氷川神社 東京都世田谷区大蔵6丁目 旧・村社
現在の祭神 素盞嗚尊
本地 十一面観音

「江戸名所図会」巻之三(天璣之部)

氷川明神社

大蔵村にあり。 永安寺別当奉祀せり。 祭る神五座、大己貴尊・素盞嗚尊・奇稲田姫・手摩乳・脚摩乳等なり。 祭礼は毎年九月二十一日なり。 相伝ふ、暦仁元年(九月九日遷宮、同二十一日はじめて祭祀を行ふといふ)当地の主江戸氏(この江戸氏は、桓武平氏の裔良文の流、畠山の一族にて北見氏の祖なり)足立郡大宮の御神を勧請すといふ。 旧は唯一宗源の社なりしに、其後二百有余年を経て、天文年間松井坊といへる山伏奉祀の宮となり両部習合す(この松井坊は、武州都築郡の人にして、太田道真の臣なり。よつて道真尊崇せしところの十一面観音の像を伝来したりしかば、当社の別当に補するの後、氷川明神の本地となし奉るといへり。あるいはいふ、永禄の頃までは松井坊奉祀たりしに、後田中三河守といへる人神職となり、ふたたび唯一とせしといふ)。 当社昔は、五所に並び建て宮居魏々たりしに、いつの頃よりか荒亡して、ただこの一社のみ残れりといふ(その証は次の棟札に載せて、「氷川明神第四ノ宮」とあるにてしるべし)。 しかるに明暦年間、永安寺第九世弁栄法印別当に補せられしより、ふたたび習合の社となし、神体および本地仏等を新たに安置せられたりとなり。 昔の神体は江戸氏の兜の立物にして、黄金の瓶子に畠山重忠と銘してありしとなり。 されども、いつの頃にか失ひたりとていまはなしといふ。