏体ハ何時代ノ製作ナリシヤ
[中略]
薬師仏ハ暦応元年ノ制ニシテ弥陀仏ハ永正三年ノ作ニ係リ (但二体トモ暦応ノ作ナリシテ後チ弥陀仏ハ火災ナドニ據リ永正三年之レテ再造セラシモノナルベシ) 共ニ慶長五年ノ修理ヲ閲シ寛文十二年春衣替アリ 宝永三年後光台座ヲ新調シ(宝永三年正月元日一山火アリ両社炎上ス此時講堂モ回禄ニ罹リ仏体ノミ出シ後考台座ヲ亡ナシナランカ) 以テ今日ニ至レルモノナリ 製作精巧而モ年代ノ確実ナルコト本邦仏体中此右ニ出ツルモノ未タ曾ヲ見ルニ及ハズ